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異世界なのだから最強の剣を求めるのは普通だろ  作者: 雪兎
1章 始まりと学園と青年紀
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第38話 冷たいと温もりと約束と

あとデ

「君の想像通り、この魔石とソーンスコルの魔石はまるっきり同じ性質の物だよ。それにしても、こんなに同じだなんて……本当にこの魔石は龍ドラゴンの物なのかい?」


 ファラが発した言葉で心が動揺していた俺は、ファラの質問に答えられずに焦りを募らせていると、


「すまんがファラ、その魔石はそんなに酷似した性質を持った物なのか? 俺の目には色が違う別の魔石に感じるのだが? 確かに、魔石から感じる波動と言えばよいのか、気配は似ているが……」


 後ろで聞いていた(スラン)さんが、難しそうに眉間にシワを寄せてファラへと質問した。


 スランの質問にファラは、


「全く同じと言っても良いですね。 それに以前は、魔力の貯蔵やブーストに特化した物だと思っていたんですけど、今回の比較で其れとは別の何かを保管、保有している事がわかったんです。 その保管している物が何かまでは、はっきりしないんですけど…… きっと、ヒルト君が私に依頼した理由と絶対に他言して欲しくない事と、関係が有るんだと思うんですけど……」


 自信を持って同じだと言い、さらに何か別の特性を持つ事について言葉を発するが、俺の方へと視線を向けながら言葉を消して言った。

 

 その様子に(スラン)さんは、


「ふむ……本人の口から真実を話して欲しい、そういうことだな……」


 心配そうな表情で俺を見据えて言葉を口にし、何かを考え始める。


 その後、沈黙が部屋の中を支配する中で俺は二人の言葉に、正直に話す事が人として正しい事だとは思ったが、


 本当に話して良い事か? もしも、俺の中に居る駄犬(フェンリル)の事を知れば二人は……それに、討伐した黒炎龍(げんしょのてき)が未だに何かの中で生きているかも知れない、そんな真実を知れば帝国を挙げての大事に発展する…… いや、それだけなら未だ良いほうだ。 もしも、黒炎龍(げんしょのてき)が誰か人の中で生きているかも知れない、そんな風に言葉が書き換わって、疑心暗鬼と恐怖でから、疑いだけで人狩りなんていう大混乱に陥る可能性だってある…… そんな事の発端になるかも知れない事実と、もしも俺が予想する最悪の展開になった時、二人にそんな重荷を背負わせたくない。


 そう心のなかで呟きながら、どうすれば良いのか、どうする事が正解なのかと自問自答し始めていた。


 しかし、そんな俺の様子を黙って見ていた(スラン)さんが突然、口を開き、


「ヒルト。 俺は二人に本当の事を伝えようと思う。 別段今回の事とは関係は無い上に、之はエゴなのかも知れないが、それでお前の中で答えを出す切っ掛けになればと思っている。 別に絶対に何かを出せというわけでは無い。話す、話さない、それだけの切っ掛けになって欲しいんだ」


 唐突な事を言い始めた。


 俺はその事に驚きと、何を突然言い始めたんだと頭の上に疑問譜を浮かべていたが、


「今更、本当の事も何も無いと思いますが……」


 ファラが何か独り言を呟き、続けて、


「未だに打ち明けて居なかった事に驚きですけど、それがヒルト君にとって一番良いかもしれないですね。 それに私個人としも、ヒルト君が話したいと思って口にした言葉で真実を知りたいという事には変りないですし。まぁでも、研究者としては、どんな事をしてでも真実を知りたいんですけどね」


 そう、やれやれという表情と、優しい表情が入り混じった顔を俺に向けていた。


 俺は何故ファラが本当の事について驚いたり疑問を持たずに、順応しているのかが判らなかったが、反応からして或る程度の事情なんかを既に知っているんだと確信した。

 そして俺に対しても、或る程度、なんらかを理解しているけど、俺の口から話すのを待っているんだという事も伝わってきた。

 でも、それでも俺は心を決める事ができず、その場では黙り込んでしまっていた。




 そして、そんな俺の心に関係なく時間と事柄は進み、


「―― 今まで真実を言えず、騙すような形で二人といた。本当にすまなかった。 そして、アリシアの葬儀にも顔を出さず、お前をずっと独りにし続けて何を今更と思うかも知れないが…… どうか許して欲しい」


 なぜ呼び出されたか判らない両親二人の沈黙と、神妙な面持ちで固まる(スラン)さんの沈黙で、重たい空気の中、意を決し長い長い口上を述べ、頭を下げて謝罪を口にし、許して欲しいと頭を下げ続ける(スラン)さんという状態になる。


 両親は(スラン)さんの言葉を黙って聞いていた。

 しかし、最後に許して欲しいという言葉に、


「スラン師匠……大変言いにくい話なのですが……」


 親父(オヤジ)が一拍置いて口を開き、その言葉に(スラン)さんは何かを感じ頭を下げたまま目を固く閉ざし生唾を飲み込んで、その先の言葉に耳を傾けるが、


「全て知っていましたよ、スラン師匠…… 何故とお思いでしょうが、母が最後にと全てを教えてくれました。 ですが私は、母が言った真実を信用できずに居ました。だから、自らで真実を知るためタングさんにお願いをして彼方と引き合わせてもらい、彼方の元で剣を学び、人となりを知り、それで…… 彼方が本当の事を言ってくださる事を待つ事にしました」


 親父(オヤジ)の言葉を手で遮り一歩前に出てから、冷たい声で話し始めた母さん。


 その冷たい口調で始まった言葉に、すぐに驚きと、まさかという表情を浮かべて、顔を上げた(スラン)さんだったが、それでも淡々と話を続ける母さんの様子に、見る々うちに顔が青くなる。


 しかし、その姿を確認しても尚、


「そして今更、何を思って真実を口にされたのか……私にはその心中を理解することは出来ません。でも……」


 淡々と冷たい口調のまま言葉を口にしていく……が、徐々に言葉の雰囲気が変わり始め、


「母が私に残した言葉を……真実を、話そうと思います」


 目を閉じ、何かを決意したように目を開いて言葉を紡いだ。


 その様子に(スラン)さんは、困惑の表情と何が起きているのかと青くなった顔を白黒させているが、そんな事にはお構い無しに、母さんは言葉を紡ぎ始めた。  


「母は、彼方の事が好きだから別れた、そう口にしました。私には理解も納得も出来ない、そんな言葉でした。それでも母はこう続けました。」


 その言葉はとても辛そうだったが続けて話す母さん、しかし、その口調は徐々に変わっていき、


「あの人はアールブと人間のハーフ、それでもあの戦乱の中、人の為、仲間の為、友の為に身を削り、命を削って皆を守るために戦い、平和の礎に貢献したの。 それでも……今ほど亜人と人間のハーフに寛容な時代ではなくてね、守った人から、友から、裏切りとも言えるような迫害に晒される事になるの。それでもあの人は、私と貴女のために、故郷を捨て、出自を偽り、人として、無理に振る舞い続けたわ。それでも、何かの切っ掛けで身分が知られた時は、私達のために、全ての迫害と、私達へと降りかかる火の粉をその身で受け傷ついて、弱音一つ吐く事もなく笑顔で過ごすの…… だから守る者が無くなれば彼は逃げる事が出来る、そう思って私はあの人と別れたの…… いえ、これは言い訳ね…… 本当は、傷つくあの人の姿を見ていることが辛かったの…… そんな私の我儘で貴女には辛く、寂しい思いをさせて……本当に申し訳なく思っているの。でも……もしも、あの人が貴女に、父だと真実を打ち明けて会いに来た時は……お父さんと呼んであげて。そして、全ての罪は私に有る事……だから……怨むのなら私を怨みなさい。 本当に我儘な母親でごめんね……」


 母さんが母さんじゃないと俺が感じる雰囲気で言葉を紡ぎ終えた。


 母さんの語った言葉に、(スラン)さんは何も言う事が出来ずに、その場に膝から崩れた。

 

 崩れた音と沈黙の空間が重たい空気と共に部屋を支配し、誰もが口を開けないそんな空気が漂いはじめた。


 それでも、


「……お父さん……」


 という、とても小さな言葉が全ての重たい空気を消し飛ばした。


 そして涙を瞳に溜めた母さんを、


 「今……なん……と……っ!」

 

 「まだ、全てに納得できた訳じゃないけど…… 今だから……判るから……」


 「……っっ!?」


 「お父さん!」


 母さんの紡いだ言葉を皮切りに、共に涙を流し、共に言葉にならない表情で抱きしめ合っていた。

 

 その光景は、一枚の素晴らしい絵画より、崇高で神々しい宗教画やステンドグラスよりも、尊く、光り輝いて見えた。

 

 まぁ、その横で汚く鼻を啜って、ぐしゃぐしゃに涙を拭う親父(オヤジ)さえ居なければだけどな。




 そして、そんな光景の横で俺は、


「ファラ先生は、全部知っていたの?」


 そう問いかけていた。


 ファラ先生は、その問いかけに、


「全てじゃないけど、全部知っていたよ」


 そう言葉にし、続けて、


「あぁぁ、でもこれで私も重たい荷を下ろせるよ。 本当に、不器用で頑固な親子でこっちは苦労しっぱなしだったって言うのにね…… そんな事も知らずに。見てみな、あの姿を。本当に馬鹿みたいに思えるでしょ」


 と、涙を溜め、はにかんだ笑顔を俺に向けて、本当に嬉しそうに言葉を口にした。


 その姿と言葉に俺は、両親と先生を交互に見て、


「本当にお疲れ様でした。 それと…… 次は俺が話す番ですね」


 そう口にした。


 その言葉に、驚いた表情を見せたあと、


「それじゃ!! 全部――」


 目を見開いてファラが言葉を返そうとするが、 

 俺は、無言で右手をファラの前に出し、その言葉を遮って首をゆっくりと横に振り、


「今じゃないし、全員には話せない…… 俺が本当に話すべき人だと思った人にだけに、話そうと思う。本当は違うって判ってるけど、それでも……俺にも守りたいって思う事が有るから…… ごめん……先生」


 どう表現して良いのか、でもちゃんと言いたい、そんな気持ちが入り混じった心境を、俺は真っ直ぐにファラ先生の目を見て言葉にした。


 そんな俺の言葉にファラ先生は、


「君がそう決めたならそれで良いと思うよ。でも、君が守りたいと思う人も、君が守りたいと思う心と同じ気持ちを君に向けているって事だけは覚えていてね」


 わかったという言葉のあとに、どこか寂しそうな瞳を言葉と共に俺へと向けた。


 その瞳に俺の心は、締め付けられたような苦しさを覚えたが、


 本当にごめんなさい……でも……これ以上こんな事に巻き込みたくない……それにもう俺は……守られて大切な人を失いたくないし、失う位なら守って俺が傷つく方が何千倍も安全なんだ。 だから……ごめん…… 本当の事を言えなくて。


 そう心に言い聞かせて、


「うん…… ちゃんと先生の言った事は守るよ、だから心配しないで。 それに全部終わったら、今まで起きた事も、これから起きた事も、全部話すって約束するよ。だから……今はごめんなさい、先生」


 そう返した。

 

 そんな俺の返事に、一瞬だけ悲しそうな光を瞳に宿したように見えたファラ先生だったけど、すぐにその光は消え、同時に俺の前に立って、


「約束ね……」


 と、小指を立てて俺の前に差し出した。


 俺は、差し出された小指に一瞬だけ躊躇するが、無理やり俺の手をファラは掴み、小指同士を絡め、


「約束して。無茶だけはしないって…… それに、私は君の先生である前に、君の友なんだよ。だから心配くらいさせて欲しいんだ」


 そう優しい瞳を俺の瞳へと近づけて、ゆっくりと、優しく、温かな感情を込めた言葉をかけてくれた。

 だから、


 「うん……」

 

 とだけ返事をし、

 先生の気持ちが嬉しくて、とても苦しく、とても辛くて、前を見れなかった。


 そんな風に、俺とファラ先生が気まずく…… 一方的に俺だけが気まずくなっていたが、


「おい!! ヒルトもファラもそんな隅っこで何をやってんだ? こっちに来い」


 という親父(オヤジ)の明るく、涙と鼻水でクシャクシャな言葉に助けられ、


「あーもう、鼻水くらい綺麗にしろよ親父!! 汚いんだからさ」


 と、テーブルにあったハンカチを手に俺は、ファラに背を向けていた。

 

 その後ろで、ファラがどんな表情で、どんな事を考えて、どんな思いを俺へ向けているかなんて知らずに……




 そして、そんな時間もあっと言う間に過ぎて行き、


「荷物は全部持った?忘れ物はないわね?」


「ああもう、何回同じ事を聞くんだよ。全部持ったし、忘れ物もないよ母さん」


「クリスをそう責めるな。母さんもお前の事が心配なんだよ」


「わかってるけどさ……」


 俺は帝都へと帰る日になった。


 そして、


「頑張って来るのよ!! でも、また無茶な事をして頑張り過ぎちゃ駄目だからね!! フランちゃん、エイルちゃん、迷惑をかけると思うけどヒルトの事お願い!!」


「ヒルト!! 俺の言った言葉を忘れるな!! とにかく頑張って来い!!」


 両親の言葉に見送られて、俺は再び帝都へと馬車に揺られた。

 

 しかし、一つだけ心残りがある…… 

 見送りには姿を見せてくれたファラ先生だけど…… あの日から気まずくて話せていなくて、旅立ちの日にも言葉を交わせなかった事…… 本当に、俺は……


 そんな心に重しを抱えたような旅立ちだった。





 そんな俺の旅立ちの後ろで、


「本当にこれで良かったのファラ? 全部貴女に押し付けてしまった私が言えた義理ではないけれど……一言も言わないで……」


「……っっ」


 優しく、そして全部知っていたのか、心苦しそうにクリスはファラの背中に手を置いて声をかけた。

 そんな言葉にファラは、クリスの方を見たあと、何かを考えるように視線を逸らし、言葉を詰まらせた。


 そんな二人を見守っていたタングだったが、


「ファラリカの言っている事を理解できない馬鹿じゃない。しかしな、今はまだ待っている者の気持ちをアイツは知らない。俺達は親だから何があっても、アイツが何をしていても、アイツを信じて待っている。俺やクリスは親としては甘いのかもしれない。だがなファラリカ、お前はお前だ。先生として頑張らなくていい。一人の友人、友とし……いや、俺達の家族としてアイツに言いたい事を言ってやれ。それにな、俺やクリスは、あの日からずっと、お前を本当の家族だと思っているんだけど、ファラリカ、お前はどうだ?」


 腰を落としてファラリカへと目線を合わせて、ゆっくりと、そして落ち着いた声色で言葉を話し、ファラリカの頭を優しく撫でた。





 帝都への馬車に揺られ始めてものの数分

 

 「はぁ……」

 

 で、無意識にタメ息を吐いていた。


 そんな俺に、


「なに? もう寂しくなったのアンタ?」


 と、ちょっとだけ引いたような露骨な表情でエイルが話しかけてきた。  


 俺はそんなエイルの言葉に、


「別にそんなんじゃねぇよ。ただな……」


 空返事を機械的にしながら、何かを考える訳でもないのに窓の外を眺めた。


 そんな、どこか憂鬱な感情のまま空を眺めていると、


「ヒ――く―― ……ト――ん」


 窓と風に遮られ、途切れ途切れのファラの声のような音が微かに聞こえた気がした。


 俺はその音に反応して、窓の外を覗き込むように身を乗り出した。

 すると、


「どうしたのヒルト君?」


「おいおい、いきなり立ち上がってどうした? もしかして便所か?」


 俺がいきなり立ち上がった事を不思議そうに首を傾げて、グランとフランが尋ね、エイルも眉を寄せて首を傾げていた。

 

 そんな三人の姿に、


「いや……多分、気のせいだ。いきなり悪いな……」


 そう言葉にして、座ろうと腰を落とし始める。




 が、


「ヒルト君!! ヒルト君!!」


 そう俺の名を呼ぶファラの声がはっきりと聞こえ、俺は落ち始めた腰を窓に手を掛け無理やり上げ、その勢いで窓を開くと同時に窓から身を乗り出し、


「ファラ!?  どうして……」


 そこに映った光景に声を溢した。


 そんな俺を目視したファラは、一瞬だけ表情がホッとしたような表情と笑みを溢したあと、目を閉じ、勢い任せに、


「ヒルト君の…… バカァァァァ!!」


 そう叫んだ。


 そして、その声と共にファラが転ぶ姿が見え、


「ファラ!! っっあぁぁくそ!!」


 体は自然と窓を越え、走る馬車から俺は飛び出し魔法と体術で慣性を消し地面を転がり終わると、その勢いのままファラの元へと駆け出していた。


 そして、スライディングのように滑りながらもファラの元へと辿り着くと、


「ファラ大丈夫!? でも何で……」


 倒れたファラを抱き起こしながら質問を投げかけていた。

 

 そんな俺に、


「バカ…… 本当に君はバカだよ…… いつもいつも無茶ばっかりして、周りの心配なんて考えないで……本当に……」


 俯いたままファラは言葉を溢し始めた。


 俺はその言葉を黙って聞いていた。


 すると、


「あぁぁもう……こんなこと言いたいんじゃない!! いいヒルト君!! 今度また無茶をして怪我をして帰ってきたら私は……本当に許さないからね!! 絶対に……許さないから。だから……約束。何があっても、どんな事があっても、絶対に生きて帰って来てね。お願い」


 突然、大きく首を上げながら頭を振ったと思ったらファラは、俺の名前を呼びながら真剣な眼差しと、涙を溜めた瞳を俺へと見据えて、【約束】と言葉を紡いだ。


 その瞳と言葉に俺の胸がトクンと跳ねたように一度だけ脈打ち、その瞳から目を離せなくなると同時に、ファラの【約束】という言葉が俺の心に何か大切な何かを打ち込んだ気がして、


「ありがとうファラ! 約束。 ファラとの約束は必ず守るよ!! 何があっても、どんな事があっても絶対に死なないし、絶対に帰って来る。だからファラ!! 安心してここで待ってて」


 そう自然と言葉が口から出て行く。


 そうして何か判らないけど、今まで以上に心が温かく、そしてどこか安らいだような気持ちが湧き出て、俺ははにかみ、ファラも俺につられたように笑顔で笑っていた。

 でも、


「ふふっ、それよりも、君は約束って言ったのに、もう守れていないんだね。なんだって君は、馬車から跳び降りるなんて無茶をするんだい? ほら、後ろを見てごらん」


 すこしだけ怒ったような、すこしだけ笑ったような、そしてどこか優しく、どこか寂しそうな、そんな表情で俺の後ろを指差して、肩を掴み引き寄せるように俺を半回転させた。


 不意の出来事に俺はファラの力ですんなりと半回転させられ、ファラの胸に持たれかかるように体勢を崩した。

 

 そんな俺を優しく抱きしめてくれるファラ。

 そんな出来事に俺は、どこか恥ずかしさとは違う温かな温もりを感じると共に、瞳に映った友の姿を見て、


「あっ!!」


 そう気が付いた思いと共に、言葉を口から溢した。


 その俺の思いに、


「ねっ、だからもう一度言うね。 君が思うその気持ちと同じだけ、君が守りたいと思う人も君を守りたいって、そう思っているんだよ。だから――」


 俺を背中から優しく抱きしめる温かな言葉を紡ぎ、最後に聞き取れないくらい小さな声で何かを囁いたファラ。


 俺はその聞き取れなかった小さな言葉に、えっという表情でファラの方へと振り返るが、振り返った先には指が待っていて、頬に突き刺ささって振り向けなかった。

 

 そんな俺に、


「駄目だよ今は。 君が本当につぎ無事に帰って来るまでは教えてあげないよ」


 意地悪そうに優しい声でそう言うと、


「ほら、皆が心配そうに君が来るのを待ってるよ!! さっささといったいった」


 続けて言葉を言い、俺の背中を押し出した。

 

 俺は押し出された拍子にファラの方へと振り向くが、そこにはいつものように微笑むファラの姿があった。

 

 だから俺は、


「うん行って来ます、ファラ!!」


 そう言って手を振り、皆の待つ馬車へと駆けた。


 そんな俺の姿を、


「行ってらっしゃい」


 俺には聞こえなかったけど、ファラはそう送り出した。


 そして、   


「アナタは本当に女の子には甘いわね」


「そうか?」


「ええ。 それに、優しすぎて嫉妬しちゃうかな」


「嫉妬って、娘に嫉妬する母親もいないだろう。あと、俺にとっての嫁はお前だけだって、いつも言ってるだろう」


「ふふっ、娘ですか」


「ああ、ファラはあの日からずっと俺達の娘だろ」


「ええ、私達の娘で、ヒルトの先生で、家族だものね」


「ふんっ、当たり前だろ」


 そう町の入り口でタングとクリスが、子供達の成長と旅立ちと帰りを見守っていた。

 

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