第37話 後処理と職人と父親心と
一気に冷え込み冬が近付いてきましたね。
いまだにコロナやなんやと大変な時期ですが、私は元気です。
蟲の体液で凄惨な状況だった大地は元の田畑へと戻り、荒涼としていた戦場跡は全ての傷が無かったかのように、命育む緑黄の命が芽吹いていた。
そして芽吹いた命を蒼と紅の風が揺らし、
「馬鹿野朗!! 俺が言った事全部忘れてやがんのか!? 力任せに魔力を使うんじゃねぇ、一刀の刹那、ただその瞬間だけに魔力を振るうんだ!! ……っち、あぁぁぁ!! 違うっていってるだろおおお!!」
ブチ切れ、感情任せの怒号が蒼の風へと飛び、
「そうそう、本当に上手くなったわね。次は、その要領で剣に炎を宿して放つの。……良いわよ。魔力の拡散も最小限で振れてるわ」
嬉しそうに褒める優しい声が紅の風へと吹く。
そして、その声の行き着く先の二人は、
「うるせぇぇぇ!! そんなにチンタラしてられるか!! って! っち」
「そろそろ負けを認めろって。魔力を無駄使いしすぎてもう限界なんだろ」
「悪いけどな、まだまだ余裕なんだよ。お前こそさっきから剣速が落ちてんだよ、虚勢を張らないで、お前が負けを認めろって」
「どっちが!! そこまで言うなら、今までの分も決着をつけてやる」
「はっん!! 俺の台詞だってぇの」
剣と全力の魔法と技を交わしあい。そして言葉を交わす。
そんな二人はその後も幾度と剣を交え、技を交えるが、以前のように激しく激流のような荒々しい物とは違い、言葉からは想像できないが、穏やかに流れる清流の流れの如く、野に吹く風のように、静かに衝突合う。
それはまるで陣取りゲームをするように、剣撃が空間を攻め、魔法が距離を消し、技が相手の陣(身体)を塗りつぶす。
そんな静かで激しい戦いを繰り広げる。
しかしその戦いは、
「てっっうおぉぁぁ!! っぶねぇぇ……」
「うわっっ!! っっまたこのお決まりかぁぁ…… お前いい加減にしてくれよ。これじゃ何時までたっても決着なんか付かないじゃん。もう少し頑丈な物を作れよ」
一瞬の出来事で中断された。
まぁ本気の勝負と言えども今の俺達が真剣で戦って決着を付けようとすれば、どちらかが絶対に命を落としかねない。
だから、三人の判断によって木刀で勝負する決まりになったのだが、
「うるせぇ!! これでも最初よりは格段に強度は増してんだよ。それに今じゃ其の辺の真剣にも負けねぇよ。そんな事よりも、木材なんだからもう少し炎を上手く使えよ。そんなんだから木刀が砕けるんだろうが」
決着を付けようと魔力が高まると木刀が耐えられずに砕けてしてしまうのだ。
それで今回も決着が付かずに、
「はぁ? 言わせて貰うけどな。ヒルトこそもう少し魔力の拡散をどうにかしろよ!! 木刀から駄々漏れにさせて無理やり魔力を使うから、木刀が傷んでいくんだろ。それにお前より俺のほうが魔力の使い方は上手いんだ、其処を忘れて俺のせいにするなよ。そんなんだから俺の炎を受けた木刀が焦げるんだろ」
「あぁ? 俺の魔力強度はグラン、お前よりもかなーーり高いんだよ。そんなお前のしょぼい火の粉程度の火で俺の木刀を焦がせる訳有るかよ!! 寝言は寝て言えっての」
本当に仕様も無い子供のような口論が始まり、
「あぁん? やるか?」
「はぁ? やんのか?」
最後は袖を捲り上げてステゴロの様相になるが、
「この……未熟者がァァァァ!!」
怒鳴り声と共に俺とグランの頭頂部へと硬質な衝撃が加わる。
その硬質な痛みに頭を押さえ、背後の怒鳴り声の元へと振り返る。
すると鬼の形相と、呆れたという表情が入り混じった何とも言えない様子の爺さんが立っていて、振り向いた俺とグランを見据えた後に、深く溜息をつき、
「お前達二人はいったい何をしているんだ? せっかくお互いに良い流れだったと言うのに……直ぐに熱くなるわ最後には喧嘩まで始めるとは、今まで何の修練を積んできたんだ? 今度、仕様も無い事で修練を遅らせるようなら力ずくで分からせるぞ? 良いな?」
そう言い残して俺達に背中を向け、もう一つの修練の場……二人の少女達が高めあう場へと歩いていった。
そんな背中を見ながら、
力ずくって……もう手が出るじゃん
そう心の中で愚痴っていた事は言うまでも無く、グランもそう思っていたのも言うまでもない。
え? 話がすっ飛んでいてどうしてこう成ったか、あの苦痛のような野良作業はどうしたかって?
まぁそれは何時もの流れというか何と言うか、察してくれ。
もうあの苦しみのような時間は忘れたい……
二日目にして俺とグランだけで、こんなにも広大な戦場跡……もと言い、田畑を耕しながら死骸の埋没処理と醗酵作業をし、あの何ともいえない苦悶の臭いの物体を撒き、再び耕すといった作業を数日続けたんだ……頼む察してくれ。
まぁそれでも、その苦悶の時間は無駄ではなく、魔力の管理、魔力強化体の扱い、魔力硬化現象の効率化、戦いに必要な技量を本当の意味で理解し、身につけることができた。
それは、極限状態まで身体を追い込まれた事でようやく習得できたのだから、野良作業、分野違いなんていう事は無く、本当に意味の有ることだった。
まぁ日本の武士達も、剣術だけではなく農業で鍬を振り野良作業にも従事してた理由も実はこう言った理由があったのかも知れない……本当にコツというのは大事だ。
そんな回想をしつつも、反省をしながらグランと俺は爺さんが歩いていった先の修練場へと歩みを進め、休憩がてら彼女達二人の様子を見に行く事にした。
そして、その場に近付くにつれ何か違和感というか危機感というか、得体の知れない恐怖の様な物を感じ取り全身に鳥肌が立ちはじめ、その正体にすぐ気がつく事になる。
そう、俺の目に映った物は、
「これならどうかしら!! [水龍の竜巻]」
「ふん!! 何のこれしき!! [単重魔法の障壁]!! [ 真空剛裂波斬 ]!!」
「あっ!! お願い [風の妖精の加護] エイルちゃんを」
「ぬぅぅ……流石に防御魔法が早いな……先ずは……っっヌヲっ!!」
「余所見ですかスラン様? それに、最初の頃と同じ様で簡単にフランちゃんの所に行けると思わないでください。私だって成長してるんですから」
エイルが放った水龍の渦を爺さんが魔力の壁で弾き、同時に真空の刃をエイルへと放つ。
しかし放った真空の刃は、フランが展開した風の防壁に阻まれエイルには届かない。
即座にエイルからフランへと狙いを変え、剣を振るおうとする爺さんだが、すぐにエイルが行かせまいとランスを振るい爺さんへと襲い掛かり、それを阻止する。
完璧な連携と完璧な役割分担で、俺とグランを同時に相手をしても、まるで赤子の手を捻る位の軽さで倒してしまう、そんな爺さんと対等に勝負している姿だった。
その姿に、
「なぁグラン……」
「なんだよ……ヒルト……」
いやいや出鱈目だろぉぉぉ等と心の中で叫びながらも、
「もどるか……」
「あっあぁ……そうだな……戻らないとな」
グランと引き攣った表情と言葉で言葉を交わしながら焦りというか、いろんな意味での恐怖を感じていた。
そんな俺達を、親父と母さんがクスクスと笑いながら見ていたという事は知らない。
そんな事も有りながらも朝の修練が終わり、俺は工房でひたすら鎚を振るい始める。
理由は簡単で、鈍ってしまった感覚を取り戻すためだ。
本当に鈍りきっていて、今まで簡単に出来ていたはずの髪の毛一本以下の誤差で鎚を落とす、という事が全く出来なくなっていたんだ。
まぁこればっかりは本当に数をこなすしかなくて、時間をかけて感覚を戻すしかない。
なんて考えながらも無心に切り替えて鎚を振るっていると、
「おうおう、精の出ることだなヒルト。でもな……」
親父が横から困り顔で声をかけてきた。
その声に気がついて、
「うん? なんだよ親父? そんな変な顔して。用事が有るなら早く言えよ。俺は鈍った勘を取り戻すのに忙しいんだよ」
と少し不機嫌というか、早く話せよ、そして行き成り声をかけるなよ良い所なんだから、という思いを込めて返事をした。
すると目頭を押さえて首を横に振り呆れた表情から、バッという擬音が似合うような勢いで顔を上げてから俺の後ろを指差し、
「勘を取り戻すのは良い……良いんだが……もう……いい加減にしろぉぉぉぉ!! お前は俺の店を在庫まみれにする気かぁぁ!! なんなんだ、あの数の剣やら槍やらは、って盾まで有るか……本当にお前は何を考えてこんな数の武器やら何やらを作りやがるんだ!!」
そう焦りと驚きと呆れといい加減にしろという感情を込めた真剣な表情で怒鳴り始めた。
そんな親父の気持ちなど、これっぽちも汲み取らずに、
「ああん! だって未だに納得が――」
本当に軽い感情と口調で話し始めるが、
「だぁぁぁ!! それにアレは何だ!! 何でこんなに魔鋼やら何やらの延べ板が積み上がってやがんだ!! それより、これだけの材料費やら材料は何処から手に入れて来るんだお前はぁぁぁ!!」
その言葉を遮るように騒ぎ始める親父の言葉に掻き消され、言葉の最後に真剣な顔を俺の目の前まで近付け、
「こ、た、え、ろぉぉぉ。お前は、何を考えてやがるんだ? そしてお前は今、金が無いはずなのにどうして……素材を揃えた? アインか? それとも、行商のネルか? ああん? どっちだ」
背後からゴゴゴなんていう擬音が聞こえてきそうな覇気と怒気を背負って、凄んで質問をしてきた。
まぁ金が無いのは確かだ。
殆どの財産は師匠の家に、残りの金は3日前に両親が取り上げた。
まぁ、少し金使いが荒くて大量の素材をアインさんに納入してもらった事は悪かったと思うが、俺の金なんだから文句を言われる筋合いは無い筈なんだけどな。
でもまぁ倉庫を金属素材各種で埋め尽くした事は反省はしている。
しかし、俺の職人としての勘を取り戻すためにした事で有って、何故怒られる必要が有るのか全く理解できない。
それに、これ以上鍛錬をさせないために倉庫の鍵まで替えて、本当に何を考えているんだか。
そんな事を考えながら、余りにも近すぎる親父の顔にどん引きしながら、
「そんなに怒るなよ親父。別に此処にある素材は買ってないって。それにそんなにキレてばっかりだと禿げるぞ」
茶目っ気たっぷりの表情で返事をする。
別に嘘は言ってないし。
しかし、
「なら……どこから手に入れてきやがるんだ。軽く見積もっても箱10は超えてるな。それだけの素材を手に入れられる手段なぞ何処にあるんだ ううん?」
以前として、ゴゴゴという擬音がなりそうな覇気と怒気を背負い迫ってくる親父
その迫力に押され、
「あはは……別に在庫になる物じゃないし……ほら、問題はないと……」
目を背けて適当に流そうとする。
しかし無言のまま覇気と怒気を押し付けてくる親父に根負けし、
「別に良いだろ。廃品とか使わなくなった衛士さんたちの武具とかなんだから!! それに売るんじゃなくてちゃんと貰った人に出来上がった物を返すんだから。在庫にもならないしさ。それに、何でそんなに俺が鍛錬をする事を止めさせたいんだよ!! おかしいだろ」
逆ギレした。
そんな俺の態度に深い、深い溜息をついて、
「お前は勘違いをしているんだよ。それにな、こんなもん渡された衛士達は心底驚くだろうな」
言葉を吐き出しながら首を横に振り始めた。
俺は親父の言葉に一瞬、ムッとした感情が出てきたが、冷静に考えれば今の俺の技量で仕上げた物を渡されても、嬉しくは無いか……と 少し悲しい気持ちが湧き出てきて俯いて、
確かに、貰った素材は全部、中品質の魔鋼や、普通の鋼で出来た物ばかりだ。
そこに、夜中にコッソリ狩った魔物の魔石を混ぜたとは言え、素材としては二級品程度……
幾ら俺のアイディアとかを織り交ぜて鍛錬したとしても、腕も勘も、完全に鈍りきってしまっているんだ。
確かに親父の言う通り、其の辺の安物程度の完成度しかない物を返されても嬉しくはないか。
そんな事を考えていた。
そんな俺の様子に、
「はぁぁぁぁー。全く……お前はコイツを見てどう感じるんだ? 正直に答えてみろ」
さっきよりも深い溜息をついてから、一振りの短刀を手渡してきた。
俺はその行動が全く理解できず、首を傾げるて短刀を受け取れずにいると、
「おら、さっさと受け取らねぇか。それで見た感想を答えろ」
難しい顔をして無理やり手元まで近づけてくる。
俺は疑問に思いつつも、その短刀を手に取り、様々な角度や、持ち替えたりしながらも観察した。
そして、
「うーん 素材は魔鋼系で炭素分の多い鋼の単一素材だよね? それにしても、少し曇りが出てるというか、少し歪みみたいな……うーん なんだろう違和感というか、凄く綺麗に仕上がってる良い短刀なんだけど……こうなんだろう、うーん」
なかなか上手く言葉に出来なくて悩んでしまった。
そんな俺を見て、
「目が良すぎるのも考え物だな。それは俺が鍛えた短刀だ」
苦笑いを浮かべて衝撃の事実を口にした。
その言葉に俺は、
「はぁ? そんな訳あるかよ!! 親父の鍛えた物だったらもっと完成度が高くて、透き通ってるはずだろ。嘘をつくならもっと、っ!」
今まで見てきた親父の剣の記憶と重ねて、何を言っているんだと言う気持ちを言葉にするが、
その言葉を制止させるように右手を俺の目の前で伸ばし広げて遮り、
「確かに、お前がそう言ってくれるならそうなんだろうけどな、それは俺が造ったというのは事実だ。それも最近な」
少しだけ恥ずかしそうな表情を浮かべて、優しく言葉をぎこちなさそうに口にして、
「その短刀が出来上がった時、確かな達成感みたいな物は感じてな最初は満足感が有ったよ。でも、あの時もう少し強く叩けば良かったかな? あの時もう少し、あの時こうすればもっと良くなったかも、なんていう気持ちが後から出てくるんだよ。他の物もそうだ。幾ら完成してから、会心の出来だと思っても次の時には、あぁぁもう少し、そう思うんだよ。それも、出来がよければ良いほどな」
俺の目線まで腰を落として、語るよう優しい声で言葉を紡いでいく。
そして、
「お前は目が良すぎて、俺が後から後悔する事を鍛錬しながら判ってしまうんだろうな。だから、幾ら鍛錬しても、幾ら良い出来だったとしても納得いかなくて、休みなく造っちまうんだろう? 納得がいかない、一瞬の達成感も無い…… それは職人としては辛いだろう。でも、一度ゆっくり出来た物を見てみろ。そうすれば何かが判るはずだ」
そう言葉を言い終わると立ちあがり、扉の方へと歩きはじめた。
俺はその背中をみながら、言われた言葉を考えていた。
すると、親父は扉の前で立ち止まって、
「そうそう、納得できる物が出来上がったら鍛冶屋を辞めて良い、それがお前の爺さんの口癖だったよ」
そう振り向いて、どこか悲しげで、どこか誇らしげで、どこか……そんな表情で口にして
「少し喋り過ぎたな。少しは休め。唯それだけだ」
そう言い残して、扉の外へと出ていった。
なんとも不器用な人だ……でも、強い人だ本当に。
俺だったら恥ずかしくて、自分の事をああやって話す事ができない。
それに、職人が満足できていない物を人に売るなんて、そう思われるかも知れないけど……
職人だから、どれだけ他人が褒めようが、どれだけ凄いと言われても、永遠に納得が行く、最高の物を作れない。
それは、その時最高で素晴らしかったとしても、次の瞬間には、それは最善に変わるからだ。
全力全霊で仕上げた物でもそう、次はもっと、次はって永遠に続く物だからだ。
そして、
【決して納得するな。でも自分の作った物には絶対の自信を持て】
親父はそれを言いたかったんだろう。
そんな事、とっくに理解してるつもりだったんだけどな……
そう心の中で呟きながら、乱雑に積み上げた武具を一つ一つ丁寧に並べ、一つ一つ、もう一度丁寧に拭き上げていく。
そんな一幕が過ぎて行く。
と、思っていたが、
「ああそうだ、忘れてたが、ファラリカがお前を呼んでいたぞ。頼みごとが終わったってな」
突然戻って来た親父の言葉で俺の心が慌しく変わっていく。
そして、
「君の想像通り、この魔石とソーンスコルの魔石はまるっきり同じ性質の物だよ。それにしても、こんなに同じだなんて……本当にこの魔石は龍の物なのかい?」
黒炎龍は生きている。そして、フェンリルと同じ様に……
そうファラの言葉に心がザワつき、得体の知れない、何か黒く冷たい予感がした。
その頃、森の奥から一匹の鳥が目を覚まし、遠くの山へと飛翔していった。
それを見つめ、黒いローブの人影が不敵な笑みを浮かべ、手に持った何かが怪しく光っていた。
それが何を意味し、何が起きるかは、誰も知る由もなく、そんな事が起きているなんて誰も知らない。




