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異世界なのだから最強の剣を求めるのは普通だろ  作者: 雪兎
1章 始まりと学園と青年紀
38/49

第36話 蜻蛉と鍬と真緑の大地と

かなり間が開いてしまいました。

コロナ渦の煽りは本当に生活を一変させますね……


まぁ、それでも変らず季節や時間は流れて、再び収穫の喜びの季節。

稲の景色に、「そんなもんだな」と笑える元気を貰い、何とか筆を進めれました。


皆様、もし辛い出来事が有った時は部屋の中や下を見ないで、外に出てみて前か空を見上げてみてください。

もしかしたら何か元気が貰えるかもしれないです。


前書きはこの辺で、本編にどうぞ

 いつまで続くのか、いつになれば終わるのか。

 そんな思考のなか俺とグランは一心に腕を振るい続ける。

 されど終わりの見えない戦いに心が徐々に疲弊し、肉体もまた悲鳴のように痛みが体の中で木霊する。

 それでも俺とグランがこんな事を止めない理由それは、


「くそ……いつまで続くんだよ……」


「知るか……でも、俺達がここで諦めたら……」


「そうだな……グラン……最後まで付き合ってくれな……」


「何をバカな事を言ってるんだよ……親友なんだから最後まで付き合うに決まってるだろ」


 互いの意地だ…… 


 言葉を交わしながら二人で支え合い、振り続ける。

 しかし……目の前が暗転し、ドサという何かが落ちる音が二つ鳴り響き、そこで意識が途切れる。



 なぜ、どうして、そんな思いだけが暗い視界のなかで廻り、後悔と悔しさが心の中で響く。

 そんな俺の気持ちを知ってか、駄犬(フェンリルが)が暗闇に支配された視界の中で哀れみの眼差しをこちらに向けていた。




 時を遡り、俺とグランが【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】へと駆ける瞬間まで戻る。


 紅炎と蒼雷が空に軌跡を描く度に、金属同士を打ち付けるような甲高い金属音と火花が舞い踊る。

 しかし、その音に反して巨影の纏う強固な鎧には渾身の一撃ですら、決定的な一撃を入れることが出来ずに軌跡の描く斬線は火花と共に弾き返される。


 そんななか、


「ちっ、黒炎龍(やつ)よりも硬いとかバカじゃねぇの? クソ蟲の分際でフザケ過ぎだろ」


 俺は苛立ちの言葉を吐きながら牙を鞘に収め、[電磁加速抜刀(レールガン)]の体勢に入る。


 しかし俺が[電磁加速抜刀(レールガン)]の体勢を取るなり【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】は、何らかの危険を察したのか羽根音を上げ、高速で不規則に飛び廻り始める。

 単純な高速飛行なら目で追えるが、【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】の蟲特有のホバリングから即座に最高速が出せる飛行では捕捉すら困難な状態になる。

 それにこの行動が回避だけに専念しているならクソ蟲の動きが止まるまで待てばいい話なのだが、


「ヒルト上から来るぞ!!」


 グランが叫び声を上げて俺へと危険を知らせる。


 咄嗟に頭上へと目をやると【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】が両腕の鎌を振り上げているのが目に飛び込んだ。


「っち!!」


 回避するために足元の電圧を上げて空を蹴ろうとするが、次の瞬間には【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】は目の前から姿を消す。

 こうした攻撃や撹乱を混ぜた行動に俺達は翻弄され続けている。



 そして一拍の無音が空間を支配する。

 そんな無音のなかヌルッとした嫌な空気感が俺の背中を舐める。

 俺はそれに危機感を感じ、鞘から牙を背後へと円を描きながら抜き放った。

 同時に衝突した衝撃と金属を擦るようなジリジリという金音が手元に伝わり、


「グラン今だ!!」


 俺の叫ぶ声が響いた。


 そう、咄嗟に勘を信じて振るった牙は【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】の振るった鎌とかち合う形で鍔競り合っていたのだ。



 俺の叫びに反応したグランが、鍔競り合いで生じた一瞬の隙を突いて、


[紅炎(プロクス)龍帝(アフトクラ)っっ!!] 


 炎の渦を巻き上げながら剣を振るったが、突然の出来事に言葉を詰まらせる。

 そして金属同士のぶつかる音が鳴り、


「っぶね……咄嗟に鞘を出せて良かった……」


「わ、わるい……大丈夫か?」


 俺とグランは視線を合わせ互いに驚いた表情を浮かべる。


 一瞬何が起きたのか理解が出来なかった。

 突然、牙に掛かっていた重みが無くなり、吸い込まれるようにクソ蟲が居た場所へと体が流れたのだ。

 そこで体が吸い込まれていく最中グランの熱気を感じ、不意に体をねじりながら腰から鞘を引き抜いていた。

 そしてグランも似たような感じで、突如として目の前から消えた巨体に驚きながらも斬線を無理やり軌道変更し、引き抜かれた鞘へと落としたのだ。


 二人の咄嗟の判断で同士打ちという最悪の出来事は免れたが、


「くそ……咄嗟に剣を緩めたのは事実だけど……あんなに軽く受けられるのか。なんだか悔しいな」


 小声でボソボソとグランが言葉を吐き捨てる。


 俺はグランが吐き捨てた言葉も、その時の表情にも気が付く事もなく、


「にしても痛ってぇな、左手がまだジンジンしてやがるよ。グランもう少し緩めれなかったのかよ? 本気で痺れてるんだけど」


 そう大丈夫だという意味を込めて、大げさに左手を振りながら戯けた表情を向けて返事を返していた。


 そんな俺の反応に一瞬だけ眉間にシワを寄せたような気がしたが、直ぐに呆れたような表情とタメ息と共に、


「痺れてるのはお前の腕が錆び付いてるからだろ。それよりどうすんだよ? こっちの動きは全部あの蟲野朗には読まれてるみたいだけどさ」


 手を返して言うグラン。


 俺はその言葉に何故か、脳裏に一人の人影とその人物が取ったある動作と言葉を思い出し、


「確かに錆びてるかもな。でもな、錆びてるならまた磨き直せば良いだけだし、それと同じで読まれてるなら読みきれないように動けば良いだけの話だろ」


 そう返答しながら、脳裏に浮かんだその人物の構えを模倣していた。

 その構えとは古流武術における發草の構。


 グランは俺が突然、見た事もない変な構えをした事に、


「なんか良いことを言った、みたいな答え方をしておいて何をふざけた構えをしてるんだよ? 真面目にやれよ、真面目に」


 そう怒るが、俺は別にふざけている訳でも何でもない。


 だから俺は怒るグランの言葉に、


「心配すんな、師範直伝のこの構えなら一発でかいのぶち込めるからさ。黙って見てろって」


 自然に出た師範という言葉と自信気な答えを言うと、【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】を正面に捉え続けた。


 俺の回答に少し不満気な様子を見せるグランだけど、【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】を常に正面に捉えながら構えを崩さない俺の様子に、


「たく……しくじるなよ」


諦めてなのか納得してなのか分からないけど、ヤッテやれよみたいな表情を向けてきた。


 俺はその言葉に目線だけで応え、再び【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】へと目線を向ける。


 すると【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】は羽音を立て俺の周りをゆっくりと旋回し始める。

 旋回の動きに合わせる方で常に【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】を構えを崩さないように正面へと捉え続ける。

 【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】が俺の周りを一周回り切ると、蜻蛉が首を動かすように数度頭を傾け次の瞬間、視界から消える。



 【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】が消えると同時に、俺の目の前には振り下ろされる鎌が視界へと飛び込む。

 その光景に、


「ヒルト!! ……っ!?」


 俺の名前を叫ぶグランだったが、次に目にした光景に言葉を詰まらせる。



 【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】の鎌が緑色の体液を撒きながら空を舞い、汚い叫び鳴きを上げながらクソ蟲は、のたうつ様に後方へと飛び退いていた。


 そして痛みから復帰した【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】は、何が起きたのか理解できていない様子だが憎しみの様な気を俺へと放ち、真っ赤な複眼を向けてくる。


 そんなクソ蟲の威圧を鼻で笑い、


「わからねぇよな、何が起きたか。これが龍彌改心流(たつみやかいしんりゅう)・奥伝【蜻蛉(かげろう)】。師範直伝の奥の手だよ」


 剣を向けて【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】へと言葉を放っていた。


 俺の言葉に反応したのか【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】は、大顎でガチガチと雀蜂の威嚇音のような音を鳴らし、羽音を大きくしていく。 

 その行動はまるで怒りを表したように、荒く、ざらつく気を放っている。


 自慢の鎌を斬り飛ばされ、何が起きたのかも分からない、蟲とはいえ冷静ではいられないのだろう。


 そう心の中で思いつつも、


「来いよ。それで……もう終いにしようぜ!!」


 最強の技を放つ宣言をし、言葉とは違い、心を落ち着け、腰を深く落とし鞘へと牙を収め、魔力を鞘へと集中させる。



 【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】は俺の姿に怯むような素振りを一瞬だけ見せたが、羽音を増し、怒りと憎しみを込めた咆哮を響かせた。

 その咆哮の音が止むと同時に、【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】は羽音を残し再び姿を晦まし、そして羽音が俺の周囲を取り囲むように辺り一面から鳴り始める。


 そんな周囲一帯から聞こえる耳障りな羽音が鳴り響く中、俺は静かに目を閉じる。


 すると、


「ヒルト何をやってるんだよ!! 目で追いきれないからって自殺行為だ!! 直ぐに目を開けろ!!」


 そう心配と驚きから叫ぶグラン。


 しかし俺の耳には何も聞こえない。


 音も映像も今の俺には邪魔なだけ、目を閉ざし暗闇の中に心を沈め、肌に感じる微かな空気の動きだけに全ての神経を集中させる。

 すると水の中に居るような感覚が肌に纏わりつき。

 そして、何かが動く度に波打つ波紋のように肌へと伝わり、その何かの居場所を明確に伝えてくる。

 

 そうして無音の中で波紋を感じながら構えを崩さないでいると、殺意のような濁流が俺の背後から襲う。


 そして、


「やっぱり、クソ蟲だな……」


 俺はそんな言葉を吐き捨てると同時に逆手で、牙を上方へと鞘から抜き放った。


 頬と右肩の横を通り抜けた鎌。

 同時に頬と右肩から出血する。

 そして俺は痛みから振り抜いた腕は力が抜け脱力し、手から牙が滑り落ち、出血する右肩を左手で押さえる。

 そして雷撃とそれを構成する魔力が小さく音を上げて弾け、足場を失った俺は脱力した状態で自由落下し始めるが、


「大丈夫か!? 何やってんだよお前は……」


 心配そうな声と共にグランが飛び寄り俺を支え、


「仕留めたのか?」


 そう尋ねてきた。


 俺はその問いに顎で前を見ろと合図をする。


 その合図に目の前へと目をやるグラン。


その目線の先には、俺とグランを笑うように羽音を鳴らす【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】の姿が有った。

 その姿に、


「気が付いてないのか? ……可哀想なやつだな……」


 そう言葉を漏らしたグラン。


 首もなく身体だけが羽を羽ばたかせ滞空しているその姿は本当に哀れなものだった。

 しかしそんな哀れな姿も、下から聞こえた何かが落ちたドサっという音と共に力尽きたように羽が徐々に止まり、緑色の体液を噴出しながら落下していった。


 そんな落下していく【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】を見ながら俺は、


 もし、お前が正面切って襲い掛かってたら、結果は……俺は瀕死か死んでただろうな……

 最後まで卑怯な戦い方しかできなかった、それがお前の敗因だ……もし次に生まれ変わるんならもっと堂々と戦え


 そう心の中で呟いていたが、


「てか……お前あの技なんだよ? 一回目も二回目も。あんな技どこで教えてもらったんだよ。俺にも教えろよ」


 グランが俺を支えながら、少し興奮気味に質問してきた。


 そんな興奮気味のグランの様子に、


「そんなに騒がなくても説明してやるから騒ぐな。痛ってて……傷に響くんだよ」


 騒がれて揺れた拍子に傷口から激痛が走り、歪めた顔でそう返事をすると、


「あっ悪い。で? 何なんだよあの構えと技は?」


 少し悪びれた様子もあったが、興味の方が勝っているのか俺の顔を覗き込むようにそうに尋ねてきた。


 俺はその様子に深く溜息を吐き、


「簡単にだけどな……」


 古流武術における發草の構えは要は剣を見せない構えだ。

 右手を直角に曲げ顎の前で平行に構え柄頭を握り、握り手で水平にした剣を相手から隠す。左手は鎺や鍔の辺り添えるだけで、後は、前の目に体を倒す。

 本当に単純な話だ。


 これがなぜ、龍彌改心流(たつみやかいしんりゅう)・奥伝【蜻蛉(かげろう)】なんて大仰な技に繋がるかだが、師範曰く、

 發草の構えは返しの刀。相手の振られた刀に臆せず飛び込み、相手の力を利用し腕を断つ。

 という事らしい。

 まぁカウンターの一撃で、振り下ろされた剣に合わせる形で剣の下を潜り抜けて、外側から剣を押し出すように振り抜き、腕ごと斬る。

相手からは、突然視界の隅に此方が姿を現し、気が付けば振り下ろした刀ごと腕が斬れていたなんていう、喰らった相手からすれば何が起きたのか分からないという技だから【蜻蛉(かげろう)】なんだそうだ。


 まぁ【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】の動きが、「蜻蛉に似ているなぁ」と思っていたら元の世界の記憶を思い出して、「錆びてるならまた磨き直せば良いだけだ」や「読まれてるなら読みきれないように動けば良い」っていう師範からの言葉を自分で言って思い出した技なんだよな。


 あと最後の抜刀も別段、達人の技とかではなくカラクリはある。

 まぁ心を落ち着けて目を閉じるとかは、師範に何度もやられて手も足も出なかった本物の達人の技だったが、原理自体は変わらない。

 それは、気配とか気とか剣気とか得体の知れない物から、魔力という得体の分かるちゃんとこの世界では実在する物に変わっただけ。


 【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】や【黒炎龍(フレアドラゴン)】のような大型の魔物が航空力学を完全に無視して、飛行できる理由は以前にも説明した通り熊蜂と同じ原理だ。

 その原理から考えれば、そんなに大型の魔物が動き回れば当然「魔力の流れ」は乱れるし、その流れを操る必要も出てくる。

 その乱れや流れを感知さえすれば、目で見なくても居場所は分かるという話だ。

 まぁ今回みたいな濃い魔力の中でこんな事をすれば水の中に居るような感覚に陥るんだけどな。


「……まぁ、てな理由だよ」


 こんな事を掻い摘みながらグランへと説明し終わると。


「はぁ? なんだよその無茶苦茶な技……てか、それってほぼ最強のカウンターじゃないのか? どんな敵でも位置を把握できて、それに合わせるだけとか……」


 困惑と不思議と興奮とが入り混じった表情で驚いている。


 しかし、


「あのな……もし相手が魔力を使わなかったらどうなるんだよ? 俺はただ目を閉じて隙を晒している馬鹿の自殺願望者だろ。人対人の勝負なら使い物にならねぇよ」


 俺がそう悔しそうに訂正すると、


「なーんだ、でも魔物相手には最強なのは変わりないじゃん」 


 そうあっけらかんと答えた後、


「でっ所でだけどな、その技の出所を吐けよ。師範とか何とか言ってたけど、どこでそんな人と知り合ったんだよ? スランさんやタングさんの事は「師範」なんて絶対に言わないよな、お前は」


 ズイッと顔を俺の前に出し、なんだか圧のある語気で俺へと質問してくる。


 俺はその質問に、


「いや、その……あっ! そうそう親父(オヤジ)の知り合いの誰だったかな? ……あははは」


 バツが悪そうに答えた。


だってそうだろ? いきなり【元の世界】だの【転生】だの【その時の記憶】だの言っても信用しないだろうし、それよりも変人奇人、頭の可笑しい奴だと思われかねない。

 でも……


 転生してから友人、親友と呼べるグランに本当の事を言えないという事に少し胸が痛んだ。


 そんな思いを抱きながら空笑いをしていると、


「そうか……」


 一瞬だけ黒い表情を浮かべたグラン。


 そして次の瞬間、


「へ? なぁぁぁぁぁぁ!!」


 突如として俺の体を支えていた力が無くなり、ニュートンの法則にしたがって俺の体は自由落下し始めた。


 そう、グランは空中で俺の体を放したんだ。

 そして落下する最中、俺はグランのどこか悲しげで、どこか暗さのある表情を見つけ、不意に心に痛みと得体の知れない何かが沸き起きた。

 しかしそんな事は魔力切れでどうする事もできずに、ただ落下するしかない恐怖に掻き消され、


「なぁぁぁ!! たすけろぉぉぉぉ!!」


 叫んでいた。



 まぁ地面に激突する前に、溜息をついて何かを諦めたグランに助けられたから良かったが、絶対にこの怨みは晴らすと、心に誓った出来事になった。


 その後、地面に下ろされてからは色々とあったがそれは些細な話なので割愛するとしても……

 少しエイルの表情が怖かったのと、フランとの会話がギクシャクとしたぎこちない感じになった。


 その夜、町はお祭り騒ぎで蟲の討伐を喜び、翌日には今回の戦闘で戦死した衛士や農夫や町の人間の葬儀が行なわれた。

 葬儀の最中、グランは何時にも増して明るく振舞っているのが気にはなったが、それよりもその後に起きた出来事にそんな思いも掻き消えた。



 葬儀後


「レーヴァさん!! 行き成りですまんが、50本の鍬の製作していただけないか?」


 家への帰路を皆と歩いていると、後ろから声をかけられた。


 振り向くと、その声の主が誰か直ぐにわかった。

 その声の主は、


「どうしたんだ藪から棒に? 農業組合の偉いさんのお前が」


 シオンの父であるマールスさんだ。


 マールスさんはこの町の農業組合の纏め役で、シオンが俺やグランに今回の討伐依頼をした理由の一つだ。


 そんなマールスさんに親父(オヤジ)が不思議そうというか、何故といった感じで質問を返すと、


「いや……今回の虫騒動の後片付けでな……」


 そう、困り顔で長い話を切り出したマールスさん。


 話を要約していくと、

 幼態と蛾共の死骸処理をし始めたのは良いが、幼態の体液と成虫の鱗粉が思っていたよりも厄介な代物だったらしく、


「そういうことで、鍬が全部熔けてしまって使い物にならんのだ。代金は組合でどうにか賄う。このまま放置すれば、生き残った作物が全部駄目になってしまう。頼むこの通り、引き受けてはくれないか? お前の所だけが頼みなんだ」


 そう言って、勢い良く頭下げて親父(オヤジ)へと頼み込んでいた。


 そんなマールスさんの姿に、


「おいおい、頭を上げろって!! 人の前で何をやってんだよ!!」


 そう慌てながら頭を上げるように促すが、マールスさんは頑として頭を上げずに、


「頼む!! ハンスの所も、ユアンの所にも、そんな素材と納期じゃと断られたんだ……鍛冶屋とはいえ、武器屋のお前に畑違いのお願いをしているのは重々承知している。だが頼む」


 そう言葉を続けた。


 親父(オヤジ)は困り果てたという表情で頭を掻いていたが、


「アナタ、マールスさんの話を詳しく聞きましょうよ。受けるか受けないかはその後で決めればいいでしょ?」


 横から母さんが声をかけ、マールスさんの肩にそっと手を乗せて立ち上がるように促し始めた。


 親父(オヤジ)は「しかしな……」と困っていたが、それを押し切る無言の圧力を母さんが放ち、それに押される形で、とりあえず話しだけでもという形になり、こんな場所ではなんだからと一路家へと流れて行った。




 そして家ので話し合い? の中で飛び出した言葉に親父(オヤジ)は、


「はぁぁぁ!? 二日で50本だと!! そらアイツ等でも断るはずだ……流石にその……うちでも無理だと……」


 納期の短さに驚き、首を傾げながら無理だと断ろうする。

 しかし、


「そこを何とか!! この町で魔鋼を加工できる鍛冶屋は、レーヴァさんの所しか……」


 泣きそうな顔のマールスさんが懇願する。


 その後、親父(オヤジ)が他の鍛冶師との合同でならどうかと聞いたりするが、マールスさん曰く、


「私も農具専門のお二人に同じ提案をしたのですが……魔鋼の加工は専門外なうえ、数が数だからと……」


 話の落としどころが行方不明になっていく。


 そんな中、


「まぁまぁ、少しお茶でも飲んで落ち着いて考えましょうタングさん。マールスさんも苦しい状況なのはお察しいたしますが、一度落ち着きませんか? 焦っていては何の解決にもなりませんよ」


 そう言いながら母さんが、お茶を運んできた。


 そんな母さんの様子に、マールスさんは恐縮そうに頭を下げてからお茶に手を伸ばし、親父(オヤジ)は嫌な予感がしたのか少し顔が引き攣っていた。


 そして、お茶を飲み終えたマールスさんを確認した母さんは、


「マールスさん、少しお話宜しいでしょうか?」


 そう声をかけた後、それを了承したマールスさんと内緒話のようにゴニョゴニョと話しはじめると、合間合間に、それは勿論、というマールスさんの声や、まぁまぁそんなにや、しかしですね等という母さんの声が漏れ聞こえ、そして最後にはマールスさんが、仕方ありませんね、背に腹は代えられませんこのくらいではいかがでしょうか? という言葉を最後に内緒話は終了し、


「タングさん、明後日の朝までに魔鋼の鍬50本作れますね?」


 そうクルッと親父(オヤジ)の方に向き直り、笑顔で言葉を投げた。


 その言葉に、引き攣りながら呑んでいたお茶を噴き出しそうになり咽る親父(オヤジ)

 そして、


「クリスそれはいくらなんで……も……いや……その……善処いたします……」


 無理だと必死な表情で言い始めるも、徐々に声が詰まり、小さくなり、最後には頑張るという言葉を言っていた。


 そんな光景を俺は、


 あぁあ、魔鋼の鍬50本を明後日の朝までにとか親父(オヤジ)も大変だな。

 にしても母さんはいったい幾らで引き受けたんだ? マールスさんもなんだか計算を始めたぞ…… 

 まぁ俺には関係ない話だな。親父(オヤジ)の店の仕事だしな。


 なんて他人事のように思いながら傍観しつつ、エイル、グラン、フラン、先生とお茶を飲みながら聞き耳を立てていた。


 しかし、


「そういうことだから、ヒルトも宜しくね」


 という母さんの発言から飛び火してきた。


 その発言に俺は、


「はぁ? なんで俺も? それに俺は未だ鍛冶が出来るかは判らないんだよ。打てなきゃ手伝いも何もないと……」


 そう抗議し始めたが……


「……それに……あの……打てるか……いえ……善処いたします」


 無言の圧力に言葉を無くしていき、最終的に手伝う運びとなっていた。


 そして力無く肩を落とした俺に、ポンと肩に手を乗せた親父(オヤジ)

 その手に俺は、親父(オヤジ)の方へと顔をやると、諦めろという意味を込めた表情で首を横に振っている親父(オヤジ)の姿が映った。


 そんな親子の心など知らずに、


「お話も決まった事ですし、皆で昼食にしましょうか!! あと夕飯も奮発して美味しい物を振舞うから午後からは買出しに行きましょうね」


 そう母さんはにこやかに言いながら、エイルとフラン、先生に買出しのお誘いをしていた。


 エイルと先生はキャッキャと喜んだ様子で、


「買出しですか? どこにします?」


「私も一緒で良いんですか? 凄く楽しみです」


 と話を進めはじめる。


 フランは少しオロオロとした様子で、


「あの、えっと……良いのかな? ヒルト君もタングさんも何だか……」


 そうフォローのような言動をしていたが、その他三名がフランに耳打ちをし始めると、


「うん!! 僕も一緒に行きます」


 と、明るくそして、楽しそうに返答した。


 そんな様子に、


「お前の家も大変だな……なんて言うか……頑張れよ。俺は鍛冶を手伝えないけど、火の事くらいなら手伝ってやるからな」


 グランが哀れみの表情で励ますように俺の肩に手を置いて言葉をかけてくれる。


 俺はその言葉を感謝と共に忘れる事はないだろう。

 と心の中で呟きながら、力なく首を落とした。



 そして昼食後は工房に親父(オヤジ)と共に篭る事になり作業が始まる。

 が、鍬と一口に言っても、備中、板、さらえ、熊手、三本、等と種類が色々とあり、用途でも製作の仕方が変わる。

 そして今回は熊手鍬25本、平鍬25本の製作なのだが……


「だぁぁぁぁ!! なんで一本一本鍛造なんだよぉぉぉ」


 余りにも効率の悪い作業に叫んでいた。


 そう、この鍬という物は一本一本が日本刀や剣の製作と変わらない工程で作っていくのだ。

 折り返しやら、挟み込みなど、まるっきり剣類などの武器と変わらない手間なのだ。

 唯一の違いと言えば、成型が板状という事だけ。


 そんな事に嫌気がさして叫んだ俺に、


「喧しい!! 黙って鎚を振れ。二人でやったところで終わるかもわからねぇんだぞ。たく……だから嫌だったんだこの話は」


 イライラした感情を出しながらも、職人として請け負った仕事には責任があるのか、ブツブツと文句を唱えながらも次から次へと素材を炉に入れては叩きと、流れ作業のように同じ作業をこなしていく。

 その姿は半分機械のような感じだった。


俺はそんな親父(オヤジ)の姿に溜息を付くと、再び金鎚を手にして作業を始めた。


 そうしてお互いに2本の鍬先が出来た時、


「なんだお前、打ててるじゃねぇか。剣も抜けるようになってるみたいだし、虫騒動の時に何かあったのか?」


 知らない間に俺の横に立っていた親父(オヤジ)が声をかけてきた。


 行き成りの出来事に一瞬驚いて、


「うぉ!! っ驚かさないでくれよ……手元が狂うじゃんか」


「すまんすまん、驚かすつもりはなかったんだが、そこまで集中できるなんてお前も一端の鍛冶師になったんだな」


文句を言った俺に、何処か嬉し気というか、誇らし気な雰囲気で、鼻を擦りながら返事をする親父(オヤジ)だった。


 なんだか照れ臭さもあったが、


「で? なんの用事なんだよ? 未だ2本しか出来てないんだから、話してる時間なんてないんだろ?」


 と、ぶっきら棒に答えながら再び鎚を振るおうした。


 が、


「いやな、剣も抜けるようになったし、鎚も以前よりも振れてるから、虫騒動中に何かあったのかって思ってな」


 何気なさそうに尋ねてきた親父(オヤジ)の言葉に、フランがキスしてきた事を思い出し、その時の映像が脳裏を過ぎった事で、振るった鎚はあらぬ場所へと落ち、鈍く変な音を上げ、


「なっなっ、何を言ってんだよ親父(オヤジ)。べっべ別に何も起きてねぇよ。無駄口を言う暇があったら作業に戻れよ」


 動揺を隠せないまま否定し、早く作業に戻れと言うが、


「ほー。お前、顔が真っ赤だぞ? 何かあったんだろ? ほれ言ってみろよ。エイルちゃんか? ファラか? それともフランちゃん? うん?」


 俺が顔を真っ赤にしていた事で、茶化すように聞き出そうとする親父(オヤジ)


 その余りにもウザイ表情と行動に怒りと恥ずかしさが頂点に達した時、


「あの……ヒルト君……タングさん、クリスさんがそろそろ休憩にって……」


 工房の扉が開き、オドオドした感じのフランが顔を覗かせた。


 行き成りの出来事と、親父(オヤジ)のせいで思い出した光景のせいで、


「おっ……おう……すぐに戻る……」


 恥ずかしさと、何かで上手く話せなかった。

 俺の反応にフランもどこか気恥ずかしかったのか、もじもじとして会話が成立せずにいたが、何かに気が付いて慌てたように、


「……っっ!! ちゃんと伝えたからね!!」


 と、来た時よりも顔を真っ赤に染めて言葉を残すように扉を勢い良く閉めて去っていった。


 そんなフランの様子から元凶であろう親父(オヤジ)の方へと向いた。

 すると案の定、


「そうかそうか、フランちゃんと何かあったんだな。うんうん青春だな。しかし、男としては色々と思う所もあるが……まぁそれは良いとしてもだなヒルト、恥ずかしいのも分かるが、ここは男らしく堂々としてないとだな。それに――」


 ニヤニヤとした表情と、まぁ頑張れみたない表情をこちらに向けながら、饒舌に語り始める親父(オヤジ)が腕を組んでいた。


 そこので俺の頭の中で何かが切れる音がし、


「遺言はそれだけだな……」


 未だに饒舌に何かを言ってる親父(オヤジ)へと……



 そして、


「あら? ヒルト貴方一人で帰ってきたの? お父さんはどうしたの?」


 家に帰ると、不思議そうな顔をした母さんが尋ねてきた。

 俺は、


親父(オヤジ)なら工房で休んでから来るってさ」


 と、上機嫌な感情と苛立ちの感情が混ざった微妙な口調で答えながら、椅子へと腰掛けた。


 その光景に首を傾げるフランとエイルに先生だったけど、母さんが聞き取れない言葉を言った後に笑って


「そうなのね。だったら、タングさんには後で私が持っていくとして、先に戴く事にしましょうか」


 そう言って、午後の休憩の為に作ってくれたであろうケーキを切り分け始めた。

 その後は軽い談笑をしながらオヤツタイムを過ごして行くのだが、


「そういえばアンタ、注文された鍬の製作はどうなのよ? 疲れた顔してるけど」


 エイルのその一言で俺は、今こうしてゆっくりしている場合じゃないという現実へと引き戻され、


「いや……まだ4本しか出来てないです……」


 少し焦り気味と、引き攣った言葉で返事をする。

 すると、


「アラ? エイズル様からは一日で10本以上の剣を鍛えていたと聞いたのだけれど? まだ調子が優れないの? それとも……」


 横から母さんが、ケーキとお茶をお盆片手にどこか、心配そうな感情と疑惑の怒気が混在した言葉を俺へと投げかけてきた。


 篭っていた怒気に一瞬だけ身が強張ったが、


「って、あぁぁぁぁ、その手があったぁぁぁ!! エイル、フラン!! ちょっと手伝え!!」


 ある事を思い出し、俺は叫ぶと同時に二人にの名前を呼んで立ち上がり、ドアの方へと足を進めるが、


「ふえ? まだ食べてる途中だよ……?」


「ちょっと行き成りなんなのよ? 私もまだ食べている途中だし、手伝うなんて言ってないわよ」


 二人が抗議のような事を言うので、


「だぁぁぁ、働かざるもの食うべからず!! いいから黙って手伝えぇぇぇ!!」


「ちょっと!! あぁぁぁぁ」


「ふぇぇぇぇ!!」


 俺は二人の手を強引に掴み、工房へと【魔力強化体(フィジカルブースト)】を駆使して駆ける。

 しかし、途中で言い忘れた事を思い出し、


「あっ、ファラ先生!! 魔力の通りが良い木材の調達をお願いします。じゃっ、宜しく」


 そう言い戻り再び工房へと走った。

 なんだか途中で「覚えてなさいよ」や「目が回る」などという言葉が聞こえたけど気のせいだろう。



 そして工房へ着くと、


「アンタ、いいかげんにしなさいよ!! 私達……を……なんだと……っ!?」


「ふぇぇぇ、酷いよヒルト君……あれ? エイルちゃん……どうし……た……の? っっ!??」


 エイルは文句を言いながら何かに気が付いて言葉が止まり、フランもフラフラしながら文句を言うが、エイルの様子に何か疑問を抱いたのか質問しながらエイルが見ている方へと目をやり言葉を失い、二人は驚いた様子のまま固まった。


 俺はそんな二人には構いなく、


「邪魔!! たく……何時まで寝てんだか」


 俺は転がっている邪魔な物体を投げる様に転がし、作業スペースを確保し、


「さて!! 二人に手伝ってもらう事なんだけど、ふん? どうしたんだ二人とも、そんな鳩が豆鉄砲をくらったような顔して」


手を一つ打ち二人へと手伝いの内容を話そうとするが、二人が口を開けて何か様子が可笑しかったので、首をかしげながら尋ねる。


しかし俺の質問に、その可笑しな表情のまま口をパクパクさせて二人揃って、俺が投げ転がした物体を指差すので、


「ああ、これは気にすんな。息子相手に馬鹿な事をした報いだから」


 怒気を込めた言葉を吐き捨てて言う。


 二人はその言葉の雰囲気に更に驚いた表情と困惑の表情を浮かべるが、


「でっ!! 手伝いの内容なんだけけどな――」


 無視して話を進めた。


 二人は説明の間も呆気に取られた様子だったが、そんな事はお構いなしに説明を続け、


「――そういう事で先ずはフラン。俺が魔法で素材を熱して行くから、重力魔法で上下から圧縮してくれ」


 俺は重ねた素材の束を巨大なヤットコで挟み、魔力を通しながら熱して行く。

 そして良い状態まで素材が真っ赤に赤熱化したタイミングで、


「フラン今!!」


 と声を上げたが、


「ふぇ? なにが今?」


 俺の説明を聞いてなかったのか首を傾げて棒立ちしていた。

 しかし俺は、


「早く上下から重力魔法で圧縮しろ!! 素材が熔けるだろ!!」


 つい何時(いつ)もの調子で語気荒く叫んでしまい、


「はわわわわっ!!」


 慌て、焦ったようにフランが重力魔法を素材へと放った。

 しかし、俺が語気荒く叫んでしまった事で威力の調整が出来ていない魔法で、


「げっ!! ストップっ ストッォォォプ!!」


 目の前で起きた出来事に俺は声を上げた。


 俺の上げた声に、はっとした表情で正気に戻ったフランが直ぐに発動した魔法を止めたが、時既に遅かった。

 赤熱化した素材の束は強力な重力魔法の圧縮により、10mmはあった筈の厚みは見るも無残にペシャンコの紙切れのように広がっていた。

 まぁ掴んでいたヤットコも使い物にはならない状態だ。

俺はそんな状況に苦い表情で溜息を付いた。

 すると、


「はわわわ、ごめんなさいヒルト君。僕、吃驚しちゃってその、その……」


 取り乱して、すこし泣きそうな表情で謝り始めるフラン。


 そんなフランに、


「いや、俺が悪かったんだ。少しキツく言い過ぎたスマン。まぁ気を取り直してもう一度ゆっくり頼む。出来そうかフラン?」


 反省し頭を下げて謝り、俺はもう一度頼むと続けてお願いした。


 すると、


「えっとえっと、驚いた僕が悪くてヒルト君が謝る事じゃない」


 逆に謝ってきた。

 俺は直ぐに


「いや、俺がキツく言い過ぎたから」


 と再び謝るが、


「でも僕が――」


「いや俺が――


 等という不毛なやり取りが続く事になっていく。

 暫く本当に不毛な、「いや俺が」、「いや僕が」というやり取りが続くが、


「もぉ!! どっちでも良いじゃない、そんなこと!!」


 突然、エイルが怒った様に声を荒げて叫んだ。


 エイルの荒げた声に俺とフランは驚き、二人でエイルの方を目を丸くして見ていた。

 するとエイルは少しだけ慌てたようにワタワタとした仕草をした後に、


「ゴホンっ……それよりも私は何を手伝えば良いのよ……ずっと何もしないで待ち惚けなんだけど……」


 咳払いをし、少し顔を赤らめて少し俯き加減に、上目使いで尋ねてきた。


 そんなエイルの突然の行動に未だ驚きは残っていたが、


「あっあぁ、わるいわるい……ただ、もう少しだけ待ってもらって良いか? この作業が終わったらすぐに手伝ってもらう事になるからさ」


そう説明しながら、低姿勢になりながらワザト大げさに素材を重ね、再び圧縮の準備を始める。


 すると、


「まぁ……別に手伝いたい訳じゃないけど、早く済ませないといけないんでしょ……だから早くしなさいよ、待ってるから……」


 そう言いながらエイルは俺へと背中を向け、何か聞こえない言葉を言った気がした。


 

 そんな一悶着がありながらも作業は概ね予想道り、順調に進んで行った。

 ただ、フランの魔法による圧縮には難があるようで、威力の調整が芳しくなく任意の薄さへの調整ができなく、使い物にならなくはないものの、薄すぎるか厚過ぎるといった具合だったのだ。

 そこで、厚めにフランが圧縮し、エイルのウォーターカット後に再調整という工程に切り替えた。

 それでも、一気に5本~8本分の母材が確保できる事には変わりなく、かなりの効率化に成功した。


 そんなこんなで俺が束ねた素材を熱し、フランが圧縮、エイルが裁断という流れ作業で、夜までに50本分の母材が完成していた。


 まぁ、その母材が全て終わった時に親父(オヤジ)がケロっとした顔で、


「ほう、もう終わったのか。ご苦労さん。お嬢さん達のおかげで間に合いそうだよ。本当にありがとう。武器とかにはなるが、お礼に欲しい物があれば言ってくれ会心の出来の物を作らせて貰うよ」


 等とほざいた為、また一悶着起きた事は言うまでも無いだろう。



 そして翌朝、


「終わったァァァァ!! 50本、完成!!」


「一時はどうなるかと思ったが、一日で仕上がるなんてな。……すまんな……何か必要な物があったら……」


 俺は歓喜の声を上げてから、木台へと体を倒した。

 その横で顎に手を当てて感心の言葉を述べた後に、横でボロボロになっている人物に気が付き、申し訳なさそうに頬か掻きながら感謝とフランやエイルに言った言葉と同じ言葉を少し引き攣った感じで述べていた。


 そしてその言葉を貰った当の本人は、


「いえ……男の言葉に二言は……ありませ……ん……」


 そうフラフラしながら言葉を捻り出し、言葉を言い終わると木台へと倒れた。

 そして最後の力で、「覚えてろよ……ヒルト」という言葉を溢し力尽きた。

 まぁグランなんだけどな。

 流石に徹夜で魔法を使い続けての溶接作業なんて事を、慣れていないコイツにやらせればこうなるか。 

 でも、「火の事なら手伝うって」って言ったのはグランだし知らね。


 へっ? 何で溶接かって? そら鍬先に穴を開けてから手持ち部分を固定する筒が必要なんだから溶接するでしょよ。親父(オヤジ)がパイプ造り、俺とグランで溶接、こんな風にね。


 そんなこんなで完成した鍬50本は親父(オヤジ)の手によって農業組合へと運ばれ、俺とグランはそのまま昼過ぎまで深い眠りに就く事になる。


 え? こんなに上手く行ってるのに冒頭のは何だって? ああ、それはだな。


 時は流れ俺とグランが目を覚ました時、


「ようやく起きた二人とも。起きて早々で悪いんだがな、二人の戦闘はまるで演劇のようで見てられん。そこでお前らに修行をさせようと思う」


「は?」


「へ?」


 などと起きて早々、寝ぼけ眼の俺とグランに言い放つ親父(オヤジ)

 俺とグランは働かない頭に突然言われた意味不明な言葉に間抜けな声が出ていた。

 しかし、


「うん? もう一度言う必要があるか?」


 と、不思議そうに首をかしげる親父(オヤジ)

 そして、


「アナタ、起きて行き成り言うから二人とも吃驚しているじゃない。でも、本当に二人の戦闘は無駄な動きや、無駄に魔力を放出していたりしていて、演劇のように派手なんだけど全然なのよね……だから私もタングさんも心配で」


 口調は凄く柔らかく優しいのに、何故か威圧的でマジな目で話しかけてきた母さん。

 まぁその後ろで、親父(オヤジ)がなぜかスマンというポーズをしているのは何故だろう。


 そして、この事が俺とグランの受難の冒頭へと繋がっていくのだ。

 その受難とは……





 早朝より始まった野良作業+蟲の後片付け、というなの拷問だった。


 あっ今、何だそんな事が拷問とか受難とか思ったそこの彼方、朝の5時から日が暮れるまで、昼休憩を除く時間ずっと鍬を振ってみてください。

 勿論、鍬を振る場所は人の足で踏み固められた場所ですよ。

 え? 魔法とかで強化すれば良い? なるほど、その手がありますね。

 ですが、それを長時間も続ければどうなんでしょうね? うん…… 最初は俺もそう思って頑張ったんです。頑張ったのですが……魔力枯渇(マジックフロー)……常に魔法を流せば当たり前のようにそうなるんです。

 そのたびに無理やり回復させられ、長い長い指導と共に、重労働という耕し作業で、精神が削られていくんです。

 これは拷問の何物でもないんです。

 まぁ、それをしてもケロッとしている人物達が三名もいるのですが、彼等曰く、


「「「インパクトの瞬間に魔力を流せば良いだろ。そんな簡単な事も出来ないのか? 魔力の通りが遅い? そんなもんは感覚で調整しろ。ちゃんと見てろよ。こうだ」」」


 という言葉を其々の口調で言うのみで、全く参考にもなりません。

 本当に、この三人はどこの異世界の最強さんなんでしょうか? 誰か教えてください……






 冒頭後に見た誰かに愚痴を言いまくる、そんな幸せな夢も直ぐに現実という真緑の大地と辺りに転がる肉塊と墨塊のなかへと引き戻され、再び始まる鍬振りという苦行という名の拷問が再開された。



 解放されるまで後……何日だろうね。

 あっそうそう鍬の代金だけどな、良い純利益が出たんだぜ。まぁ、それが俺と親父(オヤジ)に還元されたかは……ですよね……

考え中……

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