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異世界なのだから最強の剣を求めるのは普通だろ  作者: 雪兎
序章 異世界と魔法と剣と
4/49

第3話 母親と先生と工房の父親と

後半少しだけですけど目的の物が書けた。

幼少期編は後少しだけ続くんじゃ、青年期からは、専門用語増えます


言葉じり調整、段落調整4/8

 美しい朝日が山頂から顔をだし、大地に爽やかな風が吹きぬけ、緑豊かな草原の草花を揺らす。そして、雲一つない蒼い空が広がる、そんな異世界物やファンタジーに相応しい景色が眼前へと広がる。

 

「本当久しぶりに、こんな朝早くから動いたわ。昔はよくタングとこうやって剣の修練をしていたのよね」

 

 女性の言葉と共に、緋色の髪が風に(なび)き、【光が踊る】そんな形容詞が相応しい一場面が映しだされ、素晴らしい一日の始まりを予感させる。



 えっ、昨日と同じはじまりだって? 気のせいだろ? 情景も以前より綺麗な表現なんだし勘違いです。

 

「最近ちょっと体型も気になって来ちゃったしね、私とお父さんで交互に剣の稽古をしましょう。ヒルトも綺麗なお母……きゃぁぁヒルト」


 あっ、気付いてくれましたか?

 体には、無数の切り傷と擦過傷、それに打ち身で昨日よりもボロ切れの様になり転がっている俺に。


 そんな訳で、すいません強がりです。本当になんなんですか、どこのファンタジー作品のご夫婦ですか? 何ですか最強なんですか? すいません振り返らせて下さい、お願いします。何でもしま……



 【爆発事件の後まで遡り】


 爆発の件に関してファラの事情説明も終わり、次に頭を抱える原因の親子に対し。


「本当にタングさん、貴方に関わるとろくな事が有りませんよ。この魔道具だって、貴方が爆発四散させた物よりも、強化改修を施して作り上げた最新の物なんですよ。理論的には、貴方の魔力係数だって調べられるはずなんです」


 ファラはへたり込みながら抗議していた。


 その抗議に対してタングは、アッケラカンとした顔から悪戯好きな笑顔に変わり、

 

「おっ、それなら俺も試してみるか」


 などと、平然と口にしながら腕まくりをする。


 その行動にファラは、むっとしてから立ち上がったが、何かを諦めたのか肩を落としながら少しぶっきらぼうに、


「無理ですよ。これは、世界に一台しかまだ無いんです。それに、貴方で試していても結果は変わらない気がしますので」


 答えた。


 タングは、なんだ仕方ねえなと、頭をかき俺の方に向き返り、


「ヒルト、お前はやっぱり俺の子供だな、御褒美にお前が使いたい剣の形状を教えろ。今は木の剣だが、本格的な稽古になるころまでに、魔鋼で作ってやるからな」


 魔道具への興味は完全に消えたように話を変え、満面の笑みを浮かべて俺に尋ねてきた。

 しかし、その後ろで鬼? を思わせる形相を浮かべていたファラを目にした。


 俺は、タングの質問とファラの形相に少し悩みはしたが、

 

「えっと、ハンガー形状が良いんだけど、持ち手は両手持ちサイズにした物が欲しいかな」


 ファラの形相は記憶に残す事にして、親父(おやじ)の質問に、木刀や日本刀形状の様に重心バランスの良い物のほうが癖にあっていると思いながら答えた。


 タングは俺の回答を聞いて、少し難しい顔を浮かべたが、


「お前は、また変わった事を言う奴だな、まぁ今日の剣を見るとトップヘビーな剣よりも軽くて切る事に重きを置いた方が確かにヒルトにはあっているか……」


 少し独り言を言い、何かに納得して工房へと帰って行こうと歩き始めた。


 しかしか、途中で振り返り、


「今度お前には鍛造での剣の作り方を教えるからな」


 それだけ言い残して、再び工房へと姿を消していった。


 やっぱり言葉が足らないのは、父親の特性だと思う。理由なんてわかるけど、ちゃんと言葉にして欲しい、普通の子供だったら勘違いすると俺は思う。

 そして、そんな思いを、父親の背中に云えない俺も一言が足りないんだろうな。


 俺はそんな思いを抱きながら親父の背中を見送った。



 そんな雰囲気のなか、 


「ほんと、あの人と似た背中なんだね……」


 ファラの声が聞こえてきた。


 その言葉に俺が振り返ると、少し慌てた様に体に付いた埃を払い、深呼吸をした。


 そして、声は落ち着きを取り戻し、


「ヒルト君、君はあの人と同じ魔力特性なんだね……本当は君には、魔力の制御を重点的に教えたいんだけど……こんな爆発する様な事をさせる私が、君の先生を続けることは……正直、不安だったり……嫌じゃないかい?」


 ファラは少し不安そうに、そして申し訳ないという表情を浮かべながら、目線を俺に合わせて、尋ねてきた。


 俺は、そこで初めて気が付く事が有った……それなのに俺へ判断を委ね、責任を取ろうとするファラ。その行為に、本当の意味で憧れというのだろうか、複雑な感情が沸いた。


 そして自然と、


 「俺は、ファラ先生に教えてもらいたいです。だって、ファラ先生は、あの爆発から俺を守ってくれたじゃないですか。それに……」


 この人に教わりたいと口にした。


 でも、[それに……]この先を言うかを迷う。

 ファラは俺の前に出て助けてくれた。それも、魔法で防御するだけじゃなく自分の体も盾にしてくれた。その結果、俺は怪我を一つもしていない。だけど、屈んで俺と目線を合わせたファラには細かい傷が腕や足いたるところに残っていた。それに……顔にまで大きな傷を負っていた。

 そんな行動誰にだって出来る事じゃない。


 元の世界で、教師と呼ばれる人間のうち、何人が自分の身を盾にしてでも生徒を守る行動を取れるだろうか。勝手な考えかも知れないけど、特にこういった、魔法の有る世界では顕著に行動に出ると思うからなお更だ。

 だからこそ、この人に教わりたい。


 でも……言葉の先を言う事を迷う。言えばきっと……



 そうしていると、ファラは言葉の続きを気にしているのか、


「それに……何かな?」


 と俺の顔を覗き込んできた。


 その顔が余りにも魅力的に見え、初恋にも似た思いが湧き顔を赤らめてしまう。でも、そんな気持ちを誤魔化すために俺は視線を下へ落とすが、ファラの谷間が目の前に広がり、それでさらに顔が赤くなる。


 しかし、そこで閃いた。


「えっと……ファラ先生の……胸が大きいからだよー」


 俺はおどけて見せて照れ隠しをした。


 ファラはその言葉を聴いて一瞬、ワナワナと体を震わせたが、直ぐに胸を両手で抱え隠して、


「私の感動を返せー。本当に何であの人といい、親子揃ってもー」


 怒ったように拳を振り上げ逃亡する俺を、追いかけるファラ。


 この時の追いかけているファラの顔は、怒っている訳でもなく何だか笑って見えた。


 それをアラアラと笑いながら見守ってくれる母さんだったが、後になって、照れていてもあんな事言っちゃダメよと、笑顔半分怒気半部で怒られ、タンコブが出来たのは別の話か。



 そして追いかけっこも終わり、ファラとの授業が再開する。


「んっっんん、これから再開するけど、あんまり変な所見たり変な事考えてたら怒るからね」


 咳払いをして仕切り直すように言うが、まだ胸を隠していた。


 親父が過去に何をしたのか気にはなるけど……一旦放置するとして、ちゃんとわかったと返事をしておいた。


 俺の返事を聞いたファラは、


「そしたら続きだけど、君の魔力量も出力も桁外れに大きくてね、このまま魔法として使ってしまうと自分だけじゃなくて、大切な者まで傷つけてしまうの……、だから魔力制御最初に覚えて貰うよ」


 少しだけ悲しい顔をする。


 でも直ぐに元の表情へと戻り鞄から、鈍く光る腕輪を取り出して、


「これから、君には、この腕輪をはめて生活して貰うんだけど、とりあえず着けてから質問を受け付けるから腕を出して貰えるかな?」


 そう、少しだけ悪い顔をした。


 ファラの言う通りに腕を出すが、正直嫌な予感しかしない。

 どうせ、激重の腕輪で魔力を流すと軽くなるとかそんな類いだろ。

 と考えていた。


 しかし、いざ腕輪が装着されると、全身から力が吸い取られる感覚に襲われる。それに加えて、腕輪が重くなる。最後には体の力が抜け、重さに耐えきれずに突っ伏してしまった。


 それを見たファラは、直ぐに腕輪を外し、


「わかったかな? この腕輪は、君の魔力を吸い取るんだよ。さらにね、一定量の魔力を流さないと重くなっていくし、一定量以上の魔力は全て外に霧散するように出来ている優れ物なんだよ。ちなみに君の今の状態は、魔力切れによる、[魔力枯渇(マジックフロー)]って言ってね、体力は有るけど体に力が入らないでしょ?」


 そう言いながら鞄から瓶を取り出し、その中身の液体を俺に飲ませた。


 その液体を飲むと体が軽くなる。


 その後、俺が動ける事を確認したファラは、制御の仕方や瓶の中身の事を説明し直ぐに、


「そしたら、まずは腕輪無しで魔力を体に留める事からやってみようか」


 そう言って微笑んでいた。


 俺は、説明された通りにまずは体の中に有る魔力を全身に沿って覆うイメージをする。

 体の周りが温かく感じるが、魔力が飛散するのがわかる。次にその温かみを体の中で流すイメージなんだが、これが結構難しくて、どんどん魔力が霧散していく。

 途中何度も魔力枯渇(マジックフロー)になるが、その度に瓶の液体を飲まされた。


 因みにこの液体は、水系の発現魔法の性質を利用した魔力精製水と呼ばれる物で、魔力で作られた水に凝縮した魔力を込めると出来あがり、その凝縮された魔力分回復するという事らしい。因みに、今回の中身はファラが精製凝縮した水で、なんだか飲むのが躊躇われる、一品。



 こんな感じで3時間位繰り返し、(さま)にはなる程度には留める事ができる様になると、


「凄いね、こんなに早く魔力の循環固定をクリアーするなんて。スキルを考えても、今日は腕輪を着けられない算段だったのに。でもまぁとりあえず、腕輪を装着してみようか」


 少しつまらなそうに言っているが、その口調が拍車を掛けて恐怖を煽るが……俺は渋々、言葉に従って腕を差し出した。


腕輪を装着されると魔力を注いでないため、イリジュウムの塊と同等の比重に変化し、腕ごと地面に持って逝かれた。


 その光景を見てファラは、鼻で笑った後に、後ろを向いて笑いを堪え始める。


 その姿に、


「ファラ先生! 先に言ってくださいよ、腕の骨が外れる所ですよ」


 抗議するが、ごめんごめんと目も合わせずに笑いながら答えられた。



本来なら手首の骨が折れていても可笑しくない、そんな体勢と勢いで地面へ持っていかれたはずなのに、骨は折れていない。


 その事で不思議そうに頭を(かし)げると、


「あっ気が付いたかい? そんなに重い物が腕に乗っているのに何ともないだろ? それは、魔力に因る【魔力強化体(フィジカルブースト)】現象なんだ。魔鋼金属が、硬化したり強化される事は君も知っているだろ? それと同じ事だよ」


 得意げに語り始めた。


 理屈はわかったけど、早めに言って欲しい物だ。これでも、腕が痛かったことには変わりないのだから。



 とりあえず、腕輪に魔力を流すと羽根のように軽くなる。魔力を注ぐ事に関しては、腕輪も体の一部と考えれば割りと簡単に出来た。


 ファラは本当に面白くないと愚痴っていたけど、気を抜くと簡単に魔力を全部持っていかれそうになるし、まだ粗が有って、完璧ではないためゴリゴリ魔力が削られる。


 そうやって苦労しながらも、腕輪の操作をしていると、


「とりあえず今日は、これくらいにしようか。次私が来るまでに、6時間はその腕輪を着けて生活できるくらいにはなっていてくれたら良いかな?」


 そう宿題として、明日から毎日最低3時間は腕輪を着けて生活する様に言われて、魔法の授業は終わった。


 その後、腕輪を専用の袋に納め手渡されたが、とても軽かった。本当に謎技術だ。それにしても、魔法や魔力とは、謎が多いな。

 あとファラが帰り際に、{今日は帰るね}と言っていたけど、やたらと(は)の部分を強調していたのが気になるが、なんだったのだろうか?




   [そして一夜が開けて]


 早朝、昨日と同じ時間に今度はクリスに起された。


「ヒルト、起きなさい。今日は、私と訓練よ。起きないとお仕置きだっちゃ」


 今度は某鬼娘のマネだ。


 絶対に母さんは元の世界の漫画を知っているだろと声を上げたかったが、その余りにもふざけた行動のため二度寝を……止めておこう。


 理由として、二度寝の行動に移行した瞬間に怒気を感じ、本当にあのお仕置きをされそうだった。とだけ残しておく事にする。


 その後、素直に従い服を着替え、リビングへ降りると、タングも起きていて一緒についてくると言う。


 そうして、昨日の広場へと親子三人で向かう。

 その光景は、家族でお出かけの様に見えなくはないが、一部違う事が有る。


 タングは金属製のグレートソードを担ぎ、クリスは細身の木製ショートソードを腰に帯刀している。そして俺は、タングに渡された物を持っているけど、袋に入って中身が解らない。

 それさえなければ本当に一般的な家族でお出かけだろう。




 そんな感想を持ちつつも、目的の広場に着くとタングが、


「ヒルト、袋を開けて良いぞ。お前が言っていた木剣だが、それで合っているか?」


 タングが、ちょっと自慢毛に袋を開けるようにと促してきた。


 その言葉に従うように、袋を開け中身をとりだすと、反りが無い直剣という点を除けば剣道で使う【木刀】と同じ形状の物が入っていた。


 その【木刀】を掲げ、


「親父有難う。これで合ってるよ、本当に有難う」


【木刀】振って喜びを表現しながら言う。


 すると、少し照れた顔を浮かべてから、


「オウ」


 とグレートソードを掲げて返事した後、こちらに背を向けて素振りを始めた。


 その姿を背に、母さんの方に振り返ると、


「あらあら、良かったわねヒルト。私も頼もうかしら」


 俺の姿を確認した、母さんが微笑みながら言い、そして続けて、


「それじゃぁ、私たちも始めようかしら。先ずは私が打ち込むから、ヒルトは剣で受けるだけで良いからね」


 クリスはそう言うと、ショートソードを一振りして、左の腰の位置にもって行き左足を前にして構える。

 類似しているのは、抜刀術の構えだが鞘が無いのと左手は右手の手首を押すように添えられている違いが有る。


 昨日の事が有る、バカにして痛い目を見たくない。後は勘だが、非力な一撃とは考えない方が良いと思う。

 その考えから、剣を縦に構え下段中取りの構えを取る。これなら弱ければカウンターを狙えるし、もしも強かったとしても方向を逸らして凌げる。


 ある種横薙ぎだと解っていれば最強の防御の構えだ。


 そう自信満々に構えると、クリスは頭を傾げてから、


「タングの言う通り本当に変わった構え方のをするのね。でも、ちょっと興味が有るわ。それじゃあ行くわね」


 一瞬で目がマジモードになり、地面を蹴ると砂煙が上がり、弾丸の様に飛び込んで来る。

 その動きは純粋に速く、一瞬で距離を詰められ腰を廻しながら横薙ぎに斬りつけてくる。


 判断が追い付かず、半歩だけしか前に出れなかった。

 そして、木剣同士がぶつかり打撲音が鳴り響き、同時に手へと振動が伝わり手が痺る。だが、半歩出たことで、威力を少しは押さえ込めているはずだ。


 しかしその考えは甘かった。


 左手で右手を押し込み、タングの一撃より強い圧力で木刀を剥がしに来る。


咄嗟に剥がされるより早く後方へ飛び、いなし切ったが、剣圧で体を浮かされ重心を崩れてしまい、着地で体勢を崩し膝を着く形になってしまう。


 しかし、


「ホントに凄いわね、この一撃を受け切られるなんて。その剣を弾き飛ばす予定だったんだけどな~」


 その後、腕が劣ったわ等と少し落ち込んでいた。


 俺は出鱈目だと、内心叫びたかったが、そんな言葉が出るはずも無く、沈黙が起きた。


 しかし、目に圧を宿したクリスが再び微笑み、


「じゃあ、次はヒルトが打ち込む番よ」


 沈黙を破り、中段霞構えになって待ち構えていた。



 その言葉に、即座に体勢を直し、八相の構えを取る。

 だがあえて、極端に体を前傾に倒し、一足飛びに突っ込み、


「おりゃぁぁぁ」


 むきになっていて掛け声を出しながら、縦一文字に打ち込んだ。


 しかし、剣からは、全く音も無く衝撃も返ってこない。


 そんな不思議な手応えに視線を剣先にやると、完全に剣は止められていた。

 クリスは、俺と目が合うと微笑み、そして剣を押すように弾き返した。

 そして、再び中段霞構を取り待ち受ける構えをとる。


 即座に、打ち込み直すが結果は変らず、剣は音も無くとめられてしまう。

 俺はそれでも向きになって何度も打ち込むが、縦横斜めからの打ち込み全て結果は変らない。仕舞いには、剣を(はす)に流されてしまい、カウンターの真似事をされてしまう。


 徐々に自分へのイライラが蓄積していく。


 そこで一旦冷静になる為に、一度距離を取るが、


「あら? もう終わりなのかしら?」


 と微笑みながら言われる。


 俺は、まだまだと意思を込め首を横に振り、無我の構えから全力での突きを放ちに掛かる。

 この時、無意識にフィジカルブーストを発動していたようで、一段と鋭く速い一閃を放つ事ができた。


 それでも、乾いた大きな打撲音とは裏腹に衝撃が全く響かない。そんな不思議な感覚に気を取られ、反応が遅れた。


 本気(まじ)な眼光のクリスを、確認する間もなく体勢を崩される。

 同時に、無数の斬閃が体の周囲を通り過ぎ、一拍の後、一撃目と同じ体勢から、剣の柄部分での打撃が入った。


 俺は後方に吹き飛ばされ、空中で4回転の後、地面で6回転してから木の幹にぶつかり止まった。その結果が冒頭の結末だ。

 本当にフィジカルブーストが無かったら確実に三途の川を渡っていたと思う。


 その後は、クリスに回復され意識が戻り謝罪されたが、タングもクリスも、つい本気になり何かに突き動かされ本能的に動いてしまうという一点では同じの様で、今後の稽古方針が変わったのは言うまでも無いことだ。


 本当にこの二人は、戦闘狂過ぎる。


 あと、絶対にクリスには逆らわないと心に誓う俺だった。




   そして午後


 最初は、今日は休めと心配され提案されたが、タングの意見を押し切り、約束通り鍛造を学ぶ事になった。


 工房に入ると、コークス炉には既に火が入っており、魔鉄のインゴットに鉄の棒が溶着された物が二つ炉に()べられ、そして全ての道具が綺麗に二対並べられていた。


 俺は感動した。


 目を輝かせ、道具や炉を見つめていると、


「じゃヒルト、まずは俺が打つ所を見学しなさい。それができたら次はお前が打ってみなさい」


そう言っいて、炉にくべた魔鉄を左手で取り出し、金床に乗せ、右手に大型の唐紙鎚を持ち、唐紙側で真っ赤になった魔鉄を叩き伸べて始める。


 俺はその光景をタングの左斜め後ろの、全体と手元がよく見える位置から覗いていると、タングはそれに気が付いて、鼻で笑う様な仕草をする。


 これは一種の褒めの様な物で、職人とは大抵が言葉が少ないのは、どこの世界でも同じだ。


 褒めたその証拠に、


「ヒルト、鎚は腕で振るんじゃなく重さで振れ、そして力を入れるな。鎚を腕で上げるんじゃなく反動を利用して返す」


 そう言いながら、鎚をリズム良く振るう。


 この言葉は、「よく分かってるな」という意思表示で、次の段階を説明していいだろうという事だ。


 それにしても、言葉が少なく、説明も感覚的だという事は変わらない。

 言葉で説明できない事も多く、体の感覚でしか伝わらない為とは理解している。ここは仕方ない部分では有るが、本当に一言足りない。


 例として、【見て覚えろ】なんていうのが典型的な例だろうか。

 言葉にする事が難しいから見せるというのが本来の意味だが、絶対に何処(どこ)を重点的に見れば良いのかは言い忘れる。

 本質として、一度自分で体験してから、再度見なければ、絶対に要点や重要視する場所なんてわからない。これを伝えたいという本質は有る。


 しかしこの事を、事前に説明しないから誤解が生じ、後世に悪影響が出るんだがな。



 そうこうしていると、一巡目の延べを終え、炉に再び魔鉄を入れ、


「ヒルト、次はお前が打て。見ていた通りにすればいいんだ」


 優しい顔つきで、瞳に力を宿した親父(おやじ)が打てと言う。


 俺はもうひとつの魔鉄を取り出し、同じ様に打ち始めるが、鉄が柔らか過ぎて鎚を返すタイミングが狂わされ、リズム良く打てない。


 これは、鉄の純度が高い為だ。

 この世界の鉄は純度が異常に高く、コークスで焼きなまして成形しても、日本刀の芯金と皮金の中間的な固さになる、とんだ曲者のなのだ。


鋳物の段階でわかっていたが本当に柔らかく、まるで銀を伸べる感覚で気持ち悪い。


「この鉄ちょっと柔らか過ぎない? 凄く打ちにくいな親父」


「ちゃんと見てないからだ。まぁ、確かに昔の物とは精製方法が違うからな。昔よりは打ちにくいのは確かだが、伸べる練習には最適な素材だ。言い訳しないで打て」


 それだけ言って、タングは二巡目を打ち始めた。


 俺は横目で見ながら叩き続けて、一巡目が終わった。


 それと同時に、タングは二巡目に入り、


「ヒルト、ゆっくりで良い。ゆっくり確実に覚えて早く慣れれば良いんだ」


 そう言いながら、鎚を振るう。


 本当に抽象的な言葉だけど、

 親父(おやじ)の背中と、振るわれる鎚、そして熱気、それが全部を語ってくれ、

 この意味だけはよく分かる。




 そうやって、二人で鉄を打ち続け、唐紙側で4~5巡目を終え、規定の厚みと長さまで伸べた所で。


「ヒルト、今日は帰って休め。続きは明日にしとけ」


 そう言って、俺を工房からつまみ出した。


 やっぱり、非常に誤解される言い方しかできないのは、親父だからなのか職人だからなのか、理解に苦しむ。


 そう思いながら、扉の隙間から見えた親父(おやじ)の背中がいつもより大きく見えた。

専門用語や専門鋼材は、逐一後書きに書きます。

※の付いた物は後書きに記載します。

唐紙鎚とは鍛金や鍛造時に一番使う、ハンマーで大きさは、一般家庭に有るサイズから漫画に描かれるサイズ(刀鍛冶が持っている柄の短いやつな)まで有る。形状は方側が通常の皿型で反対側がわずかに凸状になっている(イルカ?クチバシ、みたいな感じ)

叩き伸べとは 塊を任意の基本形状に叩き延ばす作業

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