第32話 フォークと依頼と誤解と
ドタバタ回です。
「痛っつつ、そういえばエイルには何のお礼もしてなかったか…… そのお礼に指を渡せって言うのは分かるけど、何もあそこまでブチ切れて細切れにしなくても良いだろ…… たく」
俺は彫金机に座りながら細切れにされた事を愚痴り始める。
そして、フランから預かっている指輪に嵌め込まれた緑色の石をみながら、
「にしてもこんなに綺麗な緋色の電気石が手に入るなんてな。それに、蒼石の黝簾石に炎色の閃亜鉛石どれも一級品とか…… もしかしてこれって三つ作る流れか? いやいや…… でもグランにもお礼くらいしないとな……」
他の石も並べながも、せっかく手に入れたはずの石の使い道が強制的に決まっているような気がして落胆しながら言葉をこぼしていた。
そんな思いのなか、無理やりオマケとか言って押し付けられた小箱が目に入り、中身が何か気になったので開けて見る事にした。
そして、中身が、
「ないわー。 本当にないわ…… 緑柱石って、ほんとうにアインさんって金属以外興味無さ過ぎだろ。 つか…… この流れは完全に…… はぁ、まぁこういうのも悪くは無いか」
アインさんの商売気の無さを心配しつつも、自分の考えが満更悪くないと感じ、気分も乗っていたので俺は作業を始めた。
そして一方その頃
「ごめんなさいね、うちの馬鹿息子が…… それに、こんな狭い部屋しか無くてごめんんさいね、あの子がもう少し綺麗に使ってくれていれば良かったんだけどね……」
新しいシーツを敷き、部屋に散乱した荷物を片付けながら母さんが、申し訳なさそうに声をかける。
そんな母さんに、
「いえ突然押しかけて来たのに、こうやってお部屋や歓迎までして頂けただけでも私は嬉しいです、おっ…… ヒルトのお母様。 あと、ヒルト君がそういった事に疎いのは分かってますから」
部屋の片付けを手伝いながら何故かぎこちなさそうに返事をする一人の女性。
そんな女性の返答に
「はぁ…… なんでこういった所はタングに似てしまったのかしら…… 二人には本当に気苦労ばっかりかけさせてるんじゃないかしら? もう少しシッカリしてくれてれば良かったのに」
タメ息と一緒に首を振って、嘆いていた。
そんな母さんの一言に、
「「そんな事ないです!!」」
二人の女性が声を揃えて声をあげた。
そして当の本人達は意図としないで声が揃った事に驚いて顔を見合わせ、照れたように挙動不審になる。
そんな彼女達の反応に、
「フランさんエイルさん、あの子が大変な時に助けてくださってありがとうね。 あの子に、こんなに素敵な仲間が居てくれるなら、これからも私は安心して、あの子を送り出してあげれるわ。 本当に世話のかかる子だけど、ヒルトの事をこれからも宜しくお願いします」
そう言ってエイルとフランを見てから頭を下げるクリス。
そんなクリスの行動に目を見開いて驚く二人は、互いを見合わせたりクリスを見たりと困惑するが直ぐに、
「そんな事ないです。 僕はヒルト君のおかげで、また自由に走れる、動ける楽しさをもらいました。 それに……」
はっきりとした言葉で言ったあと言葉が少しだけ詰まるが、エイルがフランの肩をポンと手で叩いてから、
「それに私も、アイツのおかげで皆と出会えて今まで一人だったのが嘘みたいに笑っていられる場所を貰ったんです。 だから」
フランに笑みを向けたあとクリスに向き直って笑顔で言葉を言い、そして、
「「 私達はアイツ(ヒルト君)と一緒に笑っているんです」」
声を合わせて、まるで絵画のような満面の笑みを並べた。
そんな彼女達の光景に、
「あの子がここまで慕ってもらえてるなんて…… ありがとうね……」
その言葉と共に一筋の雫を瞳から溢して、顔を背けた。
そんなクリスに寄り添う二人だった
が、
「でも、あの子はちゃんと貴方達の気持ちに答えないといけないわね、それにグラン君との事にも」
半分本気の言葉と、何故かでてきたグランの名前に二人は驚いたのと、今までの記憶を辿り在らぬ妄想が膨らんでいき最終的に、
「「それはダメぇぇぇ」」
と叫んだ。
そんな叫びに一瞬だけニヤっと笑ってから、
「でも、ちょっとだけ興味は有るでしょ?」
などと言うクリス。
その顔は、大変口頭しがたい表情だった。そして、その言葉に顔を赤らめてからクリスと似た表情を浮かべて頷く二人が居た事は誰も知らない話だ。
そんな俺の知らない所で有った話は置いておいて。
夕闇が深くなり月光と高炉から上がる炎が照らす部屋の中で響く金属音。
その音は小気味よくリズムを刻みながら一輪の花を象っていく。
その花言葉は、「あなたに微笑む」「純潔」
その言葉に込められた願いと、今の俺が持つ一つの想いを込めて掘り込んでいく。
作業中は不思議と気持ちが落ち着いて今までの黒く重たい感情を掻き消していく。
そうして何時間が過ぎた頃、
「できた。 フランには悪いけど、少しだけ手直しさせてもらったけどな」
目の前に並ぶ五つの指輪を眺めながら言葉を漏らした。
その指輪は全ての同じ花を象り、その人に合わせた色の石を輝かせる。
しかし、ただ一つだけ四種の石をあしらわれた特別な一つだけは大事に箱に入れられ、誰の目にも触れぬように封をし皮袋に収められた。
そして残りの指輪を一つの箱に並べてから立ち上がり、
「さてと行くか」
言葉と共に一つの思いを掴んでから扉を開けた。
扉を開けると、扉に何かが当る感触が伝わってきた。
目を落として感触の先を見ると、木製のトレーの上に並んだサンドイッチが置かれたあった。
そして、一枚の手紙も添えられていた。
俺はその手紙を片手に、サンドイッチを掴んで目的地へと歩みを進めた。
道中、手紙を読んで嬉しくて何かを零した事は内緒だ。
俺は疲れた体を引きずるように家の扉を潜り抜けてから音を立てないように自室へと体を運んだ。
そして俺は疲れた体を休めようとするが途中で力が抜けたのか、ベッドに上半身だけが引っかかるような形で倒れこみ、
「ああ? やけに柔らかいな今日は…… でもなんだか懐かしい柔らかさだな…… まぁ良いか」
何ともいえない柔らかさが手に伝わり、あまりの心地よさにその柔らかな物に顔を埋めると、色気のある声が微かに耳に聞こえた気もするが、そんなことよりも眠気に負け意識がなくなった。
そして……
「!!??」
突然、息苦しさが襲い呼吸が出来なくなった事で目を覚ますが、後頭部を強く抑えられているのか強い圧迫感と、顔に伝わる柔らかな何かに呼吸器官と視界を完全に奪われていてどうする事もできない。
そこで手探りにその柔らかな何かを掴み、少しだけ空間を開け、顔をどうにか回し呼吸を確保する。
そんな事する為にモゾモゾと身体捩っていると、
「うぅんっ。そんなとこっ…… すぅ……」
艶めかしい声色を発してから更に強く後頭部を押さえつけてきた。
俺は、その艶めかしい声に、
?…… 今の声って…… エイル!! は? なんでコイツが此処にいるんだよ? いやいやむしろ此処って俺の部屋だよな? いやいや!! でも…… この感触は…… やばいって!!
エイルだと確信して頭の中がパニックになるが、現状確認のために掴んだ物が何かを改めて確認するために手に力を入れて、それが何かという事を確証して更にパニックになるが、
いや、ここは冷静に先ずは手を…… !!てっ!! おいおい、今はやめろぉぉぉぉ。 これはやば過ぎる。
手を放そうとユックリ引くが、その手を何かに挟まれて更にその柔らかな物へと沈み込まされた。
その結果俺は、その先に待ち受けて居るであろう結末が脳裏を過ぎり、さらにパニックへと陥った。
そんなパニックな状況にあっても諦める事無く、文字道り[必死]にもがくが、
「うぅうーんっ、なんなのよ…… 人が良い夢見てるのに…… うぅん?」
俺はその声を聞いて、
終った…… 俺の二度目の人生。 今思えば短かったけど、この柔らかな物に包まれて人生を終えるなら、男としては本望なのかもしれないな。 こういう時は確か、
「わが人生に一辺の悔いなし」
その言葉を声に成らない声で高らかに叫び覚悟を決めた。
その覚悟と同時に顔を両方から強く掴まれ、力任せに顔を上に捻られた。
その事で俺は、目を見開いて驚いた表情のエイルと眼が合った。
次の瞬間には驚いた表情から徐々に怒気が経ち込め始める。
そこで、
「よっ…よう。 良い朝だな……」
なんて意味の不明な事を口走りながら開放された右手を上げた。
するとエイルから怒気が消えていき、満面の笑みを浮かべて首を傾げた。
その事で俺は、
許された!!
と心の中で叫びながら心底安心して、胸を撫で下ろした。
しかし、俺の気が付かない間に徐々に黒くなる表情とエイルの頭上に有り得ない速さで形成される水の塊が部屋に冷たい空気を作り出し、
「最後に言いたい言葉はそれだけね? アンタの記憶と一緒に…… 消し飛びなさいぃぃぃ!!」
その声が俺の耳に届く前に、巨大な水の塊によっとて俺は扉を突き破り壁に叩きつけられた。
そして俺の目に、顔を真っ赤にしてフゥーフゥーと猫の威嚇のような息を上げるエイルの姿と、この騒ぎで駆けつけた女性陣が俺へと軽蔑の視線を向けて見下ろす表情を映したあと、映像が途切れる事になるのだが、
「之が持つ者と持たざる者の差という事か…… 何とも人の女子とは興味深き生き物よな」
等と口を上に上げて言う駄犬の声が聞こえた気がした。
俺は微睡みを感じつつも突如、後頭部や背中からの激痛を感じ目を開き、
「痛っつう…… 体中がギシギシ言いやがる…… 少し頑張り……ってなんで濡れてんだ?」
体の痛みを感じながらも体を解すが、何故か家の廊下と自分がズブ濡れの状態だった事に驚いて目を丸くする。
そして、自分が何故こんな所で寝ているのか、何故ズブ濡なのか、記憶を探るが全く思い出せない。
その事を疑問に思いつつも回りを冷静に観察して、粉々に割れた扉にズブ濡れの廊下という、危険な状態に、
「これって最悪、俺のせいに成るよな…… 母さんに見つかる前にどうにかするか……」
そう言葉を溢してから行動に移る。
そうして、どうにか魔法を駆使して廊下の水や自分を乾かしはしたが、問題の粉々になった扉はどうする事もできないため、部屋にあったベッドからシーツを剥ぎ取り一時的な目隠しに使う事にしたが、
「…… バレルよな。 まぁとりあえず木材を探して今日中に治しとけば良いだろ」
もう開き直る事にした。
そんな事を終えると、俺の腹の虫が空腹を訴えるように鳴き始めたので、リビングに降りることにした。
俺の階段を下りる音が鳴るにつれ、何故か俺の肌にピリピリとした冷たい空気が伝わってくる。
そんな空気に違和感と恐怖を覚えつつも、自分とは関係のない事で、どうせまた親父が何かやらかしたんだろう、などと安易に考えつつ階段を降り終えると同時に、
「おはよう! 親父、また朝から何かやらかしたのか? 母さん、俺腹が減ってるからなるべ……く、 へ?」
そう声をかけるが、どうも俺を見る女性陣の目線があまりにも痛く、そして俺を見ながら首を振って何か危険を教えようとする親父の行動に、
まさか俺? なんで? 確かに朝からばたばたしてたし何故か起きたらズブ濡れだったけど…… それとこの空気に何の関係が?
そう心の中で想いながらも全く心あたりが無いために、状況を理解できずに困惑の表情をしていると、
「アンタ何も反省してないみたいだけど…… どういう神経をしてるのかな?」
聞いた事の有る声が聞こえてきて、その声は何故か凄まじい殺意の様な怒気を纏った声だった。
俺はその声の元に目線を向けると、母さんの隣に、
「はぁ? 何でお前が俺の家に居るんだよ? つか何でそんなに怒ってんだ?」
エイルが怒りの表情で腕を組んで胸を隠して立っていた。
俺は何故こんな朝っぱらからエイルが家に居る事に疑問をもつが、それよりも何故怒っているのかの方が一番の謎だったため、首を傾げて問いかけていた。
そんな俺の問いかけに、
「へー、惚けるんだね…… 寝てる私に……私に…… あんなイヤラシイ事をしといてぇぇぇ!!」
「ウォい!! 刺さったらどうすんだよ!!」
冷たい怒りを言葉に乗せて言葉を発し始めるが、何かを思い出したのか徐々に顔を赤らめて、最後には近くに有ったフォークを投げつけて来た。
咄嗟に俺はそのフォークを皮一枚の所で避けてから文句を叫ぶが、
「刺されば良かったと僕は思うよ…… そんなに大きな物が良いなら、刺されば良かったよ……」
「そうね、おばさんの私には何にもしないクセに、若い女の子にはそうやってするんだから、刺されば良かったと私も思うは……(まだ私だって……負けないくらい張りは在るのに……)」
等と、フランはエイルの胸を羨ましそうに見つめたあと自身の胸に手をやり、暗い怒りを込めた言葉を発しながらフォークを握る。
そして、それに続くようにファラも自身の胸とエイルの胸を見比べながら意味不明な言葉に怒りを込め、フォークを握り閉め、聞こえない声で何かを呟いた。
俺はそんな意識外から跳んできた声に恐怖を感じて唯一の見方であろう親父へと、助けてと言う祈りを込めた目線を送るが、その願いは無理だとう言う意思を込めて首を振る親父によって掻き消された。
そして見方を得られず四面楚歌な俺の目には、ギラギラと光るフォークの光が向けられ、彼女達の黒い何かを伝えてくる。
そして、
「はぁ…… 貴方も男の子だから女の子に欲情してしまうのは判るわ…… でも、やって良い事と悪い事が有るのよ。 寝ている女の子を襲うような事……お母さんは情け無いわ。 それに話を聞けば……エイルさんの胸には凄く御執心のようだけど、いったい【どういう了見なのかしらねぇ】」
泣きまねの様な仕草をしながら母さんが言葉を投げかけながら、俺がエイルの寝込みを襲った等といい始め、何故か俺がエイルの胸に執着している等と在らぬ罪まで作られており、最後には今まで感じた事の無い怒りの波動を全身から噴出させ、鬼の様な瞳で俺に尋ねてきた。
そんな母親の変貌振りに恐怖し、返答次第では本気で死を覚悟せねばならないと悟り、
「その様な事は決してしておりません。そして、皆様が何故私に怒りを向けてらっしゃるのか本当に私には身に覚えが無く…… 今朝起きると全身が痛く、またズブ濡れの状態だった事と何か関係が有りますのか私自身にご説明願えないでしょうか……」
丁寧な言葉を選びつつ全員の顔色にも細心の注意を払いながら言葉を口にする。
しかし俺の選択は、
「そうなのね……」
「ヒルト君……往生際って知ってるかな?」
「先生は君にはもっと誠実に育って貰いたかったけど……残念だよ」
「お母さんの言葉も判らない悪い子には……」
間違だったようで、訳も判らぬまま彼女達の逆鱗を刺激。
結果
「「「「死になさいぃぃぃ!!」」」」
四本の光が放たれた。
次の瞬間、不思議な事が俺の体に起きたのだ。
放たれた光は質量を完全に無視して俺を後方へと力任せに運び、鋭利な先端で壁へと俺を縫いつけたのだ。
完全に物理法則を無視したその出来事は、まるでギャグ漫画の一コマとしか言いようがない事象であり、そんなふざけた事象を体験した俺自身、何を言っているのか分からないが、その出来事は現実に起こった結果であり、夢でもなんでもない。
その事象は強い怒りが成せる技なのか、はたまた神か悪魔の悪戯か……
唯一の救いは、俺の体に直撃はしてい無いという点だけだ。
もしも直撃していれば光は俺の体を容易に貫通していただろうし、それこそ其の辺の魔物なら頭頂部から臀部までを一直線に貫かれていただろう。
そんな有り得ない状況に去らされ、体を四本のフォークによって壁へと縫い吊るされた俺は、彼女達の眼光と今のショックで身動き一つ、指一本も動かせない精神状況へとおいこまれ、さながら蛇に睨まれた蛙のごとく、唯怯えるしかなかった。
そして、女性陣が迫り来る恐怖のなか声に成らぬ声で
「だれでも良い、誰でもいいからこの状況から助けてくれぇぇぇ!!」
そう叫んでいた。
そして俺の目には一筋の光明とも言える現象が起きたのだ。
そう、俺の叫びが天へと届いたのか女性陣の黒く吹き出るオーラの向こう側に有る玄関の扉から微かな光が漏れたのだ。
最初は幻想かとも思ったが、
「すまんすまん、砦の若い集に頼まれた稽古が長引いて朝餉に遅れて…… っ!? すまん……ん」
後頭部を掻きながら扉を開ける爺さんが姿を見せたのだ。
しかし異様な光景と、スランの声に反応して振り向いた女性陣の眼光にたじろいで、扉を閉めようとすした。
そんな希望を逃しはしまいと、
「行かないでくれぇぇぇ!! 師匠だけが俺の希望なんだぁぁぁ!!」
そう叫んでいた。
俺の師匠と言う言葉に一瞬だけ目を見開いて反応するが、目の前の死地に尻込みをして一歩下がってしまうが、俺の救いを求める瞳と目が合うと意を決したのか、
「すまんが…… 俺が調停役をさせて頂くから話し合いで解決せんか? このままでは死人が出かねんからな…… 一度落ち着こうではないか。 な?」
引き攣った顔をしながら両手を挙げて彼女達の説得を開始する爺さん。
その丁重な行動と、最終的に言った『納得いかなければ、煮るなり焼くなり好きにする事を騎士団団長として許可する』という、お墨付きのを発した事で何とか女性陣を納得させて、話し合いの席を持つ事になった。
結果は…… 俺は十字架に磔られ恐怖のなか尋問を受ける事になるが、それは予定調和なお話なので此処では語るべきではないだろう。
そんな一日の始まりが過ぎ去り、俺は今、グランと共にとある酒場に来ている。
その酒場では、深刻な顔を並べた此の町を守護する衛士数名と絶望の表情を浮かべてうな垂れる農家の面々という、重たい雰囲気を漂わせていた。
そんな重たい空気のなか、
「なぁ、どうにか成らないか? このままじゃ俺の家だけじゃくて、農家全員が首を吊らなきゃならないんだ……」
俺達を呼び出した張本人であるシオンが深刻な顔をして、俺とグランに頼み込んできた。
そして、それに続く様に、
「俺からも頼むよ。スランさんが来て少しはマシに成ってるらしいけど、それでも日に日に被害が大きくなってきているみたいで、今じゃ酒場がこの有様だよ。 それに、ただでさえ酒のしか名産のないこの町で、其れが無くなったら町全員が路頭に迷う事に繋がるんだ。龍を倒した英雄の二人ならどうにかなるだろ?」
ムーラがカウンター越しに頭を下げて頼んでくる。
そして、その言葉を聞いていた衛士や農家の方々が、俺とグランへと何とも言えない瞳を向けてくる。
その瞳の圧に俺はグランと顔を向き合わせて悩む。
正直、全快の俺なら即決で快諾していたと思うけど、今の俺は剣を抜けない。
そんな俺が、どれ位の戦力になるか…… 魔法を併用した素手の格闘戦をしたとしても精々4割の実力を出せれば御の字だろうし……
しかし、そうやって悩んでいる俺へと無言の圧力は徐々に強くなり、その圧に堪えきれずに、
「とりあえずジイ…… スラン団長と相談してから今夜向かいますので…… 今は其れでどうか納得していただけませんか?」
負けて引き受けてしまった……
俺の一存ではあったが、グランは納得していたようで鼻で笑ってから、
「龍と比べたら屁みたいなもんだろう? もっとバシッと答えろよ。 英雄様」
そう俺の背中を叩いて笑いながら言う。
そんなグランの行動に俺はどこか勇気付けられた気がして、グジグジと悩んでいるのが馬鹿らしく思え、
「そうだな! 俺が全部倒してやるんよ!!」
そう笑いながら答えていた。
その答えに農家や衛士達は、ウォォォ、などと歓喜を上げる。
しかし、
「まぁ、剣も抜けないお前じゃ俺の2割くらいしか使えないお荷物だけどな! 頼むから新の英雄である俺の邪魔にだけはならないでくれな」
そう悪い顔で笑いながら言うグラン。
そんな俺の事情を暴露した事で、一気に冷めた空気と俺へ向けられた不安の目線、それに変ってグランへと向けられる羨望の眼差し。
そんな突如として起きた友人からの裏切りに俺は、
「誰がお前の2割だ! 剣が無くてもお前くらいならボコボコにしてやんよ! それにお前こそ、張り切りすぎて作物まで燃やして被害を大きくするんじゃないのか? まともに自分の炎も制御出来ないくせに」
グランの痛手を突くように言葉を吐いた。
そして始まる俺とグランの口喧嘩。
お互いに最後は、馬鹿だのアホだのとまるで子供の喧嘩まで墜ちていき、龍を倒した英雄とは到底思えない姿で罵りあっていた。
その姿に、その場にいた全員が一抹の不安どころか、最大の不安を感じた事は想像に難くないだろう。
その夜
俺とグラン、爺さん、そして俺がスランと相談をしていたら、何故か盗み聞きをしていた親父と、親父のテンションに興味を持って入ってきたエイル、そんな二人に巻き込まれる形で参加した、フランとファラ先生というメンバーは今、農地を守るために立てられた柵の中で臨戦態勢で並んでいる。
そして、
「来たぞ!!」
けたたましい鐘の音を鳴らしながら叫ぶ、物見櫓の農夫の叫び声が響き渡った。
その声に呼応するように鳴り響き始めた地響きが森の木々を揺らし、振動元によって巻き上げられた砂煙を引きながら、問題の一団が森を抜けて姿を現した。
その一団の姿に
「はぁぁ? 馬鹿じゃねぇェの!? 物には限度あんだろぉぉぉぉ!!」
俺はその余りにも馬鹿げた出来事に驚きの声をあげる。
そう問題の一団は、眼前を埋めつくす程の数で此方に迫ってくるのだ。
確かに、ここの衛士と農夫が束になっても解決できるはずも、スランが加わっても被害を減らせないはずだ。
だって…… その一団の正体は農家の天敵なのだから。




