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異世界なのだから最強の剣を求めるのは普通だろ  作者: 雪兎
1章 始まりと学園と青年紀
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第31話 星と石とぼろ布と

久しぶりに明るい話に戻ってきました。


工房内で鳴り響く悲しい音色。

自分への悔しさを、不甲斐無さを、そして何より、己の力の無さを、嘆いて奏でられる音色。

そんな音色を奏でて打たれる物のは歪で、悲しく、無残な形を象っていた。

そして、それが目に映る度に心が痛みを奏でる。


自分は無力で、友達も、恩人も、慕ってくれる人も、誰も守れない。

そんな事実に、約束を守れない事に、そんな全てが悔しくて、悔しくて……


力が欲しい…… 強く、折れず、全ての苦境を切り裂く、そんな剣の様な強さが。

その力さえ在れば、俺は…… 


そう思いを込めた鎚が黒くなった塊へと勢いを増して振り下ろされた。

その思いの一撃が音を響かせると、打ちつけられた塊は砕け、悲鳴の様な金音を上げた。


そんな悲しい音が鳴り終えると、


「こちらに居たか。 後の片付けは済んだぞタング。 お前の無茶は今に始まった事じゃないが…… 師匠の身としては、未だに心配では有るんだぞ」


(スラン)さんが工房の扉を開け、タングへと話しかけた。

その表情は少し疲れを見せたそんな感じだった。


そして親父(タング)は鎚を置き、汗と共に涙を隠すように拭い、


「ありがとうございました師匠。 アイツはどうなりましたか?」


愁いを纏った表情で返事をする。


「お前が殴った事で、顔面に打撲、頭部裂傷、肋骨にヒビ、とまぁボロボロの状態だったが、町に常駐させている医療魔法士に治療させた…… あとは騎士団預かりの事件として処理する予定だ」


そう口にすると、俺に気が付かれないように目線を向た。


そんな様子に、


「ヒルト、少し師匠と二人で話しがしたい。 だから悪いが、先に家に帰ってろ」


優しい口調で言葉をかける親父(オヤジ)


俺はその言葉に一度だけ頷いてから鎚を置き、黙って工房の外へと出て行った。

そんな俺の背中を二人がどの様な眼差しで見つめて居たのか、俺は知らない。



冷たい夜風が俺の頬を撫で、汗と涙で濡れいた頬は痛みにも似た冷たさを伝えてきた。

それでも、真っ赤に泣き腫らした頬には丁度よかった。


そして、夜風で冷された俺の感情は落ち着きを取り戻し、


「はぁ…… スッキリしないけど…… 親父(オヤジ)の言う通り叩くしか出来ないよな……」


言葉を零させた。


そして夜空を見上げると幾数億という星が光を発しており、その瞬きを見つめて、


「星の数だけ剣を振れば俺は強く成れるのか? 星の数だけ武器を打ち続ければ守れるのかな?」


心に一つの思いが燈り、俺は脚を進め始める。


それと時を同じくして、家の一室から一つの涙が音を上げる。

その音は悲しみや辛さを含んだ、優しい音だった。




 山頂が黄銅(あかがね)色に染まり夜空を照らしていた星達は姿を消し、かわりに大地に咲く草花が身に宿した天露を輝かせる。

そんな新しい景色の中、幾度も風を斬りなが振り下ろされる一本の木剣。

夜通し振り続けた木剣は、今の彼には少し小さく、少し重たい。


そんな木剣は彼の力が尽きると同時に地面へと刺さり、


「気は済んだか? そろそろ家に帰るぞ」


そう伝えてきたが、


「まだ…… これからもずっと……」


零れるような言葉を返し力が抜けるように、その場へと倒れていく。

しかし、暖かく、力強い何かに支えられ、


「今はそれで良いがな。これからは、もう少しは回りを見るんだぞ」


言葉が頭の上から振り降りた。


その言葉の声色で、


親父(オヤジ)…… 俺は強く成れるかな?」


気が付いて、その言葉を零した。


「お前が望む通り歩め、そうすれば何時(いつ)かは答えが出る」


その言葉が耳に届くと同時に俺は意識を沈めた。



 そして、


「ヒルト家に着くぞ、見つかる前に起きろ」


親父(オヤジ)の声が聞こえてきた。

その声に意識が覚醒し始め目を開くと、目の前には家の扉と大きな背中が広がっていた。

そして、


「なぁっ!!」


背中に負ぶされてる事に気が付いて驚き、間の抜けた声を出した。

そして、


「もう起きたから下ろせよ、親父(オヤジ)


続けて、恥ずかしさのあまり、暴れながら言葉を吐いた。

すると、


「おい暴れるな!! ってうぉぉぉい」


「うぁあぁぁ」


俺が激しく暴れてしまったため、親父(オヤジ)はバランスを崩して俺ごと、派手に転んだ。


転んだ拍子に俺は尻餅を着く形で落ち、親父(オヤジ)は体を捻ったのか頭から前に倒れた。

お互い痛みで、その場で悶えていたが、いち早く痛みから復帰した親父(オヤジ)は、


「いつの間にかデカく成りやがって、たく……」


頭を手で押さえつつ、そう小声でぼやきながらも、手を差し出してきた。

俺はその手を掴んで立ち上がり、


「もう少し早く起してくれよ…… 誰かに見られたら恥ずかしいだろ……」


そう照れながら口にした。

そんな俺の行動を見て、目を丸くさせるが直ぐに、


「はははぁっ、お前もそんな歳に成ってたんだな。 確かに父親の背中に背負われるのは情け無いもんな。 ははははっ」


大きな声を上げて笑い始める。


最初は笑う親父(オヤジ)にムッとするが、なぜか心が安心して、俺も釣られる様に笑っていた。

そんな声が届いたのか、


「もう、親子揃って朝から家の前で何を馬鹿笑いしているの。 本当にもう……」


家の扉が開いて、母さんが呆れ混じりの笑顔で立っていた。

そして、母さんの後ろから、


「ヒルト君、おはよう」


少しぎこちなさは有るが昨日とは違い、いつもの笑顔を俺に向けて挨拶してくるフラン。

そんな彼女の姿にどこか救われた、そんな気がして、


「おう…… わるいな朝から騒がしくて」


照れた表情を隠して返事をした。


しかしそんな俺に、


「何がオウだよ! ちゃんと朝の挨拶くらいしろ」


親父(オヤジ)は背中を強く叩いて言い、


「格好付けるのは良いが、もう少しスマートにしないとダサいぞ」


そう俺へ耳打ちしてきた。


その言葉に俺は顔を真っ赤にしてから


「五月蝿ぇぇぇ!! 別に格好なんか付けてねぇえぇよ」


ダサいと言われた事に腹を立てて声を上げた。

そんな姿にキョトンと目を丸くさせるフランだったが、


「あははっ、いつものヒルト君だね」


そう言いながら天使の様な笑顔を作って笑っていた。


そして、その後ろでは、本当に安心したように微笑む母さんと、


「本当にあの子は強い子だね。 それに、私も負けてられないかな」


そう聞こえない様に言葉を紡いでから笑顔になるファラが居た。

そんな朝の風景や、やり取りが俺の心に溜まっていた何かを少しだけ柔らかな物にしてくれた気がした。



 朝のドタバタで昨日の出来事が嘘のように流れていき、みんな笑顔で朝餉を囲む。

きっと朝のやり取りよりも、目の前にある母さんが作った料理が美味しいからだろうけどな。


そんな朝餉も終わった時に、


「そう言えばお前、ファラちゃんに鑑定して欲しい物があったんじゃないのか?」


(スラン)さんが高楊枝意をしながら唐突に言った。

それはきっと、助け舟のような事だったんだろう。

そんな事にも俺は気が付く事はなく、


「あぁぁぁぁぁ、忘れてたぁぁぁ!!」


叫びながら、慌てた様に自分の荷物が在るであろう自室へと駆け上がった。


扉を勢いよく開け放つと同時に目の前に在った大きな鞄へと飛びついて中身を漁り、中身を外へかき出しながら目的の物を探す。

殆どの荷物が鞄の中から部屋に散乱しつくした辺りで、鞄の底のほうから小さな小箱がようやく顔をだした。

俺はそれを掴むと全力疾走で自室からリビングへと降り、


「ファラ! これの鑑定をお願い!」


スライディング土下座の要領で滑り込みながら小箱を机に置きながら声をかけた。


そんな俺の勢いに一瞬だけ唖然とした一同だったが、


「ヒールートー…… 家の中を走らないー!!」


俺の名前を一音一音怒気を込めて呼び、大きな声を張り上げると同時、鋭い手刀の突きを放つクリス。

その一撃は俺の眉間を打ち抜いて、その衝撃で俺は後方に勢いよく倒れ込んだ。


俺はあまりの痛みにその場に土下座の形で悶絶していたが、


「はぁ…… ヒルト君、鑑定をするのは別に構わないけどね。この箱の中身は、そんなに慌てて鑑定が必要な物なのかな? それに、私に頼む理由も知りたいな。 別に私でなくとも帝都には優れた人達も多く居るはずだよね?」


タメ息をついて呆れ混じりに了承しながらも、急に真剣な眼差しに変わりながら俺へと理由を尋ねるファラ。


俺はその質問に、


「ファラ先生は魔物に魔石が二つ有るなんて聞いた事がある?」


突かれた眉間の痛みを感じながら、手で額を押さえながら質問する。


質問に質問で返すような形にファラは、


「それこそ私じゃなくて、帝都の研究者や学園の方で調べてもらった方が良いんじゃないかい? それに学園なら、スルーズ様だっておられるはずだよ」


ほんの少しだけ不機嫌そうに答えた。


そんなファラに気が付きながらも俺は、


「でも、俺はどうしてもファラ先生に鑑定してもらいたんです。 詳しい理由は話せないですけど…… ソーンスコルの魔石を鑑定した事のある、先生じゃないと駄目なんです」


口早に言葉を話し、勢い任せに頭を下げて頼んだ。


ファラ先生は口をつむって不思議そうな顔を浮かべ、何かを考え始めた。


きっと本当の理由を言えば即座に鑑定してもらえると思う。

そのかわり…… 俺の右手に宿っている雷帝(フェンリル)の事で皆を巻き込むかも知れない。

それだけはどうしても嫌だ。


そんな思いを胸の中で考えながらファラの返事を待っていると、


「俺からも一言だけ良いか?」


突然、(スラン)さんがファラに声をかけた。


ファラは少し驚いたのか戸惑ったようにしていたが、直ぐに首を縦に振ってスランの言葉を了承した。

その了承を得た事で、


「黙ってヒルトの頼みを聞いてやってくれないか? 正直隠し事はしないで欲しいと思うが…… 今回だけは信じてやってくれないか? あの戦いの場にいた俺からの頼みだ」


頭を下げてファラに頼んでくれた。


隠し事をして欲しくないという(スラン)さんの言葉に心が少し痛み。

それに、あの戦いを見ていて俺の体に異変が起きている事は分かっているはずなのに、黙っていてくれる事にも胸が痛かった。

その思いから俺は顔を伏せた。


そんな俺と(スラン)さんの様子に、


「はぁ…… 思う事も言いたい事も沢山あるけど…… 分かったわ。 今回だけは何も聞かずに鑑定するわ。 でも、話せるようになったらで良いから、絶対に話すって約束だけはしてくれるよね?」


タメ息と共に困った顔で了承しながらも、最後に少しだけ悲しげで心配そうな表情で尋ねてくるファラ。


俺はその最後の言葉に感謝と罪悪感の両方を抱きながら、


「ありがとうございます……先生。 うん…… 話せる時が来たらきっと話すって約束するよ」


感謝の言葉と共に小さな嘘をついた。


その言葉にファラは、


「(きっとだよ)…… それにしても、この中身とソーンスコルの魔石になんの関係が有るんだい? 魔石が二つとかも言っていたけど?」


小声で聞き取れない言葉を発したあと、表情を変え最初の言葉を隠すように話を変えた。


俺はその言葉に気が付かず、


「中身は今回討伐した(ドラゴン)の魔石の欠片なんだけど…… 一つは俺が戦闘中に破壊した物で、もう一つは解体中に出てきた魔石なんだよね…… 」  


なんて説明して良いかを考えながら、必要な事だけを選んで言葉にしていくが、結局は見てもらったほうが早いと判断して、


「とりあえず、中を見てもらった方が早いと思う。 それに……先生なら見れば直ぐに俺の言いたい事を理解してもらえると思う」


小箱の中を開けるように急かした。


そんな言葉に、


「確かに見た方が早そうだけど…… 本当にここで開けても大丈夫なのかい?」


困ったように首を傾げながら、目の前の小箱を突きながら尋ねるファラ。


俺はそんな質問に無言で頷いて返事をした。


俺の返事を確認したファラは、深く息を吸ってから小箱に手を掛けた。

すると、みんな興味深そうに箱目へと線が集中する。

とても開けにくそうにするファラだったが、意を決したのか一気に蓋を開けた。

全員が箱の中に在る二つの欠片へと目を向けてたあと、首を傾げた。


中に入っている欠片は、色の濃淡が微妙に違う以外に特に変った外観をしておらず、正直同じ魔石だと言われれば違いなのど判らない。

そんな期待はずれな物だった事で首を傾げたんだ。


 しかしファラだけは違ったようで、色の濃い欠片に目を丸くさせて驚いた表情に変わり、生唾を飲み込むと、


「君の言いたい事は大体理解したよ。 調べてみないと詳しくは判らないけど…… 君が思っている事に間違いは無いと思うよ。 それにしても、ソーンスコルの魔石も珍しい物だったけど…… 同じ様な物が(ドラゴン)にも存在していたなんて世紀の大発見になるよ」


学者としての(さが)なんだろう。ファラは嬉々として言葉と目を輝かせた。


でも、


「先生…… 調べた結果は絶対に公表しないで欲しいんだ。 絶対に」


冷や水をかけるような俺の言葉に、


「何故だい!? 他の種や同一種の魔石と比較検証を重ねていけば、今までの魔石の常識を変えて技術革新だって夢じゃないんだよ? それに、研究に必要なサンプルが二種も有れば、基礎研究の完成だって加速度的に近づけていける。 この研究の仮説論だけでも公表すれば帝国の助力と施設をつかって、それこそ――」


熱を込めた言葉で口早に感情をむき出すファラ。


俺は永遠とも続くような感情の説得を遮って、


「その魔石を使った武器や道具は便利だけど…… 俺は怖かった…… 今だってあの剣を抜くのが怖くて触る事もできないんだ…… そんな物を俺は、誰にも使って欲しくないから…… ファラに頼んだんだよ……」


自分の感情の中に在る恐怖を言葉にした。


言葉を発した俺の顔を見たファラは、何かを感じたのか、


「少し興奮しすぎたみたいだね…… ごめんね。 でも、君の言葉どうり公表はしないでおくけど、研究だけは続けさせてもらうね」


 謝罪を述べるが、目に力を込めた表情で続けて言葉を放った。


 俺はその言葉に、目を見開いて感情任せの言葉を吐こうとするが、


「言いたい事は分かるけど、そんなに君が危ないと言う物をこのままにしておいて、もしも他の誰かが発見して使用なんてしたらどうなるんだい? それを止めるためにも研究だけは必要なんだよ。それは理解できるよね? だから任せて。それに、今の君のためにもね」


 言葉を手で遮って、本当に優しい声色で説明してくれたファラ。


 その言葉に本当の意味でこの人に任せて良かったと思いながらも、信用し切れなかった自分が情けないと思った。


 その後、魔石を見つけた時の経緯やファラからの質問に答え終わると、少し部屋に篭るけど心配しないでとだけ言い残して、自室へと向かったファラを見送った。


 


 そんな朝のドタバタのあと、俺はフランと一緒に町に来ている。

 素材の買出しという名目でアインさんの店へ歩いている訳だが本当の目的は、俺もフランも今は心の傷が大きいと判断した両親が、少しでも今はゆっくりさせたいという思いからの配慮なんだと思う。

 現に、


「はぁ……アレで尾行のつもりなんだろうか? 普通に付いて来れば良いのに。てか逆に目立ってないかアレ?」


「あははは……僕もそう思うけど、逆に伝える方が目立っちゃうと思うよ?」


 俺とフランの後ろ、(スラン)さんと親父(タング)が尾行になってない尾行をして付いて来ている。


 正直、彼等に気を使っているのか道行く人達の反応が、俺とフランを確認したあと、両名を再確認して納得したように距離をとってくれている。


 そんな微妙な状況のなか、目的地であるアインさんの店に着くと、


「おっ!! 英雄のボンが久しぶりに顔を見せに来たな。それも美人な女の子まで連れて……それとアレは……無視で良いのか?」


 久しぶりに来た俺に、いつもの様にパイプを吸いながら喜んだように声をかけて来たが、店の外で隠れられていない二人に気が付いて、可哀想な者を見るような表情で尋ねるアインさんだった。


 俺はその可哀想な者に気が付かれないように、申し訳ない気持ちを顔に出してから頭を下げた。

 するとアインさんは、


「はっはっは、昔から過保護な奴だったがここまでだとはな。でっ、今日は何を買いに来たんだ? そんなベッピンなお嬢ちゃんを連れて」


 親父(オヤジ)の過保護ぷりを笑ったあと、微笑み半分、悪戯心半分の表情で尋ねてきた。


そんなアインさんの対応で、


「今回は俺の買い物じゃなくて、あそこでゴソゴソしてる人からの御使いだよ。 これ、買い付けのリストだよ」


フランの事は広まっていないと思って安心と悲しさが入り混じったが、いつもの様にポケットから親父(タング)の書いたメモもアインさんに手渡した。


俺の渡したメモを流し見したアインさんは、少し待ってろよと言い残して店の奥へと書かれた物を取りに消えた。

すると、


「ねぇねぇ、ヒルト君。 ここにある鉱石とかって全部、武器とかの素材なの?」


暇なのか興味が有るのか、フランが店の中に並んだ鉱石類を見渡しながら質問してきた。


「ああ? まぁ俺達、鍛冶師が使う素材が大半だな。 でも、ほらこれとかは銀笹吹きって言ってアクセサリーなんかに使う物のとか、こっちの分銅用の鉛なんかも有るからな。 全部が全部って訳じゃないよ」


俺はフランの横に並んで、鉱石や素材を指差して説明するが、


「アレ? でもヒルト君は銀とか金も使ってたよね? これとどう違うの? 同じ銀なのに」


不思議そうに首を傾げて尋ねてくるフラン。


そんなフランの質問に俺は、


「ああそうか、銀に種類があるなんて知らないか普通。 確かに同じ銀なんだけどな、これは純度が高い銀で、俺とかが使う銀や金は混ぜ物がしてある合金だから基本は特注なんだよ。それに――」


ちょっと嬉しいというか自慢気になってしまい、饒舌に止まらない素材の知識をベラベラと口に出し続けていた。


そんな俺の反応にしばらく、そうなんだとか、へーとか、興味深そうに付き合ってくれていたフランだっが、


「ちょっと待たせちまったがメモの材料は全部箱詰めにして荷車に。って、ボンそれくらいで止めとけ。隣で譲ちゃんが固まってるぞ!!」


アインさんが慌てたような声で俺を制止したことで、隣で口を開けて固まっているフランに気が付いて、


「悪い!! つい癖で止まらなくなってたな。 おーい、大丈夫か……?」


謝りるが、頭がフリーズしているの固まったままのフランを軽く揺すり声をかけた。


すると意識が戻ったのか目を見開いて、


「へー凄いね…… ふぇぇぇぇ、そんなに沢山入らないよぉぉぉ……」


やはり駄目だったようで、意味の分からない言葉を発し始めた。


俺はその反応でヤバイと思って強くフランを揺すって、


「おーい!! 戻って来い!! 戻って来るんだ!!」


叫んでいた。


すると、フランの目に光が戻って目線が重なり暫くの沈黙が続いたが、


「ふぇぇ、ヒルト君?!! きゃぁぁぁ!!」


「ぶへっら」


叫び声と同時に俺は店の床に這いつくばっていた。


その後は、元に戻ったフランが慌てて魔法を解除してくれた事で一命を取り留める事ができ、フランが謝ってきたが、俺も悪かったのでお謝るがフランも譲る事無く謝り、俺も譲らずに謝ると言う事を繰り返してしまい、互いが謝り合うという謎空間が出来上がったが、


「はははっ、仲が良いのは良いがこれ以上、店を壊すのだけは簡便してくれよ。 それに、痴話喧嘩はガルムも食わないって言うからな」


笑いながらアインさんが声をかけてくれた御蔭で、謎空間は消失した。


その事で俺とフランはお互いに顔を見合わせたあと、あまりにも恥ずかしくなって、


「「ごっ ごめんなさい!!」」


顔を真っ赤にして二人揃って謝った。


すると、アインさんは大きな声で笑ったあと、


「可愛らしい痴話喧嘩みたいで、良いもん見せてもらったよ。 まぁその御代ってわけじゃないがボンよ、お前さん確か指輪とかも作るんだよな?」


カウンターの中に在る棚をゴソゴソと何かを探しながら俺に尋ねてきた。

その問いに俺が、


「えっと、趣味程度には、作りますけど?」


そう答えると、探し物が見つかったのか「あったあった」と一人言を言ってから、


「だったらコイツを買っていかないか? 商品に混じって入ってきちまってな、俺の店で売るような物でもないから困ってたんだ。安くしてやるぞ」


三つの小さな箱をカウンターに並べて、困り混じりの笑顔で尋ねてくる。


俺はその箱の中身が気になって、確認して良いかを問いかけてから、了承を得て箱を開けた。

そして、その箱の中に入っていた物を見て、


「え…… なんでこんな物が? しかも三つともかなりの上物じゃないですか! 帝都でもなかなか出回らないと思いますよ? 良いんですか売ってもらっても?」


三つの光る物を目にして、あまりにも良い物だった事に驚き、買っても良いのかを尋ねた。


すると、


「うちにとっちゃ、いくら良い物であろうが、珍しい物であろうが、商売品とは関係の無いでしか無いからな。それに、紛れ込んだ物だと言って突っ返しても送料のほうが高く付きそうだし、このまま店に置いておいても防犯上、逆に危ないからな。 買っていってくれた方がうちとしては助かる」


全く興味のない物、邪魔な物、危ない物、そういった感情を顔に出してむしろ買ってくれと言う。


それならと思って、


「それなら買わせてもらいたいけど…… いくらになるかな? 今あんまり持ち合わせが無くて……」


今の財布事情を遠まわしに言いながら値段を尋ねた。


するとアインさんは黙って左手を広げて値段を提示してきたので、


「えっ? 新金貨50……ですか? そうですよね…… 安くても……それくらいはしますよね……」


思っていた値段よりは安かったが、今の持ち合わせ的にはかなり厳しい値段だったので本気で悩む。

因みに、元の世界換算だと600万位になるのかな? しかし三つで600万なら……このランクのものなら…… 安い…… 今買わないと今後こんなに破格な値段で手に入れられるか……


そんな風に真剣に悩み始めるが、


「おいおい、なんちゅう単位で話を進めてやがんだだよ!! 銀貨だよ銀貨。 銀貨50枚だよ。 まったくなんちゅう金銭感覚してやがんだよ。 むしろそれを出せるって…… ボンは帝国の学生しながらイクラ稼いでるんだ?」


驚愕の表情で値段を訂正するアインさんだったが、言葉の途中から呆れたような感じを出し始めた。


でも俺は逆にその事で、


「ええぇぇぇ!! 良いんですか? 本当に良いんですね? そんな捨て値みたいな事をしても良いんですね!?  もう嘘だなんていわないでくださいよ」


テンションが振り切れる勢いでカウンターを叩いて身を乗り出していた。


そんな俺の勢いに、


「おっおう…… アイン地金店は嘘は言わないぞ……」


本心から引いていた。


俺はその言葉を聞いて、


「買ったー!! …… って、おっちゃんごめん細かいの無いからこれで。お釣りは良いや」


大声で叫んでから、5枚の金貨を取り出して渡した。


アインさんは目を丸くしていたが、良い物にはちゃんと対価を払いたいという気持ちから銀貨ではなく金貨を渡した。

だけど受け取れないとアインさんが付き返そうとしてきたが、俺はがんとして金貨を受け取るように言い変な押し問答が始まるが、色々な提案で収めてもらった。

色々? まぁそれは想像に任せるよ。



 そんなこんなでお使いも終わり、思いがけない良い物を買えた俺はルンルン気分満開でフランと帰路に着くのだが……


「やっと見つけた!! あんたの家に行ったら買い物だって聞いたから探し回っちゃったじゃない」


「ヒルト元気だったか? 俺が居なくて寂しかっただろう」


そんな事を言いながらグランとエイルが此方に歩いてきた。


まぁここまでは良いんだここまでは。

しかしエイルが、


「まったくもう…… お詫びとして町の中を案内しなさいよ」


などと(のたま)いながら、俺の右腕を掴んで身を寄せてきた。

なぜかそれを見たフランが、


「僕も、もう少し一緒に町の中を回りたいな」


などと左腕を掴んで身を寄せてきた。


そして、


「おっ、なら俺もお前に案内してもらおうかな」


などと意味不明な供述をしながら、剣の柄を俺の背中に押し当ててくる。


そんな訳の分からない状況になり、俺の意見など完全に無視して状況が進んでいき、とある路地に入った瞬間


「なっ…… ヒルトてめぇぇぇ」


「両手……に……花……だと……」


悪友二人にばったり会ってしまう。

しかも居たはずのグランの姿が見えないことで、悪友二人にとんでもない誤解をされ


「「羨ま死刑ぇぇぇぇ」」


などとトンデモナイ罪状から襟首を掴まれて二人の仁王立ちする前に正座させらていた。

そして、


「おっ こんな所で何やってんだヒルト? それにシオンとムーラじゃないか久しぶりだな」


白々しく何処からとも無く姿を現すグラン。

ハメラレタ…… そう直感するが時既に遅しで、


「おいおい、学園以外でそんな風に歩くと危ないって言ったのにお前は」


ものすごい悪人面を浮かべたグランの追撃によって俺は悪友二人に責められた事は言うまでもない。


まぁ小一時間ほどで誤解は解けるが、悪乗りしたエイルによって、その小一時間が悪夢に思えたのも追記しておこう。




 そして帰宅してからも、もう一つの問題が持ち上がる。

原因は俺が購入した物をフランに渡していた指輪にそれを嵌め込んだことで起きてしまった。

それも、母さんの一言が原因で、


「その石を使ってエイルさんにも指輪を作りなさい。 本当にあんたって子は…… どこで本当に育て方を間違えたのか、情け無いわ……」


などと涙をながして、怒りの感情を言葉に込めて言う。

俺は、


「は……い…… 作らせ……て……頂きます…… がく……」


ぼろ布のように切り刻まれ、その場に転がりならが薄れ行く意識のなか返事をした。


その後ろでは親父(オヤジ)(スラン)さんが手を合わせて謝っていた。



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