第28話 素材と二つと問題と
GW前のアップです。
俺は今、面倒臭いというか予定どうりというか、うん、七面倒臭い事と遭遇している。
え? 何がって? それは、
「なにを惚けた事を言っておるのか? 今回の報償は帝国管理の分配方式ではないのか!! 我らはそう聞き及んでいるし、何よりも大隊への報償なのだから貴様らが行なう道理は無いはずだ!」
到着早々意気込んで声を荒げる一人の騎士。
それに対応していた衛士は「いやですから、今回の報償は個人の」と丁寧に説明をするが、「話にならない」と突っぱねて騒ぎ始める。
ちなみにこんなやり取りを、かれこれ5回以上は繰り返している。
しかし、
「これはこれは、ニル・ゼスト・ネグローリ卿では有りませんか。わざわざこの様な土木作業の現場へ何用ですかな? それも解体専門の衛士まで引き連れて」
遅れてやってきたスランが声を上げた。
その声に、
「何用とは失敬な。我らは貴様の隊への報償処理のために赴いてやっているのだ。だれが好き好んでこの様な場所に」
嫌味と共に口をハンカチで塞ぎ埃を払うような動作をし始め、更に、
「まぁ、帝国兵の一端である貴様らにも皇帝陛下の恩情で報償が出たという建前なのだろうが、本音を言えば、そこに居る愚民二人へ勇者様が恩赦を図ったために起きた結果。 どの様にあのお方に取り入ったのかは知りませんがね。 さぁくだらない事は終わりにして、そこを退いて頂きましょう。作業の邪魔になりますので」
などと、大袈裟な動作で退けといってくる。
しかし、
「それはそれはご苦労な事で。 ですが今回の報償の件は我々で行なう事が慣例道理だと思うのですが?」
「貴様まで何を惚けた事を!! 陛下の命令もなしに、解体専門部を持たぬ貴様の隊が勝手に動いて良いと思うのか? さぁ命令違反を犯す前にそこを退いて、専門衛士に引継ぎたまえ」
「はぁ…… コイツが陛下から頂いた証明書なんだがな。コイツを見ても?」
呆れたようにスランが捺印証本の封を解き、前に差し出て展開せた。
それを、
「はん、何を持って…… 来て…… も! ななな!! これはどういった!?」
ニルは何度も捺印証本とスランの顔を行き来させて驚き、最後には顔が引っ付くんじゃないかというくらい捺印証本に顔を近づけてワナワナと震え始め最後には、
「陛下の捺印…… 偽者ではない…… ななな…… そんなバカな」
なんて言葉を吐いてその場に崩れていた。
しかし、
「まぁなんだ、ここまで来て手ぶらで返す訳にも如何だろう? 解体専門衛士の出兵費もあるんだ、その分の供与は俺の大隊から出してやるから【土木作業】を手伝っていかないか?」
スランが頭を掻きながら、奥で呆然としている衛士達を見て言うが、
「はっ! そのような施し受けるはずがないだろう!! 帰らせていただきます!」
顔を真っ赤にし、自分の部下を置いてとっとと馬に乗って帰っていった。
その姿を口を開けて見送るスラン。
それと、慌てて自分の達の上官を追いかける部下達という何とも不憫な構図が出来上がった。
その後、
「俺は何か悪い事を言ったか?」
首を傾げているスラン。
そんなスラン(爺さん)を見て、
はぁ…… 自分が何をしたのか理解してないし、悪意が有って言ってないのは分かるけど、有れって入学試験の時に言われた事への嫌味に成るだろう。 土木作業だと断った相手に今回は逆に手伝わせてやろうかだもんな…… しかも、給与付きで。 無自覚って怖い。
なんて個人的な感想を思い浮かべて苦笑いをしていた。
しかし、
「大隊長本当にお見事です。 あの時の屈辱をこの場で晴らして戴けるなんて、流石はスラン大隊長。これからも付いて行きます」
一人の衛士が声を上げた。
そして、その言葉に続く様に他の衛士も口々にスランへの感謝の言葉を上げ始める。
当の本人はその状況を理解出来ていないのか困惑した表情をしていたが、
「なんだ? おおっそうか? いやぁ参ったな」
などと声が大きく成るに連れて、満更でもない御様子で部下達とハシャギ始めた。
そんな馬鹿騒ぎは暫くこのまま放置と判断した俺は、
「グラン、俺達だけでも先に始めよう。 あの馬鹿騒ぎは当分…… ってお前もかよ!」
グランに声を掛けはしたが、当のグランも参加し囃し立てて居たのだ。
俺は呆れて一人で作業を始めた。
暫く鶴嘴を片手に龍の鱗を剥ぎ続けていると馬鹿騒ぎも落ち着いたのか、バツが悪そうに急いで作業を始める面々。
そんな面々に対して、
まったく良い大人があそこまで馬鹿騒ぎを続けるか普通? まぁ日ごろの鬱憤やらが溜まってたんだろうけど、限度が有るだろ限度が。
そう心の中で愚痴をはき捨てていた。
だって、俺が一人で60枚位の鱗を剥ぎ終わるまで馬鹿騒ぎを続けて居たのだからな。
そら怒るだろ。 怒るよね? つか、グランはこの事を予想しての行動だったようで。
「お前も馬鹿だな。あんな物は一緒に騒ぐだけ騒いどかないと損するぞ。」
そう、一番に声を掛けてきたからな。
まぁグランの言葉も一理有るようで、作業が本格的に始まってからの解体は早かった。
昼になる前には全ての鱗と皮、爪や牙といった部位の解体は終了していて、少し腐敗は進行していたが肉の解体が始まっていた。
何と言うか、衛士達の経験や技術が優れているのか、人海戦術が凄いのか、俺一人が張り切って馬鹿をしていたのか、はぁ…… タメ息が出る。
その後は休憩を交代で行いながら肉の解体が続き、骨や内蔵の解体に差し掛かった時、
「出たぞー!! コイツは大物だ、みんな手伝ってくれ!!」
一つの声が上がった。
その声に俺を含めた10人が集まる。勿論グランも一緒だ。
そして、声の主が指差す物を見て俺は驚いた。
龍の心臓の奥に隠されるように存在する、血塗れに光る紅褐色の物が光っていたのだ。
俺は、その光る物を指差し、
「これってもしかして…… 魔石?」
その見覚えの有る色と光沢に声を出していた。
すると、声の主である衛士が、
「なんだ見るのは初めて、な訳はないか。 でもこれは魔石って言ってもまだ原石みたいなもので、魔力が凝固して回りを覆っているから、こいつの奥にある魔石を取り出すんだけどな――」
龍の血に塗れて真っ赤な顔を向けて説明し始める。
しかし、俺はそんな説明よりも魔石と言う事に焦りと疑問を募らせて、
「そんなバカな。 こいつの額に有った魔石は俺が砕いたはずだ。 ならこの魔石は何なんだ?」
そう自分の考えを口に出していた。
そんな俺の言葉に、
「何かと間違ってるんじゃないか? 俺も任務で数回だが竜や龍の討伐に参加した事があるが、龍種に二個も魔石が有ったなんて話も、額に魔石が有ったなんて聞いた事も見た事もないぞ。 まぁアレだけ大暴れをした龍だったんだから二個有っても可笑しくはないんだろうがな」
俺の隣にいたベテランそうな衛士がそう答えた。
俺はその言葉を聞いて、黒炎龍 神域獣 という言葉と、あのクソ犬を思い出し、一つの考えが過ぎり唯一あの場に居たグランを見た。
するとグランも同じだったようで目が合った。
そして俺とグランは同時に走り出し、
「考えは同じだな。落下地点の予想は付いてんだろうな?」
走りながらグランが声を掛けてきた。
「二つに割ったからな微妙な所だ。 とりあえずお前は東側を探してくれ。俺は西側をさがす」
「分かった。何か有ったら直ぐに魔法を上げるからな」
「頼む。 あと見つからなかったら此処で落ち合うぞ。 時間はそうだな3時間後だ」
俺とグランは言葉のあと直ぐに探索を始める。
「くそ、ここにも無いか…… これだけ探しても見つからないって事は、グランの方だったか?」
俺は茂みやらなんやらを掻き分けて魔石探しを2~3時間行なっていた。
それでも魔石は見つからず、あったのは龍の鱗だけだった。
「でも、魔法は上がらないからな…… 衛士のおっちゃんの言うとおり俺の勘違いか? まぁいいや、とりあえず合流地点に戻るか」
そう一人言を呟いて、丸まった腰を伸ばした。
その時だった、大きく木が倒れる音と牛と虎の声を重ねたような咆哮が鳴り響いた。
「近い!! こんなに近付かれるまで気が付かなかったか? っち、考えてても仕方ねぇ」
俺は直ぐに臨戦態勢に入り、腰の剣へと手を伸ばし【抜刀】の構えを取る。
足音が徐々に近付き、目の前の木々を薙ぎ倒して咆哮の主が姿を現し、
「クジャルタ※がなんで!! って うおい」
驚きの余りに声を上げるが、木々を薙ぎ倒した勢いのまま俺も薙ぎ倒そうと突進する巨体を慌てて跳び避けた。
俺は跳んで転がるように受身を取り、直ぐに敵であるクジャルタを睨み付ける。
すると、急ブレーキをかけるように砂煙を上げて急旋回して再び俺へと向きかえり、目標を定めたのか蹄を鳴らしながら地面を蹴り始める。
「やっぱり俺が獲物なわけね。 丁度良い、リハビリに付き合ってもらうか!!」
俺が再び【抜刀】の体勢に入ると、咆哮を上げて再び突進してくる。
俺は真っ向から向かい討つために、【電磁加速抜刀】を放とうとするが、
「なっ 抜けねぇえぇ!! っかはっ」
目の前まで迫る巨体へと咄嗟に鞘ごと振りぬくが勢いを止めれる筈も無く、体を突き上げられて上空を舞っていた。
砂煙を上げながら再び急旋回をする巨体が勢いを殺しきれず樹木へと衝突し、大きな音を上げ、衝突された木は激しく揺さぶれて根元から倒れる。
俺はそれを横目に節々の痛みに堪えながら、剣を支えに立ち上がり、
「くそが! ペッ、こんな時に錆付いてるなんて…… 刀匠失格だろ……」
口の中に広がる鉄の味を吐き出して自分への怒りを口にする。
しかし、言葉で状況が変わるはずも無く砂煙の中で首を振るうクジャルタの影が目に映り、荒い鼻息を上げていた。
俺は使えない剣を腰に終い、拳と魔法で戦う事を選んで、
「あんまり長引かないでくれよ。こっちは病み上がりなんだからな」
炎を左手に雷電を右手に宿し、ヴェスさんの構えを思い出して模倣する。
辺り一面を砂煙が覆い始め倒れ砕かれた木々が散乱した広場が形成されいた。
その中心では巨大な牛と猪を足したような魔物が暴れ周り、一人の少年がその魔物の突進を避わしカウンタを入れる。
振るわれた拳が巨体と接触する度に破裂音と赤や黄色の閃光が爆ぜる。
それでも巨体の動きは鈍る事無く少年へと襲い掛かる。
こんな攻防を何度も繰り貸しているが、
「いい加減にしやがれぇぇぇ!!」
叫びながら今までで一番のカウンターがクジャルタの頭頂部へと決まった。
しかし、
「がはっっっ!」
俺は、振り上げられた牙に突き上げられ後方に吹き飛ばされた。
俺の魔法は頑丈な毛皮に弾かれ、分厚に肉の鎧によって全ての拳打の衝撃は打ち消されていたのだ。
その結果、俺は……
最後のトドメだと蹄と地面を鳴らし始めるクジャルタ。
首をその音共に振るい荒々しい鼻息を上げそして、咆哮と共に全ての力で地面を蹴り砂煙を上げて最後の一撃を放った。
「うごけぇぇぇ!! くそぉぉぉ!! ……」
どうにか体を動かそうとするが、全身に痛みが走り全く言う事をきかない。
そして眼前まで迫り来る魔物の圧と恐怖を目にして、
「ごめんヴェスさん……」
俺の心が折れた言葉が漏れる。
全てが自分のせいで、剣を錆付かせた事にも気が付かないで自身過剰にも肉弾戦を挑んだ愚考が全てを招いた。
そう後悔をグダグダと心で愚痴りながら目を瞑る。
「馬鹿野朗ぉぉぉ! お前は何やってんだ!!」
叫び声と共に絶命の断末魔が響き渡った。
目を開けるとグランの姿と、その後ろでどす黒い炎に包まれ首を跳ね飛ばされたクジャルタの姿が映った。
そして、
「病み上がりでお前は無茶し過ぎなんだよ。 って、なんで剣を使ってないんだ? 自殺願望でも有るのか!?」
心配と怒りを口にしながら手を差し出すグラン。
俺はその手に、
「使って……ないんじゃなくて…… 使えないんだよ。 っつつう、言わせんな……」
言葉と共に腰にある剣を押し付けてその場に倒れ込んだ。
押し付けられた剣を手にしたグランは一瞬困惑した表情を浮かべ、
「何言ってんだ? ほら、抜けたぞ。 それにエイズル様がお前のために手入れをしてくれてたんだから、抜けない訳あるかよ」
そう言って鞘から剣を抜き放って言う。
その顔は眉間にシワを寄せて怒っていた。
俺はそれを聞いて、
「はぁ? そんなわけ…… あぁぁぁ わかんねぇぇぇぇ」
痛む体を起し抜けた剣を見て、声を出しながら再び倒れ込んだ。
そんな俺を見て、ため息を付いてから、
「まぁ、病み上がりなんだ無理をすんなって。 ヤバかったら俺を呼べば良いだろ」
そう言って剣を鞘に終い、再び手を差し出すグラン。
俺はその手を握り、
「助けてくれて有難う。 でも良く分かったな」
感謝と疑問を投げかけるた。
グランは俺を引っ張り上げ立たせながら、
「あんだけデカイ音がすれば嫌でも分かるよ。 でもあれだな……なんか腰がむず痒くなるな」
珍しい物を見たような顔をしていた。
そんな表情に首を傾げて頭に疑問符を浮かべながらも言葉に納得して、グランの肩を借りて歩き始め解体現場へと運んでもらった。
その道中、
「そういやお前、手どうしたんだ? 血が出てるぞ。 もしかして俺を助ける時に!」
不意に目に入ったグランの左手から血が滴るのが見え、焦りと驚きから質問をした。
そんな俺の焦りを、
「ああこれか? 魔石を探してる時に切っちまったんだよ。 てか一撃で倒したんだから怪我するはずないだろ」
そういって手をヒラヒラとして大丈夫だと言う事を現し始める。
俺はそれで少し安心して冷静になっが、冷静になったことで思い出し、
「魔石! 魔石で思い出した。 お前の方に有ったか魔石!」
少し早口になりながら尋ねる。
そんな俺に、
「落ち着けって。 ほらこれ魔石の欠片だろ? デカイのは見つけられなかったけど破片なら有ったよ」
苦笑いしながらポケットから小さな欠片を取り出して、俺の目の前にかざすグラン。
俺はその欠片を凝視した。
光沢や感じから魔石と判断して、
「グランその欠片、俺が預かっても良いか?」
「お前が壊した物なんだから尋ねる必要有るか? それよりこんな欠片を如何するんだよ? もしかして俺の剣に使うとか言わないよな?」
俺は質問して、グランは呆れた様に欠片を俺に渡したあと、嫌なそうな顔をして欠片の使い道を尋ねてきた。
その質問に俺は、
「馬鹿言え、こんな得体の知れない素材を使うかよ。 ちょっと知りたい事が出来たんだよ。 でも…… 龍の魔石が俺達に回ってこなかったら使うかもな」
そう答えた。
俺の答えを聞いて怒り始めたけど冗談だと笑いながら言うと、
「お前の冗談は冗談に聞こえないっての」
そう言ってから俺の脇腹に肘で軽く突いてきた。
しかし肘の当たり所が悪く俺は悶絶していた。
そんな一幕も終わり俺は解体現場にて大隊所属の医療魔法師に治療して貰いながら、
「全く心配ばっかりかけるな! 急に飛び出して行ったと聞いて心配していれば今度はボロボロになって帰って着て。 もう少し慎重に動けんか? ただでさえ病み上がりなんだ、自重という言葉をだな――」
スランからの説教を聞く事になった。
小一時間ほどの長い長い説教が続き、
「大隊長もう其れ位に。治癒魔法を施したとは余り長いと体に障りますし、流石にもう分かって居ると思いますよ」
医療魔法師がスランの長い説教を止めに入った。
俺はその側で、言葉のサンドバックに合いグッタリとしていた。
流石に医療魔法師の言葉と俺の状態を確認して、
「そうか…… 少し長すぎたな。 ところでお前達は何をしに行ってきて何が有ったんだ?」
反省した様に顔をしかめ頭を掻いてから、俺とグランに質問を投げかけた。
その質問に、
「戦闘中にヒルトが破壊した額に有った魔石を探しにいっていました。ただその最中クジャルタと遭遇、戦闘になってしまい撃退はしたんですが、俺を助けたヒルトが怪我を、 本当にすいません」
グランが答え、最後に頭を下げた。
そして頭を下げたグランは俺と目が合うと目配せしてきた。
俺はそんなグランに手振りで感謝をして、
「それでも単独で走り出したのは俺なんだ。だからグランは悪くない。叱るなら俺を叱ってくれ」
立ち上がって言った。
そんな俺とグランに、
「ああぁ分かった分かった、どっちが悪いだの言う気は無いぞ。ただな、もう少し回りを頼って行動をしろと言いたいだけだ」
やれやれと言いたげな雰囲気を身振りで現していた。
そして、
「しかし妙な話だな魔石が2つも有るなんて。確かに俺も黒炎龍の姿は確認はしていたが、額に魔石なんて無かったはずだしな。 何かと見間違えてないか?」
振り返って顎に手をやり首を傾げるスランが俺達を見ながら尋ねてくる。
俺はその質問に、
「之が証拠だよ」
俺はグランから預かった魔石の欠片を前にかざして答えた。
俺がかざした欠片をまじまじと見てから、
「確かに魔石だな…… コイツが黒炎龍の額に有ったのか? なら取り出したこれは何なんだ? 別の魔物の魔石の欠片と間違えていないか?」
解体作業で取り出されたばかりの人の背丈ほどの直径をした紅褐色の塊を指差して再度質問を投げかけるスラン
それに対して、
「「見間違えるはず無いだろ!!」」
グランと俺は同時に叫んでいた。
俺達の二人の剣幕に、
「すまん、疑っているわけじゃないんだ。 ただ俺も、二つの魔石なんて初めての経験でな、とりあえずその欠片とあの魔石を帝立の鑑定機関に出そうと思うんだが、構わないな?」
手を前に出しながら訂正をしてから、鑑定という提案を出してきた。
でも、
「鑑定は先生に頼もうと思ってるんだ。ちょっと気になる事が有るから…… だから国での鑑定は今は」
俺は自分にも関係する事だと思って拒否した。
理由は俺の右手に宿る雷帝フェンリルとかほざくコイツ。
こいつの魔石を鑑定した事のあるファラなら何か分かるはずだし、もしも俺の考えが正しければ黒炎龍と呼ぶ存在はまだ生きてる……
そう考えつつスランを見詰める。
そして一度タメ息を付き
「わかった。 先生ってのもファラちゃんの事だろうし、それが一番かもしれないな。ただし、俺も鑑定結果を聞かせてもらし、その内容如何では陛下に報告させてもらうからな。 それでも構わないならお前に一任させる」
俺の様子に感づいたのか何か思う事が有ったのか分からないが、俺の提案を了承して、
「この場に居る全員に大隊を預かる長としての命令だ。今回の魔石の件は他言無用、決して他人へ話す事は許さん。 良いな」
そうこの場に居る全員へと命令した。
さすが正規衛士なんだろう、戒厳令という意味を良く知っているんだろう。 全員が目を合わせて頷き、スランに向き直り目を閉じ頭を下げていた。
そんなドタバタも有ったが、
「よし、大方の素材は荷馬車に積み終えたな?」
スランが辺りを見渡しながら声をだす。
今まで存在していた巨龍の亡骸は跡形も無く消え去り、全ては分解され荷馬車や荷車へと積み込まれ、使えない内蔵や腐敗の酷い部位に関しては、スランの空けた大穴に落とし炎魔法による焼却処理を行なった後に埋没処理。
これだけ厳戒な対処をする理由は疫病の元に成るのを防ぐためなのと、魔物が集まったり魔力系生命種のスケルトンやゾンビの発生を抑制する意図がある。
むしろこっちがメインだな、もしも、これだけ強力な魔物がゾンビ種の一部になろう物なら大きな被害に繋がる。
スランの確認の声に、
「此方は完了です。問題ありません」
「西異常無し、肉の一辺も残ってません」
「東も同じく問題なし」
次々に報告が上がり、その言葉に一度頷いて、
「では出発! 野盗や魔物に警戒して進むぞ」
との掛け声でぞろぞろと帝都へむけ帰路についた。
道中これと言った問題は起きず順調な帰路だったが、
「ヒルト、帰ったらエイズルと共に話しが有る。 疲れているとは思うが少し付き合ってくれ」
俺の横に座って馬子をこなすスランが、前だけを見ながらそう告げてきた。
俺はいきなり何だとは思ったが、
「わかった。 でも急に如何したんだよ真剣な顔して」
了承と共に、余りにも真剣な顔をしていたスランが気になって聞いた。
しかし、
「いや急な話じゃない。お前が退院した時に試す予定だったんだ。 それに、この件はエイズルと共に話し合って決めた事だ」
そう答えたあと、帰路の間中ずっと沈黙し何かを考えていた様だった。
そして、
「はぁ? ここって師匠の店じゃ?」
帝都に入って一番に向かった先が師匠の店の裏手だったので俺は、驚いて声を出す。
てっきり何処かの倉庫へ一旦運び込むものだと思っていたからだ。
俺は馬車から降り、俺の記憶と一致しない目の前の光景に呆然としていると、
「思っていたより早く着いたのう。隣はもう片付けて有るからそっちへ運んで貰えるか」
師匠がいつもの裏戸から出てきて、スランへと声を掛けた。
スランはその言葉を聞いて部下に命令し、次々に荷馬車や荷台に詰まれた素材群をバケツリレー方式に運びいれて行く。
そんな光景を頭の整理をしながら見ていると、
「ほれヒルトや、お前とスランはコッチヘ来い」
師匠が俺の袖口を掴んで引っ張りながら呼んだ。
俺とスランは師匠に誘導されて、いつもの裏戸から工房へと入った。
そして俺は此処で大きな問題と向き合う事になった。
そう、俺にとって大きな問題。
それは、
「やはりのう…… 御主、剣も抜けんじゃろう? ……その様子じゃとそのようじゃのう」
俺は師匠の問いに何も言えずに其方をみる事しか出来ずに固まっていた。
そして、
「お前、あの時もまさか……」
スランも気がついた様で俺の肩を掴み、心配そうな顔を浮かべていた。
俺はその顔をまともに見れずに、目線をそらした。
しかし、逸らした先には俺が落とした鉄鎚が転がっていて、現実を直視させられる。
そう、俺は剣を打てなかったんだ。
クジャルタ※ 体高180~250cm 体重700~2000kg の巨大な牛型の魔物。
アスピカウよりも巨大で気性も荒く好戦的。 基本はダンジョンの中層域に生息している。食性は雑食であり、特徴的なその牙で大抵の物を弾き飛ばしたり破壊する事が可能。また脚も特徴的で、前脚は二本一対だが、後ろ足は六本三対になっている。 目は複眼らしい。
角は剣の素材としても有用で、土に関係する魔法適正が高い。 毛皮は鎧素材としては上級の素材だが、重量が有り革単体で使う事は無く、プレートの繋ぎによく用いられる。
現実の神話では、イスラームの伝説にでてくる、大地を支える強大な牡牛。4000の目、耳、鼻孔、口、舌、足をもつ。 牡牛です。




