第24話 獣と咆哮と龍と
春が近付くこの頃、 日差しも暖かく過ごし易くなってきていますが世間では武漢コロナの事でそれど頃ではなく、心に余裕が無い状態が続いています。
しかし、ふと木々や鳥、自然に目を向けてみると心が癒されると思います。
「たく……手間かけさせんなよな。 お前の気持ちは分からなくは無いが今は守る事の方が優先だろ」
ヴェスが腕を掴みながら空中を惰性で滑空しながらシンへと言葉をかける。
「すまん……助かった」
互いに顔を見る事なく言葉を交わし地面へと降りるがシンは未だに共鳴の影響からか膝を付く。すかさずエールが駆けつけ回復魔法をかける。
「ヴェス……アイツに触れるの……危険」
なかなかシンが回復しない現状からの推察を口にするエール。そして、
「僕が殺りますよ。皆さんどいて下さい [光子力砲]」
ノエルが元凶に向け以前放った物より強烈な一撃を叩き込む。
シンへと向けた攻撃が空振りに終っていた元凶は余りにも無防備な状態からノエルの一撃を顔面に受けたかに見えた。
しかし、一筋の光は元凶に触れた途端に全てが霧散し散らばっていった。
「はぁ? チートですか? 本当に気分の悪い事ばかり鬱陶しい」
ノエルが言葉を小さく溢す。
「皆。ブレスが来ます。散開して――」
彼女の声と同時に轟音と共に爆発の様な火炎が元凶より吐き出される。
「クソ……ヒルト。何か良い考えないのかよ?」
ブレスを回避して着地したグランが叫ぶ。しかし、返答は無い。
グランは俺を目で追いながら奇妙な表情を浮かべる。
声や状況はわかる……なんだ?声が出せない……頭が回らない。勝手に体が動いてる……なんだこの感じ? 腹の底から黒い何かが沸きあがって来る。グルグルと渦を巻きながら気分が悪い……あぁぁ五月蝿いな……分かってるよアイツを殺さないといけない事ぐらい。そうしないと兄弟も母さんも眷属も虐殺される事も分かってる。あぁぁ五月蝿いな……
「全員一時的に下がれアイツには手を出すな。今の戦力では足止めも間々成らん。一時的に動きを封じるその隙にドリフトへ下がれ」
スランが声を張り上げて叫んだ。
「俺が時間を稼ぎます。大隊長は技に集中してください。 おい、お前らは撤退準備。学生共の世話を頼む」
ヴェスが言葉を発しながら元凶へと顔を向け、
「こっちだトカゲやろう。俺の最強[炎帝の一撃]コイツならどうだ?」
ヴェスの腕は渦巻く炎を纏い、跳躍しながら元凶の無防備な下顎へと強烈な拳を振り抜いた。
甲高い金切り音が鳴り響く。そして、ヴェスが発する炎は他の物とは違い拡散する事無く元凶と克ち合い続ける。 元凶もその現象は想定外だったのか咄嗟に爪をヴェスへと振り下ろそうと動作するが
「ヴェス!! 離れろ」
その声にヴェスが振り下ろされる爪より一歩速く反応して炎を纏った脚で元凶を蹴り、間一髪の所で爪を避わし、
「今です!!」
「[多重魔法の障壁 長くは持たん速くしろ]
ヴェスの声と同時にスランが剣を地面に突き立て、元凶を囲むように二色の色が混じったガラスの様な防壁で包み込む。
その内部で元凶が咆哮を上げる。ただ一度の咆哮で防壁から嫌な音が鳴り響き始め、まるで雪が舞い散るかのように防壁から光が散り始める。
そして、二度目の咆哮を上げる寸前のタイミングで、
「ヒルト!! お前だけだぞ何やってんだ?」
「おい馬鹿…… 大隊長!!アイツが」
そんな声が上がる中、元凶の咆哮が響き渡る。
二度目の咆哮によりスランの防壁は光の粒へと拡散する。
そして、
「クソ…… なっ!!お前何を…やってるんだ! 速く逃げ……」
スランは破壊された防壁の反動で後方に飛ばされながらも目の前を通り抜けた影に対して声を上げ、途中で言葉を無くす。
青白い光は黒く巨大な龍へと一直線に降りしきる光の中を突き進み雷光の一線を放つ。
その青い光は巨龍を通り過ぎ再び壁で反射して再び一線、また一線と数を刻み、その度に巨龍の鱗へと閃光が増えていく。
音も無く唯々、閃光が増えていく。
雪の様に降りしきる光の粒の中、青白い光の帯が伸びては黒き龍へ閃光を増やしていく。
その光景は一瞬の出来事だっのだろう…… そう、夢や幻を見ているような一瞬の出来事だったが、そんな夢や幻を掻き消すように静寂の中を一つの雑音が響き渡った。
その雑音は二種類。
一つは魔法と元凶が触れた時の共鳴音で、耳を劈くような金切り音。
そして、もう一つの雑音は元凶が出現する以前から小さく本当に小さく鳴り響いていた共鳴音だった物。
今まで少年の手の中で、その者の力だった宝石か発せられた一つの意思が純然な魔力の塊を吸収し少年の意識すらも飲み込んだ時に発した悲鳴の様な雑音。
その二つの雑音により現実へと引き戻される意識達。
「なっ…… アレは……ヒルトなのか?」
「おいおい……なんなんだアレは? 本当に【人】なのか?」
「あんな戦い見たこと無い。本当に之は現実なの?」
「怖い……あんなのまるで災害じゃないの……」
引き戻された意識が声を溢し始め、一人の男の意識が
「之ではまるで【神域獣】同士の戦闘ではないか……こんな事が起きるなんて……」
その言葉道理、その目に映る光景は戦闘は、その男の始祖から語り告がれた最悪の災害とも言われた【神域獣】同士の戦闘その物だった。
今ではその語部もエルフの一部だけしか残されていない廃れた神話の一幕と同じ戦闘が繰り広げられている。
そして、その戦いの意識は、
コイツは未だ目覚めたばかりで本調子じゃない。それに何か焦っていて俺との戦闘どころじゃない様だ、これならこの小さな身体でも黒炎龍を殺れる。
その意思に従い身体は動き続け、速度を上げ、光の帯が幾重にも重なり閃光が黒炎龍を包み込んでいく。
そして、閃光が黒炎龍の全てを包み込み全ての閃光が一段と光り輝き破裂する。
勝負が決まった、そう閃光の意識が現すように少年の喉を借り咆哮を上げる。
他の意識はその咆哮を聞きながら絶句し言葉も上げない。ただ一人の男を除いては……
「ヒルト……お前……体が」
その男は、神域のような戦闘を終え、咆哮を上げる小さな獣の少年へと悲痛を浮かべた顔で言葉を溢し、手を差し伸べようとするが、一つの咆哮がその差し出す手を弾き飛ばし絶望を振りまく。
咆哮の主は全身に敵意を纏い、その敵意を小さな獣の少年へと、ぶつける様に口内の熱気を牙の隙間から外へと放出する。
その敵意に反応する様に小さな獣も同じ様に敵意を咆哮と言う形で反す。
そして、小さな獣は腰に有る自身の分身へと手を伸ばす。その分身を握ると同時に少年の懐に有る意識を取り込んだ元凶が光輝き一つの物へと統合される。
その変化により腰に在る分身との一体化を果たし、一部の力を取り戻した小さな獣はその牙を抜き黒炎龍へと向ける。
一瞬のうちに全ての空気が凍りつく……
そして、なんの前触れも無く一つの水滴がその静寂を崩した。
崩れた静寂は留まる事を許さず、一つの波紋が水面を荒らすかのように激しさを増していく。
荒れた水面を止める術など有るはずも無く辺りを飲み込みながら広がっていく。
ぶつかり合う二つの波紋。
敵意を持ち互いを消そうと争う。
以前の様に一方的な争いではなく、明確に邪魔をする者として消すべく炎を上げ、空間を斬り裂き、地面を揺らす。
もう一方も自身の牙を手に入れた事で以前のような雷光ではなく、相手の肉を引き裂くべく牙を突き立てる。
激しさを徐々に増す中、一つの意思が自身が持つ心へ従うかのように一つの声を上げた。
「本当にチートばっかりで嫌になりますね。 でも僕が……俺が勇者なんだよ。俺が最強なんだ。邪魔ばっかりすんなぁぁぁぁぁ」
その言葉と共に打ち出される彼の意思。その意思は余りにも自分勝手で怒りに満ちた物だったが、その心の形が意味成す物の意を体言する行動に変わる。
「ちっ。ノエルの馬鹿の癖に俺の役割うばってんじゃねぇぇよ。 俺だってなアイツに負けてばっかり居られないんだよ。たかが火龍相手にビビッてられか」
心に――の炎を宿した少年が、言葉と共にその熱を上げて敵意を焼き尽くしながら獣を助ける。
そんな少年の心の形や熱に押されるように、
「大隊長。餓鬼共に良い所ばっかり取られてても良いんですか? 俺達もやらないと全部持ってかれますよ」
男の心に再び火が燃え上がり、
「ああ、コイツの言う通り此の侭ほっといたら俺達の立場が無くなるな。 大隊長、お先に行かせて貰います」
炎に巻き上げられた空気が上昇するように、この男の心に一筋の気流を起し一陣の風へと変わる。
そして、その二つが合わさり炎の渦へと変わり今まで届かなかった自身の武器を巨龍へと届ける。
その形は更に電波していき、起きた波動は、
「全く……いつもいつも我々を振り回すのはアノ二人のようですな。付き合う我々も我々ですかな?」
大男の心を震わせ、大気を揺らして仲間へと迫る黒い炎を一瞬だけ歪ませ、
「本当に……そう……でも…今回は」
静かな思いを秘めた女性は、その揺れた心に吊られるように思いを形にして歪まされた黒い炎を防ぎ、
「もー自分勝手なんだから。 何時も何時でも本当に」
秘めた思いの形を目にした女性は、その形に押されて空気を斬り裂き漏れ出た黒い炎を二つに斬り裂く、
「はぁ……之で私が恐怖で萎縮してたら馬鹿みたいじゃない。本当に男って馬鹿なんだから」
切り裂かれた空気が戻る瞬間に圧縮された水分が水へと変わるように、湧き出た水が巨龍の熱を奪うように発し。
そして、その水滴が、
「全く……老体に鞭ばかり打ちおってからに……」
大地を打ちつけて動かす。
全ての意識が強大な龍へと向く。
狭いホール内での戦闘は小さき意識に分が在り、更に束ねた意識は少しずつだが強大な波紋を飲み込んでいくが……
「もう少しだ。もう少しでアイツを封じ込めれる。後――」
黒炎龍が咆哮を上げたと同時に天を見上げ。スランの声を掻き消すように爆音と振動、次に熱風がホールに居た全てを襲い、獣の少年も例外なく吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
そして 黒炎龍は翼で風を起しながら天へ向かって羽ばたき始める。
そう、分が悪いと判断した黒炎龍は全力の爆炎で天井はおろか、全ての邪魔となる物を吹き飛ばし地上への道を自らで作り出し、吹き飛ばした敵意に目も暮れずに天へと駆け上がる。
「なっ? 何が起きたと……」
一人の衛士がダンジョンの出口で言葉を溢し、自身の目の前で起きた事象に目を疑いながら言葉を失う。
大地から突き上がる獄炎の柱。そして、その獄炎を背負い羽ばたく恐怖その物の陰。
全員がその光景に彼の様に絶句した後、恐怖が咆哮を上げると
「なんなんだアレは!!」
「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁ」」」」」」」」」
「はぁ?あぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
「夢だよな。そう夢だ。あははははは」
パニックが広がっていくが、
「みんな、ダンジョンに速く入って!!」
少女が叫び声を上げ、その声に合わせる様に全ての人を覆う様に防壁が包み込む
そして、全ての人に暖かな光が宿ると
「これで少しはみんな落ち着いたと思うわ……」
もう一人の少女の魔法によりパニックだった心を強制的に沈められた衛士が、
「すまない…… 全員ダンジョン入り口に入れ!! 此の侭では危険だ」
声を上げる。
その声に心を静められた者達は恐怖を抱えながらも入り口へと集結する。
そして、防壁はそれを守るように入り口を覆い、
「ヒルト君……皆……何が在ったの? みんな、無事だよね……」
小さな少女は恐怖と戦いながら言葉を溢す。
「あいつらなら大丈夫だよ……きっと……きっと生きてるから。今は如何するか考えな……いと……」
褐色の少女が勇気付けようと言葉を振りし切るが言葉が消えていく、
原因は恐怖を振りまく影が此方に剥き、大口を開けて口内に熱気を集中させ今ににも獄炎を吐き出そうとする瞬間を眼に写してしまったのだ。
遠くからでも分かるその絶望に膝を折る褐色の少女。
そして、放たれるであろう獄炎の絶望に対して小さな少女は、震える手で防壁を維持しながらも、
「ヒルト君……助け……て」
少年の名前を溢し目を閉じる。そして、零れ落ちる涙が大地を打ち、
同時に咆哮が響き渡る。絶命の恐怖で目を強く閉じ下を向くが、
「アイツ……生きてた」
褐色の少女が溢した声に反応して目を開けてる。そして、最初に目に映るは一筋の閃光が獄炎の恐怖の顔を弾き飛ばす瞬間だった。
「ヒルト君!!」
小さな少女はその光景に彼の名前を呼んだ。
しかし…… その声は…… 希望は…… 思いは、一つの咆哮によって痛みへと変化する。
その咆哮の音は彼女が知る音だっが、その音はまるで獄炎の恐怖と同種の咆哮という形で響いてくる。
その音に胸が痛み始めていく。そして、その痛みに得体の知れない感情を抱いてその場に崩れてただ涙を零し始める。
「嘘よね……アレじゃまるで…… っっフランちゃん!!」
絶句しながらも隣で崩れ泣く小さな少女に手を差し伸べてから共に、その咆哮の主を悲しみや恐怖、愁眉、不安、様々な感情が入り混じった感情のなか唯々、見つめる事しか出来ないでいた。
そんな周囲の思いや状況に関係無く戦いは激化していく。
光の帯が地上から黒炎龍へと伸びては又、地上へと跳ね返り再び黒炎龍へと伸びてを繰り返していく。
それに対して黒炎龍は獄炎で辺りを焼き払い、爪や尻尾で空間をなぎ払い、その度に真空の爪跡によって全てを飲み込むような渦が発生しては周囲を切り刻む。
そんな攻防によって地獄とも呼べるような情景が広がり、森も其処に住む魔物も関係無く命を散らしていく。
っち、此処までなのか? この小さき身体では黒炎龍を追い詰める事すら不可能なのか?
うる……
牙が届かぬ力が足りん…もう少し強き牙で有ったなら……
うるさい……
此の侭では母の命が危機に晒されてしまう。 殺さねば
光の帯に変化が生じ始める。
光が強く輝いたり元に戻ったりと何かの意思に反応するように…… ほんの少しの変化だったが戦闘の中で確かに生じた変化は黒炎龍に少年の牙を届けさせた。
その牙によって黒炎龍の鱗の一枚を弾き飛ばす。
黒炎龍はその牙の一撃の痛みからなのか、一段と強い咆哮を上げてから獄炎の弾を天へと打ち上げた。
ダンジョンの底まで響いた咆哮によって吹き飛ばされた意識達が目を覚まし、
「くそ…… 何が有ったんだ? っ大隊長」
頭を振りながら何が起きたのか確認するように辺りを見渡していると、岩が崩れて中からスランが姿を現した。
「うっっうっ、ヴェスか? 他の者は無事か? なんとか近くに居たこいつ等は守れたが……」
気を失っては居るが、スランの下にエール、ティア、ヘスティが確認できた。しかし、スランは守った事で脚に大怪我を負っているようで、足が在らぬ方向に曲がっている
そして、他の場所からも瓦礫が崩れる音がし、
「痛っつつう。 ってヴェスさんにスランさん!! 無事だったんですか?」
グランが最初に声を上げ、
「そろそろ…… 僕の上から退けてくれるかな? 重くてしかないのだけれど」
続けてノエルが少し怒気交じりの声を上げた。
その光景を確認したヴェスは少しだけ安堵してから辺りを見るが、目にした光景に…… 一瞬言葉を無くしながらも、
「ユー……リ…… お前って奴は……」
そう、目にした物は、嘗て仲間だったで有ろう黒く焦げ、今にも崩れ落ちそうな存在が両手を広げて仁王立ちしている情景と、その御蔭で傷一つなく守られた友の姿だった。
ヴェスは一度目を瞑り下を向いてから目を見開き、仲間の姿を目に焼き付けながら隣まで脚を進め、
「馬鹿野朗……先に逝くなって命令してただろ? それなのにお前は…… でも、ありがとう……そして今は、ゆっくり休んでくれ 」
そう言葉をかけると、その言葉に返事をするように崩れ灰に還っていった。
その光景に誰1人声をかける者はいなかった。
その後、悲しみに暮れる事もせずヴェスは仲間が救った友を抱き抱え、スランの下へと運び。
「俺は上で馬鹿をやっている奴を助けに行きます。だから、こいつ等の事頼みます。」
火龍の空けた大穴から上空を見上げ馬鹿と指した少年を見据えながらスランに願い出てから自身の脚に炎を宿す
「ヴェス!!」
スランが止めようと声を上げるが、その声に反応する事無くヴェスは跳躍して壁を蹴り上へと駆け上がっていく。
その光景に、
「ヴェス……すまん、ヒルトを、俺の孫を頼む……」
そう言葉を溢し、託された部下と友の看病や治療の準備の為に自身の脚を魔法で固定して、周囲を見渡し気が付き、
「っ? グラン、ノエル/勇者は? なっ――まさか!?」
再び言葉を吐き出し、ヴェスが上がっていった大穴を見る。
其処には曲折しながら上る赤い閃光。
そして、それを追うように一直線に上っていく白光と赤光が確認できた。
語り方を思考錯誤中です。 一人称視点を崩すのは難しいですね




