第23話 元凶と新技と未熟と
今回はペース良く書けました。
スライムの塊から全力で逃げた俺達は一つ前のホールの目の前まで後退した。
以前として、後方には青緑色したスライムの塊が迫り、ホールへと近付くなか、俺は手にある魔水結晶について考えていた。
ホール到達後、直ぐにコイツを投げればスライム共はコイツに群がる。その隙に封じ込めと全員の魔法で消し飛ばせばどうにか成るだろうけど…… いけ好かないとは言え、アイツにとっては大切な物だろう、仮にも鍛冶師がそんな物を無下に扱っても良い物か? でも此のまま之を持ち歩くデメリットの方が大きすぎる。
そんな考えが頭の中を廻り、
「チッ…… クソが……めんどくせぇぇぇぇ」
そう俺は小声を吐き出しはしたが、もう答えは出ていた。
そして、ホールが目前にまで近付きようやく決心が付いた俺は、
「全員ホールに入ったらドッチでも良いから左右に飛んでくれ。グラン後は頼むぞ」
叫ぶ様に声を上げた。
しかし、俺の言葉に疑問を持ったのか、グランが一瞬目を見開いてから俺に対して心配なのか憎悪なのか判らないような視線を送ったが、
「死ぬ気とかじゃないなら、お前の言葉に従うが。もしも、そんな事なら隊長として俺は従う事は出来ないぞ。どうなんだ?」
ヴェスが此方も見ずに出した言葉と、
「そんなバカな事考えてませんよ。此の中で一番早いのが俺だからそうするだけだし、後の事はグランなら分かると思ったから頼んだだけですよ」
「そうか分かった。なら…… お前等に任せるが、死ぬようなマネはするなよ」
俺の回答に少しだけ心苦しいような声色で返信するヴェスとのやり取りを聞いて、グランは頭を一掻きして、
「お前ばっか良い所持って行くんだからな、こっちは遣ってられねぇよ。でもまぁ、今回は譲ってやるか」
そういつもの様に答えてくれた。
この事で、了承が得られたと確信した俺は、ソーンスコルの手袋を装備して、
「ってこった。フラン、エイル。頼むぞ。お前等がミスったら怨むかんな。っとそろそろだぞ」
俺は冗談交じりにエイルとフランに声をかけるが、ホールまであと10メートルも無いと判断し、言葉を早々に切り、[迅雷]を発動する。
その後、スライムをギリギリまで引き付けながらも、全員がホールに入り左右へ退避する瞬間を確認できるまで堪え、そして、確認できると同時に[迅雷]の反動で一気に、ホールの中央まで駆け抜ける。
俺を追って一気に加速するスライム塊は、狭いドリフトから一気に広いホールへと流れ込む。
最初こそ噴出すように飛び出すスライム塊だが、所詮はゲル状の液体物は、空気抵抗には抗えず、飛び出た勢いで円状に広がり、一瞬のうちに速度をうしなう。
その隙にホール中央へと辿り付き、同時に天井へ向けて跳躍する。
しかし、スライム塊は即座に速度を取り戻し、俺を追うようにホールの中央部を埋め尽くし一体化、さらに、再び俺へ向けて飛び上がった。
結果、俺までの距離を僅か数センチと言う所まで迫り来るが、
「[重力の檻] ヒルト君」
「[水龍の竜巻] アンタが失敗すんじゃないわよ」
フランの魔法により、スライム塊は地面へと叩き付けられ、エイルの魔法で、更に一箇所へと水流で封じ込まれた。
まるで打ち合わせをしたかのような流れ、その流れに従うように剣を抜き放ち、水流の中心へと向けて投げ入れる。
投げられた剣は、蓄えられた魔力を瞬時に[雷電]へと変化させ、一つの稲光となり、全てを塗り替える光を放電して突き刺さった。
しかし、
「之で終わりなわけがねぇぇぇだろぉぉぉがぁぁぁ」
放電が止むと同時に、俺は天井を蹴り急降下しながら手の甲に有る魔石で魔力を増幅させ、
「俺の新技くらっとけやぁぁぁ」
叫ぶ声と共に、雷撃を球状に溜め込み、圧縮した雷球を剣へ叩きつける。
剣に施された魔石で更に増幅された雷球は、超伝導体で構成された芯金を通り抜け一気にスライム塊へと流れ込んだ。
辺り一面に走る稲光。
その圧倒的な光は、周囲スライムの欠片一つ残さず消し飛ばした。
直後に、
「ふー。本当に清々しい風だけがのこるってか? っで、そっちはどうだグラン終ったか?」
言葉と共に剣を地面から抜き、通路の方を向くと、
「お前なぁぁぁっぁ。くっそ危ない事をするなら事前に言えよぉぉぉ」
エール、ハルトの多重防壁で塞がれた通路だったが、俺が声を掛けた事で防壁が解除され、グランが、いの一番叫んでいた。
「あっ因みに今は火気厳禁だからな」
その叫びに手を振りながら答えておいたが、
「ヒルト君」
「あぁぁ、また無茶をするからアンタは」
俺は魔力枯渇で、その場に倒れ込んでしまい、フランとエイルが慌てて駆け寄り介抱してくれていた。
そんな中、俺は、
確かに無茶な事をしたと思う。重力と水流に対抗できるだけのフィジカルブーストと、魔石でブーストするとわ言え、アレだけの電撃を放つのために、体の中の魔力を全部持って行くと言う荒業をしたんだからな。マジで効率が悪いな……
なんて考えをしながら、意識を手放していた。
俺は布を被せられ寝かされて居た様で、一人ポツンと放置された状態で目を覚ました。
意識半分の俺に耳に、
「アレだけのスライム塊が、あの場所に居たと言う事は、あいつ等はもう……」
「いや、もしかすると別のルートを進んだ可能性もあるだろう」
「一本道だったのに何処へ行けるって言うんだよ。ヴェス俺を哀れんでなら止めてくれ」
シンとヴェスの会話と、シンが怒鳴る声、
「ちょっと落ち着きなさいよシン後輩の前で取り乱して。この子達のほうが余程落ち着いてるわよ」
「ヴェス。貴方も少しは考えてから話しなさい」
ティアとヘスティが隊長、両名を宥める声が耳に入ってきた。
その会話に、
「シンさん、逃走した馬鹿と、アンタの部下なら生きてると思いますよ」
俺は起きて早々うるさいという、思いを込めながら声を発する。
すると、
「おお、目覚めましたかヒルト殿」
「……起きたね……聞かん坊」
俺が起きた事に気が付いき、一番にエールとユーリが、声をかけながら俺の方へ来ると、手を貸して体を起してくれ、次に、
「本当にアンタは何時もいつも無茶バッカリしないでよね」
「はわわわ。ヒルト君体は大丈夫なの? 本当に僕は心配したんだからね」
と心配そうに言葉を掛けながら、俺へ歩み寄り、エイルは俺の脈を見、フランは食料のパンを持ってきてくれた。
そして、俺の言葉に、
「君まで同情で言わないでくれるかな? それに、根拠も無いのに彼等が生きている保障もないだろう。これは俺のミスなんだ」
シンが顔を背けながら言い、
「そうだぜヒルト。起きて行きなり、あんな会話を聞いて同情して言ったとしても、少し軽口すぎるだろ」
「僕も君の発言は軽率だと思うよ。少しは考えた方が言いと思うよ。僕だって何て言えば言いかと悩んでいるんだからね」
グランとノエルが俺の発言を諌めるように言いながら深くタメ息を付き、
「これだから下等平民は。ノエル様が心を痛めて声も掛けられないと言うのに、貴方風情が軽率な発言をする冪では無いですわ。別に下等な平民の一人や三人が命を落としたって仕方のない話ですのに、ノエル様ですらアノ忌まわしい出来事を解決できないのですから、それをタダの平民がそれで命を落としてしまっても誰のせいではございませんのに……あぁぁおいたわしいノエル様」
ノエルの背中を撫で、泣きまねの様な事をするへレネーが、重ねて物を言ってくる。
しかし、意外な事に、
「ノエル様とグランの言い分も分かりますが、少し冷静に成り彼の話を聞いてみませんか? きっと何か根拠が有っての発言だと自分は思うのですが? そうでしょうヒルト?」
ハルトが俺を庇う発言と共に俺に尋ねてきた。
その言動に、
ヘーコイツって意外と冷静なんだな、本当に見かけによらないよな。コイツ意外と仲良くできるか?
なんて思い、
「ああ? まぁ根拠は有るっちゃ有るぞ。もしも、そいつ等がスライムに溶かされてたなら、俺が造った剣が向こうのホールに転がってるはずだからな。それに、仮にスライムが取り込んでたとしたら、ここら辺に落ちてるだろうしな。それが無いって事は生きてんだろ多分」
俺は自信満々に答えるが、
「そんな適当な事、根拠になるハズが有るわけ無いだろう。適当な事を言って、俺を馬鹿にするのもいい加減にしてくれ…… 本当に……」
シンは激高し俺の襟首に掴み掛かり、荒々しく捲くし立てて言葉を放つが、急激に冷え切っり、言葉を投げ捨て、同時に俺も突き放なった。
一連のやり取りを見ていた、フラン、エイル、エール、ユーリは、その剣幕に固まっていが俺は、
「十分根拠なんだけどな? そんなに疑うなら、この先にどうせまだスライムは残ってるんだから、そこで証明してやるよ」
無造作に立ち上がり、埃の付いたケツを手で掃いながら言い放ち、ドリフトへと脚を進めた。
俺の行動に全員が唖然としたり、嫌悪をしたりと、様々な反応を示したが、俺がその反応を見ても速く来いという仕草をしてドリフトを進もうとするため、渋々なのか何なのか分からないが全員で先のホールへとすすんだ。
道中、
あれ?誰か忘れてないか? つか魔水結晶なぁ…… コイツの封印も必要だけど、うーん…… とりあえずソーンスコルの手袋の中に要れとけばいけんだろ。
そん事を考えながら俺は後方を無視して先に進んでいた。
そして、途中何事も無く…… むしろ、全てが溶けて何も無いドリフトを進み、その先のホールへと辿り着いた。
其処には取り残された? 取りこぼされた? であろうスライムが、再び固まろと蠢めいており、
暫くすると、残されたスライム一箇所に集まり、直系2メートルほどのスライム塊へと一体化していった。
そこで、
「その使ってないの俺の造った奴だよね?その剣貸してもらえるヴェスさん? 」
俺は無造作に手を出しながら言い、
「はぁ…… 確かにそうだけどな、俺達一介の衛士には一生掛かっても買えないから、無下に扱うのは正直心が痛むんだがな」
タメ息交じりの言葉と共に、俺へ剣を渡すヴェスさん。
渡された剣を俺は、無言のままスライム塊に向けて投げ込んだ。
投げ込まれた剣はスライムの中に取り込まれ、鞘やグリップの皮なんかは一瞬で解けたが、刀身だけは何の変化も無くスライムの中で漂った。
そして、それを見たシンが、
「嘘だろ…… 普通あのレベルのスライムを切れば一瞬で剣は腐って…… 何故……」
驚きを隠せないように言葉をこぼした。
まぁ普通の鉄ならそうだろうな。チタン層意外は耐酸性の強い素材に覆われてるだから少々の事で原型を無くす事は無い。まぁチタン層もニッケルを添加してあるし、スライムの酸くらいなら問題は起きない。やっぱり色々と考えるとこういった対策って大切だよな、うんうん。
等とシンの言葉に、頭の中で口上しながら、
「まぁ論より証拠と言う事でしたので、これで信用していただけましたか?」
自慢げに言う。
その言葉の後に俺は、グランの肩を叩いて、宜しくの意味を込めた笑顔を送ると、
「はぁ…… お前は本当に俺を何だと思ってんだか…… あぁぁあ。[炎竜の火炎]」
本当にやる気無く、火炎砲をスライムに向けて放つ。
いつもより火力が高いのか一瞬でスライム塊は蒸発し剣だけがその場に落ちた。
しかし、
「ヒルトの言いたい事も分かるがな、アレだけの量のスライムだ、この先の通路で既にと言う事も有ると思うのだが?」
ハルトは本当に優秀な頭をしてるな。これでなんでノエルなんかとツルんでるんだ? 謎すぎだろ。むしろお前は、見た目と頭の不釣合いが酷すぎるぞ。
なんて小声でぼやいた後
「それならこの先を調べれば分かる話だろ? さっきみたいに殺られてたら剣が転がってるだろうし、無いなら無いで生きてるんだろうしな。 運よくまだ一本道みたいだし分岐まではそれで探せば問題も無いだろう?」
剣が落ちたタイミングでハルトが疑問を投げかけ、それに対して俺は思いを溢しながらも回答した。
そして、いきなりシンが真面目な顔をして頭を下げ、
「先ほどは取り乱してすまなかった。しかし、君に一つだけ聞きたいことが有る。之ほどまでに素晴らしい剣を何の見返りも無いのに提供しようと思ったんだい? この数を売れば一財産を築けたと思うのだが?」
謝罪の言葉を言い、顔を上げると同時に、本当に疑問だと言う顔をして尋ねて来たが、
「へ? 俺は俺の信念の為に剣を提供しただけですよ? それに、あの剣は言い方が悪くなりますが所詮は実験量産品ですからね」
俺が目指す剣は、未だ持ってしても超えれぬ[ティールイング]を超える剣だ。純粋に鍛えられ素材学を無に帰した技術の魂を俺は超えたいだけだ。それ以外の物は正直言えば実験品でしかない。まぁ例外も有るがな……
俺はそんな事を考えながらグランを見る。
そして俺の回答にシンは信じられないと言う顔をしながら固まっていたが
「まぁ、良かったじゃないか。これで剣が落ちてない限りは生きてると言う可能性が高くなったんだからな。 それにお前は真面目すぎるんだよ、何でもかんでも背負い込みやがって」
ヴェスがシンの頭をワシャワシャとしながら言葉をかける。
シンは突然の事に吃驚してから、慌てた様にヴェスの手を掃い除け、
「もう餓鬼じゃねぇんだぞ。たく…… まぁでも…… ありがとうなヴェス」
「おう。 まぁ、あいつら二人からしたら未だに餓鬼だって思われてるみたいだがな」
唐突に起きた一幕と、急に話題を振られてキョトンとするティアとヘスティだっが「まぁ確かにね」といった感じで笑っていた。
まるで俺達の数年後を見ているような気持ちになり、
「って事で、先に進むぞ。 生きてる可能性が有るならととっと見つけてやらないと本当にヤバイだろうからな」
ヴェスが仕切りなおしと言う感じで声を上げ、その御蔭で平静へと戻れた。
その後俺達は一旦このホールで装備の点検や荷物の整理と魔力回復の為に魔力精製水と軽く補給食であるクッキーの様な物を食べてからドリフトを進んだ。
暫くはスライム騒動の影響からか魔物との遭遇は無かったが、次のホール以降はそうは行かず多数の魔物との遭遇戦があった。
中でも一番多かったのはスケルトン種や寄生系のゾンビ種だ。
スケルトン種は様々な骨で構成されたいわいるスライムと同じ魔力系生命だ。数が多いのはそれだけこのダンジョン内で魔物や人が死んで朽ちて逝った証拠だろう。
寄生系ゾンビ種も同じで死体関連の魔物だ、根本的に違う点は寄生している生物が体をのっとり動かしている点だろう。だから切っても切っても動くため性質が悪い。
しかし、今のメンバーと隊列でなら楽勝、前衛の俺とグランで燃やす。もし逃しても後衛で即座に対処できる。
ただ……
「ノエル様……元気を出してください。貴方様がそこまで気に病む必要はございませんわ」
「少しほって置いてくれないか? 僕は……僕は……」
はぁ…… ずっとこの調子でウザイことこの上ない。まぁ自分のミスでスライムを増殖させて、それで何にも出来なかったのがショックなのは分かるが、余りにもメンタルが弱すぎだろ。
それにやたらと俺と張り合っていたのも多分、負けたと言う事を認めたくなかったんだろうか? はぁ……之が勇者ってどうよ? でもこのままだとウザイしな……
俺は後方で本当にどうでも良いウザさを見ながら考えているた。
考えに浸っていると突然、
「おい、前から次がって…… おいおい嘘だろ火竜かよ。ヒルト、ラッキじゃね?」
グランが少し嬉しそうに声を掛けてきた。
その言葉に、
確かにコイツの剣用に欲しい素材では有るので喜ばしいが、相性が最悪だろ…… 俺とグラン、ヴェスの炎は効かないし、雷電も微妙、後衛のハルトとエイルの水系とフランの重力系なら何とか……
と、対策面を考えていたが、
「おいクソノエル。お前いい加減にウザイ。何時までもグジグジとそんな事なら勇者なんてスキル捨てちまえ。 なんなら俺がそのスキル貰ってやってもいいぜ? あぁごめん、渡せるなら俺に負けた時にくれてたよな。まぁそんな弱いスキルなんてこっちから願い下げか。あははははは」
いい事を思いつき、挑発交じりの高笑いしながら言う事にした。
直後に周りからは、「今はそんな事言ってる場合じゃ」や「ちょっと言いすぎ」等の声が上がるが、
「ちょっおま」
俺の顔目掛けて光の弾が放たれ、ギリギリで避けると後方にいたはずの火竜が爆散して消し飛び、
「僕は別に貴方に、負けたつもりは有りません。先の発言を取り消してください」
少しはプライドが残っていたのか凄い形相で俺を睨みながら言い放ち、再び光の弾を手に溜め始めた。
だが、
「へー、少しは元気でたか? まぁ、もう一度殺るってんなら相手になるけどな、その前にへレネーに謝ってからにしろよ」
俺はノエルに微妙な笑顔で言う。
俺の口からへレネーの名前が出たのが不思議だったのか少しキョトンとしてから自分が何をしたのかに気が付き慌ててへレネーを払いのけた左手を離した。
当のへレネーは満更でもないのか少し頬を赤らめて胸をあざとく押さえてみせた。
はぁウザイ、
俺の目に映った一幕でやる気を削がれたのだ。
『そんな事はさて置き』
「しかし、なんでこんな低階層にコイツがいるんだ? しかし、もったない事をしたな魔石もろとも粉々だぞ。 挑発が過ぎたんじゃないか?ヒルト」
ヴェスの声に反応して其方を見ると、
ヴェスが爆散した火竜の所に行っき、素材の回収だろうか? ごそごそと何の作業をしており、そして、その隣でシンも同じ様に作業をしていたのが目に入り、
「へ? うはぁぁぁないわぁぁぁ。 てか何やってんです?」
俺は粉々になった火竜を見てワザとらしく言いつつ、ヴェスが何をしているのか尋ねるた。
「あぁ、もしもあいつ等がコイツに食われてれば何か有るかなと思ってな。でも何にも無し、このまま先に進むか」
そう言ってから体を伸ばしてから先に進むように言うヴェス。
そして、この先のホールで事態が変った。
「お前達無事だったか」
一番最初に聞きなれた声がし、同時にホールへ到達した俺達が目にした物は先行していた隊の一団がその場に集結している所だった。
安堵できるような状態だったが、俺は何かの違和感を感じていた……
その違和感は直ぐに判った。
「スラン大隊長。其方もご無事の様で」
「申し訳ありません、私の不手際で三名が戦闘中に行方不明に――」
ヴェスとシンがオッサンに報告と挨拶をする。
シンの報告を聞いたスランは怪訝な表情をしながら何かを呟いた後。
「やはり其方もであったか……シンお前が気に病む必要は無い。俺の隊や別の隊も数名の離脱者が出ている。それもお前の報告と同じ様に皆が皆、戦闘中の敵前逃亡と言う形と追跡と言う良くある形でだ。そして……何故か一往にこのホールへと辿り着いている」
スランの言葉を聞いて納得がいった。このホールに辿りついて感じた違和感の答えだ。
俺はその感じた違和感の答えと、ヴェスのあの言葉の意味を確かめるためにオッサンに声かける
「オッサ…… チッ。 大隊長、此処に辿り着く前に火竜と戦闘になりました。そこでヴェス隊長がこんな下層に居るのは可笑しいと言っておられたのですが、どうお考えでしょうか? また、周囲の状況を見ますと一往に戦闘による疲弊が見て取れますが、彼らも同じ様に不測の戦闘が起きたと考えても?」
俺が声をかける瞬間周囲を見てから言い直すと少しだけ驚くスラン。
そして、俺の言葉を聞いたスランは険しい顔つきに変わった後、自身の額に手を当てながら首を数度振り、重々しく口を開き
「そうだな…… 先ず疲弊についての解答をしよう。離脱者の事も有るが、代替はお前の言う通り不測…… 本来ならこんな低下層に基本居ない魔物との戦闘が発生している。俺もミノタウルスと遭遇戦になっている。其処からお前達と同様に火竜と遭遇した隊も存在する……」
回りくどく話すスラン。更には沈黙。俺はその態度に、この人らしくないと思い何故か苛立ち、
「はっきり言ってもらえませんか? 俺はアンタから色々な戦闘技術を教わってきた。そして、ダンジョン関連の基礎もアンタに教わってきたよな? 今の現状はアンタが教えてくれた基礎から逸脱してるのか? それとも……もっと状況が最悪なのか?」
俺はスランの胸ぐらを掴む勢いで食って掛かった。そんな状況を見ていた全員が止めに入ろうとした時だった。
「大隊長ぉぉぉぉ!! 前方ドリフトより多数のガルム※の群れが接近中!!」
その叫びにも似た報告をする衛士の声がホール内に響き渡った。
スランの顔が見る見る内に険しく変わるが、考える暇すら与えないと言うダンジョンの意思なのか
「やばいぞっ!! 此方のドリフトからもイルヤンカシュ※が接近!!」
「ふざんけんな!! ミノタウロスだと? もう一度確認しろ!!」
続けざまに上がる怒号に周囲は一瞬にしてパニックに陥る。特に場成れしてい無い学生は顕著で、固まって動けないならまだましだが、逃げ出したり悲鳴を上げたりと最悪の状態に陥る。
俺もまた、今の状況に対して冷静な判断をできないでいる。フランやエイル、グランも同じだったが、
「アレだけ威勢よく吠えたのにコン位の事で何を狼狽えてんだよ。今やる事は一つだろ。 スラン大隊長!!」
ヴェスが声を上げると同時にスランは剣を地面に刺した。すると、モンスターの来るドリフトを塞ぐように岩塊が出現し、
「全隊一時撤退。殿は俺とヴェス、シンの隊が勤める。他の隊は生徒の安全を優先して先導、決して一人も死ぬな。行動開始」
スランが大きく響く声で指示を出す。
俺はその声で少しは冷静さを取り戻し、周囲を見る事が出来た。そして、
之が正規衛士と学生の差だと見せ付けられた。
実は混乱していたのは学生だけで、衛士はその学生を落ち着かせ一箇所にきちんと集めている現実や、指示が飛ぶとスグサマ行動を開始し始め、混乱が著しい生徒を優先的に囲み、先導や優先順位を即座に判断していた。
俺はその事実とアレだけ威勢よくスランに突っ掛ったのにも関わらず何も出来ていない自身対し、表現できないような感情を抱いていると。
「ヒルト、お前達の班も先に上に上がれ。呆けている暇なぞ無いぞ。俺の魔法でもそうそう長くは持たないからな」
スランが少し愁いた表情を俺に向けて言う。そして、不安気に俺を見るフランとエイル。
その言葉の意味やアノ表情、仲間の不安や自分の気持ちの間で揺れる心を制御できない中、俺はフランとエイルを連れて撤退すし、隊へと合流する。
ぞろぞろと、ホールを後にする流れに従いながら歩くが、俺はふと脚を止め、ホールへと目を戻した。すると、一つの光景と声を耳にする。
「お前も撤退する隊に続け。此処に居ても足手まといに成るだけだ」
「俺だって戦えます。 それにアンタ達は死ぬ事が分かっていて留まるつもりだろ。俺はそんな自分勝手に振り廻されるのは……ごめんです」
「グラン君……君の気持ちは有りがたいが今は――」
シンとグランにスランの声……
俺はその声に、
「ははっ、俺は馬鹿だな…… エイル、フラン。お前達は先に行っててくれ」
「はっ? アンタちょっと――」
「ヒルト君?」
俺は[迅雷]を使い、隊列の上を飛び抜けて其処へと駆け、
そして、グランの肩を掴み、
「悪いなグラン。俺も付き合わせろ」
俺がその場に戻った事が予想外だったのかスランは、
「何故お前まで……今すぐグラン君と共に戻れ!!」
そんな言葉を目を見開いて言うが、
「大隊長。そいつらダケじゃないみたいですよ」
ヴェスが指して呆れた様に言葉を出す。 そして、指指した先に居た人物は、
「本当に気に入りませんよ貴方は。僕が勇者なんですよ。こういった時に、この僕より先に抜け駆けするのは礼節に掛けているって知っていますか?」
さっきまでの意気消沈振りから一転して、スゲー恰好付けながら言うノエルが立っている。
そして、そんな状況とは関係無く時が来る。
「もう壁が持ちません。モンスター来ます」
前方からシンの部隊に新たに編入された手練の衛士が声を上げる。
そして、その声に全員が戦闘態勢に入る。それを待っていたかのように全ての岩塊が崩れ落ち、後方から報告された魔物以外にも多数の魔物がホールへと流れ込む。
スランは覚悟を決めた彼の様に大きく息を吸い、一気に吐き出す様に、
「此処を一歩たりとも通すなぁぁぁぁ!! そして、生きて帰るぞ。説教はその後だ」
声を張り上げて叫ぶ。
俺とグランにノエルは一瞬だけ頬上げてから目を見合わせて剣を抜き魔物へと向けた。
しかし、その気持ちや予想とは裏腹に魔物の群れは、
「はぁ? どう言う事だよ?」
「おいおい。ガン無視かよ……」
「大隊長!!」
俺達には目も暮れずに一直線にホールを駆け抜ける。そんな異様な空気を掻き消すようにホールの壁が突如、大きな音を立てながら崩壊。そして、一つの悲劇と声が
「は? 火龍? なんでこんな下層部にいるんだよ? 皆逃げ――」
一人の衛士が俺達の目の前で爆音と共に巻き上げられたドス黒い炎によって掻き消され。そして、その炎は魔物の群れをも焼き尽くした。
後に残された俺達は起きた出来事を把握できぬまま呆然とする。
そして巻き起こされた煙から元凶が姿を現し俺の横から
「黒炎龍 やはり……」
スランの漏らした声が耳に入るが、、
「アラァァァン!! 畜生ぉぉぉぉ火龍風情がよくもぉぉぉぉ」
シンが声を荒げながら叫びながら元凶へと突撃する。
「シン!! やめろぉぉぉぉ」
スランが即座に声を上げるが、シンの剣は元凶へと向かう。
シンは全身に風を纏い、体を宙へと浮かび上がらせ元凶の顔目掛けて翔け抜ける。そして、振るわれた彼の渾身の怒りを込めた一撃。インパクトの瞬間火花を散らす程の一撃だったが
「なぁっ…… 剣が……」
元凶に触れた瞬間、剣から耳を劈く様な共鳴音が上がり同時に剣は音を上げながら砕け散る。 一瞬の出来事に業を放ったシン自身も声を上げる。そして、その共鳴が原因で身体を動かせぬシン目掛け元凶は口を開け口内に再び黒い炎を宿す。
後日
イルヤンカシュ※ 巨大な蛇型の魔物。 風系等の魔力を操り辺りを薙ぎ倒しながら進む。一部地域では嵐の神として祭られている。 体長は5M~25Mまで成長し基本的にはダンジョンの中層~下層域に潜み生きる。 一部神話では神をも喰らう大蛇で有ると記される。しかし、ダンジョン内ではワリト臆病な方で余程の事が無い限り襲ってはこない。
現実世界のイルルヤンカシュから。
ガルム※ ダイアウルフよりも大型で頭も賢く集団で襲われれば危険。
極稀に炎系等の魔力を持ち、炎を宿した個体がシバシバ発見され、特別にその固体をヘ ルガルムと呼ぶ場合もある。




