第21話 空とダンジョンと犬猿と
本当に遅くなりすいません。
『話を十数時間前まで遡る』
「グランの剣の方はどうですか? こっちは粗方の作業は終わり冷却待ちです」
俺は自身の剣を徐冷※のために簡易な窯に入れた後、師匠へと声をかけるが、
「………」
返事が無い。
俺は師匠の方へと体を向けると、身体を小さくして鏨※作業に集中しているのが見えた。
その作業内容が気になり俺は師匠の方へと脚を進め、師匠の作業を無言で見つめているグランの横へと立つ。
そこから見た光景は絶句の一言に尽きる。
剣にルーンを彫っているのは確かなのだが、剣先から鍔にかけて[キャ・ア・バーンク・カンマーン・エン・ア・キリーク・バク]と数十~百数十個もの文字と、それに付随する細かな蔦文字を思わせる幾何学文様がビッシリと彫り込まれており、更に、その細工の細かさと正確さに、早さ、どれを取っても異常としか表せない程の精密な作業。
そんな圧倒的な光景に俺は固唾を呑み喉の音が鳴る。
その音と同時に師匠が鏨を置いてから天井を見上げて深く深く息を吐く。
それに釣られてグランと俺が息を吐くと、
「なんじゃ自分の作業は終わったのかのう? それならワシの方を手伝ってくれんか? 流石に疲れたわい」
俺に向かってそう言い、そこから俺の肩を叩き、
「残りは柄部分の細工だけじゃ、御主でも問題なく出来るじゃろう」
「は…………? ちょちょちょし師匠?」
思考が停止していた俺は、何を言われたのか理解が追いつかず変てこな声を上げ、そして、その思考が追いつき師匠を呼ぶが時既に遅し、師匠は木台を並べてその上で横になっていた。
こうなってはテコでも起きない。
結果的には、残された彫仕事を俺がやらなくてはならないのだが……
俺は剣を見て再び絶句……剣の柄に下書きが施されているのだが、これまた細かく、しかも、グランの手に合わせて楕円に加工されている。
曲面を彫るだけでも大概なのに下書きまで細かい、絶句と絶望が俺を襲うが、この作業がもしも、師匠が起きるまでに終わっていなかった時を想像すると、目の前の絶望の方が天国だと判断し、俺は全力で目の前の絶望と戦った。
そして、
「燃えた……燃え尽きたぜ……真っ白にな……あはは、あははは、俺の周りにルーンが回ってやがる、いや違うなルーンはもっとこうバーって光るもんな……」
その言葉を最後に俺はその場につっぷして意識を手放した。
その後、
「うっうう、はっ!! マァァァァン!!」
俺はルーンに押し潰される寸前で現実世界に意識を引き戻された。
俺の叫びで、
「なんじゃ? 急に大声を出すでない」
師匠は体をビクっとさせてから、俺に注意し、
「あははは。お前もしかして作業のしすぎで頭が沸いたのか?」
グランは可哀想な者を見る目で俺を笑っている、
俺はその反応に、
「殺す……」
誰のせいでこんな思いをしていると思っているんだという思いで言葉を出すが、
「それより自分の剣は出来ておるのか? もうそろそろ朝になるぞ」
師匠の言葉に俺は窓の外を見るが、
既に太陽が山から頭を出す直前で、空が紫がかった青色をしていた。
「なぁぁぁぁ、ウソダロォォォォ!! 間に合うかァァァァァ!!」
「ふっ……ははははは」
俺の反応を見てグランが笑い始める。
その事で俺は殺意にも似た感情が湧き出るが、
「ふぉふぉ。先ずは、自分の目で確かめて見るという事を身につける事じゃな、言葉に振り回されていてはいかんぞ。しかし、そこが御主の可愛い所なんじゃがな」
「へ? ……どゆこと? ホワーイ」
そう言って笑う師匠。
その事に俺はキョトンしながら無頓着な言葉をこぼすが、
「ほらよ。エイズル様が寝ている間に仕上げてくれてたぜ」
そう言ってグランが自慢気に一振りの剣を俺に渡してきた。
「何でお前が自慢げなんだよ? 何気にムカつくぞ、その顔」
俺は、ニヤつくグランに怪訝な顔を向けて言葉を放った。
しかし、剣を鞘から抜いて目を丸くし、
「師匠? これって師匠が仕上げてくれたんですか?」
俺の言葉に一瞬だけ見たかというような表情を浮かべたが、直ぐに真剣な眼差しに変わり、
「ところでヒルトや、お前が自身の剣を造る時はいつもその変わった形状の剣を打つのう……御主はその剣に何を込め何を願うんじゃ? 御主が打った他の剣とは根本の部分で違う気がしてならんのじゃ」
その言葉を俺は理解できないというより、何故そんな事を聞かれたのか、それが判らなかった。
そして、師匠の表情も、どこか心配そうな雰囲気をしていた事で、さらに不思議にも思ったが、
「そうですね自身の誇りと意思の強さだと思います。それに俺はこの形がすきなんですよ。真っ直ぐに伸びたこの形が」
素直に答える事にした。
その答えに、再び、不安そうな顔を見せたが、
「そうか……それも一つの道なのかも知れんのう。それと、ワシの仕上げを見てどう思った?」
「流石は師匠って感じです。でもなんで[キャ]のルーンを彫られたんでしょうか? このルーンには意味なんて無かったような……」
見事に研ぎ上げられ、一辺の曇りも無い刀身に刃付けがなされており、俺には出来ないと心から思い、さらに尊敬する出来栄えだったが、[キャ]という何の意味もなさい[空]を意味する梵字、それもただ彫っただけという事に対して俺は不満があり、せめて彫るなら別の梵字を彫ってくれれば良いのにという思いが露骨に滲み出た口調で質問に答える。
その回答にも、どこか釈然としない反応を見せたが、
「そうか……なに、[キャ]のルーンを彫ったのは特に意味は無い。ワシが彫りたいと思ったから彫ったんじゃ。気に入らんかったか?」
「いえ……ただなんで彫ったのか本当に疑問だっただけです……気に入らないとかはないです」
そう不思議な感情が伝わるような口調で言う師匠に、俺は疑問符が残ったまま答えた。
そんな事があって、俺の剣はギリギリで完成したが、試し斬りなんかは本番という状態で俺が叫ぶ事の切っ掛けとなった。
そして、全生徒が、半分遠足気分でガヤガヤと騒いでいる所にいきなり、
「これより、ダンジョン探索演習を行なうわ。でもこれは、演習とは名ばかりの実戦よ。本当に命を落とすわ。その事を自覚できない者は、即刻この場から即座に立ち去って貰いたいの。理由は簡単よ、そのただ一人の身勝手な行動でパーティー全員が死ぬから。まぁ、それだけなら未だ良いほうね……死んだ仲間が救うはずだった、未来も同時に失う事になるのだからね。よって自覚を持たず遊び半分、授業気分の人は頼むから帰って欲しいの……でもまぁ、そんな馬鹿が居ないと願いたいけどね。さてと、脅しはこれまでにして、班編成をスラン団長より発表してもらうわ」
拡声魔法を使って理事長である雌キツ……いや、スルーズ理事長が全生徒を黙らせるように脅した。
結果的に生徒は全員黙り、遠足気分も吹き飛んだのか静かにスランの班編成を聞き再び、
「「「はぁぁぁぁ?」」」
「「「ブレイバー様とアノ薄汚いスミスが同じ班とかありえないぃぃぃぃ」」」
「「「ノエル様と一緒の班になれないなんて」」」
「「「剣聖様の悪口を言ったのは誰よ? 似非ブレイバーなんてタダのお飾りの癖に」」」
「「「えぇぇ、炎の戦剣様と一緒じゃないの? ショック……身を焦がす愛で守って頂きたかった」」」
「「「あのゲス色ボケ三人に風の妖精様と褐色の治癒女神さまが同じ班とかありえねよ。お二人にもしもの事が有ったらどうするつもりだ」
等と罵詈雑言と色ボケが一気に噴出した。
しかしまぁ、人の評価とは変われば変わる物で。
あの大会以降、フランは幼い容姿も合い間ってか、戦いの最中風を巧みに操り華麗に舞う姿に風の妖精という二つ名が勝手に付き、元々一部の性癖からの人気が高かったが更に拍車をかけて人気物になった。
そして、エイルは過去の差別はどこへやら、準決勝戦後、俺を治療する姿と普段のツンケンした姿のギャップにやられたのか、はたまた他の負傷者を治療する時に見せる母性にやられたのか、褐色の治癒女神と呼ばれるようになり、姉のスクルド先輩と瓜二つな事もあってか今では男性生徒の女神である。
また気に食わないことに、グランも女生徒から人気になっている。アイツの芯を曲げない戦い方と暑苦しい感じが良いとか何とかで、今では炎の戦剣士等と呼ばれてチヤホヤされている。
そして俺は、あのブレイバーを倒した男として剣聖と呼ばれてはいるが、あの戦いはインチキだとか不正があったとかも言われて純粋に人気が出たという感じではない。
ノエルはこれまでと変わらない様で、人気に陰りは出たが相変わらず人気の様だが、俺との戦いの後、武器に対する執着が強くなったのか、王都に住む名工と呼ばれる職人に金に糸目も付けずに無茶な注文をしているらしい。現に今のアイツの背中には師匠と並び立つと言われる名工が作った、真っ白な大剣を背中に担いでいらっしゃる。
しかし……ここからが問題なのだが……
「あの御三方と何の家柄も称号を無い者に二つ名を付け、同列のように語るなんてこれだから平民風情の英雄願望は困る」
「ああ? 偽者の称号なんて何の役に立つんだよ。ああそうか、本物に負けたから難癖をつけてるんですね。これだから貴族様は一人で何でも出来る平民をうらやましがるんですね」
始まった……
以前には無かった事だが、俺とグランや、ジンの放課後組が貴族、それも、上位の力を持つ者達を下したり、剣技では勝っており肉薄した試合をした事で、スキルが絶対的な力の優劣では無いという雰囲気になった。
その事自体は良い傾向だが……力で屈服させていたものが崩壊すればその反発で、
「勝てない負け犬共が虚勢を張った所で、俺達に勝てる訳がないだろう。それにお前らが崇拝する薄汚い三人は、特殊な環境で育っていたり、生まれつき生意気にもレアな恩恵持ちなだから、強いんだろうが。そんな例外とお前らが同等と錯覚しやがって、いっぺん身の程を教えてやろうか?」
「やれるもんならやってみろや。このモヤシ貴族様が」
互いに剣に手をかけて一触即発の状況だった。
俺は口論の仲裁に入ろうとも思ったが、それよりも危ない状況に気が付いて、即座に後ろに後退する。
俺が判断し、行動したと同時に、問題の両者の間に、落雷や2本の水柱、突風、光の塊、赤黒い炎、岩塊と、当たれば一溜まりもないような魔法の束が発生した。
発生元は、雌狐、エイル、驚いた事にカリス、フラン、ノエル、グラン、スラン。の7人である。
そして、
「私の言った言葉をもう忘れたのかしら? これは実戦で、覚悟や自覚の無い人は帰って欲しい。そう伝えたはずよ? まぁでも、本当に良かったわね。私以外の魔法のおかげで落雷が逸れて、それともこの場で死んだ方が他の人の為だったかしら?」
どす黒いオーラを発しながら理事長が言い放ち、それに気圧されたのか争おうとしていた者達はその場に固まった。
まぁ、あの雌狐の顔は本気で当てる気は無かっただろうな。誰かが自身の魔法に反応して対処する事も計算しての事だろうけど、反応した奴らが危なすぎないか? アンタの魔法より、あいつ等の魔法のせいで辺り一面大惨事だぞ。後は、雌狐が俺と同じ電気系統とか気にイラネ。
そんなドタバタがありながらも部隊編成どおり生徒が各班に分かれた後に、正規の衛兵騎士や衛兵魔法士達が一糸乱れぬ動きで素早く合流していく。
そして俺を含む超問題班にも正規の衛士が整列してから
「ダンジョン探索演習任務に同行する、スラン大隊所属、ヴェスペン小隊だ宜しく頼む。ああ、最初に言っておくが堅苦しく呼ばれるのは嫌いだから、俺の事はヴェスって呼んでくれ」
爽やかな笑顔というよりグランを清々しくしたような笑顔を向ける。
俺達より3つか4つ年上の衛騎士が、いきなり見せた軽い対応に俺とフランは呆気に取られ、ヘレネーとハルトは、そんな軽い言葉に嫌悪を露わにし、ノエルは興味無し? ウーン? いや何だか目に光を感じるので満更でも無いという感じ……コイツってもしかして……中二病か?
そんな俺達を見てなのか、ヴェスの後ろに居た女性騎士が、
「ごめんなさいね、うちの隊長は腕は確かなんですけど、どうも空気が読めない所があるの許してちょうだい。そうそう他の小隊メンバーの紹介をしていなかったですね。私はヘスティ・カビア。この隊の副隊長の様な感じで一番最初に切り込むトップを務めています。そして、この大柄の人がユーリ・アドニス。索敵や地形把握に優れた重要なスキルの持ち主で隊の中核を守るガーディーに就いています。続いてこっちのローブの彼女は、エール・カリテス 。治療魔法と防御魔法を駆使して全てを支えてくれるの。ポジションは勿論セーフよ」
こうやってヘスティという女性騎士が残りのメンバーを紹介して、それに合わせるようにお辞儀をしたり宜しくと言ったりとしてくれてた。
そして
「これで俺の隊の紹介は以上だな。ええっと、そっちの白髪が大隊長の秘蔵子で、俺達の分の剣まで用意してくれたヒルト・レーヴァか? それと、黒一色の風貌に白い剣の貴方が彼の有名な勇者様のノエル・エイジス/ブレイバー様かな? あとの三人も名家の出身者だよな? コイツは期待できそうな班編成だな」
そう言って顎に右手を持っていき満足気に頷くヴェス。
しかし俺の、
「俺がヒルトで合ってるけどさ、ガーディーやセーフって何の事だよ?」
この発言に全員が、
「「「えっ?」」」
と反応し、さらに、
「ヒルト君、授業で習わなかった? 戦闘座学の授業なんだけど」
フランが心配そうに声をかけてきた。
その言葉に俺は、
「ああ悪い、多分寝てたわ。記憶に全くない」
アッケラカンと答える。
そんな俺を見た、
「これだから下民は嫌なんですのよ。ノエル様からもこの愚かで薄汚い男に何か言って上げてください」
あからさまに嫌味と汚物を見る目を向けてくるヘレネーだったが。
「ごめんね、僕もその授業は聞いてなかったよ。隊列を組まなくても大体の事は一人で出来ちゃうから」
そう言って軽く笑うノエル。
それに対して慌てるヘレネー。
そして思わぬ所から
「それでは私がポジションについてお話をさせていただきますよ。一応知っておいた方が何かと役に立つはずですから」
意外にもハルトが声を上げた。
だが、
「私がノエル様にお教えいたしますので、貴方はそこの白鼠にお教えしていただけるかしら?」
へレネーが、声を上げたハルトに対して命令し始める。
ハルトは、その言葉に少し怪訝な顔をするが反論をするわけではなく、悔しそうにその提案を受けようとするので、
「めんどくさい事をするなよ。ハルトが俺とノエルに教えれば早く終わるんだ。それとも俺とノエルにお前が教えてくれんのか?」
俺は、ウザイという思いを込めて声を上げる。
それに同調してなのか、
「確かにそうだな。それに探索演習前の復習にもなるか。横からすまないが俺からもポジションの説明をお願いしてもいいか? 念のために知識の共有をしておきたいからな」
独り言をボソッと呟いてからヴェスが提案してきた。
へレネーは、それに対して露骨に邪魔をしてという顔をするが、対してハルトは水を得た魚の様に顔を明るくする。
そして
「じゃぁ、へレネーさんかハルト君にお願いをしても良いかな? ごめんね僕が授業を聞いていなかったから」
このノエルの言葉に、へレネーは、
「私はそこの惰民に話す口を持ち合わせていませんので、ハルトにお譲りいたしますわ」
少し動揺をしながら、拗ねたように言い放ってからノエルの後ろに体をかくす。
一方のハルトは、
「僭越ながら私から説明をさせていただきます。基本的にポジションとは進軍、探索時に小隊単位で組む隊列における役割分担の事になります。隊長を中心に前方にトップ。後方にセーフが基本の配置でガーディーは遊撃的に動くために固定した位置はありませんが基本的には隊長の隣に居る事が多くなります。そして、ポジションの役割ですが――」
うん…… 今ので分かったがコイツは今までノエルの取り巻きのせいで相当肩身の小さい思いをしてきたのだろう。
現に、今のコイツはどこかハツラツとして、活気に満ちたようにマシンガントークを始めているし。
それにしても、見た目はマッチョヤンキーなのに意外と知識が豊富で真面目な奴だったんだな……最初見た頃はタダのヤンキーだったし、その後は疲れて窶れ果てた所しか見たことなかったから、しかたないのか?
俺は、そんな感想を抱きながら話を聞いた。
そんな彼のマシンガントーク……解説が終わると、
「ハルト君の話を纏めると、トップは殲滅役、セーフは回復や防御主体の支援、ガーディーは全体を守る壁役、リーダーは司令塔をしながら遊撃手って事で良いのかな?」
そうノエルが端的に纏め始めた。
そして、その纏めに、
「その通りです流石はノエル様。そして私達をこの編成に合わせますと、トップにヒルト、リーダーにノエル様、ガーディーに私とフランさん、セーフにセレネーが妥当かと思いますがいかがでしょうか?」
と、編成案をハルトは出すが、
「ウーン僕は君がリーダーの方が向いてると思うな。僕は前線で戦う方が好きだからトップの方がバランスも取れるだろうしね」
俺に一瞬だけ敵対視したような視線を向けてから答えたノエル。
そんな、ノエルの発言にハルトが「しかし」や「でも」と反論して、なかなか決まりそうにない雰囲気になるが、
「上下関係で揉めてるところ悪いんだがな、他の班はもう出発しちまったから、ダンジョンに潜りながら決めないか? そろそろ動かないと俺達の獲物がなくなっちまうぞ」
ヴェスがやれやれといった雰囲気で声をかけてきた。
その言葉に周りを見渡すと、既に俺達以外はダンジョンに潜り始めているようで誰も居らず、ダンジョン入り口では頭を抱えた様子でスルーズ理事長が首を横に振っていた。
『その後なんやかんやとあったが俺達はダンジョンに潜り始めた』
最初こそ出遅れた事もあって入り口から最初の分岐点まで、魔物と遭遇する事もなく進んできた。
「だいぶ出遅れちまったみたいだがここからは気を抜かないでくれよ。この先は蟻の巣の様に入り組んでいて何があるかわからないからな」
そう言ってヴェスが他のメンバーに目配せを見せると、ヘスティ、ユーリ、エールの三人は即座に隊列を組み分岐を進み始める。
俺達はその後ろを付いて行く形になるが、それを確認してなのか、
「そう言うアンタが一番心配なんだけど。後輩に良い所を見せたいからってあまり出しゃばらないでよね」
「確かにヴェスが一番不安だな。毎回お前の無茶の尻拭いをするのは私だしな」
「うん……ヴェスの無茶のせいで……魔力不足になる」
ヴェスに対して注意し始める三人。
その言葉を聞いたヴェスは軽口に、
「ええ? 今言うか? それにそれだと、まるで俺が駄目隊長みたじゃないか……」
答え、その言葉に三人が笑いながら、
「「「まるでじゃない」」」
と声をそろえて言う。
しかし、
「さてと、軽口の遠足はここまでにするか」
威圧の篭ったヴェスの言葉と共に、即座に臨戦態勢をとり薄暗いダンジョンの奥を見据え、
「前方からベネノルマーカ4匹が来ますぞ」
「ヘスティは下がれお前とは相性が悪い。俺とユーリで対処する。エールは念のため後ろの後輩達をまかせた」
「……わかった……」
「はいはい。隊長殿下がらせていただきますよ。やっぱりそうやって出しゃばるんだから」
そんなやり取りが終わると同時にダンジョンの奥の岩影から8個のヌラヌラとした触手の様な物が飛び出し、その後直ぐに岩が黒く変色して溶け、隠れていた全貌が明らかになり、
「うぇへぇぇ。やっぱり気持ち悪いから任せるわ」
「右に同じく」
と女性陣が言うのも無理は無い。
ベネノルマーカとは簡単に言えばデカイ蛞蝓で色は白を基調に青い斑点文様といういかにもな姿で、体液は強酸とどこぞの同人誌ならそれこそ良い玩具にされたことだろう。
なんて考えながら見ていると。
「ユーリ」
「任された。[凍振動派]。今ですヴェス」
ユーリが魔法でベネノルマーカの動きを止めその隙に、
「燃え尽きろ。[生命の炎]」
右手に火球を燈し、先頭のベネノルマーカの頭部に火球を叩きつけ、即座にその横にいるもう一匹に火炎を纏った回し蹴りを放つ。
その反動で後方に吹き飛ばされたベネノルマーカは、後方の仲間と共に壁に叩きつけられながら燃え始めるが、押し潰されたベネノルマーカと残った一匹が口から大量の体液を吹き出した。
しかし、
「……遮断防壁……バカなの?」
エールが、ヴェスを包むように薄緑色に光る透明な防壁を展開した事で、体液は防壁に阻まれてヴェスには届かず、防壁が消えると同時に地面に落ちた。
そして、
「本当に考え無しに通込まないでよね。風の傷跡」
ヘスティの剣が陽炎の様に揺らめきながら最後の一匹を両断した。
その後ヴェスがヘスティになにやら小言を言われていたが、
「まぁ、連携戦闘ってのはこんなもんだ。お前らわかったか?」
そうあっけらかんと話を俺達に振る様子をみて、頭を抱えて首を振るヘスティ。
正直これだけを見れば駄目な隊長を全員でサポートしているようにも見えるけど、エールさんの防御タイミングや、ユーリさんが即座に振動魔法で体液の拡散防止、それを見据えてのヘスティさんの飛び出し。
余程信頼がないと出来な行動だったが、
「何を自慢げに言ってるのかしらね、ノエル様ならアナタ方のように雑魚相手に手間取らないでしょうし、もしも、ノエル様に何かあったとしても私が即座に回復差し上げるので今の様な無駄なご高説は必要ありませんわ」
へレネーが高慢に呆れて何もいえないという態度を取りながら、言葉を吐く。
しかし、その言葉に、
「へレネーさん……それは言いすぎなんじゃないかな? もしも魔物がもっと多かったり強かったらどうするの? それでもしも、回復に行けなかったら? そう考えたらヴェス隊長さん達のように連携が取れないと幾らノエル君やヒルト君が強くても危険に晒す事になると思うんだけど」
フランがオズオズといった様子でへレネーの言葉に意見をし始める。
しかしへレネーは、フランの前へ仁王立ちし、
「貴女はノエル様を侮辱なさるつもりなのかしら? あの大会で優勝したからって調子に乗りすぎてるんじゃありませんこと? 第一、そこまで仰るのなら貴女はノエル様の邪魔にならないように戦えるのかしらね?」
その迫力に一歩下がるフラン。
そこに、
「まぁまぁ、レディー同士が僕の為に言い争わないでよ。それにフランさんは僕の事を心配してくれているんだよ。君の信頼も凄く嬉しいけどね」
頓珍漢な事を言いながら仲裁に入るノエル、
「ノエル様がそう仰るのなら従いますが……」
そう言ってからフランを睨みつけてからプイッと後ろを向き、ノエルの腕に纏わり付いたヘレネー、という何とも言えない結果を迎えた。
その光景をを見て俺はハルトの肩を手でポンと叩いてから、
「お前とエリックだったか? わりと大変だったんだな心中察するぜ」
そう俺が告げるとハルトは少し目を丸くして驚いて、
「お前に慰められるとは思わなかったが……その通りだ」
と肩を落とすハルトに俺はまぁ頑張れと背中を軽く撫でてやった。
その光景をやれやれとため息交じりに見つめるヴェスと、アレを如何しろ、という雰囲気で指を指すエールに、首を横に振って応えるユーリ。
そして
「昔の自分達を見てる気分なんでしょ。ヴェス」
そう言って微笑むヘスティ。
その言葉に、ヴェスは鼻で笑ってから、
「とりあえず次はお前らに任せるよ。ここから次のホールまではそんなに強い魔物も居ないだろうしな」
どうだ? とういう様に俺とノエルをみて言い放つ。
その言葉に即座に、
「いいぜ。先輩方は後方で休んでいて下さいよ」
「構いませんよ。僕もさっきから戦いたくて仕方ありませんので」
同時に俺とノエルが返事をする。
そして話し合い? の結果 トップに俺とノエル、リーダーにフラン、ガーディーにハルト、セーフにへレネーという隊列で次のホールまで進む事になったが、
「ところでヴェスさん。ホールってなんだよ?」
再び俺の無知な言葉に、
「ヒルト君……本当に座学を聞いてたの?」
「いやぁぁ、殆ど寝てるか武器のアイディア出しで聞いてなかったからさ」
「はぁ……今は僕が教えて上げるけど、今度からはちゃんと授業にも集中しないと駄目だよ。そうしないとヒルト君はバカになっちゃうよ」
とフランが心配そうに言いながら説明してくれた。
ホールとは大小様々な大きさがあるが、簡単な話デカイ広間らしい。そして今進んでる細めの通路をドリフト。他にも大きな通路をシャフト、最下層にあると言われている広間をベントと呼ぶらしい。
「悪りぃなフラン。でも座学の説明が回りくどくて眠くなるのが悪いんだよ。まぁでも、お前の説明はわかりやすいのな。先生に向いてんじゃないか?」
と俺が言うと少し照れた様子で、
「もう、そう言ってサボってから僕に教えてもらおうとしてない?」
俺の思考は、フランに読まれていたようで、俺はそれに軽口を返そうとするが、
「悪いな、先に野暮用を済ませさせてもらうわ」
「気付くのが遅いので先に僕が片付けようと思ったんですが、気付いてたんですね。でも邪魔をしないでくださいねヒルト君」
俺が剣に手を掛けると同時にノエルが俺に邪魔をするななんて言って来たので。
「早いもん勝ちだろ」
俺は暗闇に隠れる魔物に対して一足飛びに[迅雷]で飛びかかり剣を振るう。
確かな手応えと共にダイアウルフの首を切り飛ばし、切り返す剣で、その奥に居るであろうもう一匹に剣を振るいながら、
「手応え有り。余裕……ってうぉい。ノエルお前」
「だから、邪魔をしなでくださいと言ったはずですが? それに早い者勝ちなんですよね?」
俺はノエルの魔法をギリギリでかわしてから文句を言うが。そんな事知らない。俺が悪いと言うような感じで、俺の横に剣を構えながら移動してくるノエル。
俺とノエルは、その後、
「ああ? どう見ても俺の方が早かったろ? 後から魔法で邪魔すんなよ」
「僕の魔法の方が先に奥のダイアウルフに直撃しています。手前は貴方に譲ってあげたんですから文句を言われる筋合いはないと思いますが?」
なんてやり取りをしている所に、隙ありと言わんばかりに、三匹のダイアウルフが闇の中から飛び掛かってくる。
しかし、
「邪魔だぁぁぁぁ。すっこんでろ犬っころ」
「邪魔しないでください。駄犬風情が」
同時に言い放ちながら、剣を振るい左右を一匹ずつ、そして中央の一匹を二人で切り結ぶ様に斬り裂いた。
しかし、その事で、
「おい。また邪魔すんなよ。中央のコイツはどう見ても俺の剣が先だったぞ」
「またまたご冗談を。僕の方が早いですよ。後、君の剣のせいで僕の剣に傷が入ったらどうするんですか?」
「はっ。傷が入るほどのナマクラならいっその事、俺が折ってやろうか? その方が後々邪魔にならなくてすむってもんだ」
そんなくだらない罵り合いをする事になった。
だが、
「ヒルト君、ノエル君、危ない避けてぇぇぇぇ」
と遅れてフランが叫ぶが時既に遅しで、俺とノエルの頭上には、フランが投げたであろう[チャクラム]が有り、そこから発せられた重力で、
「ぶへぇぇ」
「がっはっ」
俺もノエルも潰されてしまった。
それでも、
「君が僕に譲ってれば今事には……ならなかっ……たのでは」
「バカ抜かせ……テメェが邪魔……したからだろう……が」
潰されながらも口喧嘩をやめない俺とノエル。
そんな二人を見て、
「犬猿の仲ってこんな感じなんですね……ってフランさんお二人が」
惚けた事を言った後にハルトが慌ててフランに魔法を解くように言い、
「いやァァァノエル様がぁぁぁ」
とセレネーが叫んだ。
それをヴェス達は、
「わりとこいつ等とは上手く出来そうな気がしないか? なぁ皆?」
「はぁ……能天気なんだから。でもまぁ分かる気がするわ」
「しかし、少しばかり苦労しそうではありますがね」
「ヴェスは目が腐ってる……アレだけハチャメチャなのが二人とか……面倒見きれない」
などと笑っていたとかなんとか。




