第19話 狐と友の願いと残り時間と
遅くなりました 稲刈りに脱穀で動けませんでした
俺は、ヘーゲ・アグライアー家のゴタゴタで遅れた作業を取り戻す為に全力で研ぎ作業をしている。
これが終れば皮膜造りが待っている……
本当にあのゴタゴタさえなければ今頃はゆっくり自分の剣を設計できたのにと心の中で愚痴るが、過ぎた事は仕方ない。それよりも手を動かす方が早道だ。
本当に、こういう時は現代にあった、グラインダー・ベルトサンダー・オービタル・電動式回転砥石※ がどれだけ便利な道具だったのかよく分かる。
仕上げは脚踏み回転砥石を使って高速化してはいるけど、回転速度が遅い・人力の為に馬力がない、この2つが原因で荒削りが出来ない。これ以上は欲だろうけど……
「はぁ……こうもっと、バーっと削れないかな?」
この言葉の後、後頭部に衝撃と鈍痛が走り、
「バカモーン。何を言っておるんじゃ。その回転砥石は時代の流れじゃと思い許しておるが、本来は手仕事で行なうべき作業じゃぞ。それを、言うに事欠いて怠慢な事を言いおってからに。この回転砥石は使用禁止じゃ」
俺が頭を押さえているうちにエイズル師匠は、回転砥石の砥石を取り外して持っていった。
確かに怠慢なのかも知れないが、道具を使いクオリティーを上げながらも高速化、効率化を求めて怒られるというのは納得いかない。確かに技術が無い者が、より良い道具に溺れ技術育成を放棄する事や、全自動化等のオートメーションなんかの量産技術を人を介さないで行なうとかなら怠慢なんだろうけど、今回俺の行なっている事は工程の効率化で技術有りきの手作業の延長だろう。
なぜ怒られるのか本当に納得いかない。
そう心で思いながら
「でもまぁ……この世界では機械化を知らないし、人の手が介在しない量産化。誰しもがボタン一つで物を作れるなんていう話は、夢物語だと思うんだろうな。まぁそれでも……」
元の世界の科学技術を思い出しながら俺は独り言を言い、今この世界での経験を基礎に元の世界の事を考える。
それでも……、今の世界の方が物のクオリティーは高いと思うんだよな。素材的、量産的、利便性、効率化、保守性、等を考えると元の世界だけど。言葉に出来ないけどそれ以外のクオリティーは……職人的と言われればそれまでだけど。
それに、この世界で俺が確実に思うのは、魔法がもしも無い世界だったとしても不便とは思わないという事だ。
その事でふと思う、便利ってなんだろう? 豊かってなんだろう? 純粋に社会人から生まれ変わり一からやり直しているからそう思うのだろうか?
そんな事を作業の合間に考えたが、答えは出ないまま俺はまた作業に戻る。
結果的に、手鑢の方が早く出来た事は余談である。師匠……
『翌日』
俺はほぼ徹夜状態で早朝から学園へと向かう。その背中には大きな籠一杯の剣を担いで。
俺は学園に着くなり教員棟の最奥の扉へと向かう。その扉は堅牢な造りで質素でありながらも細部まで匠の技術と錬金魔法で仕上げられた扉だ。その前でドアノッカーを手にして、
「ヒルト・レーヴァです。師匠……エイズル・フェール師匠からお話を通して頂いてると思います。面会宜しいでしょうか?」
そう言いながらノックする。
すると直ぐに扉が開き中から、
「不慣れなのに形式ばった礼儀作法を使う必要は無いぞ。それよりも用件を聞こう。エイズルさんからは大方の事は聞いているがな」
日本人の様な黄色の肌に黒味掛かったグレーの長髪で左目の下に大きな剣傷を持つ女性で入学式の日に挨拶をしていたこの学園の理事、スルーズ・エスパダ・ロペラが手を組んだ上に顎を置きダルそうな表情でそう答える。
その余りにもダルそうな表情に唖然としていると、右手で手招きをして早く入れと合図してくる。左手に顎を乗せたまま。
その合図で俺が部屋に入ると扉が独りでに閉まった。魔法を使った素振りはまったく無く、何故閉ったのか判らない。その事で俺が扉の方に気を取られていると
「でっ、用件は何かな? ヒルト・レーヴァ。私も暇ではないのでな手短に話してもらえるかな?」
そう俺に声をかけてくる。
その顔は悪戯に成功した子供の様な、ほくそ笑みを浮かべて笑っている。
その事でからかわれたと気付き、これはまともに相手をすると更におちょくられると察し、
「すいません用件ですね。今回の大会や通常時の授業において、貸し出しの剣が余りにも粗悪品で実力を発揮できなかった者が多く目に余る為。私が作った物にはなりますが、今より良い剣の貸し出しを許可していただけませんか?」
少し仕返しのつもりで嫌味を含んだ言い方と共に担いでいた籠をスルーズ理事の机に置く。
「その話はエイズルさんから聞いている……ふ~ん、確かに新しい技術と素晴らしい素材で作られた良い剣だな。それで、この剣を貸し出し用にしたいと言うことだがな――」
言葉の途中で黙り、剣の反りや仕上げ具合や何かをマジマジと見ていたと思ったら、徐に立ち上がり――鈍い金属音が鳴り響く。
「何のつもりですか理事長? 俺で試し斬りでもするつもりなら俺は本気で貴方を倒しますよ?」
俺の喉に向けて鋭い突きの一撃を放ってきた。
それを狼牙で受けるが重くて剣を弾ききれずに咄嗟に出した【清流法】で辛うじて受けた止めた形になりながらも強気に言い放つ。
「ほほう、私の一撃にも反応するか。刀鍛冶でありながら剣士でもあるという事か。 顔はクリス様に似ているのに……そういう所はどこぞの脳筋で無粋で粗野な剣馬鹿に似ているのだな。あーヤダヤダ。本当に可愛げが無くなって。幼い頃は、あんなに可愛かったのに、私は残念だよ」
後半から崩れたキャラで、少し駄々を捏ねるような口調で話しながら、持っていた剣を籠にポイと投げ入れ、
「まぁ、別に良いんじゃない? 出来も悪くないと言うより出来すぎの分類だし。それに、学期末恒例のダンジョン探索授業が明後日に決まった所だしね、お披露目には丁度良いんじゃない」
相変わらずダルそうに左手で頬杖をつき、右手を手をクルクルと廻しながら言うと、一枚の書類に判を突き、「承認っと」そう小声で呟き、そして俺を見て、まだ居たのかと言うような表情を向けてから右手で出て行く様に合図された。とりあえず従って後にした。
まぁ気分は悪かったが、それよりもダンジョン探索授業という言葉の方に焦りを覚えて扉を出るなり
「なぁぁぁぁ! 剣がねぇのにダンジョンとかどうすんだよぉぉぉぉぉ俺ぇぇぇぇ」
と叫ぶが、
「うるさい。私の部屋の前で騒大声を出すなぁぁ」
とケツに強い一撃をくらうはめになった。
まぁ一部の業界ならご褒美なんだろうが、俺にそんな趣味はない。
しかし、その瞬間を見られていたらしく暫く一部の生徒が学長室の前で大声で叫ぶ事件が多発したらしく、その苦情が俺の所に来たのは別の話。
『所変わって、ツマラナイ授業も終わり最後』
「理事長の意向によりダンジョン探索授業が早まり、明後日行なう事になった。毎年最終学期の恒例行事ではあるのだが、今年の生徒は粒ぞろいとの事で繰り上げにするとの事だ。急遽の事で職員も生徒も対応出来ないだろうとの事で、それに伴い明日は学園は休業になる。あと、嬉しい報告だが。今回から武器の貸し出しを希望する生徒には、性能の良い武器の貸与が決定した。俺も現物を試してみたが一級品で滅多に買ったり使ったり出来る物じゃない。この機会に良い武器とは何かを知るのも良いだろう数は十分に有る。よく考えると良いだろう」
そういい終わるとそそくさと教室から出て行くリセィアム先生。
そういえば今日は、ジン先生が珍しく帰りのホームルームに居ない。それだけ急遽の変更で教員も忙しいんだろう。
それにしてもあの理事長本当に雌狐すぎるだろう。俺には学期末恒例と嘘ではない嘘を言いやがって。それにしても俺の母さんと親父と知り合いみたいな事を言ってたけど長期休暇の時に帰った時に聞いてみるか。
と軽く考えていると
「おいヒルト。ちょっと相談なんだけどさ良いか?」
グランが話しかけてくる。
しかし、
「すまん正直、お前の相談に乗っている時間は無いんだよな。だから却下」
コイツのつまらない相談ごとなんぞに付き合ってられない。それよりも目下の問題の解決が……
しかし、グランが俺の目の前に差し出してきた剣を見て俺は固まった。
それに対して
「いやだからさ、お前も忙しいのは判ってるんだけどな……コイツをどうにかしてくれないか? ちょっとやらかしちまってな。この埋め合わせはちゃんとする。だから頼むよ」
どうやればこうなるのか……目の前に差し出された、師匠からグランに渡されていたウーツ鋼の剣は無残にも切っ先が熔けて丸くなり先端は垂れた状態で固まっていた。他にも一度熔けたのか剣身全体に変なス※が多数発生していたりと、剣としてとても機能する状態では無かった。
そういえば大会以降、早朝鍛練以外にも授業後、学園に居残って何やらやっていた様だがその結果がこれとか……このクソ忙しい時にコイツは。でも、この剣でこれじゃ代わりの剣なんて無いよな。
そう思い、
「しゃぁねぇな。とりあえず師匠に相談するから付いて来いよ。たく、マジでこの埋め合わせはして貰うからな」
俺は渋々という雰囲気を語句に込めて言う。
「ちゃんと埋め合わせはしてやるよ。何でも言って来い」
ん? 今何でもするって言ったよね? なんてホモネタは置いておいて、
師匠えもぉぉぉぉん。助けてよぉぉぉぉぉと言わんばかりに俺とグランは師匠の店に駆けて行った。
いつもは店の裏戸を開けて直接工房に入るが今回は正面入り口から入る。
客が居ない事を確認してから、番台奥の扉から工房に入るなり
「師匠ぉぉぉぉ。ヘルプ」
と叫んだ。
すると奥の方から
「本当にあの脳筋に似ていて呆れるよ。自分の師匠、それもこの国随一の刀鍛冶対してヘルプと意味の分からん言葉を言う所が特にね。何で顔以外もクリス様に似なかったのかしらね」
そう言いながらまた、悪戯交じりの笑顔で俺の前に現れる理事長ことスルーズ・エスパダ・ロペラ。
そして、その後ろからは、
「そうかルーズ? 俺は両方にちゃんと似ていて嬉しいんだがな。それにタングはああ見えて繊細だしお前にも優しかっただろう? お前もあの頃は嬉しそうにしていたじゃないか」
「よいよい。何時もの事じゃし、弟子時代のタングの様でつい甘やかしてしまうんじゃよ。まぁアイツより教える事が無くて少しつまらんがのう」
そう笑いながら登場する爺さんズこと、騎士団長のスランと師匠。
その光景に俺は、
「何でアンタがここに要るんだよ? あとオッサンは何の用事だ? また黒剣の修理とかだったらキレるよ? この前も装飾が剥げただの、皮膜が剥げただのと言って持ってきたけど使い方が荒いんだよ。普通の使い方ならこんな短時間で修復が必要な作り方は師匠も俺もしてないんだぞ」
俺は、スルーズ理事長に対してまともに突っ込むと碌な事が無いと判断して、途中からスランに対して、この前の黒剣の修理について文句を言う。
新品だった剣をたった4日で修理しなきゃいけないレベルまで壊したんだ。その時の修理で装飾も皮膜も師匠と改良までしているのにも拘わらずそこから3ヶ月も経たないのに再び、修理に持ってきたと思ったからだ。
「オッ…… ヒルト・レーヴァ、貴方は自分の――」
「ははは、せめてオッサンではなくエイズルの様に師匠と呼んでくれないか?」
そう言って、スルーズ理事が俺に対して何か言いかけたのをスランが被せるようにして話を遮った。
「今は未だオッサンだよ。約束しただろ、母さんに自分が父親だって言うまでオッサン固定だって」
なんか誘導された気もするが、俺の言葉を聞いたスルーズ理事長は矛先を失った怒りをどこにやる事もできず、
「そういった融通の利かない所もアノ人に似ているのね。それでどれだけ周りが気を使っているかも知らずに自分の……」
「その辺にせんかルーズ。それに、グラン君がまるで借りてきた猫の様に小さくなっておるじゃろう」
そう言い、師匠はグランの事を気にかけてなのか、それとも何か別の意図があって止めたのかも知れないが、グランの方に近付き、
「ワシに用があってコヤツと共に来たんじゃろう? 剣に何かあったのかのう?」
そう言ってから、俺とスルーズに対して子供を叱る時の様な顔を向けた。
その事で俺は、自分とグランの用件を思い出して、
「そうだよ師匠。コイツの剣を見てくれよ。完全にぶっ壊しやがって使い物にならないんだよ。俺も明後日までに最低限使える剣を造らないといけないし時間が無いんですよ」
重大な事を思い出したのと、変に時間を取った事に気がつき、慌てて話をした。そのため文章がめちゃくちゃになってしまう。
首を傾げてからグランの方を見る師匠。グランは、師匠の反応に対して言葉で説明するよりも現物を見せた方が早いと判断したのか本当に申し訳なさそうに背中に隠していた剣を師匠の前に出した。
それを見た師匠は、
「予想はしておったがここまで早いとはのう……」
そう真剣な顔で小声で溢し。続けて、
「また派手に壊れたもんじゃのう。全体的に熱で熔けた感じかのう?」
そう何時もの表情に戻り、グランへと話かける。
その言葉に、頭を下げ、
「剣を溶かしてしまい本当にすいません。俺がちゃんと使いこなせないから、こんな風にしてしまって……」
「ふぉふぉふぉ。何を謝る事が有るんじゃ? 御主の力に武器が耐えれんかっただけじゃし、武器が壊れるのは何も使い手だけの責任ではないぞ。製作者であるワシらの技術不足じゃよ。どんな事が有っても決して壊れぬ様、どんな事が有っても使い手を守る様に造るのがワシらの勤めじゃ。それに何より幸いなのが戦いの最中に壊れんかったのがワシにとって救いじゃよ。もしも此れが戦いの最中に起きたと思うとワシは悔やんでも悔やみきれんからの。スマンかったのう」
グランは謝るが、それを笑い飛ばすように笑い、自分にも責任があると説明して真面目な顔で頭を下げてグランに謝る。
その対応に対してグランはどうして良いのか分からずに目を白黒させて混乱する。
俺は師匠の対応を見てどことなく自分を情けなく思った。
理由は簡単だ、師匠が言ったように戦いの最中に剣が壊れるという事は一つ間違えば使用者の命に直結するからだ。
そして、その責任は使用者にもあるが、それを造った職人の責任でもあるということ。しかも、俺の場合は使用者も製作者も俺という状態で尚且つ戦闘中に剣を折ったんだ、それで今困っているんだから情けない事この上ない。
そう思い、俺も頭を垂らせる。
そんな在らぬ方向に話が行きそうなるが、
「それにしてもどうすんだ? 明後日からダンジョン探索授業だろう。それに武器無しで行くなんて事はできんだろうに? そういやヒルトもこの前の試合で勇者の小僧に剣を折られて今は剣がないはずだな……グラン君もお前も、学園の貸し出しの武器じゃまともに戦えんだろ?」
スランが話の途中というかまた、逸れた話を直す様に話に入ってくる。
「そうじゃったな。ヒルトの方は問題なかろう? 素材も有るし、ワシが手伝いに入れば何とか間に合うじゃろうが…… グラン君の方は技術的に間に合ったとしてのう素材が無いんじゃよ。ワシの予定では早くともこのダンジョン探索後じゃと思っとたし…… そもそも、その予想よりも早いだけではなく火力までもが想定外じゃからのう此れじゃと炎竜の素材じゃまず無理じゃな。それこそ炎龍クラスの素材が必要になりそうじゃよ」
お手上げだという事を言いい、そこに便乗して
「さっきも話したが、状況が状況だルーズよ。ダンジョン探索授業は例年通りの予定で進行できないか? 俺達の隊が同行するとはいえ流石に時間が無さ過ぎる。現に武器の調達も食料、医療品の調達もギリギリの状態だ。我々だけならまだしも、半人前の生徒を守りながらとなると万全の準備をしていたとしても危険なんだぞ」
「そうじゃぞ、生徒側の武器は確かに家のバカ弟子が一・五級品の剣は揃えたが、魔法士用の杖の他に防具なんかはどうするつもりなんじゃ? ワシでも今日と明日徹夜したとしても、コヤツとグラン君の武器だけで精一杯じゃぞ。急くのは分かるが……考え直さんか?」
師匠とオッサンが、途中から指の爪を噛んでイライラして壁際でブツブツといってるスルーズ理事長に揃って言うが、
「分かっているわよ。だから今、エイズル師とスラン師匠に相談してるんです。それに杖や防具は、この子のせいでアイツが手配して届いているから生徒の方は大丈夫よ。それもエイズル師が言う1・5級の品を揃えてね……」
凄く嫌そうに、そして意味深げに言い、また続けて、
「それに、この前の試合のせいでこちらも色々と急がないといけなくなったので日程の変更はありえません。特に、この子とノエル・勇者の一騎打ちのせいでね」
そう何とも言えない表情を俺に送る。
睨むとかではなく、嬉しい反面、迷惑な事をという感じの表情だろう。
俺にはその意味は分からないので声を出そうとしたが、
「そうじゃな…… どうにか間に合わせにはなるが此方も手を打つしか無いのうスランよ」
「しかしな……理由は理解しているが、ただでさえ例年でもギリギリの人員で何とか生徒の安全を保てている状態なのに、今回は生徒側もだが俺の隊の方は、この前の水竜騒ぎで怪我人だらけでまともに動けるやつは半人前ばかりだ。圧倒的に手練れの数が足りない状態なんだぞ」
二人の意見が食い違い、少し難しそうな雰囲気が漂う。
しかし、
「その辺りは問題ないですよスラン師匠。生徒側の部隊編成で対処は可能ですので。具体的に言えば試合出場者だけで3部隊を結成して随伴の手練れ代わりにすれば問題自体は解消され、半人前の衛騎士や衛魔法士でも問題なく進行と訓練内容の消化にお釣りもくるでしょ」
そう雌狐のように言い。
「しかしな――」
「ヒルト、グラン、エイル、フランシス、ノエル、etc――スラン師匠も試合の様子は知っていますよね? 私の目から見ても、この問題児を筆頭に、今年の生徒はその辺の衛士よりは使えると思いますし、なにより、ご自身の方がよくご存知ではないですか?」
スランの言葉を遮り大会出場者の名前を挙げる。
その言葉にスランは一瞬だけ感情を露わにするが、スルーズの目を見て直ぐにその感情を引っ込め、
「すまん取り乱した……確かにその編成であれば例年と同じ安全性は確保できるが、圧倒的な経験不足をどうする? 強いとはいえ未だ学生の身だ」
「スランよ、心配なのは判るが過保護過ぎるのは弟子や生徒と部下の為にならんぞ。あと、もう少し弟子を信じて任せて見守るのも師の仕事じゃ、ルーズ達を信じてやろうじゃないか。それに後はワシらが支えて尻拭いをしてやれば良かろうよ」
少し未だ心配だと言うスランに対して、朝の鍛練の時に使う戦闘用の鎚を担ぎ、スランの肩を叩いて言う師匠。
その行動にスランも観念したのかスルーズ理事長の意見に賛同して、
「分かった、それでこちらも対応しよう。だが、その方法では手練れを実力不足のグループに集中的に随伴させる事になるが、人数をどうしたものか……俺とエイズルが出張っても4グループを面倒見るだけで限界だぞ?」
「あら? 言ってませんでしたけ? 試合に出ていない生徒も3グループに分けて質ではなく人数を増やして量で実力を拮抗させますので、十分に人数は足りると思いますわ」
そう言って微笑むスルーズ理事長。
それに対して頭を抱えるスラン。それを慰める師匠であったが、
俺はそんなどうでもいい事よりも、
「で! 話は終わったんですよね? それならとっとと退散してもらえますか。これからコッチはその問題のダンジョン探索の為にやらなきゃいけない事だらけなんで。それに、俺とグランの武器が無いとその話もお釈迦ですよね」
嫌味たっぷりに二人に言うと、
「はぁ……当の本人がこれとは、俺達の心配なんてどこ吹く風か……」
「やっぱりアノ脳筋と同じ性格なのね……頭が痛いわ」
そう言い残し、師匠に何か言ってから帰っていった。
『そして一連の時間のロスの後』
「師匠ぉぉぉ。マジで武器どうしたら良いですか? さっき俺の分は間に合うみたいな事を言ってましたけど? グランの武器もあるんですよ? 今日と明日で本当に出来るんですよね?」
と俺は師匠に泣きつく。
すると、呆れたように頭を振り、
「もう少し落ち着いて物事を見れんか? 御主の武器の材料は揃っておるんじゃから不眠で二人で加工すれば間に合うじゃろ。むしろ時間的にお釣りが来るレベルじゃが……今、一番の問題はグラン君の武器じゃろ。素材も無く、それを補う時間も無いんじゃぞ、そっちの事を考えんか」
「俺のナイフを素材にしても無理ですか? 魔力伝導的にも優秀ですよね?」
俺は師匠の言葉に自分なりの答えを言うが、
「はぁ……確かにのうソーンスコルの牙なら龍と同じで伝導率は最高クラスじゃが、ウーツ鋼を熱で溶かせる温度じゃぞ、耐熱性を考えんか。[雷電]の魔力ならいざ知らず。グラン君の[豪炎]じゃ耐えられる訳なかろう」
「はぁ? グランが[豪炎]の発現魔法持ち? コイツは[炎]のはずですよ」
俺の記憶が正しければありえない。
グランは確か[炎]発現の、魔法適正が[中]でのはずだ。それにスキルも[疲労軽減][行動補助]に[臥薪嘗胆]とかいう意味不明なスキルがある位のはずだ。
だから、等級もBだしな。もしも、発現魔法が[豪炎]なら俺と同じA等級に分類されてなきゃ可笑しい。
そう考えながら言葉を出すが、
「仮にもワシの武器じゃぞ。どれだけ魔法の鍛練をしても[炎]の魔力で此処まで熔けた事はない。有るとすれば[豪炎]の魔力のみじゃ。 どうなんだグラン君?」
「えっと……俺の魔法は[炎]のはずです。エイズル様が仰るような[豪炎]ではありません。確かに最近は今までよりも火力が上がっていて自分でも制御できない時がありますが」
師匠の問いに少し困惑しながら答えるグラン。
師匠は、その答えを聞いて、
「ふむ、スマンが儀式の羊皮紙はもっとるかのう?」
そう言われると、グランは自分の鞄から羊皮紙を取り出してわたす。
「てか、なんで羊皮紙を持ち歩いてんだよ?」
「学園の生徒の殆どが持ち歩いてるぞ。いつ就職口から声が掛かるか分からないんだ、持ってない方が変なんだよ。まぁお前は就職が決まってるようなもんだから良いんだろうけどな」
俺の素朴な疑問にグランは呆れたと言うように返してきた。
確かに、元の世界でも就職活動中に履歴書を持ち歩かない、とかいう事は無いのと同じ感覚なんだろう。それも、この世界ではもっと厳しいんだろう。本当に、この異世界には夢がない。
「確かに、羊皮紙には[炎]と書かれておるの……ウーツ鋼を[炎]でか、ワシの腕が落ちたのかのう?」
そう言って少し落ち込む師匠。
でも、有り得るとすれば、あの儀式の担当がアイツだから、
「おいグラン。ちょっと背中見せろ」
「はぁ? 何だよ藪から棒に? ってチョっ止めろ。分かった分かった自分で脱ぐから、その手付きをやめろぉぉぉぉ」
俺が手をワキワキと動かしながらグランに迫ると、ものすごくオゾマシイ物を見たような表情に変わって自分から脱ぐと快諾してくれた。
まぁ、コイツは昔からこの指の動きを見るとこうなるんだよな。確か「ヴルムモスボール」とかいうモンスターからのトラウマらしい。
それよりもグランのステータス魔法模様を見る。正直何を書いてあるのかは俺には分からないが。
「ふむ、やはりのう発現魔法は[豪炎]のようじゃな。でもなぜ羊皮紙には[炎]なぞと間違いが書かれておるんじゃ?」
隣から覗いていた師匠がそう口をこぼす。
「あのクソ司祭が。やっぱりこんな落ちかよ。アイツやっぱり結果をイジってやがったか」
そう俺は感情任せに口に出したが、
「それは無いじゃろう。ステータス魔法模様を読み間違える事は、司教にとって大罪。最悪死刑に成るんじゃぞ。そんなバカな真似を、遭えてはせんじゃろう」
そう師匠は言うが、納得できずに師匠に様々な事を聞く。
例えば、何かの間違いで羊皮紙が入れ替わったとか。スキルが変化したとか、様々な事を聞くが、全てに明確な理由で否定された。
そして服を着たグランも俺のスキル変化説を否定して、
「お前なそんな非現実的な事があるわけないだろ。まぁ紋章の能力なんかは御伽話では龍を倒して手に入れたとかはよくあるけどな。発現魔法や能力が変わったなんて話は英雄譚でも流石に聞いた事もないぞ」
確かにグランの言う通りだ。
過去にそんな事例があれば、御伽話や伝記、英雄譚なんかで面白おかしく書かれているのが普通だろう。それが無いということは、あのバカ司教のミスになるけど。発覚すれば死刑の可能性があるのにありえるのか?
「だぁぁぁぁ。悩んでても埒があかねえぇぇ。グランちょっと裏に出て、あの剣を溶かした技を見せろ。そうでないと何にも始まらねえよ」
そう言ってグランに、近場にあった一振りの剣を渡してから裏庭へと引っ張って行った。
この後、あんな事になるなんて知らずに……
「ワシの最高傑作がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その場に膝から崩れ落ちる師匠……
滴る金属がまるで師匠の涙のようだ。




