第18話 謝罪と桜と量産と
秋なのに未だ残暑厳しい今日この頃。 そろそろ稲刈りの時期です、それに展覧会と予定ダダ被りで身が持たない季節でもある。
本題ですが今回は軽く製作と休憩回です。色々とまた※には補足を後書きに入れます。御了承ください
また一部そんな話は聞いたことが無い。何時話したと言う部分がございますが……すいません、この方法しか思い浮かばなかったんです。この子をこのまま放置すると消えそうなのと、この子要る?となるので無理やりです。すいません。
木炭をくべ煌々と炎が上がる炉に、下からは鞴※で風を送り更に炎は強く激しく燃えあがる。
火力を象徴するかの様に鞴の風が起きるたびに、火が弾るけ音や、風の磨れる音、それと共に火の粉が高く巻き上げられる。
その火の粉が舞う様子は花火の様な華やかさは無いが、綺麗に煌き一種の幻想的な絵を生み出す。
そんな幻想的な情景とは裏腹にその熱気に体全体から汗が噴き出る。
それでも淡々と鎚を振るい続けていると、
「基本に忠実……御主は何をしておるのじゃ? そんなに長い延べ棒を何本も用意しおって。又とんでもない事をする気ではないじゃろうな?」
エイズル師匠がその光景を見て心配そうに声をかけてくる。
まぁ確かに研究の為に造った大量のウーツ鋼のインゴットの3分2も消費して、剣が5本は出来る長さの延べ棒を大量生産したんだから心配されるのも理解できる。
と言うことなので、
「そんな変な物は造らないですよ。それにこっちの方が均一な部材になるので、それの試し打ちと練習がてらの数打ちなので心配しないでくださいよ師匠」
俺が作業の手を止めて師匠に説明すると、一瞬だけ納得してから少しだけ曇った表情になり、
「それならかまわんが、その造った物はどうするつもりじゃ? 御主の事じゃから、無駄にする気はないんじゃろ?」
何かを見透かしたような物言いと、その思想が危険だとも言いたげな雰囲気だった。
俺はそれに対して、
「それは……今回の大会で思う所があり、その為に使います。あと、壊した武器の弁償の為にも……使いますよ。少しやりすぎてしまったので」
俺の言葉を聞き、
「ヘーゲ・アグライアーの所のボンの事なら聞いとるよ。当主自ら頭を下げに来よったからのう……はぁ……お前が反省しているならワシから言う事は無いがのう少しは考えて行動せにゃいかんぞ――」
言うことは無いと言いながらも小言が尽きず、事の経緯からの未熟者が何を一人前にや、相手にナマクラと言われたのも修練不足、相手に畏怖を覚えてもらえずに何が一人前か、等々尽きる事の無い小言が小一時間続き。
「まぁこんなもんじゃが、もう少し精進せい」
そう言って話が終わり、俺に背中をむける。
ようやく終わった。
そう思い俺が、
「言う事は無いって……言ったじゃん」
そう小声でぼやくと。
エイズル師匠がクルっとこちらを向く。
一瞬俺の小声が聞こえたのかと思い、焦って鎚を持つが。
「そうじゃ、ヘーゲの所の話で忘れておったが、御主の言う思う事とは大方は理解しておるつもりじゃがな……本当にそれが良い方向に動くとも限らんぞ。人は弱く力に溺れやすい生き物じゃ、それでも御主が打つと言うのなら打ちなさい。但しその結果の責任は自分で取らなければならんぞ。覚悟無く打つ事はあってはならん、それは判っておるよな?」
真剣に言う師匠。
毎度同じ事を言うが今回は少し雰囲気が違ったのが判ったので、
「覚悟はあります。それに、俺は今の状況の方が許せません。努力した者が剣技の差ではなく武器の差で負けたり、身分なんていう些細な事で万全の装備が出来ずに命を失うなんて事がある、そんな事のほうがおかしいと思います。だから俺は打ちますよ」
自分の思いをありのまま伝える。
俺の言葉を聞き終えた後にエイズル師匠は目を閉じてから少しのあいだ沈黙する。
深く何かを考えた後に目を開き一呼吸してから、
「そうか判った。ヒルト、御主の覚悟と思いはこのエイズル・フェールが御主の師として共に背負おう、じゃから、けっして中途半端な仕事だけは許さんぞ」
そう言い終えると、背中を向けて自分の工房スペースへと消えて行った。
その背中はどこか暗く、どこか明るい、何とも言えない雰囲気があった。
ただ俺は、師匠の言う中途半端な仕事はする気もないし、責任の無い事をする気もない……でもなんだろう、少し嬉しく、少し肩の荷が下りた気もする。
でも何で師匠は事ある毎に「あの」言葉を言うのだろうか? ここに初めて来た時の剣と関係があるのだろうか? でもまぁ、
「俺は大丈夫だよ師匠。師匠の言葉はちゃんと覚えてるし、失敗なんかしないように努力するからさ」
ふと心に思った言葉が口からでる。
俺は淡々と作業して、ロングソード5本分はあるウーツ鋼の部材と、別で用意した同じ長さの不銹鋼とチタンのを重ねて魔法で溶接作業をする。
「にしてもダルいよなこの作業だけは……もう少し簡単なやり方は無いのか? いやでもな……いけるか? 微妙だよな……」
俺は元の世界の知識※を思い出しながらひとりこと独り言を言う。
余りにも魔法による溶接作業がメンドくさく感じる。一本や二本ならこれで良いんだが、こうも数が多くて一辺が長いと時間と労力が掛かりすぎる。
「うーん……悩んでも仕方ないか、とりあえず一本試すか」
俺は頭を掻いてから一人で納得して、元の世界での知識から導き出した、この世界での魔法による接着法を試す。
先ずは、不銹鋼・チタン・ウーツ鋼・チタン・不銹鋼の順に延べ棒を重ねてから重しを載せて、俺はその金属の塊に魔力を廻らせる。
そして、全ての素材に魔力が廻ったのを感じて、その魔力を一瞬にして電撃魔法に変化させる。電撃には法則性を持たせて引き合う様に変化させたために、重なり合った部分で火花が飛び、電磁的な衝撃音がなる。
俺は重しを除けてから、ヤットコ※で軽く重ねた金属の塊を叩く。
叩いても積層がずれない事を確認して俺は内心、成功した事を喜ぶが、
「いやいや……まだ熱間整形作業※をしてからだ、これで割れなきゃ成功だ」
独り言を言って落ち着く。
積層した板を五等分に切り分ける、切る方法は現代ならコンタ※か、ウォーターカッターだろうが、そんな気の利いた品物はこの世界には無い。
ならどうやって切るかだが、俺の魔法によるプラズマ溶断だ……この作業もだが正直、出力的に魔力の消費が大きい。別で、切り分ける魔法、特に水系等魔法が使える奴がいれば良いのだが……愚痴っても仕方ない。
俺は大量の魔力精製水に目を向けてからタメ息を吐いて、
「しゃあないよな……でもあんまりこれ好きじゃないんだよな……トイレの回数が増えてなぁぁぁ」
とボヤく、
俺は五等分に切り分けてから、魔力精製水を飲み魔力を回復して、その内の一本に持ち手を溶接して魔力を込めながら炉に入れる。魔力を込めながら炉に鞴で風を送り熱していく。魔力により酸化させずに熱を加えて灼化させられた積層金属は真っ赤な光を発するようになる。
その色を見てから俺はアンビル※の上で熱間整形作業を開始する。
柔らかくなった積層金属は鎚を振るう度に形を変えていく。硬さがあるのに粘土の様に変形していき、数百位叩き上げた頃には、一本の刀身が出来上がる。
その作業を五回繰り返し、五本の刀身を耐火煉瓦の上に並べ終えると、
「うしっ。一応は、くっ付いてるな。まぁ焼き入れで割れたらそれまでだが、まぁイケンだろ多分」
俺は整形で割れなかったので満足してから焼き入れを行なう。
ここでも魔力で酸化を疎外しながら熱してから魔力を流しながら湯につける。湯が沸騰する音と湯気が上がっていく、湯から上げた刀身は酸化していない為に表面は銀白色のままで上がってくるため、違和感があるが、まぁ上々の仕上がりだろう。
後は、研ぎの作業だがこれは後回しだ、先の五本を焼き入れしてから、残りも同じ様に整形してから纏めて研ぐ方が効率的だろうしな。
そんな算段や思いを考えながら、作業を進める。
全ての整形作業と焼き入れが終わった頃には、大量にあった魔力精製水は無くなり、窓の外はオレンジ色に変わっていた。
「うっし、終わったー。後は研ぎダー」
俺はこう一人で叫んでから後ろに仰け反り、そのまま後ろにある木台へと身体を倒す。
すると視線の先にフランが、木台に座ってキョトンとした表情でこちらを見ていた。
「へ?」
「お疲れ……様? ……凄いねヒルト君……」
どこか恥ずかしい物を見たという感じに話すフラン。
その感じに俺は恥ずかしくなり、慌てて寝転んだ状態から飛び起きて、
「お前……何時からそこにいるんだよ?」
「えっと……とりあえず一本試すかて言いながら腕を振ってた所からかな?」
凄く何かを言いた気なフラン、
言いたい事は分かる、でもそれは、
そう思って俺は手を顔に当てるが
「でも本当に一人で喋りながら、こんなに長い間作業するのは僕は凄いと思うよ。ご飯も食べないでいたから心配だったけど、ヒルト君は変じゃないと思う」
すこし慌てた様に言うフラン。
フォローが全くフォローになっていなくて心に刺さり、俺は木台に手を着いてうな垂れなて。
「いたなら、居たって声をかけてくれ……あと、その記憶は忘れてくれ頼む」
恥ずかしすぎる。
一人言を言いながら作業していた姿を見られた…… 別段可笑しいとは思わなくても、やはり恥ずかしい。あと、本当に此れだけはわかってくれ。職人はぶつくさ一人言を言うもんなんだって。
また俺は、誰に言い訳を
そんな事を思いながら頭を横に振っていると、
「えっと、ヒルト君休憩だよね? これ食べてもらっても良いかな? ちょっと冷めちゃったけど、お腹減ってるよね?」
なんだか照れたような動作をしながら、俺の視線の前に一つの箱を差し出された。
その箱から漂う良い匂い嗅いぎ、俺の腹が鳴らす。
その箱をもう一度見、俺は顔を上げてから、フランに確認をとるかのように、
「良いのか? 俺が貰っても?」
俺の質問に頭を下げて答えるフラン。
「マジかぁぁ。さっきの事で忘れてたけど、腹が減って倒れそうなんだよな」
箱を手に取って中を見ると、サンドイッチが入っていたが中の具が直ぐに判って、再びフランを見ると、
「えへへ、それで合ってるかな? 前にヒルト君が言ってたカツサンドだっけ? あの時言ってた事を思い出して作ってみたんだけど」
こちらの世界では油、特に植物油は貴重品で値段が高くて食べれないと思っていた代物が目の前にある。その事でテンションが跳ね上がり、俺は一つを手に取りカブりつく。
パンは固めのカンパーニュだったが、元の世界のカツサンドと遜色無い、むしろ肉の味はこちらの方が上だった。
その事で
「美味いよ。本当にありがとうなフラン」
満面の笑みでフランに礼を言うと、フランが赤面してから俯き、
「そっそんなに喜んでくれるなんて……僕……」
そのフランの動作を見て疑問に思うと、同時にふと冷静になってしまい、
「でもお前油高かったんじゃないのか? 沢山必要だっただろ? ちょっと待ってろ」
俺はカツサンドを咥えながら席を立ち、いつも俺の売り上げ分を貯め込んでる貯金箱代わりの箱を作業台から取り出して、中から金貨を4枚程掴み、
「カツサンドの代金。又、これで作ってくれよ」
そう言って、フランの手を掴んでから金貨を手のひらに掴ませる。
「えっ? ふえぇぇぇぇ? ヒルト君こんな金貨なんて貰えないよ。それに僕は、ヒルト君の為に作りたくて作ったんだから、お金なんて要らないよ。それに、それに、武器のお礼も兼ねてなんだよ」
金貨を慌てながら突っ返されるが、
「いやいや、物には正当な価値があってだな。それに見合った代金を払う。これは当たり前の事だと思うぞ? それにお前のカツサンドにはこれだけの価値があるし。また食いたいんだって、だから受け取ってくれって」
そう言ってもう一度渡そうとするが拒否される。
何度かその掛け合いをしたが、
「僕はお礼がしたくて作ったんだから、お金なんて貰えないよ」
と頑なに受け取らないので、俺は頭を掻いてから、
「たく、頑固だな。でもこれなら受け取ってくれるだろ?」
そう言って金貨を仕舞いに行くついでに、一つの指輪を持ってきて無理やりフランの手を掴んでから中指にはめ。
「趣味の品だし、魔石もまだ入れてない唯のリングならかまわんだろ? 本当に感謝のつもりだからそれくらいは受け取れ。受け取ってもらわないと、なんか後味がわりいからな」
そう言ってフランを見る。
フランは、はめられたリングを見て目を丸くさせてから目が泳ぎ始めて、
「ふぇぇぇぇぇ? ヒルト君これって、これってェェ」
顔を指輪と俺の顔へと忙しく動かしながら顔が赤面していった。
今回の指輪は、俺が暇で造ってた物。それも、元の世界で俺が好きだったた花でこの世界にはない[サクラの花]をモチーフにした指輪だ。
まぁ、題をつけるなら[記憶の花]かな?
「綺麗な花だろ? 夢に出てきたからさ、何となく作ったんだ。売り物にもならないし、それくらいならかまわないだろ? それも拒否するなら、金貨か俺が本気で造る武器になるけどどっちが良い?」
俺の言葉で一瞬真顔に戻り。
何かを考えてから慌てたように、
「この指輪にします……あと、大事にするからね、ヒルト君」
後半は、また照れたようになっていたが、まぁファラ先生の時の様な事はないだろうし、問題ないだろ。
そう考えてから。
「じゃぁまた、カツサンド作ってくれたらそれに魔石を埋め込むから、また作って持ってきてくれよな」
そうやって他愛無い話をし始めた。
暫くの間、談笑していると、
「遅くに申し訳ありませんがエイズル・フェール様の弟子であるヒルト・レーヴァ様はいらっしゃいますでしょうか?」
と店の方から声が聞こえて来たので、フランとの会話を一時的に中断。
一言悪いと言ってから店の方の扉を開けに行き、
「ヒルト・レーヴァは俺ですけど? ええっと、どちら様でしょうか?」
俺は声をかけながら扉から店の番台にいく。
そこには、一人の男性がたっていて、俺を確認すると、
「おおっ、これはすいません。私は、アーシア・ヘーゲ・アグライアー、カリスの父です。このたびは我が家の愚息がご迷惑をおかけしたと聞きましてお詫びを申し上げに参りました。そして、あのバカ息子が騎士の恥を晒しそうになった所まで御止めいただいたとも聞きまして。重ねてお詫びを申し上げます」
そう言い、深く深く頭を下げる一人の男性。
その身なりは、シッカリした物で上質な布で作られた黒のウエストコートに黒の革靴と、質素ではあるが確かな品に身を包んでいる。
あからさまな上流階級の人物だが、そんな人が俺に頭を下げている事に焦り、
「頭をお上げください。それにこの様な大衆の目がある場所では、宜しければ汚い場所ですがこちらへお越しください」
そう言って番台を上げてから、工房への扉を開く。
「お気遣い痛み入ります。それではお言葉に甘えさせて頂きます」
そう言って、お辞儀をしてから俺に続いて工房へと入る。
俺が工房に入るとフランと目が合って
「えっと、忙しそうだから僕は帰るね。また来ても良いよね?」
そう言うので、
「スマンな、また埋め合わせはするよ。あと、いつでも来て良いけど危ないからな」
とだけ言う。
その話が終わるのとアーシアさんが工房に入るタイミングが重なり、フランとアーシアさんとの目が合った。
そしてフランは、お辞儀をするとアーシアさんは、「お話の途中なのに」と謝罪と一礼をフランにする。
その行動に驚いて慌ててもう一度お辞儀と「そんな事ありませんん」と言いながら一悶着があった事で、この人が頭を下げる事がどれだけ大変な事なのかは理解した。
フランが帰り、アーシアさんと二人になり
俺から
「このたびはわざわざご足労頂きありがとうございます。ですが頭を下げるのは止めてください。今回は俺もヘーゲ・アグライアー家の家宝である剣を破壊していますし、謝らなければならないのは俺の方なので」
そうアーシアさんがまた、頭下げる前に言葉をだす。
そうすると、
「しかし、それもカリスの責任でございますので、ヒルト殿に責任はありません。それに、騎士にあるまじき振る舞いをしたバカ息子を諌めて頂いたご恩もございますので」
そういって頑として謝罪をしようとする。
俺はそれを止めようと必死に対応していると、
「なんじゃ、さっきから騒がしいと思えば。アーシア、ヒルトにはワシのほうから良く聞かせると言うたじゃろ。なぜ此処まで来ておるんじゃ」
エイズル師匠が奥の自分のスペースから出てきてアーシアさんと話を始めるが、
「ですが、エイズル様。このたびは我愚息である、カリスの責でありますのでここは誠意を見せねばなりません。それがヘーゲとしての行動だと――」
このように平行線になり始めて、話が終わらなくなっていく。
困り始める師匠と俺だったが、ここで俺は、
「判りました。ですがこの問題は、俺とカリスの問題です。師匠もアーシアさんも関係ありません。ですから、アイツと俺が和解すればいいだけですので、今日の所はお帰りいただいて明日、俺がカリスと話しますので。それでは駄目でしょうか?」
俺が提案する。
その提案を聞いた途端、何か憑き物が取れたかのようにホッとした表情になり、
「判りました。明日、我が家でカリスと共にお越しをお待ちしております。そして、この様な提案までしていただき本当に申し訳ありません――」
長い口上を述べてから頭また下げようとするので、止めてお帰りいただいた。
『その後』
「師匠のタメ息の理由がわかりました……はぁ」
俺もタメ息をつくと
「そうじゃろ、でも明日も此れじゃろうから気をつけるんじゃぞ……はぁ」
お互いにタメ息をの後、たがいに作業に戻るが、
俺は今回の事で先にヘーゲの方の剣を製作する事にした。
ヘーゲ側の剣は造りは同じにだが、芯金を入れて製作する。
芯金には、魔物合金を使う。正直、俺が折った物よりも良い物になる事は間違いないけど、単に挟み込み造りの芯金入りというだけで造りが簡素だしバランスは取れるだろ。
そう思いながら俺はあのグローブ[スコルの手袋]をはめてから作業をする。
「血統と俺が壊した剣の特性から行くと水系等の一族だろうから、魔物素材は……水竜の鱗か……、まぁこの前大規模討伐とかがあって、市場に大量に出て値崩れしてた素材だし、こいつで良いか」
俺は市場で大量に出回り値崩れしていたので仕入れておいた水竜の鱗をチョイスする。
でもまぁ水竜とは名ばかりで要はデカイ海蛇だ。水竜ではなく水龍と呼ばれる種類もいるらしいが、こいつの方は先ず手に入らないし討伐すら難しい種類だ。
こんな風に竜と龍がいるようで他にも、火、雷、樹の三種存在しているが、因みに俺の倒したソーンスコルも同じ様に四つの種類がいるようだ。
まぁ関係のない話だし、そもそも希少種でダンジョンの奥底まで潜っても出会うかどうかで、俺の時のソーンスコルが異常事態なんだ。
おっと作業作業。
魔物合金用の母材を選ぶ、まぁ相性の良いのは砂鉄か……俺は師匠の作業場に行くが、少し絶句した。
作業場には大量の試作品だと思われる剣が整然と並び、その一本一本には細かな細工が施されており、その細工全てがヒエログリフでしかも一つ一つが小さく精巧に彫り込まれ、異種金属が埋め込まれている。
これで実戦用なんて嘘だろと思う。むしろ、装飾用と言われたほうがしっくり来るような刀身だ。
それを見て固まっていると
「なんじゃヒルトや? 何か用でもあったのじゃろ? 言うてみい」
俺に気が付いた師匠が俺に問いかけてくる。
「いえ、すいません。前に仕入れた砂鉄は未だ余っていれば頂きたくて」
と俺が答えると。
横の扉を指差して
「その中に入とるよ。もう使わんから全部持っていってもかまわんぞ」
と、ぶっきら棒に言う。
まぁ作業中なのでこんなもんなので、俺は言葉に甘えて戸棚を開けて砂鉄の袋を手に
「貰って行きますね。師匠、ありがとうございます」
といって部屋を後にする。
その時、師匠はこちらを見ずに手だけで合図をして、作業に没頭し始める。
その後、俺も師匠も夜遅くまで作業に没頭する、まぁ夜飯だけはしっかり師匠は取る派なので食べたようで、俺の分を机に置いてくれてあった。
翌日の朝に俺は、二本の袋を手にヘーゲ・アグライアー家の門扉の前に来ている。腰には昨日作った量産剣を携えている。
正直あまり乗り気ではないが自分で仕出かした事と、ついでの目的の為に意を決め、
「おはようございます、ヒルト・レーヴァです。昨日の事で伺いました。御当主へのお取次ぎをお願いします」
俺は門扉横の使用人か護衛が駐在する小屋へと声をかける。
すると中から、鉄の軽装備を着用した初老の私兵の方が出てきて、
「ようこそヒルト・レーヴァ様。主より聞き及んでおりますので、どうぞ中にお入りください」
丁寧な言葉使いと、綺麗なお辞儀をした後に門扉を開けて中に入るように手で合図される。
俺は一礼の後に中に入る。
しかし、この国の貴族階級の家は敷地がでか過ぎる。中央都市というのに門扉から屋敷までの距離が軽い買い物の距離だ。元の世界で例えるならちょっとコンビまで行く感じの距離だろうか? 大方5分ほどかかって屋敷前まで着く。
俺が着くと同時に見計らったかのように屋敷の扉が開き。
そして、
「ようこそおいでくださいました。このたびはカリスの仕出かした事なのにご足労まで頂いてしまい、誠に申し訳なく――」
また頭を下げながら謝罪の言葉を言おうとするので、
「お待ちください。昨日も言いましたが、今回の事は俺とカリスの問題です。頭を下げてもらうためにここへ来た訳ではありません。もしこれ以上頭を下げられるのであれば、俺は帰ります」
強気に俺は言う。
まぁ昨日の様に頭を下げられるのは気を使って疲れるからな。
その言葉を聞いたアーシアさんは、
「これは、申し訳ない。立ち話も失礼ですので中にお入りください」
そう言われて屋敷内に通された。
俺がアーシアさんに付いて行くと、客室だろうか大きく豪華な部屋に通され、中央に鎮座する質素な造りなのに素材や製作技術の確かさが判る木の机と椅子の方に進み、主自らが席を引きそこに座るように促される。
遠慮しても又、謝罪が始まりそうなので遠慮なく座ると、それを確認したアーシアさんは俺の横で
「カリス入って来なさい」
カリスを呼ぶ。
すると直ぐに入って来た扉とは別の扉からカリスが姿を現し、前に出てくる。
よく見ると顔を腫らし、右頬には新しめの手形が赤々と残っていた。
そして俺と目が合うと、最敬礼並みのお辞儀から、
「このたびは大変失礼な物言い誠に申し訳ありませんでした。又、私の仕出かした愚考を御止め諌めていただき、反省しております」
と言うので。
俺は直ぐに椅子から立ちあがり、
「こちらこそこのたびは、自身の未熟を棚に上げて技術不足を指摘していただいたのに、怒りに任せ家宝である剣を破壊してしまい申し訳なかったです。お詫びとなるか判りませんがこちらをお納め願えませんか?」
同様に頭を下げてから持ってきたうちの一本を取り出して差し出す。
それを見たアーシアさんは受け取れないと拒否されたが、師匠の名前と受け取ってもらえないと帰れない事を強調した嘘を言い、無理やりに収めさせた後、
「カリス。コイツはお前への謝罪の品だコイツも納めてくれないか? 師匠の言いつけと、また折れたらもしもの時に家が困るだろうからさ」
と適当を言って、手渡そうと、もう一つを袋のまま差し出す。
カリスは、アーシアさんの方を一度見てから、受け取りの許可が出ると俺の差し出した物を手に取り、
「開けさせていただいても宜しいでしょうか?」
アーシアさんが俺に確認を取ってくる。
まぁ中身、如何では察したのだろう。
一応アレでも名匠エイズルの弟子の作品だし、それに現行、俺の剣の相場はその辺の鍛冶師の物より高いし、品質もエイズル師匠と遜色無いという評判を貰っている。
その事を知っているのだろう。
俺はそう判断して
「どうぞ、中を確認してください。未だ若輩の俺が製作した物ですので御気に召すかわかりませんが」
そう言うと、
謙遜をなどと世辞を述べられたので、それに対しての掛け合いをする、長くならないようもう一度開けるよう促すと、それではと言って袋から取り出し始める。
それを確認してから、
「カリス、お前も開けて中を確認してくれないか?」
俺はカリスにも開けるよう促す。
すると、恐る恐る袋を開け始める。
しかし、カリスが袋から一本の剣を取り出した時、
「ヒルト・レーヴァ様。申し訳ありませんがこの剣は受け取れません。我が家のどの様な私財を換金したとしても……いえ、家ごと換金しても払えるような金額のような物ではございません」
等と、アーシアさんが大げさな事を言い始めた。
ここで引き下がると、後々めんどくさそうなのと、
「いえ、受け取って頂かないと俺が帰れないので受け取ってください。また、過分な評価でございますのでご心配なさらぬようお願いします。それに、その剣は割り込み造りでアーシアさんが言う様な大げさな物では」
量産のついでに、量産用の皮金と刃金を使って芯金を足して作った試作品なのだから、そこまでの物でもないし、エイルの【トリアイナ】やフランの【パナケイア】の方がもっと良い素材と技術を使って、ヒエログリフ(梵字)を施してるんだ。
アレらと比べれば、その辺の武器と大差無い。
もしも、この剣でそんな価値があったら、エイルとフランの武器なんて幾らになるんだよ。
後、今後作る予定の俺とグランの剣なんてどうしろってんだよ。
と思い真実を言うが。
「ですがこの剣には、エイズル様と同じウーツ鋼の刃に、今、巷で話題になっているヒヒイロガネと錆びないという鉄で構成されていますよね? あと、魔力の通りも他の物よりも良く貴方様が言うような代物ではないですよ。まさか、魔物素材を金属に混ぜ込んだという物まで使用されているのでは?」
本当に焦ったように話すアーシアさん
ああ、話題になってんだ。ヒヒイロガネと不銹鋼の皮金の剣。
確かに今それが作れるのは俺か師匠と親父くらいなもんだからな。それにしても、魔物合金てそんなに凄いか? 俺一人でも簡単ではないけど製作可能だし、魔物素材でピンキリだぞ。
それこそ龍種や上位魔物の素材なんて。
そう思い、
「話題になる程人気になっているんですね。あとよく判りましたね魔物合金を使用している事に。でも今回の素材は水竜の鱗ですから、そこまででは――」
俺が使っている事を言うと、俺の言葉を遮り、
「なっなんと……尚の事頂けません。確かに喉から手が出る程、手に入れたい一品ですがこちらの不手際と愚息の愚考を諌めて頂いているのに、それでも家宝を壊したとして謝罪をされたのにこんな物まで頂いてはそれこそ今後どの様に恩義と償いをしていけばよい事か……」
ガタガタと震えながら剣を鞘に収め、顔面蒼白で返そうとしてくるアーシアさん。
その話を聞き、
「魔物合金がそんなに凄い物なんですか? それに先ほど言いそびれましたが、今回の合金素材は水竜の鱗と鉄ですからそこまでの物ではないですよ。そんな事言ったら、友人の為に作った武器なんてソーンスコルの素材にヒヒイロガネの合金を使用した物は国宝クラスになるじゃないですか」
俺が笑い話の様に告げると、
「今なんと言われましたか? 私の聞き間違え出なければソーンスコルと?」
どこか声が裏返ったような声で質問するアーシアさん。
「そうですけど? まぁ爪や小さな歯を素材にした物ですし、親父と子供の頃に討伐した時の残り物ですからね材料費はタダ同然ですからお渡しした物程ではないと思いますよ」
あっけらかんとした様子で俺が伝えると。
何か力が抜けたのか、一瞬気が飛んだのかフラッと体を揺らし、空いてる左手で頭を押さえ頭を振って、
「そうですか……貴方様。いえ、ヒルト様にとってはこの程度は我々が一般的に謝罪の時の菓子折り程度の事なのですか……いやはや末恐ろしい……」
俺は言ってる意味がわからず首を傾げると、
「これは失礼いたしました。ですが頂く事は出来ません。ヒルト様は色々と勘違いなされてるようなのでお伝えさせて頂きます。魔物合金とお呼びの素材は、この国では現在エイズル様と他数人の名工と呼ばれる方々しか加工、及び製造が出来る職人は、存在いたしません。その為、その武器は高額で金で売買されるため、手に入れられる者などほんの一握り。どうかその事を御理解して考えて頂きたい」
かなり真面目に言うが、
「大げさすぎですよ。それに、俺が一人で合金化させた物と師匠の物と一緒な訳ないじゃないですか。師匠曰く、数名の魔法師と一緒に作業して作るらしいので」
俺は真実を伝える。
しかし、頑なに頂けないや、そのような事はないや、色々言って話が進まないので、
「ああっもう。騎士が話し合いで決まらないのであれば、ここは一つ俺と勝負で決めましょう。俺が勝てば何も言わずにそれを受け取って頂きます。もしも俺が負ければ、そちらの意向に従わせていただきます」
俺は邪魔臭くなり力づくの手段を伝える。
俺の言葉を聞いたアーシアさんは、
「判りました、それで宜しいと言われるのであれば、私と一本勝負で宜しいでしょうか?」
そう諦め半ばに俺の提案を了承する。
しかし、
「いえ、カリスとアーシアさん、お二人を同時に相手にさせていただきます。あと、武器はお渡ししたその剣で」
俺の発言に驚愕の表情を浮かべていたが、
「剣は二本お渡ししていますので、二人で相手してしてもらいます。それに、今回は俺とカリスの事が原因なので本人不在で決める事は出来ません。まぁ二人掛かりでも俺に勝てるとは思えないですけどね」
俺はたたみ掛けるように挑発の言葉を言う。
正直これ以上話を長引かせて、残りの研磨作業が終わらないとかになるとだるい。
アーシアさんは、その発言に一瞬反応してムっと口を動かしたが、直ぐに冷静に戻り
「そこまで仰るのであれば良いでしょう、その挑発に乗らせていただきます。その勇者様を下した御力を見せていただきましょう」
やれやれといった表情で快諾するアーシアさん。
何か勘違いと誤解があるようだけど、真意なんだが。
この間、アーシアさんが声をかけるまで剣を片手に全く動けず話にも入れなかったカリスだったのは放置で良いだろう。
その後、表に出て一対二で向き合い勝負が始まるが、勝敗は一瞬で決まる。
開始の合図を最初に会った初老の私兵が行なう。
同時に俺は[迅雷]で加速しての一撃をアーシアさんの首元に突き立て鞘をカリスに投げつけて終了。
まぁネタバレをすれば、俺がアーシアさんの言う高額や希少な物だという事を理解して、負けるためにワザと二人を相手にすると言ったのだと誤解していて、完全に油断していた事で出来た事だ。
「俺の勝ちなんで剣は受け取ってくださいね。あっ後、これで今回の事は終わりで。これ以上は騎士の約束に反しますからね。では俺はこれでお暇させてもらいます」
俺はアーシアさんにそう告げてから、その場を全速力で離脱する。
微かに去り際に何か聞こえたけど知らん。俺は作業があるのだから。
その後、工房に帰宅後に師匠に事の顛末と騎士の約束で剣を渡した事を伝え、何かあっても突き返すように伝言と対応を頼んで、俺は研磨作業を始める。
作業中、師匠とアーシアさんが揉めている声と、最後にアーシアさんのなんとも言えない雄叫びが聞こえたが知らん話だ。
だが
「本当にごめん師匠」
俺は謝意をひとりこと独り言で呟き合掌する。
その後、師匠に小一時間の説教を受けたが。
「まぁ、上客になったから良いかのう。ふぉぉふぉふぉ」
と上機嫌に言っていたので何か商談が決まったのだろう。
後日、店の中にあった不良在庫が消えていたのと、その日の晩飯にかなり良い肉が出てきたのはまたこれとは別の話なんだろう。
そうだろ……うん……ですよね? 師匠?
鞴※ 金属の加工、精錬などで高温が必要となる場合に、燃焼を促進する目的で使われる道具。形は脚踏みや手押し。大きさも様々ですが今回の鞴は日本式の手押し鞴です。本来なら脚踏み式の西洋形式なのですが、絵図らが悪いので手押しで保管ください。
コンタ※ コンタマシーンの略称。 所謂、巨大な糸鋸といいますか、回転式の鋸ですね。刃自体がベルト状で其れを回転させて使う機械です。刃には、鉄、鋼、ダイヤモンドが有りますね。
元の世界の知識※ 此れに関してなんですが、話の中で書くとヤヤコシイ事になるので※です。
以前にも木目金で話しましたが、基本的に折り返し鍛造や木目金製法で金属同士が引っ付く理論
は溶着ではなく、分子同士が摩擦で噛み合っているだけと話しました。今回は其れを魔法でやった形になります。 純粋に溶接とも考えましたが、其れだと強度及び弾性、剥離性、合金化による脆弱化が有るので此方で考えてます。




