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異世界なのだから最強の剣を求めるのは普通だろ  作者: 雪兎
1章 始まりと学園と青年紀
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第16話 姉と妹と勇者の言葉と

遅くなりました。お盆も終わり残暑の季節。 

私は本業の展覧会が増えたのと夏バテのダブルパンチです。

今回は中間話なので次回は本題とバトル回が続きます。戦闘描写を頑張ります。

 


 俺は未だ脇腹に残る鈍痛に耐えながら代表席から闘技場で繰り広げられている試合を見ている。


 今回の闘技場は以前の試合で使われた魔法とは違い特殊な魔法で覆われている。


「俺の勝ちだァァァァァ!」


 闘技場で試合をしていた魔法騎士課の男が大声を出しながら剣を振りぬいた。


 もしも本当の戦場や死闘なら首と頭がサヨナラしていただろうが。

 その斬撃が決まった場所が一瞬光ってから金属を砕いた様な音が響き渡った。

 斬られた男の首は繋がっていて何ともない。ただ細かい傷は身体に残っておりどちらも満身創痍の状態だった。


 アレじゃどっちが勝者なのかわかんねぇな


 そう思っていると。


「決まったぁぁぁ! この勝負、魔法騎士課一年 グラハム・レド・ニークス の勝利だぁぁ。初戦から白熱した試合をありがとう。選手は闘技場から降りて医療魔道課の治療を……っおっとぉぉ、何だあの美女集団は、アレが医療魔道課の医療集団だと言うのか。うらやましすぎるぞぉぉぉ――実況は騎士課二年報道部部長エルニル・レ・ミッシェルがお送りしました」


 この先輩は、試合中ずっと暑くるしい実況と勝利者と後の誘導を放送していたが、後半は完全に私怨が篭っていた。

 確かに医療魔道課の代表達はこの学園でも有名な美人ぞろいだ、妬みも出るだろう。


 それにしても、二年医療課トップの先輩……どこかエイルに似てるような……


 そんな事を思いながら医療課を見ていると、その女性と目が合い優しく微笑み返されてから小さく手を振られた。

 俺はその行動に驚いたが、目の端に一瞬映ったエイルの顔に気がつき更に驚き固まってしまた。


 すると


「うぉっと。学園の宝。学園の女神。学園の至宝。学園一の美女である、【スクルド・ヴァル・フェーデ】様から祝福されている一年がいるぞぉぉぉ。な、ナントその人物は彼の有名な鍛冶師エイズル様の弟子で我騎士課一年の後輩、ヒルト・レーヴァァァァァじゃないか。なんとも羨ましすぎる光景だぁぁぁ」


 フェーデ? フェーデ? どこかで聞いたような……思いだせない


 そうやって思い出せずにいると、


「では第二試合。魔法騎士課1年 アテン・ラー・センブと……女神から祝福を受けた渦中の男ヒルト・レーヴァァァァァの対戦だ。ここは同課の後輩を応援したいが、アテン選手に一言を贈りたい。ヒルト選手をボコボコにしてくれぇぇぇ」


「スゲー私怨だな……本当にアレが先輩とか止めてくれよ……なぁ、グラン」


 俺は闘技場に上がる前にグランに同意を求めるが、グランは無言無表情でサムズダウンで返答してきた。

 俺は諦め半分に闘技場に向き直る。すると相手の選手は大きな拍手と声援の中、闘技場に上がってきた。

 俺も続いて闘技場に上がるが


「何でお前なんだー」「女神様の笑顔をいただくなんて、爆発しろー」「負けろー」

「御姉様の微笑みを独占なんてゆるせませんわぁ」


 等と男性陣からの大ブーイング。一部例外的に女性の声も混じっていたが……


 何で俺がこんな目に……有り得ない

 俺は脇腹の鈍痛と今の状況によるダブルパンチでイライラし始めていた。


 そんな思いの中、相手選手と闘技場中央で向き合うと


「女神様をどの様に誑かした、この悪魔め。そして、貴族に対しての悪行も聞き及んでいるんだぞ。我剣で貴様の化けの皮を剥いでやるから覚悟しろよ」


 等とほざきながら俺に剣の切っ先を向けてきた。


 コイツもか……どいつもコイツも……ウザ過ぎる

 俺は心底呆れてしまうのと同時にイライラの限界が来た。



 そして、大銅鑼の音が鳴り響くき、同時に、


「試合の開始でぇぇぇぇ………すぅぅ?」


 実況者の間が抜けた声と金属を砕いたような音が同時に闘技場内に響く。

 しかし、相手選手はその場を動けないまま膝から崩れ落ちて気絶した。



 俺はイライラの余り相手選手を見る事無く闘技場から降りるとエイルが血相を変えて駆け寄ってきた。


「アンタ何やってのよ! ちょっと腕を貸しなさいよもう」


 俺はエイルの声を聞いて、我に返ると同時に右腕から焼けるような痛みと焦げ臭さを感じて、


「あっ……いてぇぇぇ! めちゃ痛い。エイル、わっ悪い。優しくして」


 情けない声でエイルに懇願すると同時に自分の腕が【迅雷】の局所的な集中で焼け焦げた事に気がついた。


「ああもう、ジッとしてなさいよ。男でしょう」


 エイルが少しだけ焦ったように声を掛けながら俺の腕に回復魔法をかけ始めるが中々痛みが引かないでいる。


 俺は余りの痛みで目を閉じながら、何時もと違い中々治らない事に疑問を感じていると


「エイルちゃん、焦っちゃ駄目よ。もぅ、私に貸してごらんなさい」


 聞き覚えの無い声が聞こえ、それと同時に痛みが一気に引いていき、腕が元通りになるのを感じた。

 そこで、目を開けて腕の方を見ると、エイル似た女性。学園の女神と呼ばれていた【スクルド・ヴァル・フェーデ】が俺の腕に魔法を掛けてくれていた。

 しかし、隣にいるエイルはどこか悲しそうな表情と共に悔しそうな表情を浮かべながら立ってたが、

 俺と目が合うとハッとしてから、目を逸らし医療班の定位置へと帰っていった。

 そして俺はスクルドさんの方を見ると、どこか悲しそうな表情の中に又やってしまったという後悔が滲んだ顔をして、帰っていくエイルをじっと見つめていた。 


 そんな二人のやり取りや、その表情に俺は思う事があり意を決して、


「スクルド・ヴァル・フェーデ先輩。エイルとはどの様な関係なんでしょうか? 宜しければ教えてもらえませんか?」


 俺が真剣な顔で声を掛けると、一瞬だけ目を丸くして驚いた表情になるが、直ぐに元の表情に戻り、俺の耳元で小声で


「情けない所を御見せしてごめんなさいね。ここでは目立ってしまいますのでお昼に図書館裏に。そこでお話ししますので待っていてください」


 そう言って去って行った。


 案の定その光景に闘技会場内からは私怨とブーイングの嵐。

 俺はそれから逃げる様に選手の控え席に急いだ。


 しかし、


「オイ、ヒルト……スクルド先輩と何を話してたんだ? ……この……裏切り者ォォォォ」


 何をトチ狂ったのかグランが俺に掴み掛かってきて、何か意味の分からない事を言いながら問い詰めた。


 しかし、その直後に


「第三試合。騎士課一年次席、グラン・ファルカ 対 魔法師課三席、イーリス・アヌ・ネヴァンの試合だぁぁぁ。両者闘技場の上に上がってくれぇぁぁ」


 その声でグランは俺から離れて闘技場へとむかうが、


 階段を上がりきるとこちらに振り向いて、俺を指差し


「この試合が終わったらキッチリ答えて貰うからな。ちょっと待ってろよ」


 そう言残してから、対戦相手の下へと振り返って歩みを進めていった。


 俺は正直お前も信者かと呆れていたのもあるが、エイルの方が心配でグランの事などどうでも良かった。


 そこで、グランが闘技場に上がってからはエイルの居る医療班の方ばかり見みていた。

 案の定、エイルは俺が見ている事には気がついているのに、目を背けてどこか違う方を見ていて、こちらには決して視線を向ける事は無かった。


 俺はヤキモキした気持ちを募らせて貧乏揺すりを始めていたが、会場内が大きくどよめいた事で、何があったのかと闘技場に目を向けた。


 そして目に映った光景に度肝を抜かれ、


「はぁ? どうやったらあんな状況になるんだよ」


 驚きのあまり声を溢した。


 なぜなら、

 俺の目の前には魔法師課の生徒と騎士課の生徒が魔法合戦を繰り広げている上に 優位なのはグランという状況だ。


 そんな俺の心を読んだかの様に、


「コイツはどういう事だァァァ。騎士課なのに剣を一度も抜くこともなく炎の魔法だけでイーリス選手の毒魔法や幻惑魔法をことごとくを、打ち払っておりますぅぅう。その影響で闘技場一面が大火事だぜえぇぇ。グラン選手、我が後輩ながら恐ろしい子だぁぁぁ」


 その実況の御蔭で俺は事態を把握したと同時に呆れた。


 戦場……いや……試合という真剣な戦いの場なのにアイツは、朝の修練の時と同じ事をしていたのだ。


 アイツ曰く

『男が女性に剣を向けるなんてできない。向けて良いのは、愛情と情熱と、真っ赤な花束だけだぜ』

 と毎度笑顔で言っていたが。


 それを実戦するなんて馬鹿の何物でもない。しかも、相手の土俵に上がってやるなんて、バカを通りこして形容しがたい物になっていて、俺は呆れを超えて心底感心を覚えて、目頭を押さえて俯いた。


 その後直ぐに


「ここでイーリス選手ギブアァァァプ。激動の魔法戦を勝ったのは、騎士課 グラン・ファルカァァだ。文字通り情熱だけで女性魔道師を落としましたぁぁぁ。彼の情熱溢れる魔法に拍手をぉぉぉ」


 先輩の暑苦しい実況も合い間ってか、灼熱のウザサを感じて、俺はさらに頭を抱えていると。


 闘技場内の一部の男性陣が歓喜の雄たけびを上げた。

 闘技場を見るとイーリスのローブが汗で濡れて、まるで雨に濡れたかのように、生地が半分透けており、纏わり付いた布が、彼女の身体のラインやら下着のラインやらを鮮明に浮き出した。

 そんな状態だったのだ。

 まぁ彼女のスタイルとミステリアスな容姿も相まって妖艶な事この上ない為に起きた雄叫びとグランへの称賛だったのだ。


 その雄叫びと称賛で彼女は身体を隠す様にその場にへたり込み、医療班の女性陣が慌ててタオルを掛けて連れて行った。

 その後女性陣から罵倒と嫌悪と非難の声で男性陣が糾弾されて小さくなり、グランが闘技場でそれ以上の怒りを受けた事は想像に難くない事柄だろう。


 その後はフランとノエルの試合を除いては大して何のハプニングもなく順当に試合は進んだ。

 2回戦目も俺は魔法師課の四席相手に体術のみで速攻。グランも男相手という事もあり、魔法騎士課の3席相手に速攻を決めていた。

 しかし、一回戦の時も感じたが貴族(セカンドネーム)が持つ武具と平民が持つ武具の差が酷すぎる。体術や魔法、剣技の差があっても武具で帳消しなんて状態だ。

 授業では、全員同じ木剣や木杖だったから実力だけだったが、この大会では私物の武具を持ち込み可な為に実力云々は関係の無い物になっていた。


 結果、

 支給品を使う平民者で勝ち上がったのは、たったの3人。

 しかし、一回戦はまだ技術や力でどうにかなっていたが

 二回戦目の戦いでは、


「これより二回戦第5試合、騎士課、ニール・アイアース 対 騎士課 カリス・ヘーゲ・アグライアーの対戦を行ないます。同課同士の対戦ですが、どの様な剣撃が繰り広げられるか楽しみです」


 何時の間にか女性徒に実況は変わっており、その鶯のような声には華がある。


 そんな華のある闘技場中央で向かい合う二人だったが、

 開始の銅鑼が鳴り響くと同時にカリスが動いた。


「ニール。そんなボロ剣で俺とやり合うとか運が無いよな」


 凄く極悪というか、顔芸が過ぎる表情で剣を横薙ぎする。


 対してニールはそんな言葉を聞いてもいないのか冷静に受け流して、カウンターを決めていく。


 俺はその剣技を見て

 なんだろう……どこか違和感を感じる剣技だよな、全部急所を狙わず肩や脇腹、太腿と相手の動き封じる場所にしか攻撃してない。

 戦法としては問題はないけど……真綿で首を絞めるというか相手を苦しめるためにワザとやってる様にしか見えない。


 そう思いながらも、冷静に試合を見ていると、

 案の定、カリスは四肢に攻撃を集中された結果動きが鈍くなり、戦況は徐々にニール優勢に傾向いていく。


 しかし、


「平民らしい姑息な戦い方だな反吐が出る。だが覚悟しろよ平民。これが俺の力だァァ!」


 カリスが負け犬の遠吠えを吐いた様にも見えたが、剣が水流を纏い青く綺麗な輝きを放ちながらニールに対して剣を振るう。


 ニールは淡々とした表情で剣で受けようとするが


「! ……剣が」


 まるでバターを切るように支給品の剣は切れた。

 さらに悪い事に、受け方も悪かったのか致命傷ではないが太腿を斬られて動けなくなっていた。


 そして


「平民が調子に乗るから悪いんだよ。これが貴族と平民の違いだ分かったかよ屑が」


 その後直ぐにトドメを差さずにカリスは、意趣返しとばかりに、四肢を浅く切りつけ始め、そんな攻撃から逃げるニールに対して、背後からジワジワと、まるで真綿で首を絞める様な攻撃を繰り返す。


 正直見ていて気分の良い物ではない。それに、

 ルール上、致命傷を与えるか降参するまでとあるので仕方ないが、誰の目にも明らかに勝負は決まっている。

 それでも、誰も声を上げず、むしろ、楽しむような声まで上げて盛り上がり始める。


 俺は、堪えかねて、


「勝負は付いてるだろ! ニールお前も降参しろ!」


 俺はその光景に怒りを覚えて声を荒げて叫んだ。

 そして、俺の声と同時に一つの影が闘技場の魔法を切り裂いて武台に上がり


「騎士がそのような戦い方は美しくないよ。それに僕も一応は元平民出身なんだ、それくらいにしておかないと僕もちょっと許せなくなるんだけどな? 良いかな?」


 ノエルがカリスに剣を突きつけて声を掛ける。


 そんな、熱気に水を注すような、ノエルの行動に会場から、どよめきが起きるが、


「これは申し訳有りません勇者様。別に勇者様の出自を貶す意図は全くございません。どうかお許しを」


 そうカリスは今までに見た事の無い速さでニールに背を向けてノエルに土下座を決めた。


「別に怒ってもいないよ。唯、余りにも過ぎた攻撃だったからね」


 そう言って、あの胡散臭い笑顔を作ってから会場の全員に頭を下げて闘技場を後にしようとした時。


「止めろニール!」


 俺は闘技場内で起きた出来事に再び叫びながら、ノエルが切り裂いた魔法の切れ目から迅雷でカリスの後ろまで全速力で移動し、ニールの折れた剣をナイフで受け止め。


「お前どういうつもりだよ。それに、こんな事をしてもお前の負けだぞ」


 俺は、力の増す剣を受けながら睨みつけて言い放つが、


「戦闘中に背を向けるのが悪いんだろ。戦場だったら俺じゃなくてコイツが死んでいたんだろ。なら何の問題もないじゃないか? それに、セコイのはこいつ等貴族じゃないか? あんな強い武器で戦って勝つなんて」


 俺はその正論に、言い返せなかった。

 確かに、戦場でならカリスは死んでいただろうし、武器の事のに関してもそうだ。もしもニールが同等もしくはウーツ鋼の剣だったらと考えるとその通りだ。


 でも、どこか釈然としない感情の中、俺はニールの折れた剣を受け止め続けた。


 そうしていると、唐突に腕が伸びてきて剣を掴み、


「君の怒りは良くわかるよ。でもこれで許してあげてくれないかな? 僕の血くらいで収まるならだけど」


 あの胡散臭い笑顔を崩さずに淡々とした口調で話す、その声でノエルだと分かった。


 そして、伸びた手が掴んだ物は、剣の刃の部分だったた。

 そのめに、剣を滴るように、手からは鮮血が流れ出ていた。


 その事でニールもカリス、むしろ会場全体がザワつき始め、そのざわつき、流されるかのように、ニールは剣を手放してワナワナと震えながら膝を突いた。


 それを確認したノエルは血の出ていない右手でニール肩を叩いてから会場全体に対して


「皆さん。王の話していたこの国は実力主義で平民や貴族といった垣根は無いと言っていた意味をもう一度考えて貰いたい。今回みたいに以前の様に貴族が振舞えば憎しみが生まれるし、平民も貴族だからと忌み嫌うと貴族にも不平不満が募るんだよ。もう一度言うよ。この学園は実力主義で全員が友であり学友なんだよ。その事を考えてくれないかな?」


 そう言い放つと血の流れている左手を掲げながら闘技場を後にした。


 そして、俺の横を通る時に


「気付くのが遅くなってごめんね」


 と耳横で言われたが。


 俺が迅雷でアイツの横を通り抜ける時に一瞬見えた顔は気が付いてた物だった様に見えたし、アイツ位の実力者が気が付かない訳が無い。


 その事から俺は


「良いように使ってくれやがったな。本当に気に食わないよ」


 そう独り言を口にする。


 その後、会場は落ち着かない雰囲気に包まれてしまい試合が再開されなかったが、医療課の治療で血が止まり元に戻ったノエルの手と言葉で会場は落ち着きを取り戻し、試合が再開された。

 結果は俺とグラン以外の平民出身者は全滅、しかも基本的に武器破壊や相手の特殊な武具による敗北だった。



 午前の部も終了して昼食の時間


 会場や食堂では、ノエルの話題で持ちきりで居心地が悪い。というか、俺の事は完全に無かった事になっていたので感謝したいが、良いように使われて引き立て役にされた事が腹が立つ。

 という複雑な気分だったが、俺は今はそれとは無縁の図書館裏に居る。


「待たせてしまったかしら? ヒルト・レーヴァ君」


 長い白金色の髪を靡かせ、白い肌に少し汗を滲ませたスクルド先輩が少し息が上がったような声で俺に言う。


 その様子から走って来た、という事が一目で分かり


「いえ、全然待っていませんよ。それより走って来させてしまってすいません。スクルド・ヴァル・フェーデ先輩」


 俺は体を60度に傾けて頭を下げると


「そんなに改まらなくて大丈夫ですよ」


 と慌てたように、手を動かしながら頭を上げるように促し始めた。


 それに対して俺は


「それなら、スクルド先輩もフランクに接してください。どうしてもエイルと容姿がどことなく似ていて、ムズ痒いんで」


 少し引き攣ったような笑顔で言うと


「そんなに私とエイルちゃんとは似ていますか?」


 少し嬉しそうに、どこか照れたような、そんな表情で俺に尋ねてきた。


「そうですね、雰囲気というか全体的にどこか似ていると思います」


 そうエイルとスクルド先輩は、輪郭とか髪の色や肌の色は全く違うのだが、目や鼻、口と顔を構成するパーツが丸っきり一緒で、体型も似ている。


「良かった。違うと言われなくて。嬉しい」


 そう言い笑顔を向けられ、俺は心臓の高鳴りを感じた。


 むしろ、

 エイルが笑ったら……いやいや、俺は何を考えてるんだ。ナイナイ、あんなガサツで俺を馬車馬の様に扱っても顔色一つ変えない女なん……だ


 そう思いながらも複雑な気持ちと本題を思い出し、首を軽く振ってから


「先輩、本題なんですけど。エイルとはどんな関係なんですか? アイツが治癒魔法を……いや、あんな風に取り乱していた事と関係があるんですか? 教えてください」


 俺が真剣に質問すると。


「貴方はエイルちゃんと仲が良いのね羨ましいわ……貴方からの疑問に答える前に、あの子が【デミ・ヒューマン】や【売女】と呼ばれている事は知っているのかしら? その原因が出自に関わっている事も?」


 俺はそのどこか悲しみや悔しさが滲み出ている彼女の言葉で質問をされた。


「知っています。それに、アイツとの切っ掛けもその事から始まった事ですから。でも、それが何か意味があるんですか? アイツはアイツだし、そんな事はエイルの人柄や優しさとは関係の無い話だと思うし、今のアイツがあんな風になった事とは違うと思います」


 そう俺は感情任せに言ってしまった。

 特段スクルド先輩がおかしい事を言った訳でもないし、心配をして言っている事くらい分かる。多分俺が感情的になった理由は、【デミ・ヒューマン】や【売女】という言葉に対してと、ノエルがしたあの行動に対しての苛立ちからだ。


 でも、その言葉を聞いたスクルド先輩は、一瞬驚いた様な表情をした後に母の様な姉の様な、そんな優しさのある安堵した顔をして、


「そうね、そうなのね。あの子には、こんなに貴女の事を思ってくれている殿方がいるね。これで安心してお話ができるわね」


 そう自己完結したように納得していたので


「あっあのう、俺の質問に答えてもらっても?」


 悪いとは思ったが口を挟むと、

 そうだったわと、一言呟いてから真剣な表情に変わり、


「私とあの子は異母姉妹なの。私達、貴族では当たり前にある事なのだけれど、あの子の母である【シヴァ・ロタ】様は、アールヴ族の姫だったの。それが原因であの子は周囲から忌み嫌われ、更には姉である私と周囲から比べられてしまい、心を閉ざしていたの――」


 スクルド先輩の話を纏めると

 この世界ではスキルの強化や遺伝的に強い力を発現させる為だけに、一部の地位に在る者には一夫多妻制を敷き、より強い戦力を確保してきた歴史があるらしい。まぁ、家の爺もその過去の事で生まれたアールヴとのハーフであるからよくわかる話だった。

 しかし、その血が濃いエイルに対して周囲が良い顔をせず、あまつさえ同系家系であるフェーデの人達が率先してしいたげていた様だ。まぁ、その事で当主である、エイルの父、クヴァシル・ヴァル・フェーデが虐げていた元妻達を罷免して現状に到る様だが。

 その問題の解決を依頼したのが、現本妻のスクルド先輩の母で、その依頼元で手を(こまね)いていたクヴァシルさんを強く叱り御家を立直したのが、俺の師匠であるエイズルであるという経緯がある。

 そして、エイルのセカンドネームが違う理由はシヴァさん本人の強い意思による所らしいが、(おおむ)ね母親同士は仲が良く、クヴァシルさんも二人を平等に愛し支えているらしいが、過去の事でエイル自身が心を閉ざし父親以外と上手く行っていないらしい。


 まぁそんな事もあり、スクルド先輩はエイルの事を気にしていて、どうにか仲良くできないかと奔走しているが全て逆効果だったりと大変らしい。近くにいるとエイルがガチガチに固まったり、挙動不審になったり、いつもはしないミスなど etc が起きてどうして良いか分からないと。



「お話は分かりました。でも、変な話ですよね。エイルとは短い付き合いですけど……もしも、先輩の事が嫌いならアイツならきっと無視するか、そもそも意識しないと思うんですよね。それが意識して動揺したり口ごもったり話が上手くできないって事は無いと思いますよ?」


 素直に俺は感想を述べた。

 だって、ヘレネーとの事を見るとそうだからだ。アイツは事あるごとに起きるへレネーの行動を無視するか、意に介さないか、酷ければ実力で排除しているからだ。


 その言葉を聞いた先輩は、


「本当ですか? でも、それなら何故あの子は私を避けるといいますか……貴方達の様に上手く話せないのでしょうか? 何故なんでしょうか?」


 取り乱したように俺を掴んできた。


「ちょっちょっと落ち着いてください」


 俺が慌てて落ち着く様に促すと、ごめんなさいと謝ってから、深呼吸をして身を立て直してからシュンとしていた。


 その光景に俺は、この人が本当にエイルの事を心配していたり、仲良くしたいんだという事を知り、


「まぁ、本人に真意を聞かないと分からないですけど、今までの事でアイツもどう接して良いのか分からなくて迷ってるんだと思いますし……うーん。 俺がそれとなく聞きだしますよ。それで良いですか? 俺もアイツがこのままじゃ気になるし嫌だから」


 そう言うと、お願いしますと頭を下げられた。


 その後、少しエイルのことを話した後、別れ際に


「あの子は、本当に良いお友達を見つけたのね。いつも御父様には貴方の事や、グラン君やフランさんとの事を楽しげに話しているそうよ。御父様曰く、貴方の話が一番多いと少し嫉妬していましたが。少し意味が分かりました」


 そう言って少しだけ最初とは違う笑顔を見せてから去っていた。


 俺は先輩との話で遅れたが、グランやフランとエイルの居る何時もの中庭へと走って行った。

 俺がその場所に着くと、少し気まずそうにエイルが早々に


 「朝はごめん、上手く回復させてあげられなく……」


 そう不器用そうに謝ってきた。


「構わないって。それに一番早く気がついて直ぐに魔法で痛みを取ってくれたし、今日は調子が悪かったんだろう? ありがとうな」


 さっきの話があったので俺は気を利かせておいた。


 すると少しだけキョトンとした表情をしていたので、


「それより腹減ったからさ弁当くれよ。まだ俺の分残ってるだろ?」


 そう言って俺はエイルの肩を叩いてから、座っているグランとフランの方に行き目の前の弁当を見て目を疑った。

 そこには空になった弁当箱と中身を全て食べたであろう、主犯二人が悪い顔と怒りの表情をしていた。


 その後、エイルの計らいによって飯にはありつけたが、今朝の先輩との事や今までどこに行っていた、等という、詰問に遭った事は言うまでもない。

 ただその間、エイルがいつもの様に笑っていた事は良かったと思う出来事だ。



 お昼も終わり試合後半。


 流石に魔法のある世界というのだろうか、それとも医療魔道課が優秀なのか、連戦しているのに万全の態勢で試合ができるって凄い。


「これより午後の部の開幕だぁぁぁ。昼飯も食べて元気一杯の俺が実況に戻って来たぞぉぉぉ。早速だが第三回戦一回戦の組み合わせだ、これまた騎士課同士の組み合わせで、ヒルト・レーヴァ 対 カリス・ヘーゲ・アグライアーの対戦だ。今朝の事もあるので俺は、カリスを応援するぞぉぉぉ」


 等と私怨の様に聞こえるが、最後に起きた事件に対する配慮だろう……と思いたい。


 俺とカリスが闘技場中央で向き合うと


「さっきの事は感謝するが、貴族が平民相手に劣っているなんてありえないしお前に負けた事も忘れない。要するに俺はお前が嫌いだ。だが助けてくれた事は感謝しといてやる。ありがたく思え」


 等と、初っ端から訳の分からん虚勢と遠吠えを吐かれたが、先輩との話で俺も少しはコイツにも何かあるのだろうと思って、


「素直じゃないな。だが俺もお前が嫌いだ。それに、俺に勝ちたいならもっと良い武器でないと勝てないと思うぜ? そんな剣とお前の技ならな」


 と少しは大人な態度を取ってあげる。


 しかし、それに対して


「おおっと、開始前から白熱した掛け合いか? ここまでは何を言っているか聞こえないが、ヒルト選手の事だ初戦の様にしてやるや、悪魔の様な事を言ってるにきまってるぜぇぇ」


 と外野の先輩から冗談を言いはじめたが、……冗談に聞こえないので止めて欲しい。冗談だよな?


 そうこうしていると開始の銅鑼が鳴り、同時に


「勝てるか勝てないかは、コイツを受けてかほざけ平民」


 掛け声と共にカリスは剣に水を纏わせて切りかかってくる。


 俺は一瞬だけ後方に避けようとも考えたが


「はっそんなナマクラでどうしようってんだよ?」


 真っ向から受ける事にして、水流に対して直角、つまり刃と刃を当てるというやり方で剣を受けた。


 するとカリスが驚愕の表情を浮かべ、同時に後方でから水柱が立つ音が鳴り響き、


「ありえない……我が家の秘宝の剣とお前のナマクラが同等だと?」


 等とほざき始めた。


 まぁ目の前で剣から発生する水流、要するにウォターカッターの刃を切り裂いていて、あまつさえ後方に避けると思って発生させた水柱も不発なのだからしかたないけど、俺の剣をナマクラ呼びだけは許せないので力とフィジカルブーストで強引に剣を跳ね返してから、


「その程度の剣が家宝とかどうよ? まぁ何回、何万回受けても俺の剣は切れないと思うけどな?」


 そう挑発すると、


「舐めるなぁぁぁ! 我が家の秘宝の剣でお前の剣など切り刻んでやる!」


 沸点が低いのか、頭に血が上ったのか型などお構い無しに剣を振るってくる。


 俺はその尽くを受けてみた。

 結果は俺の剣は無傷それどころか、洗浄したように綺麗になっていたので、


「ほう、良い洗浄機だな。お礼に俺から取って置きを見せてやるよ」


 俺は剣を鞘に納め。

[電磁加速抜刀レールガン]の体勢に入り、プラスで初戦で見せた迅雷の極所的使用を併用した技を放つ準備をする。今回は電圧を抑えているのであんな事にはならない


「シッ」


 俺は掛け声と共にその技を放つ、音速を超えるかは分からないが斬線だけを残してカリスの剣に当る。

 俺が剣を鞘に終うと同時に、金属音と共にカリスの剣は二つになり剣の中ほどから上だけが地面に落ちた。

 一部の人には放つのと(しま)うのが同時に起きたように見え、何故カリスの剣が切れたのか理解していないようなのと、家宝が切れた事を理解したくないのか固まっているので。


 軽く首に剣を振るうと一瞬光ってから金属を砕いた様な音が響き渡たった。


「決着ですぅぅぅ。 今何が起きたのか俺には理解できなかったぜェェ。剣が光ったと思ったら剣が切れていたぁぁぁ。何を言ってるのか分かるやつは解説を変わってくれェェ。そして、俺は後輩のアイツとは戦いたく無いとだけ言っておくぜぇぇぇ」


 俺は先輩の実況を聞きながら闘技場から降りる。

 降りる途中、後方からカリスの絶叫する声が聞こえた。


 悪い事をしたかな? 仮にも家の宝物を壊したんだからアイツ叱られるんだろうな……ナマクラと言われてカッとしすぎたかな? ……うーん。しゃあない、1本余分に造るくらいなら手間は変わらないか。


 なんて考えながら俺は選手席に腰を下ろした。


 隣でグランが少し青い顔をして、


「お前アレはヤバイだろ? 弁償なんて言われたら弁償できるのかよ?」


 その言葉に対して


「ああ、大丈夫大丈夫。アレくらいの物なら直ぐに用意できるし。それに、俺の打った剣の方が高いぞ? 師匠のお墨付きで金貨10枚で販売してるからな」


 と俺が軽く笑うと、自分の剣を見て


「えっ? もしかして俺との約束の剣て? そのレベルと言うか! まさかフランシスとエイルの武器ってその値段のかよ?」


 コイツは何を言ってるんだ?


「お前の持ってる剣と俺が切った剣の値段は同じだと思うぞ? それに、お前に渡す剣がそんなに安い訳無いだろ。最高の素材を手に入れて俺が全力で打つんだぜ? 後内緒だけど師匠曰く、フランとエイルの武器に値段なんて付かないって言ってたからな。安モンだよきっと」


 俺は笑いながら話した。


 師匠も酷いよな安モンだなんて。まぁ試作品に値段を付けるのが駄目って意味なんだろうけど。 そういえば、あの言葉の後に俺が試作品ですもんねって言ったら頭を抱えてたけど何でだろう? 

 あと、どこかで師匠のクシャミとタングのクシャミが聞こえた様な気がするけど気のせいか?


 そんな回想をしながらグランを見るとどこか憂鬱そうな、どこか白くなった顔をしてたけど何故だろうか?


 試合開始の銅鑼の音と同時に爆発音と魔法障壁を突き抜ける衝撃が俺達に伝わってくる。

 またノエルがやらかしたのだろう。できれば大人しく戦って欲しいものだ。





次回は何とか8月中に上げれれば良いな……

バトル回終了後、鍛冶回です。

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