36 混乱
気づけば一年たってしまいました……。
大変ご無沙汰しております。
地下通路を走りながら、リードは考え続けていた。
兄はどうしたいのだろうか?自分にも言っていないことがあるのだろうか。
そんなはずはない。リードは自分に言い聞かせる。
自分は兄の影であり、従弟であり、秘密を共有する人間だ。それを支えにしてきた。
自分の命を救い上げてくれた従兄に恩を返すために自分は生きてきた。
今返さずにいつ返すんだ。
自分の命は兄と共にあり、兄と共に消える。
それが影の勤めだ。
ちらりと漆黒の瞳が頭を掠めたが、この感情は無視することに決めていた。
サラの部屋に直接入ることができる道を選び、中を窺う暇も無く飛び込む。
目の前には危惧していた状況があった。
サラの上に馬乗りになった男の顔面を蹴り飛ばし、白目を剥いて気絶した男の手を後ろにまとめ、足も同様に括る。自害できないように布を口の中に押し込み廊下の外に放り投げた。
全てが整ってからサラを振り返ると、小さな身体が縮こまって震えていた。
「サラ」
小さく声をかけると、肩をびくりと震わせる。
服の前が大きく引き裂かれて、
何も考えられずに身を翻し、廊下の男に剣を繰り出そうとしたが、喉に切っ先が届く前にフォーラがリードの手首を掴んだ。
「リード、駄目だ。わかるだろう?」
「どけ」
「駄目だよ。それより君には役割がある」
厳しい目でじっと睨まれ、背後の扉を視線で示されようやく思い留まる。
剣を鞘に収め、小声で詫びてから部屋の中に戻った。
ぱたりと扉を閉めると、ベッドサイドのランプの光がゆらりと揺れた。
「サラ」
先ほどよりしっかりとした声で話しかける。サラはベッドの上で座り込み、自らの肩を抱いていた。
「俺だ。わかるだろ?顔を見せて」
「……やだ」
「見せて、サラ」
前に回ってしゃがみこむ。下から見上げるように覗くと、左の頬が真っ赤に染まっていた。
リードは自身の上着を肩に掛け、細い身体をそっと抱きしめた。
「すまない」
サラは全く動かなかったが、しばらくすると震える手でリードの背中を握りしめて嗚咽を漏らした。肩に水がしみこむのを感じながら、リードはサラの背中を擦り続けた。
私の涙がようやく落ち着いたころ、フォーラさんが廊下から部屋に入ってきたようだ。
リードさんの肩は私の涙でじっとりと濡れていた。
「……ごめんなさい、ありがとう」
「いいや、俺こそ」
そう言って、私の頭を撫でてくれる。
「リード、もう」
「ああ、わかってる」
リードさんはフォーラさんに答え、私の顔をそっと覗き込んだ。
「フォーラに付いて行け。アリスに会える」
「……アリス?無事なの?」
「ジークと一緒にいるはずだ」
「……あなたは?」
私はリードさんのシャツを握ったままだった。
「俺は行かなきゃならない。大丈夫、フォーラと風の精が守ってくれる」
「あなたは?」
「リード、違うだろう、おまえは」
「いいや、俺は行かなくてはならない」
フォーラさんが厳しい声を出したが、リードさんは同じことを繰り返した。
私は認めたくなかった。
「後でね、リオルドさん」
リードさんは一瞬目を見開いたが、やはり何も言わずにそっと私から体を離した。
「行きましょう、急がなければ」
フォーラさんに促され、私は後ろを気にしながら離れを後にした。
お読みいただき、ありがとうございます。




