35 勃発
大変ご無沙汰しております。
離れで穏やかに過ごし、あっと言う間に決行日がやってきた。
私は言われた通りに待機していた。
前日から“みみずく”の皆が準備を始めている様子が見えたが、外に出たい気持ちを堪えた。
窓から外を見下ろすと、“みみずく”の皆すでに芸を始めている様子が見える。
猛獣遣いのお兄さんが客席ぎりぎりまで獣を寄せて観客を楽しませ、その後すぐオルティカ姐さんが建物の屋根から屋根への移動を見せて沸かせている。
いわゆる公務員の皆さんも貴族の人も、普段の職場を使って芸をしてもらうと楽しいだろうな。おもしろい企画だ。
でも、メインらしい歌姫はどうするんだろう。いちおうここにいるのに。
見た目はアリスで誤魔化せるだろうけれど、アリスは果てしない音痴らしいからどうにもできない。
そんなことを考えていると、
突然爆音が響いた。
「え……な、何っ」
窓の外をよく見てみると、どうやら王宮のほうで爆発が起きたらしい。挟み込むように火の手が上がっている。
サーカスの観客もパニック状態のようだ。我先にと出口である正門に向かって走っている。警備の人が頑張っているけど、走る人波を整理することは難しそうだ。
ふと見ると、オルティカ姐さんはちょうど屋根の上に着いたところだったらしく、上から何やら指示を出している。出口に待機させていた大型の馬車を移動させるようだ。確かに門の交通には邪魔なようだった。
劇団の皆は機敏に動いているように見えるが、煙のせいではっきりしなかった。
「みんな大丈夫かな……」
思わずぽつりと呟いてしまう。
独り言だったその言葉に、
「配下の人間より、ご自分の心配をされては?姫殿下」
背後から声が聞こえた。
***
アリスは待っていた。
サラが連れ去られたことも、王宮の庭にいる歌姫がアリスであるということも、一部の人間にしか知らせていない。
アリスが“所用”で姿を消すことは日常茶飯事なので、盲目の歌姫のふりをしていても“鷹の目”の人間は誰も不信には思わない。
彼らが行動するなら今しかないのだ。
離宮にいる“客人”がサラだと知る、裏切者の誰かが必ず情報を流す。不安要素であるサラを、邪魔者であるアリスを混乱に乗じて処分するなら今しかない。
アリスは待っていた。
奴が来ることを。
そして、
それは当然のように始まったのだ。
***
爆音が聞こえた。
「始まったな」
ランスレッド王は静かに断言した。
「では、やはり……」
「逡巡している暇はない。各自持ち場に戻れ。おまえもだ、リード」
「何を言っている。俺は……」
「いいや。おまえは離れへ。俺の異母妹たちを守るんだ」
一家の主は国章の入った首飾りを外して、リードに押し付けた。
「リオルド、時間切れだ。答えは自分で見つけるんだな」
ランスレッド王はにやりと笑った。
「ランス、一体何を、」
リードは言いかけたが、ノックもせずに部屋に飛び込んできたジエルクによって続きは阻まれた。
「リード、離宮だ!サラ様が危ない!フォーラも後から追いつく!!」
ジエルクの切羽詰まった声を聞き、反射的に踵を返す。ちらりと背後を見ると、ランスレッド王が満足そうに笑ってこちらを見ていた。
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