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花の名前を呼んで  作者: 漣 榎乃
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34 回答


ご無沙汰しております。

 キルダが湖に飛び込むと、途端に周囲が光に包まれた。思わず目を閉じると浮遊感があり、目を開けると鏡に映る自分の顔があった。


「おかえりなさいませ、お姉様」


 声のしたほうに顔を向けると、紅茶を持って私に微笑みかけるローズがいて、隣のカウチにはリードさんが不機嫌な顔で座り込んでいた。



「……ただいま。どれくらい経った?」

「4時間ほどでしょうか。旅はいかがでしたか?」

「掴めたような、掴めないような……なんだか夢のようだった」

「幻などそういったものでしょう」

「そうかもしれない」

「問いかけの答えは見つかりましたか?」

 温かいお茶のおかわりを注ぎながら、ローズが言った。

 私はその様子を眺めながら考えた。


 問いかけ。「13代目が考えていたこと」。

 結局第三者からの目線からのことしかわからなかった。

 本人がどういった思惑だったのか、キルダが考察しているだけで本人のものではない。


 鏡は問いかけに答えていないのだろうか。


 だが、


「……そうだね。納得はできた、かな」



 本当に知りたいことなど、最初からわかっていた。


 

 この世界に来て、一度も戻りたいと思わなかったことを。

 この世界の空気に違和感を覚えないことを。

 父が教えてくれた言葉を使う度に、この世界に「帰ってきた」と感じていたことを。


 育った家を思い出して寂しくなっても、「戻る」という選択肢はなかったことを。



 ずっと考えていた。

 父は本当にあの世界の人間ではなかったのか。

 私は本当はどちらの世界にあるべきなのか。


 父のこの世界での生き様を知ることが全ての答えだということを、鏡は見抜いたのだ。

 誰にも言わなかった疑問の答えを得られたということは、真の問いかけに気づかれたということなのだろう。



 それは確かに、

 私があの国で異質で、

 この国では特殊だということだ。





「おい」


 私とローズの会話にリードさんが割って入ってきた。

「断り無く国宝を使うとはどういうことだ。使用を感知した魔術局のやつらが慌てていたぞ。なんとかローズの名を出して凌いだが」

「まあ、それは失礼しました。でも何事も無かったでしょう?」

「何かあってからでは遅いんだぞ!夢に引っ張られたまま戻ってこれない可能性だって、」

「ありえませんわ、分かっているでしょう?」

 ローズが言い切ると、リードさんはぐっと黙った。不思議そうに眺めていると、ローズはにこりと笑ってリードさんを見た。

「それで?何か伝言があったのでは?リオルド殿」

 リードさんは眉間に皺を寄せたがはあと溜め息をつき、私に顔を向けた。


「決行日が決まった。3日後の夜だ。サラは離れに待機していろ。俺が来るまで部屋から出るな」

「分かりました」

 私は頷いて、ローズが差し出したカップを手にとった。

 水面を見て、どうやら自分は動揺しているようだとわかった。



 正直現実味は全く無いが、囮作戦は決定したようだ。

 本当に来るのだろうか。




 その時が、着実に近づいてきている。





お読みいただき、ありがとうございます。


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