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花の名前を呼んで  作者: 漣 榎乃
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33 変更

ご無沙汰しております。


 アリスはランスレッド王の傍らで窓の外を眺めていた。中庭を挟んだ反対側の棟の一室から一瞬光が溢れ、すぐに消える様をじっと見つめていた。

 しばらく待つと廊下を歩く靴音が聞こえ、ノックの後にフォラシスが入室する。

 ノックの音にもアリスは全く反応を見せず、ランスレッド王は寝台の枕に身を預けたままフォラシスを迎えた。

「……渡ったか」

「はい」

「あの子は何を望んだ?」

「……お父上が、何を望まれたのか、知りたいと」

「……そうか。あの子にとってこの国はまだ距離があるな」

「距離は埋まらない」

 アリスは窓の外に目を向けたまま口を開いた。

「虹向こうで20年過ごしたサラにとって、この国は物語の中と同じだ。冷静だがそれは読者だから。受け入れているがそれはサラにとって現実ではない。物語の登場人物の一人だと自覚させなければ、な」

「自覚か……」

 ふう、と息をつき、ランスレッド王は目を閉じてしばし考えた。

 息をするのも億劫そうなその姿を、フォラシスとアリスは黙って見守る。

 やがて王は目を開いた。

「……そうだ、な。そうだ。何を迷う必要がある。一家の安寧を守るのが長男おれの役目だ」

 ランスレッド王は窪んだ瞳を爛々と輝かせ、くつりと笑った。

「アリス、俺は決めたぞ。あいつへのはなむけだ」

「兄上……?」

「フォーラ、変更だ。ジークを呼んでこい。リードはローズに付いているだろうな?」

「はい。先ほどからサラ様をお見守りしています。……ジークだけ、ですね?」

「そうだ。行け」

「はっ」

 フォーラが一礼して部屋を飛び出した後、満足そうに笑む王を見て、アリスは怪訝な表情を隠せない。

「兄上、一体何を……」

「これが正しいと思っていた」

 アリスの問いかけに答える事無く、ランスレッド王は語り始めた。

「リードも俺も生を続けることに無理を感じていたんだ。俺は病だし、あいつは血を自覚した時から罪の意識を持ち続けている。今回で俺とあいつは救われると信じていた。死んだ後のことも抜かりなく準備したが、気が変わった」

 黙りこんだ聡い異母妹を見やり、にやりと笑った。

「俺はあいつの初めての欲を奪うほど落ちぶれてはいない。他を道連れにしてくれる。……おまえは嫌がるだろうがな」

 アリスは黙って兄の言葉を受け入れた。

 満足そうに笑った王は、ジークたちが着くまでの短い間、瞳を閉じた。





お読みいただき、ありがとうございます。


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