28 魔鏡
ご無沙汰しております。
しばらく眺めていたが、ふと部屋の隅に置かれた布の掛かった家具が目に入った。
気になったので近づいてみる。
「あ、お姉様、それは」
ローズが慌てたように私を追ってきた。
「これは、何?」
「あの、それは」
「すごく、気になる。見ても良いもの?」
「……お姉様なら、見ても許されるものです。国宝“魔法の鏡”ですわ」
「え」
「どんな質問にも答える鏡と言われていますが、実際に使いこなせる者は限られています。質問によっては答えを得られないものもありますし」
「どんな質問にも答えるのに?」
「鏡は対面者が真に知りたいことに答えようとしますが、事実以外の個人の意見が必要な質問には抽象的な答えしかできないのです。昔、美しさに自信のあった妃が鏡に“この世で一番美しいのは誰か”と質問して、結局回答を得られなかったとか」
「へーえ」
試しに聞いてみることにした。
「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのは、誰?」
何の気なしに聞くと、
『それは実であり、』
脳内に大きく声が響いた。思わず頭をおさえたが、声は止まない。
『それは虚であり、』
『それは主観であり、』
『それは客観であり、』
『それは色であり、』
『それは形であり、』
『それは大地であり、』
『それは大気であり、』
『それは生であり、』
『即ち死である』
嵐のような声が止むと、静寂が戻ってきた。
ふと顔を上げると、ローズ姫が心配そうに私を見ている。
「大丈夫ですか?」
「なんというか……すごいね。ローズ姫は平気?」
「質問者しか、問の答えは聞けないのです。しかも私には魔力がほとんど無いので、鏡の声は聞こえません」
ローズ姫は私を椅子に促す。
「何にでも答えてくれるわけじゃないんだね。なのに国宝なの?」
「魔術には公式があり、それに倣って見合う魔力を当てはめれば使いこなせるのです。これはその公式から外れたものですから、誰でも作れるものではありません。ですから貴重なのです。長時間使用すると鏡に引き込まれますので、王族が保管することになっています」
ローズ姫はじっと鏡を見ていたが、おもむろに立ち上がって、部屋の隅にあったお茶のセット一式を並べ始めた。
「お姉様からの問いになら答えましょう。ご確認されたいことがあればこちらで視ることができます。……私が答えられない、知りえないことも、あるいは」
ローズ姫は少し悲しそうに俯き、そっと私に頭を下げた。
「私はここにおりますから、ごゆるりと時間の旅を」
私は少し迷ったが、好奇心には勝てなかった。
鏡を見つめて私は問いを投げかけた。
「…………イレリア13代目国主は何を求めていたのか?」
鏡は一瞬沈黙したが、ガラスの向こうに私の見たかったものを映し出し始めた。
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次回より過去話です。




