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花の名前を呼んで  作者: 漣 榎乃
28/41

27 側妃

お久しぶりです。



 翌日、指示通りローズ姫の所へ向かう。

 ローズ姫は相変わらずにこにこと私を迎えてくれた。


 これからきょうだいの身に何が起こるか知らないはずが無いのに、王族とはこういうものかと驚く。

 ローズ姫も城内から出ないよう言われているようで、私に城の中を案内してくれた。

 王宮は王族の居住スペースと執務棟に分かれているらしく、居住する城はなかなか広い。私室や書庫、衣裳部屋を見て、さらに奥に向かう廊下の途中でローズ姫が足を止めた。


「どうしたの?」

「……この先には、前国主の妃たちの私室がございますの。ご覧になりたいですか?」

 ローズ姫は少し不安そうな顔でこちらを見上げた。

 前国主の妃たちの私室、ということは、つまり、


「ローズ姫が嫌じゃなかったら、見たい。無理に見たくはない」

 やはり好奇心には勝てない。

 ローズ姫は少し黙っていたが、そっと前へ進んでくれた。

 歩きながら、ローズ姫がぽつぽつと話をしてくれる。

「13代目……お父様は本来ならば王位を得なかった人なのです。11代目が亡くなった後すぐにキルダ様は国外追放となりました。直系王家であるお父様の兄である12代目が亡くなり、お父様の王位が確実なものとなったのです」


 手前にローズ姫たちの母親であるベゼラさん、一番奥にリノエスカさん、階を分けてフォルトークさんの部屋があるらしい。

 ベゼラさんの部屋で少しローズ姫の思い出を聞き、リノエスカさんの部屋に入った。


 緑を基調とした、落ち着いた雰囲気の部屋だった。

 私は部屋の中心付近からぐるりと見渡す。

 ここに自分を生んだ人が暮らしていたなんて、あまり現実味がない。



「お兄様たちはお父様が権力に執着したと評価しておりますが、お父様は権力など興味を持ってはおりませんでした。お父様はリノエスカ様を娶りたかったのです」

「リノエスカって……私を生んでくれた人?」

「そうですわ。でも、生まれたときからお父様のお相手はフォルトーク様だと決まっていて。フォルトーク様はお父様に関心を持たれていないことに焦っておいでで、リノエスカ様が舞踏会などに出てこないよう裏から手を回していたそうです」

「それって嫌がらせ?」

「はい。イレリアは一夫一妻制で、貴族とはいえ愛人や側室を公認することはありませんが、国主は妃を複数娶ることを黙認されているのです。フォルトーク様と結婚したお父様は離縁できないので、自らが国主になろうとなさったのです」

 正直はた迷惑でしたね、と末娘は冷たく切り捨てる。

「だってお父様にはこの国を良くしたいだとか、国のために尽くしたいだとか、そういった感情が無かったのですもの。愛しい人を妻にしたいがために国を奪うなど愚かです。でもお父様は実行して成し遂げ、リノエスカ様を王宮に召しました」

「ベゼラ様はなぜ側妃になったの?」

「もともとお父様と母は幼馴染だったのです。結婚していないのにお兄様を身ごもっていた母をお父様が気遣って、お兄様を自分の子どもだと言って迎え入れたのですわ。お兄様が結局誰の子なのか、母は私たちに最後まで教えてはくれませんでしたけれど。私は“勢いと家族愛の結晶”なのだそうです」

「あ、そう……」

 相槌に困る。

「でも、リノエスカ様はお父様をどう思っていらしたのかはわかりませんわね。心優しい方でしたが、後宮入りも渋っておいでだったそうですわ」

「え」

 あれ、父親無理強い?

「ご自分がどのような立場になるのか知っていて、それでも後宮に入りたいとは思わないでしょうね。でも嫌いな人間の子どもを生もうだなんて思わないでしょうし、憎からず想っていたのではないでしょうか」

 ローズはさっくりと結論付ける。

 人事だと楽しい話だけど、自分の事となると話は別だ。なんとなく気まずい。

「……私の母親って、どういう人だったんだろう」

「ご覧になりますか?」

「え」

「続き部屋に肖像画があるはずですわ。行ってみましょう?」

 ローズは少し楽しそうに近くの扉を開けた。

 中に入ると化粧台やベッドがあり、壁には一枚の絵が立てかけられていた。


 ぱっと見て驚く。ローズが嬉しそうに手を叩いた。

「まあ、改めて見るとそっくりではございませんか。お姉様たちはお母様似でしたのね」

 そこにはアリスを大人にしたような女性が描かれていた。


 女性をしげしげと観察する。

 瞳は翡翠色だったが、それ以外はほぼアリスと同じだ。

 ただ、アリスより物静かで儚げな印象だった。



お読みいただき、ありがとうございます。


更新がのろまで申し訳ないです……。


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