26 密約
お久しぶりです。
私はその時、アリスはいつも感情を激しく表現していたが、哀の感情を見たことが無かったと知った。
「どういうこと?」
「兄上は13代の子ではない。側妃べゼラ様は兄上を出産するまで13代と共にいたことはない」
「そんな……」
「本当だよ。ローズは確かに13代とべゼラ様との子だが。そしてリードは12代の子だ」
「……嘘」
「これも本当。歴史的には居ないことにされている、13代の甥だ。わたしたちの従兄弟。本来であれば13代より王位継承権は上位だった。知っていて捻じ曲げたのは13代だ。まあ、本人もそれは自覚していたからリードを国主にしようとしていたわけだが」
「なんで、そんな面倒なことするの?国王なんて、向いてる人がやれば良いじゃない」
「それはできない」
「なぜ!」
私は声を荒らげた。
全ての原因は誰が王になるのかという、椅子の取り合いにしか見えなかった。
アリスは動じることなく私を見て応えた。
「なぜなら、イレリアを含めた大陸の王族は、その血を王に据えなければならないから」
アリスの言葉に首を傾げる。
「この大陸は太陽神サンドリオンの祝福と賢人オズの呪いによって成り立っている。いずれ訪れる世界の影のために、各国の王族は血を途切れさせてはならず、王族以外の人間を王に据えてはならない。災厄が訪れるからね」
「それって本当なの?」
「……予言だよ。伝承とも言うけど」
「そんなことのために、今血を流すの?そんなの……」
私は続きを言えずに黙った。
なんだかやるせなかった。
「わたしだって変な話だと思う。でもこれは違えてはならない約束であり義務だ。偽りの血を王に立ててはならない」
アリスは小さく息をついた。
「大昔、2代目国主が身罷った後に誰が王位に就くか問題になった。2代目には姉のガーネット様しかおらず、その方はあまり政に詳しくなかったんだ。2代目の息子が成人するまでということで、数ヶ月間公爵家の人間が代わりに王印を押していたんだが、東では水害に北では季節外れの猛吹雪でもう大変だったらしい。オニキス家は最初から血統でない王を認めていなかったから、とにかくガーネット様を王位に就けろと言った。ガーネット様が3代目国主を宣言した途端、東では雨は止み北では緑が芽吹いたという。信じがたいがな」
信じられるはずがない。
天候が一人の人間に左右されるなんて。
「それ以来、イレリアでは必ず王位には血統を継ぐ人間を立てることが暗黙の了解になった。長い年月の中で王にそれほど権力がある時代ではなくなったけれど、それでも王はイレリア王家でなければならないんだ」
「つまり……不自然ではない形でランスレッド王を退位させたいのね?」
「そうだ。無理やりにでもね。そのためには、兄上が死ぬしかないと考えているんだ、あの馬鹿共は」
強い言葉に思わずアリスを見ると、その黒い瞳を爛々と輝かせていた。
「まったく、とんだ大馬鹿だ。それでわたしに王位を譲って、自らの責を全うした気になって自己満足して死んでいくんだろう?放り投げられるこっちの身にもなって欲しいものだ」
アリスは辛辣にあに達を切り捨てている。
「ま、ここまで来たんだから頂いてやるけど。ちょっとばかり意趣返ししても文句は言われないよな」
「意趣返し?」
「おいおい話すよ。それより伝えたいことがあるんだ」
「何?」
私はアリスにはぐらかされていらっとしたけど、真剣な表情になったので釣られて神妙に頷く。
「わたしたちの公演は2日後。明後日の夜だ。今日はこのまま離れに居てもらうが、明日は一日ローズと行動してもらう。明後日は一日ここで待機していてくれ。リードが護衛に入る手筈になっているから、安心して囮になってくれ」
「わかった」
「混乱が収まっても城まで来ちゃ駄目だぞ。必ず迎えに来るから」
「わかった。アリスも気をつけて」
「おう。じゃあな」
私はアリスを見送り、アリスは扉の向こうに消えた。
窓の外では相変わらず篝火にテントが浮かび上がっている。
お読みいただき、ありがとうございます。




