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花の名前を呼んで  作者: 漣 榎乃
22/41

21 生誕


やや説明が多いです。




 ローズ姫と賑やかな昼食を終えた頃、部屋にジークさんたちが迎えに来た。

 王宮の中は自由に歩いて平気だそうで、被り物もなく部屋を出る。ローズ姫は名残惜しそうに見送ってくれた。


 いくつかの階段を上り、示された部屋の中に入る。そこは応接間のようだった。

 フォーラさんが後ろに控えた中央のソファーに男性が座っている。黄みがかった茶色に黄金色の瞳のその人は、明らかに他と雰囲気が異なっていた。

 なんというか、従わせる側の人間だった。

 私が緊張しているのがわかったのか、ふと笑みを浮かべる。


「初めましてだね、キルダの養い子。私が14代国主ランスレッド・レタ・イレリアだ」


 私は目を見開いたが、ローズ姫に教わった通りにおじぎする。

「初めまして、照宮沙羅です」

「そう、さら、というのか」

 なるほどね、と納得され、正直居心地が悪い。

 不思議そうな顔をしていたのか、ランスレッド王は苦笑する。

「悪かったね、立たせたままで。ここにお座り」

 そう言って示されたのは、ランスレッド王の膝だった。

「……」

「王、サラ嬢がお困りです。やめてください」

 フォーラさんが助け舟を出してくれるが、本人はやめる気は無いらしい。

「何?ただのスキンシップじゃん。固いこと言うなって」

「いや、困ってるからやめろセクハラ王」

 ちぇーと言われながら、リードさんに無理矢理ランスレッド王の向かいに座らされる。

 うーん、この国はお茶目な人が多いな。

「こんな奴他にあまり居ないからな」

 私の心を読んだように、リードさんが釘を刺してきた。

 あまり、ってことは、けっこう多いんだなと思った。



「さて、どこから話そうか」

 ランスレッド王は椅子に深く座って考えていた。

「サラの父親はキルダということは知っているんだろう?」

「はい、昔はそう名乗っていたと」

「何か聞いた?」

「……追放されたから、もう二度と生国の土は踏まない、と」

「そう。それは半分正しくて半分正しくない」

 ランスレッド王は言葉を切った。

「あれは追放ではなく亡命だ。彼は仕方なくかの地へ向かい、結果としてそれは我が家にとって最高の条件となった」

「……意味がよく」

 わからない、と言おうとすると、手で制された。

「キルダは11代国主の弟の一人息子だ。13代国主とは従兄弟同士。12代国主は不慮の事故で身罷り、弟だった私の父が13代国主となった。12代国主の死はキルダによる暗殺だと言われ、キルダは大した調査の無いまま汚名を着せられて国外追放となった」

 私は思わず息を呑んだ。

 ランスレッド王はため息をつく。

「キルダは魔力持ちだったために魔術の一門に保護されたが、暗殺の手が伸びてきて虹向こうに渡った」

「虹向こう?」

「虹の彼方にあると言われる大陸だ。大地は豊かな雨の恵みにより緑に溢れているという」


 おそらく私がいた国のことだろう。資源が無いというわりに、水は豊富だった。


「12代国主は事故に見せかけ、キルダを暗殺しようと企てたのは13代国主だ」

「え」

「そう。私の父親だよ」

 忌々しいことにね、とランスレッド王は呟く。

「13代目は国主になりたくてたまらなかったのさ。11代目の弟は早くに亡くなっていて、直系の12代目が優先された。身内の中で王位継承権上位のキルダを亡きものにしようとした」

「ええと……」

「まあ聞いて。……とにかくキルダは世界を渡り、居場所を確保した。そこで一生静かに過ごす予定だったが、こちらの国で問題が起きた」

 ふうと息をつき、ランスレッド王は続ける。


「この国には2つの公爵家と4つの伯爵家がある。魔術一門のオニキス、中央のセント・ラ・ルーア。西のウェストブルグ、東のイーストロジー、南のサウスラーネ、北のノースカーレット。2大公爵家は中央で王家と魔術を支え、4大伯爵家はそれぞれ東西南北を治める」


 フォーラさんはノースカーレットという姓だった気がする。

 ちらりと見ると、にこりと笑い返された。

 ということは、フォーラさんは北を治める家の人間なんだ。



「13代国主には3人の妻がいた。セント・ラ・ルーア公爵家からの正室フォルトーク様と、サウスラーネ伯爵家出身の私の母親ベゼラと、イーストロジー伯爵家からのリノエスカ様と。まずベゼラが子を生んだことで公爵家からフォルトーク様への圧力が掛かった」

「やっぱり、跡継ぎとかですか」

「そう。ものすごかったらしいよ、祈祷の人とか呼んで。とにかく色々頑張ったんだけど結局駄目で。そしたらリノエスカ様が身ごもったんだ」

 ものすごいダブルパンチだろう。正室なんだし、心労がものすごかっただろうな。

「色々暗殺の手があったんだけど、リノエスカ様はなんとか潜り抜けて無事出産した。それが双子の女の子だったんだ。しかも黒い瞳の」


 なぜか知らないが、背中に冷たい汗が流れた。

 なんだか、この続きを聞くには、覚悟がいるような。


「黒い瞳は秘術の色。両目の黒はイレリア王家にのみ生まれる奇才の証。それも双子だ。とんでもない出来事だった。でも暗殺者から2人も赤子を守ることは難しかった。そこで同席していた魔術一門オニキス公爵家の当主が、1人をオノキスの保護下に置き、1人を虹向こうのキルダのところに預けることを提案した。なんとか1人でも助けられる可能性に賭けたかったそうだ」


 私はいつの間にか俯いて自分の膝の上を見ていたが、ふと視線を上げた。

 ランスレッド王は真摯な瞳で私を見ていた。


「産湯が済んだ後にセント家の手の人間がやってきて、結局リノエスカ様は亡くなった。なんとか姉の方は虹向こうに行き、妹の方はオニキス家の屋敷に移動できた。これがアリスだ。13代目には黒い瞳の姫が生まれ、魔力が暴走する前にオニキス家の保護下に置いたと伝えられた」


 ランスレッド王はふと表情を柔らげ、懐かしいものを思い出すように言った。


「13代目は初めて生まれた娘を見たかったらしいが、なんとかしてオニキスの人間が押し留めた。私は幼かったが、13代目が私に妹が生まれたことを嬉しそうに話してくれたことは覚えている。あれが一番父親らしい時期だっただろうな」


 そして続ける。


「双子の片割れは君だ、サラ。……いや、ルイクティサラ・フィラ・イレリア。あなたはレイズアリア・シャラ・イレリアの姉として、私の腹違いの妹としてこの土地に生まれた」







お読みいただき、ありがとうございます。





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