19 王位
「結論としては、おびき出すために利用させてもらう。悪いな」
全く反省していない口ぶりでリードさんが言った。
おいしい食事を食べた後、皆で温かいお茶を飲んでいる。
食事中は時折雑談を挟む程度だったのでのんびりしていたが、そういえば本題があったんだった。ちょっと忘れていた。
何とも言いようが無く黙っていると。フォーラさんが穏やかなに口を開いた。
「アリスについて、どこまで知ってる?」
「どこまでって……。“みみずく”の監督で、たぶん怪盗の主犯で、皆から好かれてるってことくらいしか」
そう言うと、3人はとても渋い顔をした。
「怪盗は国が逮捕しようとしているんだから、皆はアリスの敵なんじゃないの?」
「あいつ、本当に何も説明してないのか……」
「どういうこと?」
リードさんは天井を仰いでうんざりしていた。ジークさんは私を見て言った。
「アリスは現国主ランスレッド王の妹姫だ。逮捕など、とんでもない話だ」
私はぽかんと口を開いた。自覚して慌てて閉じる。
「……嘘」
「本当。そして王位継承権第一位でもある。現時点で、王家の中で成人しているのは陛下とアリスだけだ。今王が倒れたら順番としてはアリスが王位に就く」
「順番としては?」
「そう、順番としては。末の姫であるローズリッタ姫はまだ16歳だから成人していない。後見人が必要になるんだ。その後見人を狙っている人間がいる」
「そいつらはアリスが王位に就くと現宰相一派が力をつけると読んでいて、それが嫌なんだよ。現国主が後ろにつけないから現宰相はあまり仕事ができていないし、だから私腹を肥やす暇を与えてしまっているんだ」
なんだか難しい話になってきた。うーんと唸っていると、リードさんが口を挟んだ。
「ただでさえ、魔力持ちが王になることを嫌がっている人間だ。そのあたりも理由にしてどうにかアリスを王位から遠ざけようとしている」
私は首を捻る。順番で決まっているなら、そんなに問題無いのでは?と思ってしまう。
「でも、皆アリスが成人してるって知っているんでしょう?年齢順って決まっているならそれに逆らうほうが問題あるんじゃないの?」
「そうだよ。だから、問題を無くそうとしている」
フォーラさんがはあと息をつく。ジークさんが私をひたと見つめた。
「暗殺だ。あいつらはアリスを消そうとしてる」
暗殺という、正直自分からは遠い単語を耳にしてぼんやりしてしまう。
……ん?ということは、
「え、私が殺されちゃうかもしれないってこと?」
「そうだよ。だって皆、アリスの特徴を持つのはアリスしか居ないと思っているんだから」
フォーラさんがあっさりと頷いた。
私は徐々にことの重大さを理解した。
「で、それで、おびき出すって、何を」
「もちろん、暗殺を企てる人間を。城の中は魔術で隠密は侵入できないようになってるから、承認を通過できる人間が来るしかないんだよね。現行犯で捕縛する作戦」
「そんなのうまくいくんですか……」
「まあ一か八かだな」
あっさりとジークさんが頷く。
「アリスが王位継承の話し合いのために帰宅していることを噂で流したから、我慢のきかない人間が動くだろう。1週間後に“みみずく”が登城する時、全て片付ける」
フォーラさんは私の肩をぽんと叩いて言った。
「待ち伏せる前提で作る隙だから、すぐ対処する。少し怖い思いをするかもしれないけど、絶対に傷つけさせないよ」
にっこりと笑いかけられ、私は自分に拒否権が無いことを悟った。
「……わかりました。頑張ります」
声が震えていたのは、仕方無いので目を瞑ってもらおう。
その後今後の予定を説明され、3人は王宮に戻っていった。
リードさんは、最初から最後まで苛々していたようだった。
部屋を出てからも、リードは苛立ちを隠せなかった。
「あいつのミスだろ。あそこまで似ている人間なんてそうそういないんだ。あの女が危険な目に合うことはあいつが一番分かっていたことじゃないか」
「あそこまで似ている、ねえ」
「……なんだよ」
「リード、俺たちだって共犯だ。もう隠す必要は無いだろう?」
リードが警戒する様子を感じ、ジークは息をつく。
「あの子は関係者だ。むしろ当事者と言っていい。そうだろう?」
「……」
「いいんだよ、おまえは明言できない。それでいい。ただの独り言だ」
フォーラが口を開く。
「都合がついたら、明日にでもローズ姫のところに連れて行くよ。その後ランス様のところに行こう。あの人は全て自分の口で説明したいって」
「まあ、そうだろうな」
ジークが立ち止まり、一番後ろを歩くリードを振り向いた。
「いいか、俺たちは共犯だ。おまえだけ罪を被る権利は無い。わかっているんだろうな?」
リードは不満そうな顔を崩そうとはしなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
意外と長くかかってしまいました……。
たぶんここで半分くらいです。




