17 天使
2013/03/18、本文を訂正しました。
名前が間違っていました。
大変失礼しました。
リオルドが離宮への道を進んでいると、向こうから生真面目な友が歩いてきた。
「よう、フォーラ。お姫様のご機嫌は麗しかったか?」
「初耳のようで驚いておられたけど、意外とあっさり承諾してくださったようだ。……リード、何度も言っているけど」
「”王家への礼儀を忘れずに”だろ?大将にも名指しで注意されたんだ、しっかりやるさ」
「いつものんびりしているから、こういった緊急事態で心配されるんだよ」
「別に、今に始まったことじゃないだろう?」
「はいはい。……陛下はどうだった?」
「相変わらずだな。決行は変わらない。6日後が勝負だろう」
「わかった」
リオルドは生真面目な友にひらひらと手を振った。
リオルドが離宮と呼ぶのは、王宮を見渡せる小さな丘の上に立つ建物だ。本来の名称は イレリア王国第一等時刻通知所と言い、「古時計」の愛称通り国内最古の時計塔であり、イレイアの基準時刻となっている時計が備え付けられている。イレリア王国国主居住館「イレリアの花」と、王国最高立法・行政機関「国府・イレイル宮殿」が見える。
国府からは森の奥に時計塔が飛びぬけて見えるため、多くの人間は根元の建物にあまり関心が無い。
今回の客人にとってはうってつけの潜伏先だ。
離宮は地下通路で行き来することができるので、リオルドはそのまま裏口を通って2階に向かった。壁の一部を取り外して廊下に出る。
いざという時の逃走路にもなっているので、教えられた客室に直接入ることもできるが、初対面の人間に対しては難しいだろう。下手をすると変態だ。
日の光しか明りのない廊下を歩いて部屋に向かう。ノックをしても返事が無く、中を覗くと誰も居なかった。一応備え付けの浴室も確認してみたが居る様子は無い。どうやら散歩に出かけたようだ。
階段を降りて廊下を進むと、中庭から何か音が聞こえた。音に導かれるように歩く。
外の渡り通路から外を見ると、
天使が歌っていた。
一瞬の陶酔から醒める。
影が濃くなっている廊下から外を見ると、中庭の中央に立つ人物は天から眩しいほどの光を浴びているように見える。
その後ろ姿は神々しかった。
決して張り上げるような大きさではないが、確実に耳まで届いて脳髄を震わせる。
住居の女神レンガに歌を捧げる姿は、まさに天使だった。
聖歌を歌い終え、息をつく。
やっぱり一番多く歌っているから、節がさまになってきたと思う。
でも私、もとの国ではそんなに歌を絶賛されたことが無い。合唱部だから平均よりは上手かったと思うけど、こんなに褒められるとちょっと調子に乗ってしまうな。
こっちの歌のほうが相性がいいのかな。
よくわからないけど。
ぼんやりと考えていると、ふと後ろで何かを踏む音が聞こえた。
びくりとして振り向く。陰になって見えにくいが、屋根の下に誰か立っているようだ。
「失礼、驚かせるつもりは無かった」
その人はゆっくりとこちらに近づいて来た。フォーラさんと比べて少し背が低くて鋭い瞳をしている。
「俺はリオルドという。夜になれば関係者が集まるから、それまでここを案内するよう言われた。どうぞよろしく」
リオルドと名乗った人はにこりともせずに私を見下ろした。
朽葉色の髪に深緑色の瞳は冬の山を思わせた。
ぽかんとしていたが、名乗られたことに気付いた私は慌てて頭を下げた。
「サラです。ご厄介になります」
顔を上げてもリオルドさんは真顔のままだった。
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