15 誘拐
目を開けると、すでに明るく朝だということがわかった。
次に身体を起こそうとすると、やたらと手触りの良い布に触れた。テントの敷布団はもこもことしていたのに対し、今自分が踏みつけているのはさらさらとした布だった。
慌てて起きると、そこはテントの中ではなかった。いわゆる天蓋付きベッドというやつで、臙脂色の布がベッドの柱にまとめられている。
自分の身体を確認する。
いつもの格好だ。
あたりを見ると、薄く蔦の模様が入った壁紙に囲まれた部屋だということがわかった。私の位置からは右斜め前方向に扉があり、すぐ右には本棚、正面には丸テーブルと椅子が3脚。家具は木でできていて年代物のようだが、艶がきれいで古いという印象は受けなかった。
そもそも、なんでここにいるんだろう?
私はぼんやりと考える。
言われた通り、衣装部屋に引きこもり、食事も衣装部屋に持ってきてもらった。
そのまま寝ようとしていたら、急に外が騒がしくなり、隊長さんが珍しく声を荒らげて火事だ、と言っていた。
衣装部屋のテントは防水・防火対策は万全で、中にいる私は怪我をする心配は無い。
ただ、急に明るくなった方向から考えると、燃えているのは住居スペースだ。皆の家が燃えたら大変だと思い、火消しを手伝いに行った。
衣装部屋から外に出た瞬間、なぜか意識が途絶えた。
おそらく昨晩だと思われる出来事を思い出す。
手首には特に縛られた痕も無いので、私は無抵抗のままここに連れてこられたんだろう。
なんとなく、首の後ろがじんじんする。
人を気絶させるのって結構難しいって聞いたことがあるけど、プロの人がいるんだろうか。
「誘拐、かな?」
私は首を傾げる。
誘拐や拉致は誰かが何かを得するためにすることだと思うが、はたして私には連れ去った人間が得をするようなことができるんだろうか?
髪の毛と目の組み合わせが珍しいとは言われたけど、あんまり良い意味ではないみたいだし。
じゃあ、他には?
悶々と悩んでいると、左側にある窓の外に鳥がとまっていることに気づいた。私の胸あたりの高さなので、近づいてみる。
裸足で立った床は柔らかなカーペットが敷かれていた。
窓の外を覗き、私はぽかんと口を開いた。
アリスに見せてもらった絵本に載っていた、この国の王宮にそっくりの建物が眼下にあった。
私がいる建物は小高い丘の上にあるようで、王宮の隣りにある軍事学校や魔術の学校まではっきり見える。魔術の学校はとても特徴的で、アリスが言っていたように星のような形が確認できた。
え、何これ。
じゃあここ、王宮の敷地じゃん。
窓の外から小鳥がしきりにこつこつと窓ガラスを啄いてきたが、私は全く耳に入っていなかった。
ふらふらとベッドに戻り、ぽすりと端に座る。
一体どうして私が王宮に連れてこられたんだろう?
目的はアリスだ。それ以外考えられない。
アリスは明言していないけれど、怪盗ゼリカはアリスと劇団の一部が起こしている事件だ。
怪盗ゼリカは「何も盗んでいない」が、住居を傷つけているんだからやっていることは犯罪者だ。きっとずっと国が見張っていて、情報を得ようと必死だったのだろう。私は新参者だから、目を付けられたんだ。
私には尋問があるのだろうか。アリスの弱みを知るために。
「……アリスは、私が守ってみせる」
手を握り締め、立ち上がって窓の外を睨みつけた時、扉が叩かれた。
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