11 予兆
「わあ、すごい人」
私は準備用のテントからこっそりと外を窺い見た。私がステージで歌を披露してから10日ほどが経過しているが、その間3回あった公演は全て満席だったそうだ。
「いやー、サラのおかげだなー。サーカスなんて休日の娯楽だったのに、最近は仕事日の入りが良い」
アリスは帳簿をめくりながらにやにや笑いをおさめようとしない。会計担当のリーシャさんとグランドさんもにやにやしながらも数列を処理している。
「本当、ありがたいわねー。この数字、幻術の新ネタやった頃より大きいわよ」
「全くだ、笑いが止まらない。……ほら、アリス帳簿返せ。一昨日の売上出たぞ」
「はいよ」
アリスが手の上で遊んでいた帳簿を返すと、リーシャさんが計算していた用紙を元にグランドさんが書きこみしていく。
ちなみにリーシャさんは音響のイルアドさんの妹さんで、栗毛に青い瞳の可愛らしい方だが仕事はてきぱきとこなすできる人だ。猛獣使いのお兄さんから猛烈なアプローチを受けているが全く気付いていない。グランドさんはそんなリーシャさんを大事に大事にしているが、職場の関係を鑑みてなかなか告白できないでいる。
オルティカ姐さんとアリスによると、リーシャさんもグランドさんに職場関係の悪化を恐れて何も言えないでいるそうだ。イルアドさんも応援しているようだし、付き合うのは時間の問題らしい。
「……え、すごいなこれ」
「あーら、遂にウェル兄さんの記録を更新したわね」
「まあ当然といえば当然だな」
心の中で恋愛相関図を展開させて顔をにやつかせていると、なんだかとんでもない額を稼いでいる計算になったらしい。
「やーべ、これ国の調査入るんじゃないか?」
「あ、ありえるわね」
「本当か?それはちょっと面倒だなぁ」
「え、そうなの?」
「なんか行商で稼ぎすぎると税関係が動くんだよねー。固定した店を持っていると家賃とか土地税がかかるの。行商は手取りが少ない分土地の賃貸料だけで済むし、それなりに助成もあるんだけど、これだけ稼いじゃうと助成基準にひっかかるわ」
「俺たちは渡りの行商権を持っているんだが、基準より多く稼ぐと権利が無くなるんだ。固定店のほうが税収が入るからな。結構乱暴に固定店に変更させられた例もあるんだ」
「うわぁ、何それ」
難しい話に唸った。商売をするって稼げば良いんだと思っていたけど、いろんな制約があったんだな、と改めて思う。
「ただでさえ最近放火が多くて行商関係者に対して目が厳しいしね。これで稼ぎがやたら良かったら、定住組から煙たがられちゃう」
リーシャさんもやや重い息を吐く。
「そうそう、放火の件だけど、この間民家の貯蔵庫につけられたらしいよ。すぐ脇に母屋があって、老夫婦が危なかったって」
「そうなの?始めは小火だったのに、悪化してるわね・・・・・・」
「うちにも文書で注意勧告がきたが、ありゃどう見ても行商者を疑ってるな。どちらにせよ、近いうちにお国の人間が来るだろう」
会計の2人とアリスがなにやら話し合いを始めてしまい、手持ち無沙汰になった私は道化の2人に会いに行った。
空を見上げると、夕刻が迫っていることがわかる。
あと少しで、祭りの時間だ。
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