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十年越しの恋が叶ったのに、意地悪公爵は今日も私を揶揄ってくる  作者: かめ
建国祭の話

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14/43

約束

 いよいよ建国祭シーズンに入る。


 アレキサンド王国の建国祭は、三日にわたって行われる。

 一日目は国王の演説。その後王家全員がそれぞれ馬車に乗り、王都や付近の町をパレードで廻る。

 二日目は国中に市場や屋台が立ち並び、主に国民が思い思いに楽しむ。イリヤ達は公式テラスからのお手振りと、夜には貴族たちを招待して祝宴がある。

 三日目はそれぞれに分かれて公務の日。イリヤは妹のシーラと弟のニコラスを連れて、隣町の子供達の舞台を見に行くことになっている。


 大忙しの、目まぐるしい季節。


 その前にやってくるのが、ウィスターの誕生日だった。



「マーヤ、ウィスターに何をあげたらいいかしら」

「お嬢様が差し上げるものは、なんでも喜ばれると思いますよ」


 お守り作りの休憩がてら、本を読みながら色々と考えてみたけれどしっくりこない。

 自分の誕生日に貰った五本の髪飾りは、フェルディナの共同市場で作ったネックレスと一緒に飾ってある。自分はとても幸せな思いをしたのに、そのすぐ後にやってくるウィスターの誕生日はとても無視できない。


 例え、お互いとても忙しいとしても。


「そもそも、最近全然来てくれないし…執務室にいるのかどうかも分からないし…渡せるのかな」

「ウィスター様はご自分の誕生日はご興味なさそうですしね」

「『今更年が一つ変わるくらいなんでもない』……とかね、言いそう!」


 ウィスターの口調を真似てみると、マーヤが面白そうにコロコロと笑った。


「ふふ…お嬢様モノマネが上手いですね。でもご本人が気にされないなら、建国祭が終わって落ち着いてからでもいいのではないですか」

「う〜ん、それも分かるのだけど…やっぱり驚かせたいのよね。いつも余裕だから、たまにはびっくりしたところを見てみたい」

「でもいらっしゃらなければ渡せないでしょう。それか、執務室の側近の方に聞いてみるのはいかがです?きっと教えてくれますよ」


 なるほどそれは有りかもしれない。

 いつもイリヤは驚かされたり、胸をいっぱいにさせられることばっかりだ。

 たまにはこちらから、ウィスターを喜ばせたい。イリヤは頷いた。

 そうと決まればあとは行動あるのみ。


「じゃあ、ちょっと執務室行ってくるわね!」

「お気をつけて」


 立ち上がって自室を出ていくイリヤを、マーヤがにこやかに見送った。




 執務室に着いて、ノックをする。


「入れ」


 側近の優しい声が返ってくると思っていて油断していた。完全に執務中のウィスターの声が中から飛んできて、イリヤは心臓が跳ねた。

 恐る恐る扉を開けると、執務室の奥の机で、相変わらず積み上がった書類の奥に座るウィスターが見える。


「……なんッ……でいるのよ……!!」

「あ?」



 機嫌が悪いのか、剣呑な目つきで睨まれる。

 せっかくウィスターの予定を聞こうと思ったのに、本人がいるのでは台無しだ。どうしよう、特に用も無いしと扉を開けたまま悩んでいると、重たかった扉が突然軽くなった。


 ウィスターが中から扉を開けて、イリヤを見下ろしている。


「いちゃダメでしたか」

「え……」


 何も考えてきていなかったので咄嗟に言い訳も思いつかず、目が泳ぐ。そんなイリヤを見ていたウィスターはやがてため息をついて、肩を掴んで中に引き入れた。


「とりあえず廊下に立ってないで入ったらどうですか」

「…はい」


 中に入れられると、なんとなくいつもと違い、執務室自体が殺気立っている気がした。建国祭の準備で忙しいのだろう。


「…ごめんなさい、邪魔して」

「いえいいんですけど。まぁ座ってください」


 絶対怒ってるじゃん、と不貞腐れる。タイミングも何も見計らわずに来てしまったし、仕事をしていたら急な来客にいきなり責められたもんだから、仕方ないだろうけど。

 いつもの定位置になりつつあるソファーに座ると、ウィスターも隣に座った。

 怒らせてしまったか、とヒヤヒヤしていたので、隣に座ってくれるだけでも何となく嬉しい。


「でも忙しいでしょ。やっぱり」

「来たいときは来ていいと言ったのは私ですよ。何かありましたか」

「……」

「え、用事なしですか」

「い、いいじゃない!私だって癒されたい時はあるのよ」


 開き直ってつい出てきた憎まれ口に、ぷは、とウィスターが吹き出した。

 ウィスターはイリヤに会うと癒されると言ってくれた。それはイリヤだって一緒である。


「ははっ、そうですか。それは嬉しいですね」

「何笑ってんのよ」

「笑ってましたか、これは失敬」


 冗談なのか、本気で言っているのか分からないような顔でウィスターが真顔に戻る。

 側近が湯気が揺れるティーカップを持ってきて、イリヤとウィスターの前のテーブルに置いた。


「ありがとう」


 側近に礼を言う。側近はニコリと笑って、執務室の隅にある机に戻った。

 きっとみんな忙しい。イリヤだってお守り作りの他に、やらなければいけないことはたくさんある。

 ウィスターの誕生日ごときで邪魔して悪かったな、とは思うけれど。やっぱり驚いたウィスターの顔は見たいなという欲求には抗えない。


「ねぇ、ウィスター。十日後……くらい?十日後。うん。あなた何してる?」

「十日後、ですか」


 だめだこんな人を探るようなことやったことない!と口をついて出たのは、遠回しどころかド直球の質問だった。

 バレるかな、とウィスターの顔を窺う。

 ウィスターは何も気づいていないようで、しばらく宙を見て考え事をしていたが、思い出せなかったようで側近に目を向けた。


「…外出されてますね、おそらく」


 側近がウィスターの予定が書いてあるのだろう、本を見ながら答える。


(くそう、それいいな、私も見たい)


 心の中では側近が羨ましい。


「あ、そうだな。多分夜遅くにしか戻らない」

「王宮に一回寄る?」

「……まぁ、寄ってもいいですけど」

「じゃあ寄ってよ!」

「……はい」

「忘れないでね?」

「わかりました、何ですか急に。寄りますよ」


 念を押すとウィスターが笑いながら手を上げた。


「…じゃあいいわ。急にお邪魔して悪かったわね。また」

「えっ、帰るんですか」

「帰るわよ!忙しいのはあなただけじゃないのよ」


 紅茶だけ、と側近が淹れてくれた紅茶を数口に分けて飲んだ。華やかな香りに心もすっきりとする。


 それだけが分かればもういい。あと何をあげて驚かせるかは、一人でゆっくり考えることにする。

 きょとんとしているウィスターを置いて立ち上がる。


「お忙しい中お相手ありがとう。それじゃ」


 そのまま一息に執務室を出た。

 ウィスターは最後まで呆気に取られたような顔をしていて、それはそれでまた満足した。





 −−−−−−


「ーーー誕生日か」

「誕生日でしょうねぇ」


 嵐のように来て、つっけんどんな態度ですぐ帰っていったイリヤを見送ったあと、ぽかんと呟いたウィスターに側近が返事をした。


「……あれで分からないように聞いてるつもりなのか」

「王女殿下は可愛らしい方ですね」

「箱入りすぎて心配になるよ」


 ウィスターが立ち上がって机に戻る。

 久しぶりに顔を見れた、と思ったのも束の間だった。そういえば、最近はテラスにも行けていない。


「因みにその日は、また説得のために西の方に行かれる予定です」

「……誕生日に夜まで激務をさせる気か、あの人は」


 それでも、笑みが溢れた。

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