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秘密戦隊シークレットファイブ ~戦隊やってて副業はありなんですか?~  作者: 芦名 雅


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第12話「幽霊なんているわけない!」 中編

 廃ホテルの最上階へ近づくにつれ、空気は目に見えないほど濃く淀んでいった。


 壁紙は湿気で剥がれ、廊下の天井からは黒ずんだ雨水が一滴ずつ落ちている。割れた窓から吹き込む夜風は生ぬるく、どこからともなく古い線香のような臭いが漂っていた。


「おーい! 誰かいるのか!」


 赤城太陽の声が、長い廊下へ響き渡る。


 返事はない。


 代わりに、少し離れた場所から扉が閉まる音がした。


「そこか!」


 太陽は迷わず音のした方へ走った。


 肝試しへ来たクラスメイトたちは、二人一組で先に廃ホテルへ入っている。誰かが驚かせるために隠れているのだろう。そう思っていた。


 だから、廊下の角を曲がった先で一人目が倒れているのを見つけた時も、最初は演技だと思った。


「おい、もういいって。驚いたから起きろよ」


 肩を揺する。


 反応がない。


「……おい?」


 太陽の声から明るさが消えた。


 首筋へ指を当てる。呼吸はある。怪我も見当たらない。ただ、顔は真っ青で、冷や汗を浮かべていた。


 少し先には、もう一人倒れている。


 その向こうにも、さらに二人。


「みんな! どうしたんだ!」


 太陽は駆け寄り、一人ずつ様子を確かめた。


 全員、生きている。


 だが、何かにひどく怯えたまま気を失っている。


 その時だった。


「まぶしい……」


 低く、濡れた声がした。


 太陽が顔を上げる。


 廊下の奥。


 壊れた非常灯の下に、人のような影が立っていた。


 白い服を着ているようにも見える。だが、輪郭は煙のように揺れ、足元は床へ届いていない。長い髪が顔を覆い、その隙間から濁った目が太陽を見ていた。


「まぶしい……まぶしい……」


「お前がやったのか」


 太陽は倒れているクラスメイトの前へ立った。


「みんなに何をした!」


 影は答えない。


 ただ、顔を隠すように両腕を上げる。


「その変な姿……さてはギアノクスの怪人だな!」


 太陽は素早く周囲を確認した。


 クラスメイトたちは全員気を失っている。今なら正体を見られる心配はない。


 制服の内側から変身装置を取り出す。


「シークレット・チェンジ!」


 赤い光が暗い廊下を照らした。


 強化スーツが全身を包み、太陽はシークレットレッドへ変身する。


「人が楽しんでる肝試しを邪魔するなんて許さない!」


 レッドは影へ向かって走った。


 勢いを乗せた右拳を放つ。


 拳は影の胸を捉えた。


 はずだった。


「なっ!?」


 手応えがない。


 レッドの腕は、冷たい霧を突き抜けるように影の体を通過した。


 勢い余って前へつんのめる。


 背後から、黒い腕が伸びた。


 レッドの背中へ鋭い衝撃が走る。


「ぐあっ!」


 壁まで吹き飛ばされ、古びた額縁と一緒に床へ落ちた。


「今のは……!」


 レッドはすぐ立ち上がる。


 自分の攻撃は当たらなかった。


 だが、相手の攻撃は確かに当たった。


「卑怯だぞ! こっちの攻撃だけ避けるなんて!」


 影が首を傾けた。


「避けて……いない……」


「しゃべれるなら話が早い! みんなを元に戻せ!」


「まぶしい……消えろ……」


 影の髪が大きく広がった。


 廊下の壁から無数の黒い腕が生え、レッドへ襲いかかる。


「うおおおっ!」


 レッドは拳と蹴りで迎え撃った。


 だが、攻撃はすべて腕をすり抜ける。


 黒い指だけがレッドの装甲を掴み、床や壁へ何度も叩きつけた。


「痛っ! 何でそっちだけ当たるんだよ!」


 返事の代わりに、天井から黒い髪が降ってきた。


 レッドは横へ転がって避ける。


 髪が床へ突き刺さり、古い絨毯を引き裂いた。


「普通の怪人じゃないな……新型か!」


 レッドは腰の通信機へ手を伸ばす。


「こちらレッド! ギアノクスの怪人を発見! 場所は――」


 通信機から激しい雑音が返ってきた。


『ザザ……レッ……ザ……』


「白石さん! 聞こえるか!」


『ザ……ザザザ……』


 通信が途切れる。


「故障か?」


 レッドは通信機を何度か叩いた。


 変化はない。


 影の周囲で空気が歪んでいる。照明が明滅するたび、通信機の表示も乱れた。


「通信妨害までできるのかよ」


 レッドは拳を構え直した。


「だったら、俺一人で倒す!」


 廊下を蹴る。


 今度は真正面からではない。壁を蹴って上へ跳び、天井近くから踵を振り下ろす。


「レッド・クラッシュ!」


 赤い光をまとった踵が、影の頭部へ落ちる。


 しかし、またもやすり抜けた。


 レッドは床へ着地すると同時に振り返る。


 影が目前にいた。


「近っ――」


 胸元へ冷たい手が触れる。


 次の瞬間、体の奥まで凍りつくような痛みが走った。


「がああっ!」


 レッドは床を転がる。


 強化スーツの警告表示が赤く点滅した。


 物理的な損傷は少ない。


 それなのに、体から力が抜けていく。


「何だ、これ……」


「陽の気……多すぎる……」


 影は苦しそうに体を揺らした。


「欲しい……憎い……消したい……」


「何を言ってるのか分からないけど……」


 レッドは膝をつきながら立ち上がる。


「俺の友達に手を出した時点で、見逃すつもりはない!」


 再び拳を握る。


 何度すり抜けても、諦める様子はなかった。


      ◇


 廃ホテルの外では、黒川夜子が崩れた正門の前に立っていた。


 夜風に揺れる長い髪を押さえながら、建物全体を見上げる。


「結界が完全に破られている……」


 ホテルを囲んでいた古い注連縄は切れ、地面へ打ち込まれていた杭も何本か抜かれている。


 先代が張った結界だ。


 本来なら、一般人が敷地内へ入ったとしても、無意識のうちに恐怖を覚え、建物へ近づけないはずだった。


 だが、今夜は違う。


 敷地内へ入った若者たちは、誰一人として結界の影響を受けていない。


「外側から壊されたというより、内側から食い破られたようですね」


 夜子はしゃがみ込み、地面へ落ちていた灰を指先ですくった。


 線香の燃えかす。


 ただし、普通の線香ではない。


 鼻を刺すほど甘く、腐った果物と焦げた乳製品を混ぜたような臭いがする。


「ひどい臭い……」


 灰の中には、目に見えないほど小さな機械片が混じっていた。


 夜子は眉を寄せる。


「霊的なものだけではなさそうですね」


 その時、建物の最上階から赤い光が漏れた。


 続けて、強い衝撃音。


 夜子は顔を上げる。


「あの光……」


 見覚えがある。


 シークレットレッドの変身光だ。


「まさか、先ほどの高校生が……?」


 肝試しへ入っていく若者の中に、異常なほど強い陽の気をまとった少年がいた。


 人間が自然に持てる量ではない。


 その気配が、シークレットレッドの力とよく似ていた。


 だが、確証はない。


 夜子は余計な推測を振り払い、懐から黒い変身装置を取り出した。


「今は正体を考えている場合ではありませんね」


「シークレット・チェンジ」


 黒い光が夜子の姿を包む。


 次の瞬間、シークレットブラックは壊れた窓からホテルの中へ飛び込んでいた。


      ◇


「レッド・バーニングパンチ!」


 レッドの拳が赤く燃える。


 全力の一撃。


 怪人であれば、装甲ごと吹き飛ばせる威力だ。


 それでも影は揺らいだだけだった。


 拳が体を通り抜ける。


「またかよ!」


 レッドが叫んだ瞬間、影の腕が横から伸びた。


 避けきれない。


 首元を掴まれ、そのまま宙へ持ち上げられる。


「ぐっ……!」


「まぶしい……お前がいると……眠れない……」


「俺は……寝てる奴を起こした覚えは……ないぞ!」


 レッドは影の腕を両手で掴もうとする。


 やはり指はすり抜ける。


 足を振り上げても当たらない。


 影の指だけが装甲を締め上げる。


 呼吸が苦しくなる。


 視界の端で、倒れているクラスメイトが見えた。


 ここで自分が負ければ、次は彼らが襲われる。


「絶対に……守る……!」


 レッドの胸部から赤い光があふれた。


 強引にエネルギーを放出し、影を弾き飛ばそうとする。


 影は悲鳴を上げた。


「まぶしいぃぃぃ!」


 腕の力が一瞬だけ緩む。


 レッドは床へ落ち、咳き込みながら距離を取った。


「今のは効いたのか?」


 拳では触れられない。


 だが、変身後の光を嫌がっている。


「だったら、もっと光らせればいい!」


 レッドは胸の前で両腕を交差させた。


 スーツ全体へエネルギーを集中する。


 通信が使えないため、本来は五人で調整する出力を一人で上げるしかない。


 装置が警告音を鳴らす。


『出力超過。単独使用は危険です』


「今さら危険とか言ってられるか!」


 赤い光が激しく輝く。


 影は両腕で顔を覆い、廊下の奥へ後ずさった。


「消えろ……消えろぉぉぉ!」


 ホテル全体が揺れた。


 壁から無数の顔が浮かび上がる。


 老人。


 女性。


 子ども。


 どの顔も苦悶に歪み、口を大きく開けていた。


「何人いるんだ……?」


 レッドは初めて表情を強張らせた。


 目の前の影が一体の怪人ではない可能性に、ようやく気づき始める。


 だが、その答えへたどり着く前に、壁から現れた腕が一斉に伸びた。


「うわっ!」


 両腕と両脚を掴まれる。


 赤い光が弱まった。


 影がゆっくり近づいてくる。


「その光……全部、もらう……」


 影の口が大きく裂ける。


 黒い霧がレッドの胸部へまとわりついた。


 エネルギーが吸い取られていく。


 スーツの表示が急速に低下した。


 三十パーセント。


 二十パーセント。


 十パーセント。


「くそっ……!」


 腕を動かせない。


 攻撃は当たらない。


 通信も通じない。


 レッドは歯を食いしばった。


 それでも、視線だけは怪異から逸らさない。


「みんなには……手を出させない……!」


「お前が消えれば……みんな、同じ……」


 影の爪がレッドの胸へ振り下ろされた。


 もう避けられない。


 その瞬間。


 乾いた音が廊下へ響いた。


 黒い札が怪異の腕へ張り付き、爪を弾き飛ばす。


「何……?」


 続けて、何枚もの札が飛来する。


 レッドを拘束していた腕へ次々と貼り付き、青白い炎を上げた。


 壁から生えた腕が悲鳴とともに消える。


 解放されたレッドは床へ倒れ込んだ。


「大丈夫ですか、レッド!」


 聞き覚えのある声。


 廊下の奥から、黒い戦闘服をまとった戦士が駆けてくる。


「ブラック!」


 ブラックはレッドの前へ立つと、片手へ札を構えた。


 怪異が威嚇するように髪を広げる。


「まぶしい者を……かばうのか……」


「彼は仲間です」


 ブラックは静かに答えた。


「そして、あなたが留まってよい場所はここではありません」


「気をつけろ、ブラック!」


 レッドは立ち上がろうとしながら叫んだ。


「ギアノクスの新型怪人だ! こっちの攻撃が全然当たらない!」


 ブラックの動きが一瞬止まった。


「……怪人?」


「ああ! しかも通信妨害までしてくる!」


 ブラックは目の前の存在を見た。


 古いホテルへ縛られた複数の霊が、外部から持ち込まれた妙な煙によって一つへ混ざり合っている。


 どう見てもギアノクスの怪人ではない。


「あれは怪人ではありません」


「え?」


「怪異です」


「かいい?」


「一般的に言えば、幽霊や悪霊に近い存在です」


 レッドは数秒黙った。


 そして、きっぱりと言った。


「幽霊なんているわけないだろ」


「目の前にいます」


「ギアノクスの怪人だって」


「違います」


「でも攻撃してきたぞ」


「怪異も攻撃します」


「通信妨害も?」


「強い怪異なら起こせます」


「体が透けてるのも?」


「霊体ですから」


「やっぱり新型怪人じゃないか?」


「どうしてそうなるんですか」


 ブラックは思わず声を強めた。


 怪異がそのやり取りを見ながら、再び腕を伸ばす。


 ブラックは振り向きもせず札を投げた。


 札が腕へ触れた瞬間、青白い炎が走る。


 怪異が苦しそうに後退した。


「ほら、ブラックの攻撃は当たった!」


「私は対処できる装備を持っています」


「博士が作ったのか?」


「……そういうことにしておいてください」


 レッドは納得したように頷いた。


「さすが博士だ!」


(本当に何も疑わないんですね、この人は……)


 ブラックは小さく息を吐いた。


 怪異はレッドの陽の気を恐れている。


 だが、その陽の気は霊へ触れる形に整えられていない。


 力はある。


 足りないのは媒介だけだ。


 ブラックは腰の小袋へ手を伸ばした。


 中には、社で清めた塩が入っている。


「レッド。私に考えがあります」


「本当か!」


「これを使ってください」


 ブラックは塩を一握り取り出した。


 レッドが手のひらの白い粒を見る。


「これは?」


 ブラックは言葉に詰まった。


 清め塩だと説明すれば、自分がなぜそんなものを持っているのか尋ねられるかもしれない。


 互いの正体や本業へ踏み込まないというルールはあるが、レッドは疑問を抱けば素直に質問する。


「これは……」


「これは?」


「博士が開発した……」


 怪異の腕が再び伸びる。


 ブラックは札で弾きながら、必死に言葉を続けた。


「攻撃が絶対に当たるようになる、特殊な塩です」


「そんなものがあるのか!」


「あります。今、ここに」


「名前は?」


「名前?」


「博士の発明なら名前があるだろ!」


 ブラックは一瞬だけ目を閉じた。


「……ヒットソルトです」


「ヒットソルト!」


「ええ」


「すごいな博士!」


「そうですね」


(何を言っているんでしょう、私は……)


 ブラックは自分の発言を後悔しながら、清め塩をレッドの肩へ振りかけた。


 相撲の土俵へ塩を撒くような勢いで、頭から胸、両腕へ白い粒が降り注ぐ。


「うわっ、しょっぱい!」


「口を閉じてください」


「これで攻撃が当たるのか?」


「あなたの……ヒーローパワーと反応すれば」


 本当は、レッドが持つ強烈な陽の気と清め塩が結びつけば、霊体へ干渉できるはずだった。


 確実ではない。


 だが、この怪異を祓うにはブラック一人の力では足りない。


 複数の霊が絡み合い、外部の何かによって力を増幅されている。


 レッドの陽の気が必要だった。


「よし!」


 レッドは拳を握る。


 赤い光が全身へ戻っていく。


 塩の粒が光を受け、金色に輝いた。


 怪異が明確な恐怖を見せて後退する。


「まぶしい……その白いもの……嫌だ……!」


「効いてるみたいだな!」


「まだ油断しないでください。私が動きを止めます」


 ブラックは両手へ札を広げた。


「レッドは、合図と同時に全力で攻撃を」


「分かった!」


 怪異が絶叫する。


 廊下の壁、天井、床から無数の腕と髪が噴き出した。


「消えろ! まぶしい者ども!」


 ブラックが前へ出る。


「退魔封鎖陣!」


 札が四方へ飛び、廊下全体へ黒い光の線を走らせる。


 腕と髪が光の格子へ絡まり、怪異の動きが止まった。


「今です、レッド!」


「任せろ!」


 レッドは床を蹴った。


 清め塩をまとった拳へ、赤いヒーローパワーが集中する。


 先ほどまで何度すり抜けても、今度は違う。


 怪異の胸へ拳が触れた。


 確かな手応え。


「当たった!」


「そのまま押し切ってください!」


「うおおおおおっ!」


 赤と金の光が廊下を貫いた。


 怪異の中から、幾つもの人影が分離していく。


 老人。


 女性。


 子ども。


 彼らは苦しみから解放されたように穏やかな顔を見せ、淡い光となって天井へ昇った。


 しかし、中心に残った黒い塊だけは消えない。


 腐った果物のような臭いを放ちながら、床へ落ちる。


 黒い煙の中で、小さな機械部品が赤く点滅していた。


 ブラックはそれを見逃さなかった。


「これは……」


 ギアノクスの紋章。


 怪異そのものはギアノクスが作ったものではない。


 だが、誰かが持ち込んだ線香に仕込まれた装置が、眠っていた霊を刺激し、暴走させていたのだ。


「やっぱりギアノクスだっただろ!」


 レッドが胸を張る。


「……一部は、そうかもしれません」


「ほらな!」


「ですが、今の存在自体は本物の怪異です」


「そこはまだ信じないぞ」


「目の前で戦ったでしょう」


「特殊な怪人だったんだ」


「もうそれで構いません」


 ブラックは疲れたように肩を落とした。


 その時、床へ倒れていたクラスメイトの一人が小さく呻いた。


「う……」


「みんなが起きる!」


 レッドは慌てて変身装置へ手を伸ばす。


「ここで正体を見られるわけにはいかない!」


「先に変身を解除してください。私が彼らを外へ誘導します」


「ブラックは?」


「別の出口から出ます」


「分かった!」


 レッドは赤い光に包まれ、赤城太陽の姿へ戻った。


 ブラックは彼へ背を向けたまま、最後まで顔を見ない。


 互いの正体を知らないという関係を守るためだった。


「それから、レッド」


「何だ?」


「こういう場所へ勝手に入るのは不法侵入です。危険ですから、二度としないでください」


「分かった。もうしないよ」


 太陽は素直に頷いた。


「でも、みんなを助けてくれてありがとう、ブラック」


「仲間ですから」


 ブラックは短く答え、暗い廊下の奥へ消えていった。


 太陽は倒れているクラスメイトたちを起こして回る。


「おい、起きろ! もう帰ろう!」


「太陽……?」


「何があったんだ……?」


「たぶん、みんな怖すぎて気絶したんだよ!」


「お前は平気だったのか?」


「俺、幽霊とか信じてないからな!」


 太陽は明るく笑った。


 その背後。


 廊下の角から、白い服を着た半透明の女性が顔を出し、太陽の強すぎる陽の気に目を細めてすぐ壁の中へ逃げていった。


 当然、太陽は最後まで気づかなかった。


      ◇


 ホテルの屋上。


 変身を解除した黒川夜子は、回収した線香の燃えかすと機械部品を月明かりへかざした。


「怪異を増幅する機械……というより、煙を吸った者へ何らかの暗示を与える装置でしょうか」


 霊にまで作用したのは、おそらく開発者も想定していない偶然だ。


 夜子は装置を袋へ封じる。


 眼下では、太陽たちが互いに肩を貸しながらホテルを出ていくところだった。


「あの異常な陽の気……やはり、レッドでしたか」


 だが、彼の名前も学校も知らないことにする。


 姿を見たのは偶然。


 シークレットファイブの仲間として必要なのは、戦場で信頼できるかどうかだけだ。


「それにしても、ヒットソルト……」


 夜子は自分でつけた名前を思い出し、片手で顔を覆った。


「博士へ確認されたら、どう説明しましょう……」


 遠くで風が吹く。


 屋上の隅にいた小さな霊が、慰めるように夜子の肩を叩いた。


「あなたに慰められるほどではありません」


 そう言いながら、夜子は少しだけ肩を落としたままだった。

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