表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒデちゃん  作者: 一条美紀あらため建水
15/25

ヒデちゃん16 雪片(ゆきひら)

 小春日和になったので、ちょっと奇漫亭に行った。扉を開けると冷気が飛び込んできた。

 さ、さぶいぜ。

 いつもは目に入るテーブルもカウンタも全然見えなくて、一面の銀世界が広がっている。

 小春日和はどこにいったのよ!

 そう叫びたかったけど、寒くてカチカチと歯の根が合わなくなってしまう。空にチェシャ猫の笑顔に見える細い三日月が光っていた。

 これがまた、地表と同じ銀の色をしていた。

 あたしは辺りを見渡した。小さな雪山があった。なにやら見慣れた黒いものが見えた。あたしは近づいた。あれは……。

 やっぱりだった。前坂さんのゴム長靴だ。

「前坂さん!」

 思わずそう叫ぶと、夢中で雪山を掘り起こす。目を閉じていた前坂さんの頬をぺたぺたと叩いた。

「起きて、起きてよ、寝たら死んじゃうよ

 涙がでそう。

 自分でも、こんなに動揺するなんて凄く意外だった。

「あっ」

 ぼけぼけした声を前坂さんがたてる。

 お莫迦、死んじゃったらどうするのよ。

「おおい、おおい、こっちだよ」

 声がしたので後ろを振り返った。

 ちょっと小ぶりのカマクラが見えた。中からヒデちゃんが顔を出していた。助かったよー。

 急いでカマクラにたどり着くと中に潜り込む。こたつがあった。こたつの上に小さな携帯コンロがあって、その上に鍋が掛かっていた。

「はい、寒かったでしょ。甘酒をどうぞ」

 ヒデちゃんはそう言ってあたしたちに甘酒を振る舞ってくれた。

 こたつに入って甘酒を飲んで、ちょっと人間らしい気分に戻る。

「ヒデちゃん、ここはどこなの」

 あたしは彼女に尋ねた。ひとさし指を唇に当てて彼女は静かにと言っていた。

 やがて……。

 ふわふわと白くて小さなものが銀世界から舞い上がって行く。あれって、雪虫?

 違う。

 陽炎の羽を持った、銀色の髪を持つ乙女たちが、静かに空に昇って行くのだ。

「雪片達よ。冬の始まりを伝えに旅立っているの」

 甘酒を飲みながらヒデちゃんは言った。

 銀の三日月の彼方へ、羽をもった乙女達が飛んで行く。不思議で美しい飛翔だった。そんな中で、一人の雪片があたしたちのカマクラに飛び込んできた。

「たいへん」

 ヒデちゃんが叫んだ。

「早く追い出して、雪片の手足はツララで出来てるのよ、溶けてしまうわ!」

 急に暖かい所に飛び込んだ雪片は、パニックになっていた。カマクラの壁に何度も体をぶつけて外を出る事が出来ない。このままだと溶けてしまうわ。

 どうしたらいいか、おろおろしてしまう。その時、一番入り口に近い席にいた前坂さんが、くるりと振り向いて両手一杯に雪をすくい取った。そのまま雪片を包み込む様に捕らえると、そっと外に追い出した。

 雪片はあたしたちのカマクラの前で、挨拶がわりの宙返りを二三度する。その後、銀色の三日月へ飛び去って行った。

「うー、寒い」

 前坂さんはそう叫ぶとこたつの中に両手を入れた。

 あたしは、こたつの中でそっと前坂さんの冷たい手を握った。

 なんとなく手を離したくない気分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ