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ヒデちゃん  作者: 一条美紀あらため建水
13/25

ヒデちゃん 14 望月

満月の夜だった。スキップをしながら奇漫亭へ行った。扉をあけると内は真っ暗で、何も見えなかった。

えっ?

心臓の音が、ひとつどきんと聞こえて、あたしはびっくりした。

真っ暗で、なにもなくなってしまった奇漫亭の床が、あたしの心臓の音を合図に、大きな月を浮かび上がらせた。

望月だ。

その望月から、小さな釣り鐘のようなものが、いくつも浮かび上がって来た。その中には、妖精の姿が見えた。あやめちゃんがいた。カキツバタの姿も見えた。

 ふわふわと奇漫亭の中を、月光色に光る釣り鐘が舞う。何十個も現れた釣り鐘は、回ったり集まったり離れたりしている。何度かそんな事が繰り返されて、釣り鐘が集まり離れた跡に、一人の美人が浮かんでいた。

 美人は、袖の広い中国風のドレスを着込んでいた。長い袖をくるくる回しながら、その人は舞っていた。

きれいだ。

本当にきれいだと、あたしは思った。

「嫦娥様よ、相変わらず御綺麗」

耳もとで声がした。あたしは首を左に向けた。ヒデちゃんが、あたしの左横に立っていた。嫦娥さまは、あたしたちを見てにっこりと笑った。

嫦娥さまは、こいこいとあたしに向かって手を振った。ヒデちゃんが、あたしの左手をつかんで言った。

「きなさいって」

えっ、なに? どういう……。

気がつくと、あたしはヒデちゃんに手を引かれて、空中に浮かんでいた。なにがなんだか解らないままに、あたしとヒデちゃんは嫦娥さまと一緒に、輪になって踊っていた。釣り鐘にくるまれた妖精達が、あたしたちの回りをまわっていた。とても楽しい時間だった。

どのくらい踊ったことだろうか。くたびれて喉が渇いたころ、ヒデちゃんがどこからともなく檸檬水を出して来て、あたしに渡してくれた。嫦娥さまも、手に檸檬水のグラスを持っていた。三人でグラスを合わせて、檸檬水を飲んだ。嫦娥さまとヒデちゃんは、あたしに向かって笑いかけた。檸檬水を飲み終えたとき、あたしはふっと意識が暗くなった。

気がつくと、いつものように奇漫亭のカウンタに座っていた。望月も嫦娥さまも見えなかった。

だけど……、

何故か檸檬水のグラスが三つ、あたしの前に仲良く並んでいた。


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