ヒデちゃん 11 将軍
秋の午後、お茶を一杯飲みたくて奇漫亭へ行った。
扉を開けると、青い妖精が二人へたりこんでいた。一瞬、頭の中が真っ白になる。足が扉から思わず二歩引いていた。
前坂さんが、カウンタに座ってコーヒーを飲んでいた。でも、それだけではなかった。あの骨美人が、前坂さんの左肩に座って、にまりと笑っていた。やだよー、急に用を思い出したくなっちゃった。こちらの心を読んだように、妖精達が言った。
「見すてないで」
「急用を思い出したなんてなしですよ」
ああっ、見透かされているわ。悲しいため息をついて、カウンタに行った。できるだけ、前坂さんと離れた席にすわる。
「やぁ」
何事もないような顔で、前坂さんは言った。
「最近どうも肩がこってさぁ」
もしかして、前坂さんぜんぜん気づいてないの。あたしはごくりとつばを飲みこんだ。確かに、あれが肩にずっと乗っているとすれば、そりゃぁ凝るでしょうね。
突然、扉が開いた。えっとあたしが思っている間に、将軍がそこに立っていた。
百九十センチを超え、太い首、筋肉質のためにずんぐりに見える体つき。なんとなく米国海兵隊か、アメフトの選手を思わせる。でも、身につけているのは中華風の甲冑だった。
「ご無礼つかまつる」
と、将軍閣下は言うと、すたすたと骨美人に近づいていった。
「このようなところで、なにをやっておるのか!」
そう大喝した。骨美人はいやいやと、首を小さく左右にふった。
「わが命にそむくなら、法によって裁かねばならぬぞ」
将軍閣下の声、大きい。耳がいたくなりそう。
骨美人はしらぬふりを決め込むと、前坂さんの頭に首をのせて、うっとりする。ううっと前坂さんはうなった。
「今度は、頭が重いや」
ぼやく前坂さんの目には、将軍は見えないのだろうか?
「たわけものめ!」
将軍閣下は、そう吠えると腰に差してある刀を抜いた。歪曲刀だ。幅が広くて、いかにも重そうだった。
「呉鉤の切れ味、とくと見よ!」
右手に呉鉤を持って、将軍は左足を踏み込んだ。刀を切り下げた。
すぽぽぽーんと骨美人の首が飛んで、将軍の足もとに転がって行った。左手で骨美人の頭を抱え込んだ。
「ゆくぞ」
のっしのっしと、将軍閣下は歩いて行く。その後を、首を失った骨美人が、うなだれたままついて行った。
「失礼つかまつった」
そう言うと、二人は扉から外へ去って行った。
呆然とするあたしたちを見て、ぼんやりと前坂さんが言った。
「なに、どうかしたの?」
駄目ね、この人。
あたしはそう思うと、くすりと笑った。
12番は欠番とし次回は13番になります。




