第二幕 帰還の物語 第十一章 先(せん)達(だつ)達(たち)のタスケテ……
------ 第二幕、第十一章 ------ 先達達のタスケテ…… ------
…… “ ライム ” の警報は、百里の榊 防衛大臣の元にも、もたらされていた。
「“ ローレル ” 。 如何されますか?」
榊 防衛大臣は、精霊側のネゴシエーター長である情の大精霊ソニアが発した質問に、即答した。
「八雲分屯基地の第6高射群 “ 第○0高射隊 ” と “ 第○3高射隊 ” に発令し、敵のSAMを迎撃させる!
ただ、低空を飛ぶ巡航ミサイルについては、航空機からの対処の方が間違い無いので……。F‐15DJとRE‐4EJ改のAAM‐4Bで対処させたいのだが……」
ソニアが返答する。
「それで、よろしいかと思います。マイスターならば、それを “ イヤ ” とは言いますまい……」
榊 大臣は、『申し訳ない』思いを顔の表情に表しながら、口を開いた。
「では、そのように、させて貰おう。……分屯基地への配慮に、感謝する。
それと、作戦に追加参加させるのは、今の所 “ 八雲 ” のみで考えているが……。それで、よろしいか?」
「はい。では、そのように……」
ソニアの指示により、八雲分屯基地の “ 電波障害 ” が消えた……。
…… “ IAUCE ” ヘッドセットで “ Shinsengumi 01 ” と “ Wizard隊 ” への指示を終えた防衛大臣は、 “ 八雲分屯基地司令 ” を兼任する “ 第○0高射隊長 ” の “ 一条 ” 三等空佐と航空自衛隊 “ 三沢 ” 基地に本部を置く “ 第6高射群 ” 司令の “ 狸橋 ” 一等空佐を二名一緒に秘匿回線で直接呼び出し、 “ 檄 ” を飛ばす……。
……北澤陸幕長が、防衛大臣との話を終えたネゴシエーター長へ、提案をした。
「ソニアさん……。我々、陸自には、出来ることが限られているが……。
たまたま “ 函館駐屯地 ” に “ 着陸誘導装置JTPN‐P20 ” がある。たしか、函館空港には、一方方向にしか “ ILS(Instrument Landing System:計器着陸装置) ” が無い。逆方向に “ これ ” を展開すれば、今作戦の “ 終端部分 ” の “ 保険 ” と成る。どうだろう?」
陸幕長夫人の “ 北澤 真理恵 ” と姉の “ 榊 真美子 ” は、結果として “ 北澤家の末息子 ” が苦労することに、顰めっ面をする。北澤家の家長は、即時抗弁した。
「何……。もう一日、あの “ ドラ息子 ” を扱き使ったって、 “ 潰れるような球 ” じゃ無い……」
陸幕長の発言を待たず、防衛大臣夫人が妹へ口を開く。
「まあ! 後で言ってやりましょうよ! 怒るわよぉ……」
姉の発言を受けて、妹の陸幕長夫人が夫へ反論した。
「本当ねぇ。意味も無く、家の中に波風立てるんだから……。止めて欲しいわね!」
ソニアが、劣勢の北澤陸幕長に助け舟を出すように、微笑んで口を開いた。
「有り難い御申し出です。有り難く御受けします。
……その御礼と言っては何ですが……。内浦湾沿岸に “ 彼の国の特殊部隊 ” が三か所、全部で十六人、居ます。この情報は、マイスターにも敢えて公開していない情報です。詳細な場所は、此処に……」
ソニアは、モニターに表示されている地図を八雲町周辺に拡大して、内浦湾海岸線の三か所に印を付ける……。北澤一徹は、一気に “ 陸自の長 ” としての思考を取り返し、意気軒昂に気色ばんだ!
「ソニアさん、感謝する!
直ちに丘珠の “ 特戦群 ” を急派する!
更に念の為、函館空港周辺にも、 “ 普通科連隊 ” を展開させよう!」
夫人達は、肩を竦める……。
……陸幕長の極秘命令に、丘珠駐屯地と函館駐屯地が沸騰した……。
……水中の潜水艦から巡航ミサイルが、魚雷発射管から水平に四発発射される。それは、海面から斜めに飛び出し、飛翔を始めた!
RF‐4EJ改は、目標の原潜へ、真一文字に進攻して行く! その前席に座る神田川空将補は、前もって受けていた榊 防衛大臣の命令に従い、巡航ミサイル四発に残りの “ 99式空対空誘導弾〔B〕 ” 四発を一発づつ照準固定させて宣言した。
「“ Shinsengumi 01 ” , “ Fox1 ” ! (“ Shinsengumi 01 ” 、 “ AAM‐4B、発射 ” !)」
“ ヤマザル ” は、99式空対空誘導弾〔B〕が目標へと向かうのを確認すると、相棒の “ キュウビ ” へ問うた。
「“ 親亀 ” は、捉えたかぁ?」
太田空将補が、即答する。
「いや、まだだ。
…… “ IAUCE ” に拠れば、巡航ミサイル撃墜と、ほぼ同じタイミングで “ レーダーマスト ” と “ ペリスコープ(Periscope:潜望鏡) ” が、海面から出るようだ」
……元々AAM‐4Bは、AIM‐120と違い、巡航ミサイルを確実に撃墜することを期して設計されている。 “ IAUCE ” は、 “ キュウビ ” へ、『“ 国産の中距離空対空ミサイル ” が期待どおりの戦果を挙げた』ことを伝えた。それと同時に、後席の参謀は、前席へ報告する。
「……おっ! 今、レーダーが、敵の “ マスト群 ” を捉えた!
……目標、照準固定! 何時でも良いぞ!」
神田川空将補が、その言葉に即応して、宣言した!
「行くぞ! “ Shinsengumi 01 ” ! 敵、潜水艦に対し、攻撃始め!
ASM-1. Shoot ready, now! (80式空対艦誘導弾。発射準備、今!)」
“ 中央線上、3番ステーション ” の対艦ミサイル用ラックから最後のASM‐1が切り離され、ロケットモーターに点火する……。その瞬間、 “ ヤマザル ” が、再び宣言した!
「Go gate! (オーグメンター(アフターバーナー)点火!)
ASM‐1を追って、急降下!」
“ キュウビ ” は、呆れた口調で、口を開いた。
「やっぱりね……。そう来ると思った……。
ASM‐1を、RF‐4EJ改で、相手の目から隠そうってか?」
神田川空将補が、何時もの機嫌の良い時の調子で応じる。
「そう言うこと。精霊が、折角 “ パックマン・パターン ” の “ 能動型、RCS(レーダー反射断面積)低減 ” をしてくれているんだ。利用しない手は、無いさ。
……それに、 “ 精霊側の武器 ” も、試してみたいじゃない?」
太田空将補が、何時ものことながら、肩を竦めた。
「成る程……。 “ おまけ付き ” ってことか……。なら、自機を危険に曝す “ 零点解答 ” にも目を瞑ってやるよ……」
その時、RF‐4EJ改は、先行していた “ 亜音速対艦ミサイルのASM‐1 ” を追い抜きざまに、音速を超える。参謀は、言葉を続けた。
「ASM‐1との “ 間合い調整 ” は、全部そっちに任せるぞ。あいつ、思った以上に “ 鈍足 ” だ。気を付けろよ!
俺は、 “ ガン(Gun:機関砲) ” の準備の後、敵のSAMへの対応に専念する。 “ 04 ” の発射も、こっちでする!」
「あいよ。 “ 言い出しっぺ ” は、俺だ。心配無用!」
“ 前席 ” は、 “ 後席 ” が指摘を終わるまでも無く、推力を “ ミリタリー ” よりも絞り込んだ。、機体が、直ぐに音速を割る。RF‐4EJ改は、ASM‐1と目標の延長線上に重なるか重ならないかの絶妙なズレを維持しながら、超低空飛行を続けた。ASM‐1は、慣性誘導によって、目標へ誘導され続けている……。
…… “ キュウビ ” は、 “ in quarter(31.75mm)有翼式高速射滑腔砲ユニット ” を確認して、トンデモナイことに気が付いた。それを、 “ ヤマザル ” へ、速やかに報告する。
「……お! おい “ ヤマザル ” 。
御丁寧に、 “ ローランド ” が “ 毛色の違う弾 ” を準備しているぞ。 “ AP‐FS‐L弾 ” が1230発程、装填してあるようだ」
「へ? 何だそれ? …… “ APFSDS(Armor-Piercing Fin-Stabilized Discarding Sabot Ammunition:装弾筒付翼安定徹甲弾) ” なら聞いたことが有るが?」
「俺の予想が確かなら……。恐らく、それの “ 侵徹体 ” そのもの……」
「ホントかよ……。 “ 戦車戦 ” じゃ、あるまいし……」
不意に “ キュウビ ” が、会話を打ち切った!
「……一寸待て、 “ ヤマザル ” ! 敵の攻撃だ!」
水中から “ 何か ” が飛び出して来た。 “ IAUCE ” の情報に拠れば……。如何やら敵潜水艦が、 “ 潜望鏡深度 ” のまま垂直方向に、 “ Sa○b340B ” 隊へ向けてSAMを十発、発射し続けているようだ。後席の参謀が、即応する。
「対処出来るだけ、対処する! 御前は、 “ 間合い ” に集中しろ!」
「あいよ! 頼んだぜ!」
太田空将補は、神田川空将補の言葉を聴きながら……。 “ IAUCE ” の情報に従い、迎撃可能な後ろのSAM八発へ向けて、AAM‐5を “ LOAL(発射後、照準固定) ” モードにセットして宣言した。
「後方の八発に一発づつ、指向させる!
“ Shinsengumi 01 ” , “ Fox2 ” ! (“ Shinsengumi 01 ” 、 “ AAM‐5、発射 ” !)」
RF‐4EJ改から八発の『中途航程誘導に “ 慣性航法 ” を採用した、終末航程IIR誘導式の空対空ミサイル』が、 “ キュウビ ” の引き金を引く動作を待つこと無く、目標へと向かった。参謀の関心は、目標よりも、 “ あらゆる情報の収集と活用の制御機器群 ” へと移る……。
[ “ IAUCE ” ……。本当に、使える “ 目 ” と “ オペレーション(Operation:運用) ” だ……。発射後照準固定作業も、簡単な音声指示で、システムに預けることが出来るとは……。それにしても、人間の認識能力を良く考えて、作られている……]
有能な参謀は、そう思いつつも、無線で “ 第○0高射隊長 ” を兼務する八雲分屯基地司令を呼び出す。
「八雲分屯基地司令、 “ 一条 ” 三等空佐へ。此方、 “ Shinsengumi 01 ” 、太田空将補……」
相手は、直ぐに出た。
「此方、 “ 一条三佐 ” です。どうぞ!」
「敵のSAMへ攻撃を願う。手前の二発へは、手出し出来ていない! 確実に叩き落とせ! その他へは、此方から一発づつ指向済み!」
八雲分屯基地司令は、その指示に、即答した!
「敵ミサイルは、此方でも確認しております! 既に四発、発射済み! 逐次、発射中! 御任せ下さい!」
……最終的に、八雲分屯基地から敵のSAMへ向けて、 “ MIM‐104D、Patriot/GEM弾 ” が一個高射隊に付き六発づつ、合計で十二発、発射された……。
……後続の敵SAM八発が、八発のAAM‐5によって撃墜もしくはダメージを受けて、無力化された。そして神田川空将補と太田空将補は、自機の後方で “ ポップアップ(Pop-up:目標最終捕捉の為の急上昇) ” をしたASM‐1の “ シーカー(Seeker:目標捜索装置) ” が目標を捉えたことを、 “ IAUCE ” から教えられる。二人の目の前には、潜水艦の “ マスト群 ” が迫って来ていた……。
…… “ 彼の国 ” の “ 国軍部、長官室 ” 直属の対外非公開組織 “ 諜報・特殊工作執行部 ” 所属 “ 前線展開拠点艦 ” の “ 001型・潜水艦 ” ……。それは、 “ 発射サイロ ” 事故によって廃棄されるはずだった “ 戦略原潜 ” を改造し、発射サイロの部分を “ 並列搭載、横から埋め込み式 ” の “ 潜水艇、接続部分 ” に置き替え、 “ データリンク ” を “ 諜報・特殊工作執行部 ” 用に強化した艦である。この組織にとっても、たった一隻しか存在しない “ 虎の子 ” であった。
この艦の中枢である “ 発令所 ” は、現在、夜用の “ 赤灯 ” の元にある。此処は、諜報戦の “ 作戦指揮所 ” を兼ねるので総面積が通常の潜水艦の三倍以上にも成り、一部に書類の色調確認性の為の低照度 “ 白灯 ” が光る。今、そこに詰める要員の半数以上が、有り得ない事態に聞き耳を立てていた……。
…… “ 政治将校 ” でもある “ 参謀長 ” から、無謀としか思えない攻撃命令が出た! “ 艦長 ” が気色ばんで反論する!
「……生存を知らせる “ 音響信号 ” が、二隻共、消えたのです。その直後には、爆音も二回、重なって聞こえて来ました……。潜水艇は、二隻共、撃沈されたと考えるのが妥当です!
この状況で、艦を危険に曝してまで……。 ……どうしても、 “ 攻撃する ” のですか?」
“ 佐官 ” である艦長の問いに、 “ 将官 ” である参謀長が、明確に答えた。
「『何としても、機密を保持せよ! 兵器の損耗は、考慮に入れずとも良い!』。……この “ 軍部長官 ” の言葉には、今更説明の必要も無いだろう……。
全力で攻撃せよ! これは、軍部長官の直命である!」
誰の目にも、参謀長の冷酷な表情から、『これ以上の説得は、無理!』と思えた。艦長は、沈黙し、思考を巡らす。
[“ ソナー(Sonar:音響探知機)要員 ” の報告では……。この海域に “ 軍艦の機関音 ” は、幸いにして “ 諜知 ” されていない。攻撃自体は、保安基準に照らしても、可能だ。
しかし、この近くには、強力な “ SAM(Surface to air missile:地対空ミサイル) ” であるPatriotを装備する八雲分屯基地が在る。手持ちの “ 試作、VLS水中発射型、艦対空ミサイル ” 十発では、即時撃墜されるのが “ 落ち ” だ……。もし航空機への攻撃をするならば、八雲分屯基地のPatriotへの対地攻撃が不可欠と成る。だが、独立国家の国土への攻撃をすれば『“ 宣戦布告 ” 無しの開戦』と取られる!! そんなことをすれば……]
参謀長の発言が、艦長の思考を停止させる!
「やるんだ!! 責任は、上が取る!!」
[……嘘、付け!!]
艦長は、心で瞬時に毒突く! ……その耳元に、参謀長が囁いた。
「孫も、可愛い年頃じゃないか……。『良い手土産を持って帰らないと』な……」
[……やはり、そう来たか。俺も、まだ人質を取られる立場か……]
艦長は、観念したが、顔には出さずに答える。
「……地上基地への攻撃が、必要と成りますが……」
「許可する」
艦の責任者は、顔色一つ変えずに即答した参謀長に、言い知れぬ恐怖と敬意を持った。
[……まるで、 “ 虫けら ” でも潰すかのようだ……。
彼方の方が、 “ 出世競争 ” で、私よりも “ 血の宴 ” を見て来たようですね……]
……艦長が、号令を発した。
「これより、機密保持の為、 “ 民間輸送型航空機 ” に対する直接攻撃を行う!
それに先立ち、 “ 自衛隊SAM基地 ” に対して、巡航ミサイルによる攻撃を行う!
“ 砲雷長 ” ! ミサイル発射数、四! 魚雷発射管、1番から4番を使用せよ! “ ミサイル発射深度 ” に達し次第、発射!
魚雷発射管の5番と6番には、念の為、 “ 誘導魚雷 ” を装填して於け!」
参謀長が、水を差して来た。
「魚雷発射管は、六基、在るぞ……」
艦長は、艦の責任者として、即時反論する。
「“ 指揮権限者 ” は、私です!
防艦の為、万が一に備えて、対艦攻撃の手段を用意して於く必要が有ります。
また、巡航ミサイルは、必要に応じて、第二波攻撃を行います!」
[確かに……。このことに付いては、艦長に権限が在る……]
冷酷だが極めて理性的な参謀長は、自ら引き下がった。
「……失礼した。それで結構だ……」
艦長が、号令の続きを発する。
「“ 魚雷発射管室 ” は、巡航ミサイル発射後、速やかに再装填! 発射の指示を待て!
“ 操舵主任 ” は、巡航ミサイル発射後、速やかに “ 潜望鏡深度 ” へ浮上!
“ 対空要撃主任 ” は、レーダーを海上へ出せば、自衛隊側の反撃が予想される! 対空警戒、厳と成せ!
なお、防空戦闘機の存在が、十分考えられる……。よって、攻撃の機会は、一回だ! 対空ミサイルは、十発全弾、一斉発射! 相手の対処能力を飽和させることで、必勝を期す!
その後、相手の撃墜を確認、速やかに撤収する! 但し、攻撃が有れば即時潜航する!
……各員、直ちに、作戦始め!!」
「ハッ!!」
各自が、自らに課せられた仕事を、淡々と熟して行く……。
……程無くして、 “ 砲雷長 ” が報告をした。
「巡航ミサイル。発射数、四。諸元、入力終了。発射、良し!」
“ 航海長 ” も報告した。
「巡航ミサイル発射深度に達しました! 艦安定、良し! 攻撃、良し!」
それを受けて、艦長が命じる!
「巡航ミサイル、攻撃始め! 撃て!!」
巡航ミサイルが、魚雷と同じ要領で、四発発射された。艦長は、細かい命令を部下へ続ける。
「『“ 自衛隊SAM基地 ” が、巡航ミサイルに気付いた頃』を見計らって、艦対空ミサイルを発射する必要がある!
“ 操舵主任 ” ! “ 対空要撃主任 ” ! 作業、急げよ!」
「ハッ!」
「ハッ!」
この、あちこちと色々 “ ガタ ” の来ている潜水艦の艦長にとって、『部下に恵まれたことだけが、唯一の救い』であった……。
…… “ 対空要撃主任 ” は、潜望鏡深度に到達すると、直ちにレーダーマストを展開した。そして、周辺を確認し、艦長へ報告する……。
「報告します! 目標、捕捉しました!
……艦の周辺に、此方へ向かって来るレーダー反応は、有りません。
……巡航ミサイルが見えません。荒天による “ ノイズ ” と、ミサイル自身の “ シー・スキミング(Sea Skimming:海上、超低空飛行) ” の影響と思われます」
「目標には、 “ 照準固定 ” したか?」
“ 対空要撃主任 ” は、艦長の問いに、手を忙しく動かしつつ答えた。
「……今、終わります。……目標へ、全弾 “ 照準固定 ” 完了しました! 何時でも撃てます!」
「発射、始め!」
艦長の号令によって、 “ 試作の水中発射型、艦対空ミサイル ” が、順番にVLSから発射された。参謀長が口を開く。
「これで、我々の未来も安泰だ。諸君、良くやってくれた。間も無く、問題は解決……」
その声を遮るように、 “ 対空要撃主任 ” が、一際大きな声を上げた!
「待って下さい!!
何かが、艦対空ミサイルへ!! そんな馬鹿な……」
「どうした?」
“ 対空要撃主任 ” は、艦長の問いに、困惑したような声で答える。
「今、レーダー映像、スクリーンに出します。
……発射した “ 試作、艦対空ミサイル ” の内、後ろの八発が、いきなり現れたミサイルらしき物体により、撃墜されました!」
艦長は、その声で、スクリーンに注目した。
「後ろの八発が?! “ 八雲 ” からでは、ないのか?! 何処から、飛んで来た?! 目視で確認……。
いや、大深度へ “ ED(“ 緊急潜航 ” のことを “ 彼の国 ” では、こう呼ぶ) ” 、用意!」
我に返った艦長の命令の直後、 “ 対空要撃主任 ” が再び声を上げる。
「レーダーに反応、有りません!
今、潜望鏡映像を出しま……。うわ!!」
士官達だけでは無く、艦長も腰を抜かした! 潜望鏡の映像を映し出すスクリーンには、いきなり航空機がズームアップしたように大写しに映り! そして、それは、画面の左上の方へと、一瞬で消え去った……。次の瞬間、発令所全体に振動が走り、各種映像がノイズで乱れる!
[自衛隊のファントムが、こんな所にぃ……。
マストや潜望鏡には “ 対レーダーコーティング ” を施している! レーダー自体も、傍受されにくい “ 特殊なデジタルレーダー ” なんだ! 何故、我々を発見出来たんだ?!
それよりも何故、 “ 第三世代機 ” が、此方のレーダーに映らなかったのだ?!]
艦長は、そう思いつつも、素早く指示を出した!
「“ 操舵主任 ” ! “ ED(緊急潜航) ” 、良いか?!」
「……はい。準備、良し! 出来ます!!」
「機関、全速! 深度300(m)!
“ メイン(“ 通常潜航用、主バラストタンク ” のこと) ” 、 “ ネガティブ(“ 緊急潜航用、ネガティブ・バラストタンク ” のこと) ” 、ベント全開! “ ダウン(下げ角) ” 最大!」
艦が、艦長の緊急指示により、大量の泡を吐きながら沈み始めた。その時、レーダー画面と潜望鏡映像を見ていた “ 対空要撃主任 ” が、また大声を上げる!
「対艦ミサイルが来ます! 潜航を早く……」
「艦長! 君の責任だ! 私では無いぞ! この無能者め!」
「……ダメだ! 間に合わない!!」
“ 対空要撃主任 ” の悲鳴が、参謀長のヒステリックな発言を上から圧殺して、発令所に響き渡った……。
……ASM‐1は、ギリギリで、水面に消えようとしている潜水艦のマスト群を約75°の突入角で捉えた。弾頭が、 “ セイル(Sail:潜水艦に於いて、水上艦の艦橋に相当する部分) ” 右側後方上部を突き破ると、構造物に誘導されるように “ 外殻 ” と “ 内殻(耐圧殻) ” 間を垂直に抜け、 “ セイル ” と右側の “ 潜水艇、接続部分 ” との継ぎ目付近で炸裂する! 爆圧が、この潜水艦の “ 特異な構造 ” の為に逃がされはしたが……。150kgの “ TNT(Trinitrotoluene:トリニトロトルエン) ” 火薬は、 “ セイル ” 後方右側基部の周りの構造物をグシャリと変形させ、周りの外殻を脱落させ、内殻に亀裂を生じさせた。そして浸水が、原子炉区画に次いで隔離能力に優れているはずの発令所にも、侵入して来る……。
……その時、艦長以下の “ 発令所、要員 ” ほぼ全員が、ASM‐1爆裂の衝撃波で気絶して、行動不可と成っていた。室内は、灯火が消えて、真っ暗だ。ようやく起き上がった “ 副艦長 ” は、クラクラする頭で “ 携帯ライト ” のスイッチを入れると、室内灯を確認した。それまで使っていた夜用の “ 赤灯 ” は、死んでいるようだ。だが、 “ 白灯 ” は、まだ使えた。それを点灯させて、発令所を見渡す。全員倒れているようだが、呻き声が聞こえて来た……。
「動ける者は、集合せよ!」
副艦長が有らん限りの声で命じると、 “ 砲雷長 ” の直属の部下である “ 対空要撃主任 ” と “ 航海長 ” の直属の部下である “ 操舵主任 ” 、それから数人の水兵が漸く起き上がった……。
“ 艦務長 ” でもある副艦長は、部下達に命じて、 “ 操艦コンソール ” を初めとした主要機器を確認させた。自身は、一番重要な機関部を確認する。
[原子炉は、『自動で “ 緊急停止 ” した』か……。先ずは、良し……]
……やがて、報告が上がって来た。状況は、かなり深刻だ。
[此処には、全ての機能が集中している。機能停止したら、 “ 一巻の終わり ” だが……。
幸いにも……。艦は、 “ オート・トリマー(Auto Trimmer:自動釣り合い装置) ” の “ 緊急自己保持モード ” で、バランスと深度を保っている。主要機器は、非常電源で生きている……。
しかし、扉が歪んで、完全に閉じ込められた。艦内通信も、使い物に成らない……]
発令所へ進入して来ている一筋の海水は、今の所、更に下へ流れて行っている……。
〔……ブシュー……。……ブシュー……〕
経験豊富な “ サブマリーナ(Submariner:潜水艦乗り) ” 達は、その音に驚愕した。それは、 “ 主バラストタンク ” への “ 主圧縮空気タンク ” からの “ 空気ガス ” 注入音だ! しかも、こんな “ 間欠排水 ” ……。
操艦コンソールに取り付いた “ 操舵主任 ” が、叫びを上げる!
「副艦長! “ オート・トリマー ” の “ 自己保持プログラム ” が、最終手段を取っています!
……余剰浮力の限界まで、余り時間が有りません! 直ぐに指示を!」
“ 艦の次席 ” は、苦虫を潰した!
今 “ オート・トリマー ” は、足らない浮力を補う為に、 “ 禁じ手 ” まで取っている! それは、破壊された “ セイル ” 付近からの海水浸入が、艦の浮力を急速に奪っている証拠だ!
……艦一番の胆力を艦長からも認められている副艦長は、この土壇場に至っても、艦の行動を考え続けた!
[爆発が生じた大まかな位置から考えて……。今直ぐメインタンクの “ エマージェンシー・ブロー(Emergency Blow:緊急排水) ” を実行して緊急浮上すれば、ひょっとしたら “ 耐圧殻 ” の亀裂が “ 喫水線 ” 上に出て助かるかもしれない……。
……しかし、このまま日本国へ投降しても、一族郎党……。そうさ、妻も息子も娘も、二度と日の目を見ない “ 地方席 ” へ飛ばされる。もう子孫達の “ 都市席 ” への復帰は、未来永劫、絶対に有り得ない……。それならば、子供達の将来の為にも、今、此処で自爆して……]
いきなり室内が、衝撃と共に、再び真っ暗と成った! そこで、副艦長の全ての思考と記憶は、プッツリと途切れる……。
……RF‐4EJ改は、 “ 敵潜水艦のマスト群 ” の側を、ミリタリー推力を維持したままM1.3から更に加速しつつ、駆け抜ける! “ ヤマザル ” は、左右に波濤の立つ海面上30ft(約9m)の高度から一気に機体の引き起こしをして、潜水艦から離れた。後方でASM‐1が “ ポップアップ ” 後の “ 急降下突入 ” をして、黒煙が上がるのが見える……。
「良し! 一発、噛ませたぜ!
止めを刺すぞ、 “ キュウビ ” !」
機長の求めに、参謀が指示を出す。
「じゃあ、10000(ft:3048m)まで上がってから、攻撃進入に入れ! この “ 徹甲弾 ” なら、少々の水深は、物ともしないだろう……。
おっと、そうだ! 後ろ半分には、当てるなよ! 原子炉が、吹き飛ぶ!」
「はいはい、分かってるよ。
俺も……。此処の旨い “ 烏賊 ” は、これからも喰いてぇからな……」
……その時、意の精霊長が二人に話し掛けて来た。
『神田川空将補、太田空将補、御疲れ様です。
……実は、折り入っての御願いが有ります』
神田川空将補が、代表して答える。
「エリーさん。何でしょう?」
『単刀直入に言います。このままでは、相手に自爆される可能性が有ります』
「まあ……。自爆したけりゃ自爆……。
そうは行かんな。原子炉が……」
『そう言うことです! その阻止の為に、もう一度、神田川空将補の “ 腕 ” に頼りたいのです。
……御願い出来ますか?』
「もちろん! “ 放射性物質による汚染 ” を防げるなら、喜んで」
『ありがとう。
では、狙うのは此処です』
二人の正面に在る “ 大型三次元ディスプレイ ” には、敵潜水艦の三次元設計図が表示され、その中に “ 射撃ポイント ” が示された。太田空将補の顔と声が、少し曇る。
「狭い射界だなぁ……。『爆撃機の背面に穴を開けた』あの時もキツかったけど、此れも中々の物だぜ!」
エリーが、済まなさそうに、答えた。
『“ 運行管理用コンピューター、サーバーラック ” の中の一つが目標ですので……。
たた、これが上手く行けば……。 “ 彼の国 ” の原潜技術が、ほぼ無傷で手に入ります。壊せば壊す程、私共も大変ですし、技術も見聞を出来無くなって “ 技術屋 ” さん達がガッカリすることに成ります。
是非、神田川空将補には、 “ 確実な一撃 ” を御願いします』
その昔 “ ゴリラ ” を名乗って一時代を築いた百戦練磨の猛将は、ニヤリと笑うと、答える。
「……やらせて頂きましょう!
行くぞ! “ キュウビ ” 」
参謀の反応は、早かった。
「流石は、 “ 野生の神田川 ” ……。この天候で、受けちまうなんて……。あんたにゃ勝てんよ……。
じゃあ、艦の真後方から進入角77°で “ 攻撃進入 ” しろ。それが、最良だ……。
なお攻撃は、 “ 一回のみ ” と考えろ。時間を置けば置く程、自爆する可能性が上がるぞ!
“ 超精密射撃 ” だ! 後は御前の “ 野生 ” に期待する……」
「あいよ! 任せろ!」
「じゃあ、任せるぜ……」
意の精霊長が、感慨に耽る……。
[二人共、 “ あの時 ” と、本当に変わっていないのね……。良かった……]
……程無く、 “ Shinsengumi 01 ” が攻撃進入に入り、急降下を始めた。天候の影響で、機体が安定しない……。
[あの時と同じか……]
神田川空将補は、二尉時代の “ 新撰組作戦 ” を思い出していた。今回との違いは、 “ 爆撃機への水平射撃 ” か “ 水中の潜水艦への急降下射撃 ” かの違いだけ……。悪天候下での “ 超精密射撃 ” であることには、変わりがない……。ただ、あの時と、決定的に違うのは……。
[優秀に過ぎる “ FCS(射撃管制装置) ” だ。大気密度や風、海への弾体突入角度や海流、発射母機の揺らぎ、それに弾の重量や弾着速度も考慮に入れて、弾道表示がされていると考えるのが妥当だな……。照準のブレが積極的に打ち消されているのか、ほとんど目標攻撃位置が揺らいでいない……]
エリーが、 “ ヤマザル ” へ話し掛けて来た。
『“ GVCE ” を使った “ 実体弾用、スタビライザー・システム ” が、効いています。今、目標射撃誤差は、平均で半径1m位です。
御心配無く。射撃誤差が最小と成るタイミング……。『目安として、0.6m以下で発射すること』にのみ、集中して下さい』
“ ヤマザル ” が、苦笑いして、口を開いた。
「“ 至れり、尽くせり ” だねぇ……。では……。
“ Shinsengumi 01 ” , “ Fox3 ” . (“ Shinsengumi 01 ” 、 “ in quarter(31.75mm)有翼式高速射滑腔砲ユニット、発射 ” )」
程無く……。神田川空将補は、全てのタイミングを計りながら、引き金を引いた……。
〔……ブン……〕
バルカン砲に比べて “ 余りに、やる気の無い音 ” が、一瞬聞こえた……。
……全長が約90cmの “ in quarter(31.75mm)AP‐FS‐L弾 ” 八発は、ASM‐1が穿った “ セイル ” の亀裂より後ろの左右に在る “ 潜水艇、接続部分 ” の間から艦内へと突入する。そして、潜水艦の管理用コンピューターのサーバーラック群の内、目標と周辺のラック2基を破壊した。 “ 001型・潜水艦 ” は、完全に制御を失い、沈み始める……。
……射撃直後 “ ヤマザル ” は、海面を避ける為に、機体を反転離脱させた。そこへ、意の精霊長が、報告して来る。
『攻撃成功です。ほほ最良の結果が出ました。目標、沈下して行きます。
もう乗員の自助努力では、何を如何することも出来ませんので……。後は、此方で鹵獲します。明日には、内覧して頂けるでしょう……』
太田空将補が、口を開いた。
「それは、楽しみだな……。
……おっと、少々燃料を無駄使いしたようだ。このままでは、今直ぐ千歳へRTB(帰投)しなきゃ成らない……」
神田川空将補も、口を開く。
「どうせなら、 “ やんちゃ坊主共の大暴れ ” を最後まで見届けてやろうぜ。 “ キュウビ ” 」
「そう来ると思った。
“ ヤマザル ” 。 “ タンカー ” は、まだ津軽海峡上空で待機中だ。接触するぞ」
「そう来なくっちゃ!」
……二人は、高度を取りつつ、津軽海峡を目指す。
『二人共、変わっていませんね……』
エリーが、ポツリと呟いた……。
…… “ キッド ” は、予定通り、内浦湾の中央部上空で旋回上昇を続けていた。現在、25000ft(約7620m)まで上昇して来ている……。
その時、 “ IAUCE ” センサー群の “ 三次元表示 ” が、『敵潜水艦から発射された敵SAM十発の内で “ Shinsengumi 01 ” のAAM‐5に “ 無力化 ” されなかった二発が、八雲分屯基地から発射された “ MIM‐104D、Patriot/GEM弾 ” 十二発の内、二発により撃墜された。おまけに、砕かれた躯体破片へ、もう二発づつの弾頭部が直撃した。更に、無力化された敵SAMの残存機も、速やかに破壊された』のを、視覚的にコックピットの三人へ伝えた。少し遅れて、遠雷のような爆音が十数回、重なりつつ聞こえる……。
更に “ 表示による報告 ” は、続き……。 “ Shinsengumi 01 ” による潜水母艦への攻撃も、成功したようだ……。
「これで、一安心……」
胸を撫で下ろした精霊の主の呟きに、旧帝国海軍の撃墜王が “ 活 ” を入れる。
『こら! まだ、気を抜くな! 今回は、着陸するまでが、作戦行動だ!
それに敵は、まだ諦めていないかもしれんぞ!』
亮圭は、首を竦めつつ、言った。
「この後、如何しよう?」
「……全員に、提案が有る」
無線機を操っていた志村一佐の発言に、場の全員が注目する。 “ スペクター ” が、 “ キッド ” へ口を開いた。
「この状況を考えると……。函館まで行かずに、一刻も早く着陸することを考えて、八雲分屯基地内の “ 八雲飛行場 ” へ降りた方が良いと思う……。向こうも、そう言って来ている。
……南 少尉の意見は、如何ですか?」
『それでも、構わないが……』
旧帝国海軍の撃墜王は、少し思案を巡らすと、機長席の少年に指示を出した。
『亮圭君。
……念の為、 “ IAUCE ” の “ 対人・対物アラーム ” で、海岸線を確認して見てくれ。私が “ 敵の指揮官 ” なら、着陸の瞬間を見逃すことはしない……』
「はい……」
……海岸線には、 “ 赤の表示 ” が三か所も在った。それぞれに、スティンガーが二発と人間が五人程、見て取れる。撃墜王が、ガッカリした声で、言った。
『やっぱりか……。
今作戦での地上戦闘部隊の展開は、聞いていない。これでは、排除してもらうにも、一時間以上、掛かるな……。さて、如何したものか……』
“ ミニデルタ編隊 ” の右翼側に付ける神田川一尉が、発言する。
『“ SEAD(Suppression of Enemy Air Defence:敵防空網制圧) ” やりましょうか? 超音速で横から接近して、バルカンで掃射すれば……』
太田一尉が、前席者の発言を、否定する。
『弾、余り残ってないんだけど……』
『あ……』
“ ゴリラ ” が言葉に詰まった所で……。北澤陸幕長が、 “ IAUCE ” ヘッドセットを通して、声を掛けて来た。
『此方、陸幕長の北澤だ。
函館空港周辺は、函館駐屯地の普通科連隊により、安全を確保している。そのまま、函館へ向かってくれて問題無い。
内浦湾の “ 目標群 ” へは、陸自精鋭の “ 特殊作戦群 ” を急派している!』
この瞬間、亮圭の方針が決まった。
「じゃあ、函館へ行こう。皆、それで良いよね?」
全員、異存は無かった……。
志村一佐が、各方面へのマネージメントを八雲分頓基地に依頼する形で開始する。南 少尉は、機長役の少年へ指示を出した。
『では亮圭君、まずは、このまま旋回しつつ17500ft(5334m)まで降下しよう。そうしたら、磁方位140°で内浦湾出口を目指して、 “ 空路V2 ” へ再合流しよう。これには、気流の安定しない “ 駒ヶ岳 ” 周辺を避ける意味もある……。
それと、旋回が終わってからで良いから、この “ VS(Vertical Speed:縦方向〔選択〕) ” ボタンを押して於いてくれ』
「了解!
VSボタンは、手が届かないから……。ダイア、押してくれる?」
『ダー。マイン・マイスター』
大精霊が、精霊の主の指示を遅滞無く実行する。撃墜王は、副操縦士席の少年にも指示を出した。
『修平君は、真ん中に在る “ APA(高度任意設定器) ” の表示を2000に設定してくれ。そうすれば、函館VORを2000ft(約610m)で通過出来るように設定出来る』
「はい!
ダイア、俺も手が届かないから……。 “ APA ” は、御願い」
『はーい』
大精霊は、精霊の主にそっくりな少年の願いも、遅滞無く実行した……。
旧帝国海軍の撃墜王が、少年二人に提案する。
『……今の内に、着陸手順の検討をしようか?』
「了解」
「はい」
少年二人の声には、まだ覇気が感じられる……。
『それでは、まず……。函館空港の状況なんだが……』
南 少尉の話を要約すると……。本来、函館空港への悪天候時のアプローチは、 “ ILS、CATⅠ ” の在る “ 滑走路12 ” へ西側から進入するのが普通だ。しかも今は、風が東から吹いているので、スムーズな着陸が出来る。
しかし、この方向からの進入では、函館市街地を通過しなければ成らない。物陰の多い市街地では、八雲分屯基地の場合と同じく、スティンガーの “ 待ち伏せ攻撃 ” の懸念が有る。また、もし被撃墜等で墜落した場合には、地上への被害が避けられない。
『……と、言う訳で……。
今回は、東側から “ 滑走路30 ” へ “ 非精密進入方式 ” ってので着陸するしかない……。そっちからだと、滑走路が下り坂に成っていて……。しかも現在、約8knot(約4.12m/s)の追い風なのが、なお辛い所だが……』
亮圭は、旧帝国海軍の撃墜王の指摘に、肯く。しかし、築城基地副司令の意見は、違った。
「南 少尉。御言葉ですが……。
『短時間豪雨の繰り返しにより “ 函館 ” の “ RVR(Ranway Visual Range:滑走路視距離) ” は、最低で2000ft(約610m)前後』との情報が入っています。これは、 “ ILS、CATⅠ ” でも、ほぼギリギリの “ 視距離 ” です。しかも “ ダウンウインド(Down wind:追い風) ” 8knot(約4.12m/s)の風では、 “ 函館の管制 ” が許可を出すとは思えません」
再び、北澤陸幕長が、議論に参加して来た。
『それに関してだが……。心配には、及ばない!
実はな……。昨日の内に函館駐屯地へ、丘珠から “ 着陸誘導装置JTPN‐P20 ” を “ 昨日の亮圭君の行動 ” に便乗した “ 抜き打ち訓練 ” で陸路、持ち込んでいたんだ。……事の発端と顛末は、聞かないでくれよ!
それを……』
『おいおい……。俺は口を噤んでやるが、精霊さん達に機密は通用しねえぞ! なぁ……』
精霊側のネゴシエーター長が、話に割って入る。
『一寸待って、榊さん! それは、さて置いて……』
百里基地司令官室に居る陸幕長は、 “ IAUCE ” ヘッドセットの先で、後ろの防衛大臣と夫人達を初めとした “ 外野 ” のザワツキを大精霊ソニアと制しつつ、言葉を続ける。
『……それを、函館空港の “ 滑走路30 ” へ設置させている。程無く、運用可能と成る。
取り敢えず……。 “ PAR(Precision Approach Radar:精測進入レーダー) ” を使った “ GCA(Ground Controlled Approach:着陸誘導管制) ” ならば、 “ ILS、CATⅠ ” と同じ精度だ。問題あるまい……』
「良くもまあ……。空港側が、許可を出しましたね……」
榊 防衛大臣が、志村一佐の呟きに対して、 “ IAUCE ” ヘッドセット越しに答えた。
『そりゃあ、天下の “ スペクター ” が『テロリストのパイロットを制圧』して操縦桿握っているんだ。地上被害軽減の観点から説明したら、 “ 国交省 ” の許可が出たよ』
「へ?!」
旧帝国海軍の撃墜王も、大声を出した築城基地副司令に、あっけらかんと言った。
『そりゃあ、『亮圭君が操縦している』なんて知れたら……。着陸の許可を出す民間空港は、平時でも無いでしょう? 名目上、『テロリストのパイロットを制圧して、この機体を操縦している』のは、この中で唯一の航空自衛官パイロットである……』
「私ですか?!」
『志村大佐。貴方は、『栗林中尉……。今の太田空将補の再来』とまで言われた “ 英傑 ” だそうじゃないですか。貴方が操縦しているのなら、空港側も逆風の “ 滑走路30 ” への着陸許可を出すでしょう?』
“ スペクター ” が、自身の “ 函館での経験 ” に基づいて、撃墜王の発言を心のなかで斟酌する!
[ILSでの “ ランディング(Landing:着陸) ” なら、いざ知らず……。
早く降ろすなら、 “ 滑走路30 ” の “ SDF(Strp Down Fix:着陸進入高度、確認点。滑走路端から2.6nm(4.63km)、 “ MSL(平均海面高度) ” 1028ft(約313.33m)) ” を “ FAP(Final Approach Point:精密進入に於ける、最終進入開始点。ILS等の “ 精密進入方式 ” に於いて、 “ グライド・パス(Glide path:ILSの “ 進入角、表示電波 ” 。もしくは、それ等が示す “ 滑走路への最終進入時の下り坂 ” のこと。 “ グライド・スロープ(Glide Slope) ” も同義語。一般的に3.0°の下り坂) ” に会合する空間点) ” に特別指定させて……。そこから最終進入( アプローチ)に入るように狙いを付けて、フラップを一杯に下ろした低空での “ IAS(指示対気速度)130knot(約241km/h)、左80°旋回 ” ……。いいや、普通のパイロットが、するんじゃないんだ! この “ 悪天候、悪条件 ” 下では、難易度が高すぎる!
ここは十歩譲って、滑走路30で通常使用する “ R‐NAV〔GNSS〕(aRea NAVigation〔Global Navigation Satellite System〕:〔全地球衛星航法システム〕広域管制進入。 “ 非精密進入方式 ” の一つ) ” の “ FAF(Final Approach Fix:非精密進入に於ける、最終進入開始点) ” である “ IKARUポイント(滑走路端から5.8nm(10.74km)、 “ MSL ” 2047ft(約624m)) ” を “ FAP ” として、方位307°で “ 亀田半島(“ 渡島半島 ” の南東端、 “ 恵山岬 ” を頂点とする半島) ” 南側をかすめる “ 着陸進入 ” をするしか……。しかし、どちらも、最終的には滑走路直前での左へ約10°の “ オフセット(Offset:進路修正) ” が必要だ。 風と雨に翻弄される今の状況下では、子供に出来る訳が無い!
しかも “ 誘導 ” は、通常なら英語による “ 声だけのナビゲーション ” だ! 理解出来るはずが、無い!]
“ スペクター ” が、 “ キッド ” へ、話を持ちかけた。
「……なあ亮圭君。特別な事情は、太田空将補から説明を受けて、理解しているが……。今からでも、席を替わらないか?」
志村一佐の発言に、南 少尉が止めを刺す。
『志村大佐! 貴方は、 “ パイロットの資格 ” を維持していますが、 “ Sa○b340B ” の経験が有りません。それに対して……。まぁ、恐ろしいことでは、ありますが……。亮圭君は、諸事情により、もう体で “ 機体の癖 ” を体得しています。
……例えば、『あの土壇場での “ 空戦機動 ” の数々を、 “ 今、直ぐに再現しろ ” !』と言われて、貴方は出来ますか? 特に、あの咄嗟の “ 横転機動(バレルロールのこと) ” ……。私は、指示をしていません! この子は、半分確信をもって、それを遣って退けたのです……』
そう言われれば、 “ スペクター ” も “ キッド ” の操縦技量は、認めざるを得ない。
[あの “ バレルロール ” を、あの程度のGで再現するには……。最初の切っ掛けの付け方といい……。戦闘機ならば、いさせ知らず……。いかに自分でも、 “ 完熟飛行 ” 無しには無理だ!]
志村一佐が、観念した。
「……分かりました。任せましょう……。
……但し、亮圭君! 間抜けな失敗は、するなよ! 沽券に係わる!」
「ら……。了解……」
そう答えつつも、相手の思念が、右後から黒い霧のように押し寄せる。
[……こんな状況で、『自分の “ 経歴 ” を、こんな小さな子供に捧げろ』ってか?!
……ああ! ああ! 捧げてやろうじゃねえか! チクショー……]
精霊の主から、思わず思念が漏れた……。
[怖いよぅ……]
亮圭は、自分の崩れた “ 顔 ” と “ 思念 ” と “ 周りの状況 ” を津別で見聴きしていた “ フィアンセ ” と “ その兄 ” が、色々な意味で、思わず頭と腹を抱えたのを知らない……。
……旧帝国海軍の撃墜王が、志村一佐の怨念を遮るように、操縦席の少年二人へ言葉を掛けて来た。
『では、正面に出る “ IAUCE ” の “ 画面 ” を見てくれ。 “ 私達 ” が考えた、着陸の手順を説明しよう……。
亮圭君、一回、深呼吸しよう。……落ち着いたら、この高度を維持して旋回を続けてくれ。
話が、少し長くなるから……。
あっ、そうだ……。燃料は、心配しなくて良いぞ。今から『丘珠と三沢を片道飛ぶ』位の量を、残している』
「了解……」
亮圭は、言われたとおり深呼吸をする。そして降下を止めて、現在の雲の直上、 “ 計器指示高度 ” 19200ft(約5852m)で機体を安定させた。撃墜王は、同乗する築城基地副司令にも声を掛ける。
『志村大佐も、よろしいですか?』
「……どうぞ」
南 少尉が、志村一佐の諦めにも似た返答を受けて、遅滞無く口を開いた。
『亮圭君。
君が、病院で昏睡中……。夢の中での “ リクリエーション ” で、 “ 航空機操縦 ” 特に “ 純粋な着陸操縦 ” に嵌り……。剰え “ カイタック ” なんてモノまで条件別に何回も熟して、教官役の “ 神田川 真奈美 ” 君を凹ませたことを……。我々は、報告を受けて、了解している。
つまり君は、『着陸操縦するだけ』ならば余程の状況でも、問題無く熟せる訳だ……』
精霊の主が、苦笑いをする。
『……そこで、 “ 経路図 ” を見てくれ』
南 少尉の言葉に続き……。三人の前には、 “ アプローチ・チャート(Approach Chart:着陸経路図) ” が “ IAUCE ” により表示された。旧帝国海軍の撃墜王は、言葉を続ける。
『今回は、『早めに着陸すること』を考えて……。
函館VORを通過直後、磁方位207°へ右5°修正し、滑走路の2海里(nm)先の海上に在る “ 有視界飛行方式 ” の “ 場周経路 ” へ、バンク角25°で左90°旋回をして合流する。直ぐに “ 滑走路端、対向 ” をするので、 “ 下げ翼 ” を下ろし、降下減速しつつ2.6海里(nm)飛行。左90°旋回をして滑走路軸線上へ向かい、再び左90°旋回をして……。滑走路へ正対した2.6海里(nm)高度計で1028ft(約313.33m)の空路点から、 “ 着陸誘導管制(GCA) ” 方式で着陸する……。
亮圭君、これで大丈夫かね?』
「はい。着陸誘導管制は、二回目だけど……。
僕には、滑走路、見えます。普通に着陸するだけ……」
機長席の “ 少年 ” は、あっさりと答えた。しかし “ 大人 ” は、納得出来ないでいる。
「確かに、これなら着陸直前の左10°オフセットは、必要ありませんが……。ほとんど “ VFR(Visual Flight Rules:有視界飛行方式) ” ですね。 “ ベース・レグ(Base Leg:基底経路) ” と “ ファイナル・ターン(Final Turn:最終旋回) ” のコースとタイミングを一寸間違えれば、山に激突しますし……。
ところで南 少尉。 “ トラフィックパターン(Airfield Traffic Pattern:場周経路) ” の用語が出て来ると言うことは、『“ キッド ” は、有視界での着陸ならば、問題無く出来る』と確信されているのですか?」
旧帝国海軍の撃墜王は、平然とした口調で、築城基地副司令の質問に答えた。
『その、とおりですよ。『着陸だけ』ならば、 “ 計器飛行方式 ” でも可能です。
但し、あくまで操縦だけです。 “ 管制との通信 ” や “ 確認点検項目表 ” を使っての “ 機器の確認 ” 等は、キチンとした飛行訓練を受けている訳では無いので、無理です。大人の補助が必要と成ります』
「成る程……。 “ そう言うこと ” ですか……。何故、貴方が単純に指示を “ し続けていた ” のか、気に成っていましたが……。何と無く得心しました……。
……では、その点は、この志村が受け持ちましょう! “ 何もしない ” よりは、気も晴れますし……。
やはり、管制との遣り取りは、 “ 日本語 ” の方が良いでしょうね?」
『ええ。そうして頂ければ助かりますが……。よろしいのですか?』
志村 亘は、苦笑いしながら、南 少尉へ答えた。
「『何を今更』ですよ。通常の飛行時でも、『“ 何かあれば ” 選択は “ 簡単なこと ” 』ですから……」
『有難う御座います……。
あっ、一寸失礼……』
余り間を置かずに……。撃墜王は、 “ スペクター ” へ “ ある提案 ” を伝える。
『志村大佐、失礼しました……。
今、筆頭精霊長から提案が有りまして……。『現在の亮圭君が見ている風景を体験してみませんか?』とのことです』
「『“ キッド ” が見ている風景』ですか?」
『ええ。『薄々、感付いていた』のでしょう?
彼が見ている風景は、 “ 特別 ” です。 “ F‐35A ” の上を行きます……』
「ほー……。それは、是非とも見たいですね」
大精霊が、声を掛けて来た。
『では、後は、私、ダイアが御説明します……』
ああ、そうだ。マイスター。筆頭精霊長が、『話したい』そうですよ』
「マリーが?」
『はい。
では、私と志村一佐は、しばらく心が別の世界に居ますから、よろしく御願いします……』
ここで筆頭精霊長のマリーが、自身の僕の立場でもある大精霊ダイアと替わって、精霊の主へ話し掛けて来た。
『マイスター。
昨日、 “ 小松 ” で使った “ IAUCE ” を援用した “ 着陸の為の航法支援機能 ” が使えます……。
使いますか?』
亮圭は、少し考えてから、返答した。
「“ 解債条件 ” が勿体無いから、使わない」
『大丈夫ですよ。
ここまで来れば……。 “ 解債条件 ” の上積みの必要は、ありません』
精霊の主は、凛とした声で、僕の筆頭へ指示を出す。
「じゃあ、 “ パラモーター ” で使っている “ 簡単なの ” を使う。それ以外は、いらない!」
『……ダー。マイン・マイスター』
明らかに、筆頭精霊長の返答が遅れた。 “ 彼女の身 ” は、その声質から推察して、明らかに何かを心配しているようだ。だが、精霊の主は、それを気に留めずに前を見る……。
やがて、筆頭精霊長マリーからの指示で変更された亮圭の “ IAUCE ” センサー群 “ 三次元表示 ” には、胸の高さから延びる “ 二本の棒と一本の線 ” が表示された。それぞれ、機首の延長線上を示す『長さ50cm位の』針のように細い “ 銀色の棒 ” と、飛行の方向を示す『手前側を “ 銀色の棒 ” の根元に固定して先が動く、長さ1m位の』少し太い “ 光る緑色の棒 ” 。そして、そのままの状態での飛行経路を5nm先まで示し、 “ 着陸支援機能 ” としても使える “ 衝突警報機能 ” が付いた『手前側を “ 光る緑色の棒 ” の先に固定されている、細かく折れ曲がった』細い “ 光る青い線 ” だ。また、 “ それ等 ” は、亮圭の思念に応じて、表示位置を変えられる。
精霊の主は、 “ それ等 ” を簡単にテストすると、腰の高さの左側へ一時退避させた……。
……太田空将補から、 “ Sa○b340B ” に随伴するF‐15DJ二機へ、 “ IAUCE ” 経由で声掛けが有った。
『“ Wizard隊 ” へ。此方、 “ Shinsengumi 01 ” 、 “ キュウビ ” だ』
“ Wizard隊 ” 隊長の九条三佐が、返答した。
『此方、 “ Wizard隊 ” 、 “ マロ ” です』
『そっちの首尾は、どうだ?』
飛行教導群の飛行隊長は、直属の上官の問いに、落ち着いた声で答えた。
『はい。全員無事です。
着陸地は、第一目標の函館空港に決定し……。現在、各方面と調整中です』
“ 航空戦術教導団 ” 司令でもある太田空将補が、指示を出す。
『了解した。
此方は、敵潜水艦の無力化に成功した。現在、 “ タンカー(空中給油機) ” より燃料の補給に成功し、其方に向かっている。 “ Wizard隊 ” 各機も、給油を実施した方が良い。
“ Wizard隊 ” 各機は、此方と護衛任務の引き継ぎ後、津軽海峡上で速やかに “ タンカー ” と接触、給油せよ。その後、 “ Sa○b機 ” 着陸まで、引き続き対象の護衛を実施する』
『“ Wizard 01 ” ,wilco. (“ Wizard 01 ” 、了解し、服命する)』
『“ 02 ” ,copy. (“ Wizard 02 ” 、 “ Wizard 01 ” に同じ)』
二機は、程無く合流した “ Shinsengumi 01 ” に任務を引き継ぐと、亜音速まで加速して津軽海峡上空を目指した……。
…… “ Shinsengumi 01 ” 後席の “ キュウビ ” は、亮圭が実施した “ IAUCE ” を援用した “ パラモーター用の簡易型、航法支援機能 ” のテスト直後に、 “ キッド ” 達を呼び出した。
『コックピットの三人へ、報告が有るんだ……』
亮圭は、その声色に、嫌な予感を覚える……。
「何ですか?」
“ 航空戦術教導団 ” 司令は、精霊の主の返事に、言い難そうに答えた。
『榊 大臣の “ 追加の判断 ” ……。と言うか、各基地からの “ 突き上げ ” が厳しくてな……。
『千歳の第2航空団、第201飛行隊、及び第203飛行隊』のF‐15J合計八機と、『三沢の第3航空団、第3飛行隊、及び第8飛行隊』のF‐2A合計八機に、対空対艦の最重装備で “ CAP(Combat Air Patrol:戦闘空中哨戒) ” をさせることに成っちまった……』
「……何それ……」
精霊の主の呟きに、 “ IAUCE ” の “ 三次元バーチャルディスプレイ ” を主に “ 空間透過視認モード ” で体験し終えた築城基地副司令が解説する。
「まあ……。日本の防衛を旨としている基地の要員としては、これだけの事案が発生しているにも係わらず “ 蚊帳の外 ” にされては、士気に係わるんだよ。私が “ 千歳の副司令 ” の立場なら、間違い無く、 “ 中央 ” に乗り込んでいるね……」
防衛大臣が、話に割り込んで来た!
『おい! “ スペクター ” ! “ 二羽(千歳基地副司令、一等空佐) ” みたいなことを言いなさんな!』
「……これは、失礼しました」
[そうか……。回線は、常に繋がっている……。口は、禍の元! クワバラ、クワバラ……]
志村一佐が、感慨に耽る中……。榊 防衛大臣は、話を続ける。
『……これでも、『各飛行隊、一編隊まで』に抑えたんだ……。
亮圭君、大事に成って済まんが……。これで勘弁してくれ……』
「僕に謝ることじゃ……」
『……そう言って貰えると助かる。今の状況だと、 “ 空路V2 ” に戻って “ 電波管制 ” 終了後、五分程度で “ 201 ” と “ 203 ” が合流するだろう……』
防衛大臣の発言に、太田空将補が発言する。
『いいえ、 “ ローレル(榊 防衛大臣のタックネーム) ” 。私の階級職権で、此方の邪魔に成らないように仕事をさせます。御心配無く!』
『……では、委細、任せる!』
『拝命しました!』
この件については、 “ キュウビ ” に全権が与えられた。RF‐4EJ改の後席に座る “ 参謀 ” が、 “ Wizard 01 ” へ呼び掛ける。
『“ マロ ” 、聞いていたか?』
“ Wizard隊 ” 隊長が、即座に応じた。
『ええ……』
『そうしたら、彼等との遣り繰りで面倒を掛けるかもしれないが……。その時は、よろしくな。
それと “ Wizard隊 ” は、給油後、函館空港直上10000ft(3048m)で “ CAP ” だ……。
頼んだぞ……』
F‐15DJの後席に座る二人は、太田空将補の気疲れした声に、苦笑しながら答えた。
『“ Wizard 01 ” , wilco. (“ Wizard 01 ” 、了解し、服命する)』
『“ 02 ” , copy. (“ Wizard 02 ” 、 “ Wizard 01 ” に同じ)』
その声を聴きながら、 “ キュウビ ” の頭脳は、更に全力で合計16機の戦闘機の配置を計算して行く……。
……榊 防衛大臣との話を終えた精霊の主は、自機の下方を左後ろから右前へ横切り、自機の右前下に付けた “ 双発のプロペラ機 ” を見た。大きさは、この “ Sa○b340B ” よりも、一回り大きい。
[“ YS‐11 ” ……。何でこんな所に?]
亮圭が、そう思うのも当然のことだ。 “ 日本航空機製造、YS‐11 ” は、とっくの昔に民間航空から引退している……。その機体には、 “ 白地に真っ赤なライン ” が入り、尾翼に “ 日の丸の中に白い模様が入ったマーク ” が入っていた。現在、 “ 日本のエアライン ” に、同じ “ マーキング ” の会社は無い……。
そして、その機体は、周りの暗さにもかかわらず “ 航空灯 ” を点けていない。しかも “ ハッキリ、クッキリ ” と見えた。つまり、それは、『実体を持つ物では、無い』と言うことだ……。
[……今、霊的な皆が出て来ても、係わっている余裕が無いんだ。ごめんなさい……]
その “ プロペラ機 ” は、精霊の主の思念を感じ取ったのか、自機の正面下へ出て、翼を振る。そして、一旦 “ Sa○b340B ” の左前に付くと、左前の空間上に現れた “ 滑走路 ” へと着陸しようとしたが……。いきなり “ 霧のような白い物を含む突風 ” に煽られて、滑走路上に叩き付けられ墜落、爆砕、炎上する!
亮圭が息を呑んでいると、 “ YS‐11 ” と空港が霧のように消えた!
……その飛行機は、何事も無かったように、左後ろから “ Sa○b340B ” を追抜いて行く。そして再び翼を振ると、高度を落としつつ、函館方向の雲の中へと消えて行った……。
旧帝国海軍の撃墜王が、静かに口を開いた。
『……しかし、あの “ YS‐11 ” は、函館空港に墜落したのではない。 “ 横津岳 ” の山腹に落ちたんだ……。何で “ あんなもの ” を見せたのか?』
たまたま同じ映像を見ていた志村一佐が、口を開く。
「それについては、先刻の映像に理由が現れていると思います……。あれは “ ダウンバースト(Down burst:降下噴流) ” ですね……」
「ダウンバースト?!」
志村 亘は、亮圭の発言に、肯いた。
「そうだ! 強力な冷たい “ 下降ジェット気流 ” と、地面に打つかってからの “ 掃き出し突風 ” と、それによって出来る “ ガストフロント(Gust front:突風前線) ” ……。そのどれもが、着陸に向けて最終進入をしている航空機にとっては、致命的だ!
……それを、わざわざ見せたのは……。ひょっとして、『“ 函館 ” で、それが起こる』ということか?!
……ならば、検証の方法が有る! しばらく、無線を使う! 話し掛けないでくれ!」
「了解……」
亮圭の思いが、 “ YS‐11 ” へ行こうとする。それを、南 少尉が、思念で止めた。
[“ ばんだ○号 ” のことは、後で “ 常紋トンネル ” の件と同じく、後日 “ 慰霊訪問 ” をすれば良い。
今は、この機体を無事に降ろすことだけを、考えろ……。良いな……]
精霊の主が、ポツリと、思念で答える……。
[……了解……。
…… “ ばんだ○号 ” ……]
“ その言葉 ” は、亮圭の心の奥に、深く残った……。
------- 更新履歴 -------
2017.08.26 初版公開 (Ver 1-01.00)
2017.12.10 後半エピソード追加〔合計で従来の約200%〕加筆修正、それに伴い “ 章 ” を、第十章〔外伝〕から第十一章に修正して “ 題名 ” も変更した版を公開 (Ver 2-01.00)
2018.08.16 一部加筆、一部の解り難い部分、文章表現、誤字、ルビ修正版公開 (Ver 2-01.01)
------- 参考資料 -------
・フォネティックコード
0 ゼロ
1 ワン
2 トゥー
3 トゥリー
4 フォウア
5 ファイフ
6 シックス
7 セブン
8 エイト
9 ナイナー
A アルファー
B ブラボー
C チャーリー
D デルタ
E エコー
F フォックストロット
G ゴルフ
H ホテル
I インディアナ
J ジュリエット
K キロ
L リマ
M マイク
N ノベンバー
O オスカー
P パパ
Q ケバック
R ロメオ
S シエラ
T タンゴ
U ユニフォーム
V ビクター
W ウイスキー
X エックスレイ
Y ヤンキー
Z ズール




