第二幕 帰還の物語 第十二章 万難を排し、虚空(そら)から舞い降り、そして……
------ 第二幕、第十二章 ------ 万難を排し、虚空から舞い降り、そして…… ------
……亮圭達が “ YS‐11 ” と別れた所で、精霊の主の “ IAUCE ” ヘッドセットから北澤陸幕長の声が聞こえて来た。
『亮圭君……。いや “ キッド ” 。聞えるか? 北澤だ』
「はい。どうぞ」
『実はな……。北澤家の “ 悪ガキ ” ……。家の末息子なんだが……。今回の “ 特別管制派遣隊 ” の隊長をしているんだ。三等陸佐で、 “ 三郎 ” と言う名前なんだが……。もう状況も理解していて、 “ IAUCE ” ヘッドセットの貸し出しも受けていて……。『挨拶したい』と言って来ている。繋いでも良いかな?』
「了解。一寸待って……」
[北澤陸幕長の息子の “ 北澤 三郎 ” 三等陸佐を、副官に指定します]
精霊の主は、必要と思われる “ 副官設定 ” をすると、応答する。
「……どうぞ」
相手が、明るく元気な太い声で、 “ IAUCE ” の通信網に参加して来た。
『亮圭君、『始めまして』だな……。
丘珠の “ 北部方面管制気象隊 ” から、父親に嵌められて派遣された “ 北澤 三郎 ” 三等陸佐だ。よろしくな!』
『こら! 作戦行動中だろうが!! 言葉を慎……』
早速ヒートアップしかねない北澤家の状況を、妻であり母である “ 真理恵 ” が話に割り込み、諌める!
『二人共、いい加減にしなさい!!
そんなことで、作戦が成功すると思っているの?!!』
“ 根は真面目 ” な自衛官二人は、その言葉に押し黙ってしまう……。一拍の間の後、北澤三佐が話し始めた。
『いやぁ……。済まなかったな、亮圭君。やっぱ、 “ 母ちゃん ” には勝てねえわ……。
……それは、さて置き。此処からは、手っ取り早く、真面目な話だ。戦闘終結後からの話は、聞かせて貰って、理解している。……今の所、懸念される状況が二つある』
精霊の主が、身構える。 “ 特別管制派遣隊 ” 隊長は、話を続けた。
『其方に居る志村一佐の依頼により、此方が “ 気象レーダー ” で観測した処に依ると……。やはり、気象条件が悪化して来ている。具体的には、 “ コールド・プール(Cold Pool:冷気の塊) ” によって、 “ メソ・ハイ(Meso High:雷雨性、小高気圧) ” が出来つつあるようだ。……ダウンバーストの可能性が、高まって来たって訳だ。
次に、 “ 陸奥湾 ” から真っ直ぐに “ 函館管制圏 ” へ接近する航空機が在る。それが、 “ 所沢 ” の “ 東京ACC(Tokyo area control center:東京航空交通管制部) ” から “ 札幌ACC(Sapporo area control center:札幌航空交通管制部) ” へ管制が移管される “ 山形 ” の上空で “ エマージェンシー(非常事態) ” を宣言した後、何所の管制からの呼び掛けにも返答して来ない。今、 “ 函館アプローチ ” も、 “ 八雲飛行場 ” か “ 青森空港 ” への “ ダイバート(Divert:代替着陸) ” を呼び掛けてはいる。だが、相手が答えないことには如何することも……。 “ 飛行計画 ” から見て、反対側の “ 滑走路12 ” の “ アウターマーカー(Outer Marker:ILSの “ グライド・パス ” 上に設定された三か所の “ マーカービーコン(Marker Beacon:無線位置標識点) ” の内で、最も遠い “ 無線位置標識点 ” 。一般的には、この付近にILSへ進入する “ FAP(精密進入に於ける、最終進入開始点) ” を設定する) ” 付近から、ILSアプローチをする心算だろうが……。このままのタイミングなら、先に滑走路へ脚を着けるのは、 “ Sa○b ” だが……。最悪、滑走路上で、相手に正面衝突される可能性が……』
“ キュウビ ” が、二人の話に、割り込んで来た。
『此方、 “ 航空戦術教導団 ” 司令の太田だ。その航空機へは、 “ Wizard隊 ” の二機を向かわせる。其方で “ 誘導 ” してくれ』
“ 特別管制派遣隊 ” 隊長は、その発言に、即応する。
『御久し振りです、太田空将補! 陸自の “ 北澤 三郎 ” 三佐です。
了解しました! では、 “ Wizard隊 ” には、120.95MHzで、陸自の “ コントローラー(Controller:管制) ” へ “ コンタクト(Contact:交信) ” するように伝えて下さい』
『太田空将補、了解。 “ 三ちゃん ” 、後で復な……』
『ええ。片付いたら、飯でも皆で、復一緒に……』
北澤三佐は、太田空将補との話しを終えると、再び亮圭へ呼び掛けて来た。
『では亮圭君、決めて欲しいことが有るんだ。……今、この二つの状況から取りうる対策は、三つ有る。
一つ目は、君達が本州の他の空港へ “ ダイバート(代替着陸) ” することだ。但し、天候は、 “ 仙台 ” までは最悪で、無事に着陸出来る保証が無い。
二つ目は、 “ 函館 ” 上空で旋回待機して、順番を譲ること。これも、ダウンバーストが起こったら、色々な理由で降りられなくなるかもしれない。
最後の三つ目は、着陸経路をショートカットして、出来るだけ早く着陸しちまう。俺は、これを御勧めするが……。
どうする?』
亮圭が、口を開く。
「……三番目が、一番良いんでしょう?」
『ああ、そうだ! ……精霊が出すモニターを見てくれ!
此方で作った、この “ プランB ” と “ プランC ” なら……。当初予定の “ プランA ” よりも、時間的に一分以上は、確実に詰められる。相手が着陸して来る前に、確実に誘導路まで逃げ込めるし……』
志村一佐が、話に割り込んで来た。
「築城の志村一佐です!
今、 “ IAUCE ” で、北澤三佐が作った “ アプローチ・チャート(着陸経路図) ” を見せて貰いましたが……。九歳の子に、この悪天候下では、キツ過ぎます! 特に、この “ プランC ” は……」
“ 特別管制派遣隊 ” 隊長が、築城基地副司令の言葉を待たずに、即時の反論をする。
『丘珠の北澤三佐です。志村一佐、よろしく御願いします。
御言葉ですが! 彼の飛行経歴を確認させて頂きました。いずれも、ほとんど問題無いでしょう。
“ 有事 ” であると考えられる今は、 “ プランC ” も『最悪、自衛隊ならば、実行出来ること』です!
それに、勝手に “ エスコート(Escort:先導) ” 役をするであろう、神田川空将補も側に居ます!』
その言葉で……。精霊の主は、 “ Shinsengumi 01 ” の二人の意図を悟る! 空戦中は、たとえ赤の他人が指示をしても、 “ 緊急避難 ” として直接の “ 経路提示 ” とまでは言えなかったが……。これ以上と成ると、 “ 経路提示 ” と言われても反論が難しく成る……。
[うわわ……。 “ 神田川 鉄朗 ” 空将補と “ 太田 宏和 ” 空将補を、副官に指定します!]
亮圭は、慌てて神田川空将補と太田空将補を、思念で “ 副官 ” に指定した……。
「……言われてみれば……」
志村一佐の呟き声が、北澤三佐の指摘から少し遅れて、聞こえると……。
『そう言うこと!』
“ ヤマザル ” が、 “ キッド ” の “ 副官指定 ” にタイミングを合わせたかように、更に少し遅れて “ 合いの手 ” を入れて来た……。
……敢えてマリーは、 “ 解債条件 ” を使用して、亮圭の前に表示を出す。
“ 副官指定 ” は、ぎりぎり間に合いました。
問題ありません。ご心配無く。
[危なかった……]
“ キッド ” が、胸を撫で下ろした……。
…… “ スペクター ” が、 “ 特別管制派遣隊 ” 隊長の発言に、観念した声で返答する。
「分かりました……」
……検討の時間は、終わった。 “ Sa○b340B、JA0○2○ ” は、旋回を終えて、RF‐4EJ改と共に内浦湾出口への進路に乗る。再び雲の中へ入ると、また雨が降り始め、機体が小刻みに揺れ始めた。機体は、志村一佐が指示した高度17500ft(5334m)を保ちながら、南東方向の内浦湾出口を目指す。やがて、 “ 空路V2 ” が近付いて来た……。南 少尉が、指示を出す。
『……そろそろ空路に戻る位置だ。指示をするから、自動操縦のレバーを入れてくれ。
後、前言を一部訂正だ。自動操縦を切るまで “ VOR1 ” で飛んでいたから、レバーを入れれば、そのまま “ VOR1 ” に復帰する……。
それから、縦方向の設定は、 “ VS ” に設定されているから、操縦桿の右側の黒いボタンを押した時の降下率で設定される。函館VORを2000ft(約610m)で通過するように設定するので……。旋回終了後、少しづつ降下率を上げて行って、指示が有ったら押してくれ。
……では、準備しろ。
……良し! レバー、入れろ!』
「了解!」
亮圭が、 “ AAP(自動操縦盤) ” の一番右側のレバーを上へ上げると……。機体は、大きく右へ旋回し、磁方位202°で函館VORへの空路へ乗った。撃墜王の指示が続く。
『もう少し降下させて良い……。今だ、押せ!』
「了解!」
精霊の主が、返答と同時にスイッチを入れると、降下率が固定された。南 少尉が、言葉を続ける。
『もう操縦桿から手を放して良いぞ』
機長席の少年は、座席で一回、大きく伸びをした……。
……もう周りが、大分暗く成っている。
亮圭が “ 空路V2 ” に復帰した時、一瞬だが雲の切れ間が在った。亮圭以外の者にも、正面に見える地上の疎らな灯りで『渡島半島の海岸線が、そんなに遠くない』ことが分かる。筆頭精霊長が、コックピットの三人に、話し掛けて来た。
『……皆様。これより、電波管制を解除します。
機上無線機も使用可能と成ります。なお、故意に無線機を使おうとしない限り、無線先には志村一佐の声のみ届くように管理されています。会話は、普通に “ して頂いて ” 構いません。但し、志村一佐は、『コックピットに誰か居るのではないか』と悟られぬよう、会話の仕方と内容に気を付けて下さい』
「了解」
「分かった」
「“ スペクター ” 、了解した」
筆頭精霊長の声が終わると同時に、119.0MHzで “ 函館アプローチ(Hakodate approach:函館進入管制) ” に合わせてある無線機から、緊張した声が聞こえて来た。
『……I say again, Do you read me?! This is Hakodate approach! “ Hokkaidou System -243 ” , Do you read me?! …… (再び繰り返します、 “ 聞こえますか?!(応答して下さい!) ” 此方、 “ 函館アプローチ ” です。 “ H○C‐243便 ” 、 “ 聞こえますか?!(応答して下さい!) ” ……)』
志村一佐は、相手の通信が途切れたタイミングで、発信する。
「Emergency! Emergency! This is “ Hokkaidou System -243 ” ! Emergency! …… (“ 緊急事態 ” を宣言します! “ 緊急事態 ” を宣言します! 此方は “ H○C‐243便 ” です! “ 緊急事態 ” を宣言します! ……)」
“ Sa○b340B、JA0○2○ ” は、同じ文言を二回繰り返して、通信を終えた。 “ 函館アプローチ ” が、即座に返答して来る。
『ここからは、日本語で構いません! “ Hokkaidou System‐243 ” 、無事ですか?!』
志村一佐も、即座に、日本語で折り返した。
「私は、築城基地副司令を拝命している “ 志村 亘 ” 一等空佐です。
現在、パイロットに扮したテロリスト二名を制圧し、私が操縦桿を握っています。
犯人二名は、一応重症と判断されますので……。函館空港への最優先着陸を要請します」
『了解です。 “ スタンバイ(stand by:待機) ” 願います……』
……この通信の間にもコックピットの三人には、太田空将補から各飛行隊へ指示と采配が行われているのが、 “ IAUCE ” ヘッドセットから漏れ伝わる会話内容から、確認出来た……。
…… “ 函館アプローチ ” の返答は、 “ 根回し ” の効果も有ったのか、早かった。
『“ Hokkaidou System‐243 ” へ。
函館空港は、貴機の “ 緊急事態、宣言 ” を受けて、貴機の着陸まで “ 他機の着陸を禁止 ” としました。其方は、着陸にのみ集中して下さい。
それと、一応、確認ですが……。アプローチ方法は、 “ 八雲 ” と “ 陸自 ” から伝えられている “ 方式 ” で間違いありませんか?』
「そのとおりです!」
『了解しました。
では、まず “ ATIS(Automatic Terminal Information Service:自動飛行場情報サービス) ” の情報から、必要なトコを日本語で読み上げます……。風は、100°から、10knot(約5.14m/s)。 “ RVR(滑走路視距離) ” は、3120ft(約951m)。天候は、雨で時々強雨。 “ シーリング(Ceiling:雲底高度。 “ MSL ” で表す) ” は、820ft(約250m)。気温は、13℃。露点は、11℃。 “ QNH(空港の気圧計の標高を、 “ MSL ” 10ft(3.048m)の高さに気圧補正した、気圧高度計の設定値) ” は、 “ 29.62inHg(単位は、インチ水銀柱。気圧では、小数点を発音しない。この時の海面高度の気圧は、約1003hPaだった) ” ……』
……その時、亮圭と志村一佐は、ほぼ同時に “ あること ” に気が付いた。
「“ スペクター ” 、これ!」
「……ああ!」
精霊の主が指差す先……。亮圭の正面に在る二つのモニターの内で、上側の “ EADI(電子式姿勢指示器) ” モニターに表示されている “ シンボル ” が僅かに右へ傾き始めている。二人は、そのズレから、 “ AP(Auto Pilot:自動操縦装置) ” が機体を右へ傾け始めたことに気が付いた! しかし、下側の “ ND(航法表示) ” モニターが示す飛行方向は、磁方位202°で変わっていない。
“ スペクター ” が、メーター類を確認すると……。左側のエンジンの温度が、 “ オーバーヒート(Over heat:〔その機械が焼損する程の〕過熱) ” までは行っていないが、大分 “ 高目 ” だ。
この状況で考えられるのは……。
「恐らく……。左エンジンの “ 軸受 ” 関係に問題が出始めていて、推進力が落ち始めているようだ……。着陸までは、持たさないと……。
“ キッド ” 。右エンジン出力を少しだけ落として、左右のバランスを執るんだ」
その指示に反応したのは、副操縦士席の少年だった。
「了解! それは、俺の仕事だよ!」
機体は、修平の操作により、水平を取り戻す。
……メーター類を眺めていた志村一佐は、右エンジンも左エンジン程では無いが、空戦前よりも温度が高いことに気が付いた。
[参ったな……。両エンジンとも、限界が近付きつつある……。
これでは、 “ ゴー・アラウンド(Go around:着陸再試行) ” は、リスクが大きくなる。…… “ ダウンウインド(追い風) ” だが、一発勝負だな!]
“ スペクター ” は、要約して、地上の北澤三佐へ報告する。 “ 特別管制派遣隊 ” 隊長が、言葉を返して来た。
『行くしか無いでしょうね。たとえ、一発勝負でも……』
「ええ! 今と成っては……」
志村 亘は、亮圭へ顔を向け直して、話しを続ける。
「“ キッド ” !
今回は、 “ 抵抗曲線のバックサイド(誘導抵抗等が大きくなり、スピードが遅ければ遅いほど空力抵抗が増す領域。つまり、より遅く飛ぶ為には、よりエンジン等の推進力を上げなければ成らない) ” で、通常どおりエンジン出力を上げるのは難しい。その関係で、 “ ギアーダウン(Gear down:降着装置〔車輪〕、降下) ” 時のフラップを20°から15°にして、抵抗を軽減する。それで、行ける所まで行くんだ。良いな?!」
亮圭は、微笑みながら、右手の親指を上げて同意した。
志村一佐は、 “ 函館アプローチ ” へ、 “ フライトプラン(Flight plan:飛行計画) ” の変更を打診する。函館進入管制の許可は、アッサリと出た……。
……しばらく沈黙していた南 少尉が、少年二人に声を掛けて来た。
『二人共、聞こえるか?』
「はい」
「はい」
旧帝国海軍の撃墜王は、少年二人の返事を待って、指示を出す。
『では、函館も近付いて来たので、もう少し速度を落とそう……。
修平君。 “ 丸いスピードメーター ” で、175 “ KIAS(Knot Indicated Air Speed:飛行速度を指示する為の〔計器〕指示対気速度(単位はknot)) ” (約324km/h)に合わせるぞ! “ プロペラピッチ・レバー ” を指示位置まで、少し戻せ!
……先導する “ Shinsengumi 01 ” も、此方の速度に合わせて下さい』
“ ヤマザル ” が、撃墜王の要請に、返答する。
『大先輩たる南 義美 海軍大尉へ。
“ Shinsengumi 01 ” 、了解しました! 此方は、精霊が提供する “ 航法システム ” の全てを、 “ アクティブ(Active:能動状態) ” にしています。御心配無く、願います。
……此れより、 “ Sa○b機 ” 前方での “ エスコート ” を開始します!』
旧帝国海軍の撃墜王が、 “ 第七航空団司令を務める少将格の人物 ” へ返答した。
『神田川空将補へ。
南 義美 少尉、了解しました。よろしく御願いします!』
……亮圭は、神田川 鉄朗の野太い声を聴きながら、修平へ元気に声掛けする!
「行くよ、修ちゃん! 175KIAS(約324km/h) “ セット(Set:設定) ” !」
相手の反応も、素早い!
「了解、亮ちゃん! 任せて!」
……速度設定を終えた少年二人は、大人二人の会話を待って、返事する。
「“ キッド ” 、了解」
「えーっと……。修平、了解」
“ スペクター ” には、自身以外の作戦関係者に、マイナス的な要素が全く感じられなかった……。
[野生の “ ヤマザル ” は、ともかく……。この “ ガキンチョ ” 共め。何で “ KIAS Set ” なんて言葉を使えるんだか……。末、恐ろしいことだな……]
志村一佐は、呆れつつ、その様子を眺めていた……。
……突然、九条三佐の緊張した声が、 “ IAUCE ” ヘッドセットから聞こえて来た。
『オール・ステーション(全受信局)! 此方、 “ Wizard 01 ” ! 緊急報告!』
“ IAUCE ” を使用した “ 秘匿回線〔B〕 ” を聴くことの出来る全員が、聞き耳を立てる。
『津軽海峡を “ 函館 ” へ接近する該当機は、 “ ズム○ティ○・エアロ・エンタープライズ ” 所有の “ ビーチジ○ット4○○ ” 。『無線機が使えない』とのことで、 “ 発光信号 ” により函館空港への接近意図を確認。
それによると、『茨城空港から函館空港を経由して千歳空港へ飛行中、エンジンにトラブルが発生し、 “ エマージェンシー(緊急事態) ” を宣言。無線機も不調で、返信不能と成った』とのこと。
機内から、『現在、主民党・衆院議員の “ 源場 健三 ” 氏と秘書二名、大手ゼネコン “ 千流総合建設 ” 社長の “ 金子 龍冶 ” 氏、パイロット二名の合計六名が搭乗中』との情報有り。客室窓から “ 源場 ” 氏と “ 金子 ” 氏の姿を確認済みです。
但し、 “ 不審な点 ” が有り、現在 “ カンガルー ” が確認中』
“ キュウビ ” が聴き返した。
『不審な点とは?』
“ マロ ” が報告を続ける。
『パイロットの服装が、 “ Yシャツ ” ではあるが、明らかな安物です。ビジネスジェットを運用するチャーター会社の制服としては、極めて考えにくい程のです……。
また、発光信号の使い方に “ 慣れ ” を感じます。民間では、不自然ですね……。
今、 “ カンガルー ” がエンジン回りを目視で確認しています』
九条三佐の発言に続いて、太田一尉が報告して来た。
『“ Wizard 02 ” より、報告!
エンジン周りに不審な点は、在りませんでした。動作も正常と思われます。
また、主翼や機体周りも同様です』
“ 特別管制派遣隊 ” 隊長が、口を開いた。
『“ Wizard ” 隊へ。北澤三佐です。
不審では有りますが、このまま “ アウターマーカー ” 付近からILSへ乗せて下さい。 “ Sa○b ” は、 “ ビーチ ” 着陸の二分前には、誘導路へ退避出来ます』
『“ Wizard 01 ” , Roger. (“ Wizard 01 ” 、了解)
“ ビーチ ” に不審な動きが有れば、即時報告します』
『“ 02 ” , copy. (“ Wizard 02 ” 、 “ Wizard 01 ” に同じ)』
そこへ、筆頭精霊長が、話に加わって来た。
『復も『マイスターの御命が掛かってしまいました』ので、私から一言だけ……。『“ プランC ” を使う』ことを進言します!
なお、各種の欺瞞対策は、やる気満々の方達が居ますので、此方で勝手にやらせて頂きます』
“ ヤマザル ” が、マリーへ問うた。
『それは、『“ ビーチ ” が突っ込んでくる』と?』
『ええ、そうです。
まぁ……。 “ 彼の国 ” に、一年生議員の “ 見栄っ張り凱旋 ” を利用されてば、こうなりますね。もっとも、『それしか、価値が無い』と見切られた結果ですが。せっかく秘書として潜り込んだのに、使い捨てにされる “ 工作員 ” こそ哀れ……。彼には『空中衝突してでも、相手を仕留めろ』と命令が出ています……』
それを聞いていた榊 防衛大臣が、 “ 百里基地、司令官室 ” で頭を抱えて吠える。
『やっぱり敵が……。って『そっち込み』か!
この相手では……。即時の手出しが、出来ん……』
“ キュウビ ” も、RF‐4EJ改の機内で、ポツリと呟く。
『懲りもせず……。良―、やるわ……』
……その時、 “ マロ ” が声を上げた!
『やっぱり、突っ込んだ! “ ビーチ機 ” 、コース逸脱! 最短ルートで、進入を開始!
……どうします?!』
榊 防衛大臣が、言い難そうに口を開いた。
『皆、聞いてくれ……。
……今の状況では、国民の代表たる “ 国会議員 ” を、撃墜することは出来ん。そんなことをすれば、如何成るか……。
くそ! “ 痛い所 ” を突かれたわ……』
亮圭が、その言葉を受けて、即決する!
「それなら、 “ 誘導路 ” に降りるだけだよ!」
“ 特別管制派遣隊 ” 隊長が、高笑いして言った。
『ハハハハハ……。その根性、気に入った! 作戦内容を “ プランB ” から “ プランC ” へ変更するぞ!』
……榊 大臣は、亮圭へ詫びた。
『済まない、亮圭君。この穴埋めは、後で必ず……』
そこへ、女性の声も割り込んで来る。
『ならば、私 “ ライム ” も、今作戦に参加させて頂きましょう』
[うわ! あの小母さんまで……。
“ 神田川 久美子 ” 一等空佐を、副官に指定します!
……そうだ! こっちも!
“ 神田川 真奈美 ” 教官も、副官に指定します!]
再び精霊の主は、前例に倣い……。神田川一佐と、恐らく介入して来るであろう真奈美を、思念で “ 副官 ” に指定した……。
“ ライム ” は、自身が “ 副官指定 ” されたことを確認してから、言葉を続ける。
『相手機に映る亮圭君の “ レーダーエコー(Radar echo:電波反響) ” を、途中から私が引き継いで……。二機が、そのまま “ 滑走路30 ” へ進入して来れば……。相手は、疑うこと無く、突っ込んでくるでしょ?』
『……確かに、そうですね!
流石は、神田川の小母さん! その案、頂きましょう!』
北澤三佐は、そう叫ぶと、 “ 着陸に関する最終権限者 ” として宣言する!
『此れより、作戦を “ プランC ” へ変更する!
只今より作戦終了まで、誘導路 “ P6 ” から “ P1 ” を、緊急用 “ 滑走路29 ” と規定! “ Sa○b ” は “ 滑走路29 ” 、RF‐4EJは “ 滑走路30 ” へ誘導する! 但し、 “ Sa○b ” のコントローラーを担当する “ 佐山 ” 一曹は、敵への欺瞞の為、 “ 滑走路29 ” を、此れまでどおり “ 滑走路30 ” と呼称のこと。これは、厳に命じる!
なお “ 駐機場(ほぼ和製英語であり、少数の国でのみ使用されている。本来の “ Spot ” に “ 駐機場 ” の意味は無い。英語圏の多くの国では “ Gate ” や “ Apron ” と呼ばれている) ” を、当初予定の7番から、より我々に近い1番へ変更する。
……総員、掛かれ!』
陸自隊員達の声が、 “ 特別管制派遣隊 ” 隊長の “ IAUCE ” ヘッドセットを通して、 “ IAUCE ” を使う全員に聞こえて来た。
『……了解しました!』
……亮圭と志村 亘の目には、 “ IAUCE ” の “ 三次元バーチャルディスプレイ ” を通して、自機の約1000ft(約305m)前方で “ エスコート ” する “ RF‐4EJ改 ” 越しに、遠く津軽海峡が広がって来ている……。
…… “ 函館アプローチ ” が、接近する二機へ、通信をして来た。
『民間機 “ エスコート ” 中の “ Shinsengumi 01 ” へ。
これ以降は、125.9MHzで “ 陸自コントローラー ” へ “ コンタクト(交信) ” して下さい。此処より後、 “ Hokkaidou System‐243 ” の着陸までの全判断は、 “ 陸自、北部方面管制気象隊 ” 所属の “ 特別管制派遣隊 ” が行います』
“ キュウビ ” が、返答する。
『“ Shinsengumi 01 ” 、125.9MHzで “ 陸自コントローラー ” へ “ コンタクト ” します。
“ 函館アプローチ ” へ。誘導に感謝します……。 “ グッデイ(Good day:管制区を出る時の挨拶言葉) ” 』
函館進入管制は、直ぐに次位機の “ H○C‐243便 ” を移管させる。
『次に、 “ Hokkaidou System‐243 ” へ。
これ以降は、126.2MHzで “ 陸自コントローラー ” へ “ コンタクト ” して下さい。
無事の到着を祈ります……』
志村一佐が、返答した。
「Hokkaidou System‐243 ” 、126.2MHzで “ 陸自コントローラー ” へ “ コンタクト ” します。
“ 函館アプローチ ” へ。有難う……。 “ グッデイ ” 」
…… “ スペクター ” は、周波数を変更すると、直ぐに無線機へ呼び掛ける。
「“ 陸自コントローラー ” へ。此方 “ Hokkaidou System‐243 ” 。
現在、函館VORまで10nm(18.52km)、7720ft(約2353m)。 “ RF‐4EJ ” の “ エスコート ” を受けつつ、降下中です」
北澤三佐とは違う声が、答えて来た。
『此方 “ 陸自コントローラー ” です。 “ レポート(Report:状況報告) ” 、了解しました。
……志村一佐、御疲れさまです。私は、其方の “ コントローラー(Controller:誘導管制官) ” を担当する “ 佐山 元 ” 一等陸曹です。 “ サーチ・コントローラー(Search Controller:捜索誘導管制官。 “ ASR ” による非精密進入を担当する) ” に引き続き、 “ ファイナル・コントローラー(Final Controller:着陸誘導管制官。 “ PAR ” による精測進入を担当する) ” も担当します。よろしく御願いします。
着陸までの全体の流れは、 “ 管制隊 ” 隊長との手筈どおりですが……。概略を読み上げますので、確認を願います。
……此方は、貴機が函館VORを2000ft(約610m)で “ ハイ・ステーション(High Station:〔航法施設等の〕上空通過) ” した直後より、 “ ASR(Airport surveillance rader:空港監視レーダー。〔非精密進入〕)アプローチ ” の誘導を開始します。
貴機は、5°ズレた状態の “ クロスウインド・レグ(Cross-wind Leg:横風経路) ” へ進入したら、直ぐに此方の指示にて降下を開始。
85° “ レフトターン(Left Turn:左旋回) ” 後、 “ ファイナル・レグ(Final Leg:最終経路) ” から概ね1nm(約1.85km)の “ ダウンウインド・レグ(Down-wind Leg:追い風経路) ” を “ ベクター(Vector:磁針路) ” 117°で飛行。
その後、国交省の特認により “ FAP(精密進入に於ける、最終進入開始点) ” 直下で実施している特設 “ ランドマーク・ビーコン(Landmark Beacon:地標航空灯台) ” に “ アビーム(Abeam:対向) ” したら、 “ ベース(Base Turn:基底旋回) ” “ ファイナル(Final Turn:最終旋回) ” と『半径、約0.5nm(約926m)』の “ レフトターン(左旋回) ” を連続実行。
そして、 “ ヘディング(Heading:機首方向) ” 297°で『東側 “ スレッショルド(Threshold:滑走路端) ” から1.7nm(3.15km)の “ 〔函館〕市立、石崎小学校 ” の北側の地点。 “ MSL ” 761ft(約232m)』の “ FAP(精密進入に於ける、最終進入開始点) ” を通過後、 “ ファイナル・レグ(最終経路) ” へと進入、 “ PAR(Precision Approach Radar:精測進入レーダー。〔精密進入〕)アプローチ ” による精測進入誘導にて着陸。
速やかに、 “ 1番スポット ” へ駐機して下さい。
滑走路30へ “ タッチダウン(Touch-down:接地) ” までの時間は、函館VOR “ ハイ・ステーション ” から二分五十秒前後を予定しています。
この内容で、よろしいですか?』
地上からの問いに、志村一佐が答えた。
「“ コントローラー ” へ。『その、とおり』です」
“ 佐山一曹 ” が、言葉を続ける。
『了解しました。
……では、もう直ぐ、 “ ASR(空港監視レーダー) ” による “ ラテラル・ナビゲーション(Lateral Navigation:横方向、航法支援) ” を開始します。
その際の降下開始点は、此方で指定します。それまでは、 “ 水平〔飛行〕 ” を維持して下さい。降下開始に於ける“降下率”は、905ft(/min)です。
なお、先程も触れましたが……。 “ FAP ” 直下の路上では、 “ 大型投光器 ” による “ LMB(LandMark Beacon:地標航空灯台のこと) ” を国交省の特認により実施しています。色は、通常の物と同じ、 “ 白の閃光灯 ” です。なお、垂直方向へ二本の “ 白色レーザー ” を照射しています。並んで立つ “ 光の柱 ” として、認識出来る筈です。その間を “ MSL ” 761ft(約232m)で通過すれば、 “ 滑走路30 ” の “ グライド・パス ” へ乗ることが出来ます。
では、これ以降の連絡は、隊長との直通回線のみを使用し……。この無線への送信は、しないで下さい。 “ PAR(精測進入レーダー) ” アプローチが近付いたら、この無線で案内します……』
志村一佐が、佐山一曹の言葉が終わるのを待たずに、呟いた。
「“ Saab340B ” で “ パイロン・レース ” しろってか……」
……亮圭は、 “ IAUCE ” を援用した “ パラモーター用の簡易型、航法支援機能 ” を、自分が定位置とする “ 胸の高さの右側 ” に戻す。程無く、 “ ND ” モニターの “ 函館VOR ” の方向を示す矢印が、いきなり反対方向を向いた……。
…… “ スペクター ” が声を上げる!
「“ VOR、ハイ・ステーション(函館VOR通過) ” !」
……元々 “ コックピット ” とは、 “ 鶏小屋 ” の意味である。操縦室は、志村一佐の言葉を皮切りに、名前のとおりの喧騒の坩堝と化した!
…… “ 陸自コントローラー ” の “ 佐山 元 ” 一等陸曹が、 “ 一方的、且つ連続的 ” な “ ナビゲーション(航法支援) ” を開始した。英語で言い易い言葉は、英語で喋って来る。
『現在、 “ ベクター(磁針路) ” 202°、 “ MSL(平均海面高度) ” 2001ft(約610m)、 “ GS(対地速度) ” 170knot(約315km/h)です。
“ ASRアプローチ ” を開始! “ オン・コース(On course:適正針路) ” ……』
……旧帝国海軍の撃墜王が、 “ サーチ・コントローラー(捜索誘導管制官) ” の声に被って、早速の指示を出した。
『亮圭君。
操縦桿の “ 赤いボタン ” を押して、自動操縦を解除! 針路、そのまま。降下準備。
…… “ 確認点検項目関係 ” と “ 機器の調整 ” 等は、私と志村大佐で、全部やる。 操縦にのみ、専念しろ』
「了解!」
撃墜王の指示を実行した亮圭の目の前には、 “ IAUCE、三次元表示 ” 越しに、津軽海峡の海岸線が迫って来ている。直ぐに、佐山一曹の指示が届いた。
『……間も無く、 “ 降下開始点 ” です。降下率、905(ft/min)。
後、五秒……。
Begin decent! (降下開始!)』
……南 少尉も、佐山一曹の降下指示と同じタイミングで、 “ 間の手 ” を入れる。
『降下開始! 機首、-3度!』
「了解」
亮圭が降下を開始した。旧帝国海軍の撃墜王は、副操縦士席の少年へも、指示を達する!
『修平君は、 “ 下げ翼(フラップ) ” を7度まで降ろせ!』
『了解!』
修平も、遅れ無く、指示された操作を実行した。その間にも、撃墜王の指示は、矢継ぎ早に続く!
『亮圭君は、地上が『ビギン・ターン』と言ったら、旋回を開始して良し!』
亮圭が旧帝国海軍の撃墜王へ返事する間も無く、 “ 地上コントローラー ” の指示が来る!
『……次に、左 “ バンク(Bank angle:横傾斜角) ” 20°で “ ベクター ” 117°へ “ ターン(Turn:旋回) ” を用意! “ ダウンウインド・レグ(追い風経路) ” へ乗って下さい!
後、五秒……。
Begin turn! (旋回開始!)』
亮圭は、 “ 地上 ” の指示に従って、旋回を始めた……。
……撃墜王は、言葉を止めること無く、また修平へ指示を続ける。
『……次に修平君は、旋回が終わった時、亮圭君へ “ 丸い速度計 ” の数字を教えるんだ。
それが165と170の間なら、 “ 下げ翼 ” を15度まで降ろして車輪を出す。もし165より下だったら、下げ翼のみ15度まで降ろす。
“ IAUCE ” が出す、 “ 緑の光で点滅させた、矢印表示 ” を確認して於け。どちらも、この点滅が終わって、 “ 白で付きっぱなし ” に成ったら実行だ。良いな?』
「了解! 此れと此れだね?!」
『そうだ! 気が付くのが早いな! 良いぞ! その調子だ!』
「はい!」
修平が、嬉しそうに返事した……。
……機体は、左旋回を続け、機首が磁方位120°へ近付く。亮圭は、気流が安定しない中でも、静かに操縦桿とラダーペダルを戻し、スムーズに針路を磁方位117°へと合わせた。
[動きに無駄が無いな……。『流石』と言う所だが……。何で、出来るんだかな……]
志村一佐が感心していると、旋回を終えた所で、副操縦士席から声が上がる。
「速度、160の……。7だよ」
機長席から声が返って来た。
「了解! フラップ15、 “ ギアーダウン(Gear down:降着装置〔車輪〕、降下) ” !」
「了解」
機体は、修平の操作で “ 機体抵抗 ” を更に増し、速度を落として行く……。
『……直ぐに “ 特設、航空灯台 ” に “ 対向 ” するぞ。亮圭君、左旋回、準備しろ!
最初のバンク角は、前方のRF‐4EJ改に合わせて良い。後半の “ 最終旋回 ” 部分で、 “ IAUCE ” の “ 光る青い線 ” を使って、 “ 航空灯台 ” 直上へ調整だ』
「了解!」
亮圭は、旧帝国海軍の撃墜王の指示を受けて、自分の真左側より少し前を見る。その眼は、 “ IAUCE、三次元表示 ” 越しに、 “ 点減する白い光 ” と “ 二本の光の柱 ” を捉えていた。
それまで『オン・コース(適正針路)』と繰り返し口にしていた佐山一曹も、言葉を変える。
『間も無く、 “ LMB(地標航空灯台) ” に “ アビーム(対向) ” します。 “ ベース・アンド・ファイナル、ターン(Base and Final Turn:基底、及び最終旋回) ” 準備して下さい……』
その無線の最中、前方を飛ぶ “ Shinsengumi 01 ” は、旋回に入った。同時に “ キュウビ ” の声が、 “ IAUCE ” ヘッドセットから聞こえる。
『“ キッド ” ! 最初は、こっちと同じ姿勢でターンしろ! 風と距離を計算するのは、その後だ!』
亮圭は、先導機と自分の目を信じて、機体を左バンクさせ始めた。
「了解! ターン始め!」
“ サーチ・コントローラー ” の指示が、精霊の主の声に重なりつつ、届く。
『Abeam LMB! Begin Turn! (“ ランドマーク・ビーコン(地標航空灯台) ” に対向! 旋回開始!)』
機体は、先導機と同じ姿勢を取り、ほぼ同じ機動で旋回へ入る。この場合、『速度とバンク角が同じで、機体の違いによる風等の空力影響を考慮しない』とすれば、 “ Sa○b340B ” も “ RF‐4EJ改 ” も旋回半径は変わらない。亮圭は、先導機を “ 自分と同じ状態 ” で斜め左上後方から見るような姿勢を取った。 “ ライム ” が、興奮した声で、 “ IAUCE ” 越しに話し掛けて来る。
『亮圭君、上手! 上手!
それじゃあ、この辺で敵機に対する “ レーダーエコー(電波反響) ” を引き継ぐわね。
それから、真奈美を “ そっち ” に派遣するから……。適当に使ってね。
それと……。どの道、この後で亭主と二人、大暴れするから……。私とファントムの二人の “ 秘匿回線〔B〕 ” による通話は、そっちに聞こえなくして於くわ。
じゃあ、また後でね!』
「“ キッド ” 、了解」
亮圭は、そう言いつつも……。色々な意味で、何と無く背筋が寒くなるのを感じていた。
直ぐに真奈美が、話し掛けて来た
『御疲れさま、亮圭君!
……早速なんだけど、 “ 1000(One-thousand:滑走路端の標高151ft+1000ft=高度1151ft(約350.82m)に到達) ” !』
精霊の主が、飛行機のイロハを教わって来た教官の “ 高度通告 ” に、素早く答える。
「“ チェック(Check:『高度1151ftを確認済み』の意味) ” ! “ ノー・フラッグ(No flag:計器、異常表示無し。各計器には、異常時にパイロットへ知らせる為の “ 小さな旗(大抵は、赤い色) ” が在る。それが出ていない “ 宣言 ” なので、 “ 計器、異常無し ” の意味と成る) ” !」
『うん。その調子! その調子!』
……口を開いた志村一佐の声は、多分に疲れていた。
「……南 少尉、 “ ランディング・チェックリスト(Landing Checklist:着陸前、確認点検項目) ” 、行きましょうか……」
旧帝国海軍の撃墜王が、答える。
『良いですよ』
「では……。 “ ランディング・ギアー(Landing Gear:降着装置) ” ?」
『“ 青灯 ” 、正常降下確認』
「“ オート・パイロット(Auto pilot:自動操縦) ” ?」
『停止確認、設定良し』
「“ スピード・ブレーキ(Speed Brake:空力減速装置。 “ スポイラー(Lift Spoiler:揚力減少装置) ” と同じもの。空中では、抗力増加に使用する) ” ?」
『待機状態……』
不意に亮圭が、発言した。
「“ オート・ブレーキ(Auto-brake System:降着装置、自動ブレーキ起動制御装置) ” は、外して於いて! 考えが有るんだ……」
『ああ、分かった』
旧帝国海軍の撃墜王は、気楽に応じたが……。築城基地副司令は、少し怪訝な顔をした……。
……志村一佐と南 少尉は、機体が “ ベース・ターン(基底旋回) ” 90°を終えて、 “ ファイナル・ターン(最終旋回) ” 90°に進入したタイミングで、早口で行っていた “ ランディング・チェックリスト ” を終えた。エンジンの状態以外は、順調で問題無い。
最終的に二人は、滑走路の状態が “ ウェット(Wet:濡れている) ” で “ ダウンウインド(追い風) ” であること等を考慮して、 “ アンチ・スキッド(Anti-skid Control System:降着車輪、滑り防止制御装置。車の “ アンチ・ロック・ブレーキ(Anti-lock Brake System:ABS) ” と同じ働きをする) ” の設定を “ 最強 ” にした。この状態では、車輪が滑らないから滑走路上の直進性を失わないが、結果として “ 制動距離 ” が長くなる。志村 亘は、亮圭へ報告した。
『“ キッド ” 。誘導路の排水を考慮して、 “ アンチ・スキッド ” の設定を強くした。 “ 〔制動〕距離 ” が伸びるが、 “ エプロン(駐機場) ” の一部も滑走路として使えるから、2000m以上の有効長を確保出来る。
エンジン以外、問題無い。落ち着いて行け……』
「了解」
精霊の主の返答は、一言だけだった。しかし、その仕草に不安感は、感じられない。旋回の微調整も、目立った “ 探り舵 ” をせず、とてもスムーズだ……。
『志村大佐、如何でしょう……。亮圭君に関しては、真奈美君に任せてみては?』
『そうですね……。私も『“ キッド ” は、大丈夫だ』と思います』
二人は、 “ 修平の操作 ” に、より多くの注意を払うことにした……。
……志村一佐が、北澤三佐へ機体状態を “ 秘匿回線〔B〕 ” で報告した。最後に、言葉を付け加える。
「…… “ PAR(精測進入レーダー) ” 誘導中に、風の状況を逐次レポートして下さい」
『北澤三佐、了解です。 “ 滑走路29 ” への着陸を許可します……』
やがて、機体が雲の下に出始めて振動も収まり始め、海岸線が肉眼でも見え始めた……。
……機体は、 “ ベース・アンド・ファイナル、ターン(基底、及び最終旋回) ” の左180°旋回を、三分の二程、終えている。
亮圭達が左旋回中なので……。 “ IAUCE ” が表示する “ 光る青い線 ” は、そのままの機動を続けた場合の経路である、直径が約1nmの “ 左巻き螺旋 ” を表示していた。……良く見れば、その先端が “ 警告 ” 表示の “ 光る赤色 ” だ。それは、このままの機動を続ければ、その場所に “ 墜落 ” することを示している。着陸ならば、 “ タッチダウン・ポイント(Touch-down Point:接地点) ” 以降は、最悪でも “ 注意 ” 表示の “ 光る黄色の線 ” で示されるはずだ……。
……また今回は、雨天であることから、特別な工夫として……。 “ ランドマーク・ビーコン(地標航空灯台) ” から、灯台としての光とは別に “ 強い白色レーザー光 ” が二本、垂直に照射されている。その御陰で、雨粒に光が当たって、二本の “ 光の柱 ” が立っていた。既に亮圭は、二本の内で左側に見える “ 光の柱 ” を “ IAUCE ” が表示する “ 光る青い線 ” の “ 左巻き螺旋 ” が貫いていることを、目視で捉えている。それは、 “ ラテラル(Lateral:横方向) ” の操縦に於いては、『“ FAP(精密進入に於ける、最終進入開始点) ” までの飛行が、正確に行われる』ことを示していた……。
……それまで “ サーチ・コントローラー(捜索誘導管制官) ” をして来た佐山一曹が、いよいよ “ ファイナル・コントローラー(着陸誘導管制官) ” として、通信を始める。
『此れより、 “ PAR(精測進入レーダー)アプローチ ” を開始します。
風は115°4knot(約2.06m/s)と弱くなって来ています。
“ ガイダンス・リミット(Guidance limit:誘導限界) ” は、 “ MSL(平均海面高度。 “ 真高度 ” と同じ) ” 351ft(約107m)です。
現在……。貴機は、順調に “ グライド・パス ” へ接近中ですが、高度が少し低めです。修正して下さい……』
亮圭は、間髪入れず反応して、少し降下率を減らす……。地上の指示が、その動きに敏感に反応して、変化した。
『高度は、少しづつ戻って来ています。
そのまま進入……』
……やがて亮圭は、スムーズに機体の姿勢を水平へと戻す。 “ 光る青い線 ” が解けるように真っ直ぐへと変化し、二本の “ 光の柱 ” の間を抜けて、函館空港まで達する……。直後、 “ Sa○b340B、JA0○2○ ” は、 “ FAP ” を “ MSL ” 755ft(約230m) “ IAS ” 148knot(約274km/h)で磁方位297°へ真っ直ぐに “ ハイ・ステーション(〔航法施設等の〕上空通過) ” した! いよいよ、 “ ファイナル・アプローチ(Final Approach:最終進入) ” が始まる……。
その瞬間、機長席の少年が、速やかに低くしていた降下率を元に戻した。佐山一曹が、驚愕して、声を上げる。
『On course! On glide path! (適正進入コース! 適正進入角!)
……初めての進入経路で、この悪天候下、一発で安定させるとは! 御見事です!』
“ ファイナル・コントローラー ” は、直ぐに冷静さを取り戻すと、規定通りの『無音の時間を五秒以上開けない “ 一方的、且つ連続的なナビゲーション ” 』を実施した。
『風は、116°3knot(約1.54m/S)。
……On course. On glide path. ……On course. On glide path. …… (……適正進入コース。適正進入角。……適正進入コース。適正進入角。……)』
“ 後席 ” の志村一佐は、風の状況が改善して来ているのを、素直に喜べない。
[何時、 “ 釜の底 ” が抜けて “ ダウンバースト ” が発生しても不思議では無いが……。他に打つ手は、無いから……。 “ キッド ” 達には、黙って於こう……]
……精霊の主の目の前には、 “ IAUCE、三次元表示 ” によって、昼間の映像で函館周辺が映し出されている。その中で “ 光る青い線 ” が、ほぼ乱れ無く真っ直ぐに、函館空港に二列並んだ “ 真っ直ぐな道 ” の右側の道の端から約400m先の中央を捉えていた。そして、その先は “ 光る黄色の線 ” と成って、 “ 道 ” の中央を真っ直ぐに貫いている……。
……真奈美が、声を上げた。
『“ 500(Five-hundred:滑走路端の標高151ft+500ft=651ft(約198.42m)に到達) ” !』
精霊の主が、即答する。
「“ スタビライズド(Stabilized:『機体の安定を確認済み』の意味) ” !
……と言いたい処だけど、機体が “ 嫌がり ” 始めている。もう失速限界だよ!」
旧帝国海軍の撃墜王が、精霊の主の発言が終わるのを待たずに、すばやく応じた。
『此処まで来れば、もう良いだろう! 亮圭君、良く頑張った!
修平君!
下げ翼20度!』
「了解!」
南 少尉は、修平の操作を確認しつつ声を掛ける。
『下げ翼を一杯まで降ろすのは、亮圭君が着陸を決断した後だ!
スロットル関係は、此方の指示が有るまでは、そのまま!』
「了解!」
亮圭は、二人の遣り取りを聴きつつ、これまでのフラップ操作時と同じく “ スピード・ブレーキ ” を使わずに “ AoA(Angle of Attack:迎角) ” の調整のみで、 “ 光る青い線 ” を “ タッチダウン・ポイント(接地点) ” へと合わせ続ける……。
……なお、 “ Sa○b340B ” の “ Vref(Velocity of Refarence Approach:着陸基準速度。 “ スレッショルド(滑走路端) ” 直上の目標速度であり、 “ Vs0(Velocity of Stall at landing configuration:着陸形態〔フル・フラップ〕での失速速度。なお “ 失速速度 ” は、本来 “ EAS(Equivalent Air Speed:等価対気速度。 “ IAS(〔計器〕指示対気速度) ” に、 “ 位置誤差 ” と “ 計器誤差 ” 及び “ 空気圧縮誤差 ” 等の補正をした速度) ” で表されるが、 “ 低空、低速 ” であるので “ CAS(Calibrated Air Speed:較正対気速度。 “ IAS ” に、 “ 位置誤差 ” と “ 計器誤差 ” の補正をした速度。飛行マニュアル等の速度表記で使用される) ” も、ほぼ同じと成る) ” に1.3の係数を掛けたもの) ” は、 “ CAS ” 114.4knot(約212km/h)である。よって通常の “ スレッショルド通過速度 ” は、この数値に “ 安全マージン ” を5~10knot程加えた、約120knot(約222km/h)から124knot(約230km/h)程度と成る……。エンジン出力を上げて “ 抵抗曲線のバックサイド領域(誘導抵抗等が大きくなり、スピードが遅ければ遅いほど空力抵抗が増す領域。つまり、より遅く飛ぶ為には、よりエンジン等の推進力を上げなければ成らない) ” に対抗出来ない “ Sa○b340B、JA0○2○ ” にとって、 “ スレッショルド通過速度 ” を守り、この領域で不安定に成らない為に、フラップによる減速のタイミングは、とても重要であった……。
……機体は、思ったよりも、すんなりと安定した。再び亮圭が、宣言する。
「“ スタビライズド ” !」
その直後、再び真奈美が、声を上げた。
『“ アプローチング・ミニマム(Approaching minimum:『進入限界点、接近』の意味。滑走路端の標高151ft+PARによるGCA(ILS、CATⅠと同じ)の “ DH(Decision Height:決心高) ” 200ft+100ft= “ MSL ” 451ft(約137.46m)に到達したらコールする) ” !』
亮圭が、即答する。
「“ チェック(Check:『進入限界点の接近を確認済み』の意味) ” !」
“ スペクター ” も声を上げた。
「間も無く、GCAの “ ガイダンス・リミット ” ……。 “ 誘導限界 ” が来るぞ! “ キッド ” 良いか?!」
機長席の少年は、二言で答える。
「大丈夫! 滑走路、見えてる!」
今回の函館空港 “ 滑走路29(滑走路30と同じ標高) ” の “ DA(Decision Altitude:決心高度。非精密進入での “ MAPt(Missed Approach point:進入復行点) ” と同じ意味の空間点であり、此処で滑走路が見えていなければ “ ゴー・アラウンド(着陸再試行) ” となる) ” は、滑走路端の標高である “ MSL ” 151ft(約46m)に、 “ PARによるGCA(ILS、CATⅠと同じ) ” の “ DH(Decision Height:決心高) ” 200ft(約61m)を加えた、 “ MSL ” 351ft(約107m)である。真奈美は、丸い高度計の針を確認して、宣言した。
『“ ミニマム(Minimum:『進入限界点、到達』の意味。『“ DA(決心高度) ” に到達』、もしくは『“ MAPt(進入復行点) ” に到達』と同義語である) ” !』
亮圭が、間髪入れず、答える!
「“ コンティニュー(Continue:〔着陸〕続行。この宣言を以って、着陸実施の最終決断である) ” !」
南 少尉は、修平へ指示を出した。
『よし良いぞ! 下げ翼、一杯!』
「了解!」
機体は、修平の操作によって機体抵抗を更に増して、徐々に大きくなって来ている “ 滑走路29 ” の手前で急速に速度を落として行った……。
……“ ファイナル・コントローラー ” の声が、着陸を決断した精霊の主の声に被って、聞こえて来た。
『Guidance limit! Take over visualy! (誘導限界です! 目視で着陸して下さい!)
滑走路が見えなければ、 “ ゴー・アラウンド ” を!
風は、117°3knot(約1.54m/s)!』
“ スペクター ” は、 “ キッド ” の意思を地上へ伝える。
「ランディング、コンティニュー……」
…… “ Sa○b340B、JA0○2○ ” は、白い光で囲われた “ 滑走路30 ” の隣、青い光で囲まれた “ 滑走路29(誘導路) ” へと、正常に進入して行く。 “ 電波高度計 ” による “ 高度の読み上げ ” は、空港の敷地内に入った “ AGL(対地高度) ” 100ft(約30.05m)、から始まるように、設定されていた……。佐山一曹が、機体が函館空港の敷地上に入る直前、最後のレポートをして来た。
『……風は、117°2knot(約1.03m/s)。
着陸後、258.3MHzで “ 函館タワー(Hakodate Tower:函館管制塔) ” へ “ コンタクト(交信) ” して下さい。
ようこそ函館へ……』
……機体が、函館空港の敷地内へと “ IAS ” 120knot(約222km/h)で進入した。すかさず電子音が、高度を読み上げる!
『100』
そのまま “ 滑走路29 ” 上へ進入する!
『50』
まだ亮圭は、進入角-3°を保っている。 “ タッチダウン・ポイント(接地点) ” の先の “ 光る線 ” は、 “ 黄色 ” のままだ。
『30』
機長席の少年が、『30』の言葉を聞いた瞬間、手を動かすと同時に宣言した。
「“ フレア(Flare:機首引き起こし) ” !」
機体は “ 機首上げ動作 ” によって……。降下率が、フレア動作直前の約550ft/min(約168m/分)から、一気に下がる。その間も、高度の読み上げは続く。
『20』
“ 光る黄色の線 ” が “ 青 ” へと変化して行く。亮圭は、 “ 迎角計 ” の表示もチラリと確認しつつ、 “ AoA(迎角) ” 約17UNIT(約6.2°)で “ フレア ” を安定させた!
『10!』
やがて、下の方から『トン』と軽い衝撃が有り、『ゴロゴロ』と振動が伝わって来る……。
…… “ Sa○b340B、JA0○2○ ” は、 “ ND(航法表示) ” モニターに表示された “ TAS ” 103knot(約191km/h)で、 “ 滑走路29 ” の滑走路端から400.7m先の中心線上に “ タッチダウン(Touch-down:接地) ” した。 “ アームド(Armed:待機状態) ” に設定されていた “ スポイラー(Lift Spoiler:揚力減少装置。 “ スピード・ブレーキ(Speed Brake:空力減速装置) ” と同じもの。地上では、抗力増加よりも、揚力減少に使用する) ” が、自動で立ち上がる……。 “ GS(対地速度) ” は、追い風が加算されて、107knot(約198km/h)であった。なお、この場所と速度では、 “ CAS(較正対気速度) ” も “ EAS(等価対気速度) ” も “ TAS(真対気速度) ” も、ほとんど変わりはない。
機体が “ VOR、ハイ・ステーション(函館VOR通過) ” してから “ 主輪接地 ” までの時間は、二分四十四秒であった……。
……志村一佐は、少年達の操縦に取り敢えず満足したが……。 主輪が接地したのに……。亮圭が、ブレーキを掛けない! 思わず “ スペクター ” が、声を上げる!
「ブレーキ!」
“ キッド ” が、操縦桿を前に押しつつ、平然と答えた。
「前輪が地面に付いてから掛けるよ。地面が滑り易いから、その方が滑走路から外れないでしょ?」
「はぁ? ……」
築城基地副司令から “ 緊張感 ” と言う “ 憑き物 ” が落ちた、次の瞬間……。亮圭は、前輪接地と同時に、両足のペダルを前倒しに踏み込む。 “ アンチ・スキッド ” が、『カッカッカッカッ……』と動作音を立てた。修平も南 少尉の指示にしたかって、前輪の接地を確認してからプロペラピッチを “ グラウンド・アイドル ” まで落とす。両方のプロペラは、前方からの空気を受け止める形と成り、鈍い風切音を響かせた……。
志村 亘が、前へ “ つんのめり ” そうに成りつつ、思わず呟く。
「余裕だな……。恐れ入ったよ……」
機体は、順調に “ 滑走路29 ” 上を減速して行く……。真奈美が、声を上げた。
『60(knot:約111km)』
その声を聴いた “ キッド ” は、 “ ランディング・ギアー(降着装置) ” のブレーキを “ リリース(Release:解除) ” した。勘が鋭い旧帝国海軍の撃墜王は、その意味を悟って、修平へ指示を出す。
『プロペラピッチを、指示位置まで押せ』
「了解」
副操縦士席の少年は、 “ 光る矢印の指示 ” に従って、プロペラピッチを “ タキシング(Taxiing:地上走行) ” 位置まで進めた。機体は、50knot(約93km)を維持している。
「もっと減速しないのか?」
「ダウンバーストは?」
志村 亘は、亮圭の返答に、何も言い返せなく成った……。
……積りに積もった精神的ダメージが “ 許容限界 ” に近づいた志村一佐は、 “ Sa○b340B、JA0○2○ ” が誘導路 “ P3 ” へ入る手前で、ふと左前に目をやる。すると、その視線の先には、 “ 滑走路12 ” へ強行着陸した “ ビーチジ○ット4○○ ” が見えた。その上ギリギリを、神田川一佐の搭乗した “ YF‐23、モドキ ” が、ノズルを輝かせて “ フライ・パス ” して行った! 地上の小型機は、 “ 滑走路12 ” 上をフラフラしながら、自分達と対向して行く……。
[おー! 怖い! 怖い! 何も、アソコまでしなくても良いだろうに……。相手のパイロットは、しばらく放心状態だな。
御互い、御愁傷様……]
“ スペクター ” は、 “ ビーチジ○ット4○○ ” を左後方へ見送った……。
……機体は、エプロンへと進入し、それと一体と成っている誘導路 “ P3 ” 部分を東から西へ素早く駆け抜け “ P2 ” 部分の東側に入ると、急ブレーキを掛けて “ タキシング・スピード(Taxiing Speed:地上走行速度) ” の20knot(約37km)まで減速する。そして、 “ P2 ” 西側の地上表示に従い右へと曲がり、3番スポットと4番スポットに二機並んだ “ BOEING767 ” の左側に在る1番スポットへと真っ直ぐに進もうとした……。その時、 “ 特別管制派遣隊 ” 隊長の大声が、 “ IAUCE ” ヘッドセットから聞こえて来る!
『ダウンバースト、来るぞ! 中心は、 “ 国内線ターミナルビル ” 付近! 目で見える! 早く、機体を風に正対させろ!!』
亮圭は、 “ IAUCE、センサー群の三次元表示 ” により、目視でダウンバースト降下の位置と範囲を確認する。それは、右旋回を終えた “ Sa○b340B ” の正面右側の “ 国内線ターミナルビル ” を中心に、直径50m程度だ。精霊の主は、直ぐに機体を “ 乱流降下位置 ” に正対させて停止させた。修平は、撃墜王の指示により、プロペラを “ フェザリング(Feathering:プロペラピッチを最大角〔進行方向に垂直〕にすることで、抗力を最小限にすること) ” 状態に移行させる……。
二機の “ BOEING767 ” も、 “ トーイング・カー ” で機体の方向を風に正対させようとしているようだ。……二機が静止した途端、その周りが暴風を伴った白い霧の流れの中に包まれる! それは、『アッ』と言う間に “ Sa○b340B、JA0○2○ ” に到達し、機体を激しく動揺させた! 周りは、ほとんど何も見えない!
[凄いパワー……。こんなの喰らったら、落ちるよ……]
それは、精霊の主だけでは無く、関係者全員の感想でもあった……。
……時計の表示は、十九時の少し前を指している。ダウンバーストは、十分と待たずに、治まって来た。亮圭は、全員に声を掛ける。
「皆、大丈夫?」
「俺は、何とも無い」
「“ 精神的ダメージ ” 以外は、特に無いぞ……」
精霊の主は、築城基地副司令の返答に心の中で苦笑いしつつ、提案しようとした。
「じゃあ、機体を “ 1番スポット ” に……」
それを、 “ スペクター ” が止める。
「それは、ダメだな……。
前を見てみな……。整備の方々の御出迎えだ。 “ トーイング・カー ” も一緒に成って、すっ飛んで来ているぞ。
加えて、痺れを切らした函館タワーが、呼び掛けて来ている。
それにエンジンは、もう限界一杯だ。……電力保持だけ考えていた方が良い。修平君、プロペラの “ クラッチ(Clutch:動力伝達機) ” を切ってくれ。これを……」
修平は、 “ 光る矢印 ” と志村一佐の指差し指示に従って、プロペラへの動力を切った。志村 亘は、その操作が完結したのを確認して函館タワーとの通信を始める。プロペラの回転が、ゆっくりと遅く成って行く……。
亮圭は、取り敢えず車輪のブレーキを “ ロック ” して、機体を動かなくした……。
……いきなりコックピット後ろのドアが開く! ……筆頭精霊長のマリーが、実体を以って、姿を現した! 精霊の主が、吃驚して声を上げる!
「マリー! どうして!」
筆頭精霊長は、ニコニコしながら、宣言した!
「“ 状況終了 ” です! “ 解債条件 ” は、東久留米まで戻るまでも無く、充ちました! 御疲れ様でした!
……直ちに、後の偽装工作に移ります。マイスターと修平さんは、後ろの客室へ移動して下さい。その後、志村一佐は機長席へ御願いします」
亮圭は、唐突に、南 義美と志村 亘へ、別れの挨拶をする。
「南 少尉、志村一佐、御世話に成りました!」
修平も、それに続く。
「ありがとう……。ございました!」
大人二人は、突然の展開に唖然としながらも、少年達に答えた。
『ああ、後のことは遣って於く。心配せずに行け。 “ あの御転婆 ” によろしくな……』
「縁が有ったら、また会おう。その時は、『お手柔らかに』な……」
「……では二人共、体に力を入れないで下さいね。行きますよ!」
二人は、意の大精霊であるダイアの声掛けと共に、 “ EAUS‐Type-STWM ” によって空中を吸い出されるようにコックピットから出て行く……。
……志村 亘は、耳に残る “ 少年二人の悲鳴 ” に苦笑いしつつ、機長席へ座った。そして、整備員がコックピットの外側へと来た所で、左側の “ 書類受渡し用の穴 ” を開ける。外からの呼び掛けの方が、志村一佐の呼び掛けよりも、早かった。
「志村一佐、御疲れ様でした。
一番スポットまで、此方で牽引します。プロペラの方は、切ってあるようですが……。間違いありませんか?」
「その、とおりです。
なおエンジンは、限界に来ているので、発電機のみ動かしています。速やかに “ 地上電源 ” へ移行する必要があります」
「了解しました。牽引の準備が出来たら、声を掛けます」
「了解です。よろしく御願いします……」
志村一佐は、整備員との会話を終えて、誰も居ないコックピットを見回す。そして、腕を頭の上で組んで、思いっ切り伸びをした……。
……乗客達と犯人二人は、亮圭と修平が客室に移動した時には、まだ眠っていた。樞 夫妻が、 “ EAUS‐Type-STWM ” によって廊下に軟着陸させられた二人に、駆け寄る。
「二人共、良くやったな! 見事だ!」
「大丈夫? 痛い所、無い?」
精霊の主と主に瓜二つの少年は、大人二人の言葉に、肯きを以って答えた……。
「“ 亮くん ” !」
精霊に対する “ 最高権限者 ” が、その声に驚いて機体の後方を見ると……。廊下の先には、フィアンセの幸来が立って居た。その後方に、マリーが支える “ SeNeHos(空間結節点輪組) ” から、亮圭の姉の幸来と幸来の兄の健斗も出て来るのが、見える。幸来は、駆け寄って、亮圭の胸に跳びついた!
「良かった……。良かったよ……」
フィアンセは、それ以上の言葉を発さない……。精霊の主も、そっと抱きしめるだけだった……。
……やがて、亮圭の方から口を開く。
「サリー……。ううん、幸来。聞いて欲しいことが有る……」
幸来が、顔を上げた。その顔は、涙の筋が、幾筋も伝っている。少年は、意を決して、言葉を続けた。
「僕の為、幸来の為、皆の為……。更に “ 解債条件 ” を積み増す!」
スティクグレー家の長女には、その言葉の意味する所が、分からない……。亮圭が、言葉を続ける。
「此処から、もう一度初めて、東久留米まで自力で帰る!」
全員の顔が、その一瞬で、凍り付いた! マリーが、うなだれる。
[やっぱり、そう来たか……]
……第三幕へ、続く……。
------- 更新履歴 -------
2017.12.11 初版公開 (Ver 1-01.00)
2018.08.16 着陸手順、一部の解り難い部分、文章表現、誤字、ルビ修正版公開 (Ver 1-02.00)
2019.11.09 気になった用語の修正版公開 (Ver 1-02.01)
------- 参考資料 -------
・フォネティックコード
0 ゼロ
1 ワン
2 トゥー
3 トゥリー
4 フォウア
5 ファイフ
6 シックス
7 セブン
8 エイト
9 ナイナー
100 〔ワン〕ハンドレッド
1000 〔ワン〕タウザンド
A アルファー
B ブラボー
C チャーリー
D デルタ
E エコー
F フォックストロット
G ゴルフ
H ホテル
I インディアナ
J ジュリエット
K キロ
L リマ
M マイク
N ノベンバー
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Q ケバック
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S シエラ
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