第二幕 帰還の物語 第七章 出会い、理解、連携、そして……
------ 第二幕、第七章 ------ 出会い、理解、連携、そして…… ------
……亮圭と樞夫妻は、新十津川駅の待合室のソファーに座って、ことの成り行きを見守って居た。そこへ筆頭精霊長のマリーが、ヘッドセットを通して、話し掛けて来る。
『マイスター、少々無謀な “ 精神読み取り ” 御疲れ様です。……余り、心配させないで下さいね……』
[ごめん……]
マリーは、主の思念を待ってから、言葉を続ける。
『……皆様、そのままの姿勢で聞いて下さい。
竹脇修平さんに関して、追加の情報を知っておいて頂く必要が出ました。
質問は、思念によるもののみ受け付けます。音声による質問は、状況が収まってから受けます。樞御夫妻は、取り敢えず、私の聞いて下さい……』
卿一と冴子が、肯いた。精霊の主は、荒れている心を静めつつ、心の思念で応じる。
[了解……。報告を……]
筆頭精霊長が、その言葉を待ったように、口を開いた。
『では、始めます。
今回の “ 通行障害 ” は、元々予定されていたことです。そこへ善意の第三者が、 “ 浦臼駅 ” の “ 公衆電話 ” から “ 110番通報機能 ” を使って、『竹脇修平さん似の少年が、気動車に乗っている』と通報したことにより、この “ 捕り物 ” 騒動へと発展しました。
こちらの対応としては、意の精霊長の直属である大精霊 “ ダイア ” から澤田運転手へ、 “ 警視庁公安部の最上警部 ” の名前で要請しまして……。まず、彼を沿線の安全な場所である下徳富駅の近くの茂みに隠してもらうことと、北海道警に対して “ 偽の情報 ” を流してもらうことを御願いしてあります。また、『警視庁公安部の樞警視正の一行が、彼を回収すべく、帰りの列車に乗り込む』とも伝えてあります。
また、 “ 修平さんの頬の傷 ” ですが、アーサー様によって “ 特殊メイク ” で消してあります。服装は、先程報告したとおりで、変更ありません。
それと……。彼には、 “ IAUCE ” の “ 対人・対物アラーム ” 機能のロック・オン用と言うことで、 “ マルチプル・ハンドガン ” を供与してあります』
[えー! そんな物騒な物を!]
『ファーターとアーサー様の最終判断に依ります。彼の “ 単独判断 ” では撃てなくしてありますから、大丈夫です。それに、 “ 小口径の拳銃 ” 位の認識しか在りませんから、問題無いと判断しています』
亮圭は、項垂れながらも、それに対する自身の判断を僕へ伝える。
[……今更、仕方無いな……。了解した。許可します……
……ところで、運転手さんは、僕のことを知っているの?]
『いいえ。そのことに関しては、先程報告した内容と変わっていません。対策は、必要です。
……以上に成ります』
[了解。何かあれば、また報告を……]
『ダー。マイン・マイスター』
……マリーの話の後、三人は、油断無く周りを見渡す。だが、こちらに関心を持っている北海道警関係者は、一人も居なかった。
[副官殿の報告は、感付かれずに済んだようだな……]
樞警視正は、ホッとした顔をした……。
……新十津川駅での喧騒は、開始から約七分で収束した。道警の警部補が大声で号令を出す。
「運転手から証言が取れた。竹脇修平は、三つ手前の “ 於札内 ” で降りたらしい! グレーのコンパクトカーに乗った可能性がある!
直ちに緊急配備! “ 砂川大橋 ” と “ 奈井江大橋 ” と “ 滝新橋 ” 、それに “ 徳富川 ” の三か所の橋と “ 月形町 ” “ 豊ヶ丘 ” の国道275号線一帯に非常線を張れ!」
警部補配下の要員が、次々と病院の駐車場へと走り、何台もの車に分乗して走り去って行く。渡部警部補は、樞警視正の前に来ると、部隊長として深々と頭を下げた。
「恥ずかしい場を御見せして、面目ありません……。
どうやら、彼の逃亡に協力する者が存在するようです……。
では、これにて失礼します」
警視庁の警視正が、三人を代表して答礼する。
「……御疲れ様です。
こちらは、予定通りに丘珠空港を目指します。連絡の方は、良しなに……」
「心得ております。これ以上の御迷惑を御掛けしないように留意します。が……」
「分かっています……。同じ警察の一員です。出来るだけの協力は、させて頂きます。
……そちらの連絡先を教えて頂けますか?」
「では、こちらまで御願いします」
渡部警部補は、自分の名刺を差し出した。
「……御武運を祈ります」
「有難う御座います。では、失礼します」
渡部警部補は、樞警視正に敬礼すると、駐車場へ走り去って行った……。
「……さてと、亮太。警視庁公安部外事四課の長として、 “ 売られたケンカ ” の “ 落とし前 ” をつけるとしよう。盗聴器を片付けるぞ!」
「うん!」
「“ 売られたケンカ ” ねぇ……」
二人は、樞冴子警視に呆れられながらも、全ての荷物から盗聴器を探し出す。
「叔父さん。これ、どうするの?」
叔父役の樞卿一警視正は、甥役の亮圭の質問に、ビニールの買い物袋を出した。
「全部これに入れて、ここに置いておけば良い。暇になったら、回収に来るだろう……」
「はーい!」
盗聴器は、七分程で十五個全てが、撤去されるか “ スタンガン ” による電磁的破壊により無力化された。本職の公安から見ても、驚異的なレベルのものが複数あった。しかし、それらも “ IAUCE ” の一機能である “ 対人・対物アラーム ” の敵では無かった……。
「これで全部っと……」
「大したものねぇ……」
冴子が、心の底から感心する。そこへ、ホームから駅舎の中へ声が掛かった。
「後、五分で発車します。御乗車の方は、急いで下さい……」
ここに置いて行く盗聴機は、まだ敢えて生かしてある。樞警視正は、メモ帳を使って指示を出した。
私が先に行って、彼に説明する。
呼んだら、ホームへ上がってくれ。
卿一は、二人の肯きを確認してから、急いでホームへの小さな外階段を掛け上がる。車両のドアの前には、JR北海道の制服を着た男が、時計を気にして立って居た。
大男は、自身の身分証明証を見せて名乗る。
「……竹脇修平 君の保護に関して、御協力に感謝します。私は、警視庁公安部外事第四課長を拝命している樞卿一と申します。階級は “ 警視正 ” です」
相手が、ホッとした顔をした。
「JR北海道、苗穂運転所に所属する運転手の澤田 健太郎です。
貴方が警視庁の警視正ですか……。よかった……。
……これで、あの子の安全は、もう心配無いんですね?」
樞警視正は、幾分か表情を険しくし、声のトーンを落として発言する。
「そうも行かないようです……。随分と相手方の仕掛けは、手が込んでいます……。
北海道警が、私達の荷物にも、盗聴器を仕掛けました。これ等の無力化は、既に終わっています。ですが、この列車の中までは、まだ確認出来ていません。
今から私の甥が、車内へ入り、盗聴装置の確認と撤去の作業をします。あれは、この作業のスペシャリストであると同時に、竹脇修平 君とソックリに変装しています。今から作業に掛からせますが、車内の安全が確認出来ていない段階で、大声で驚かれると道警の “ 不穏分子 ” に察知されるリスクと成ります。御注意を願います」
澤田運転手は、感心した顔をして答えた。
「貴方の配下の “ 最上警部 ” と話したことが、もう伝わっていますか……。性格なんかも見抜かれていたようだ……」
「恐れ入ります……。では、始めます。
亮太! おいで!」
「はーい」
……澤田は、息を呑んだ。待合室から出て来て、四段の小さなコンクリート製の外階段を上がって来たのは……。
「本当に別人なのか……」
その呟きに、樞警視正が答える。
「ええ、別人です。川口 亮太。私の甥です」
少年は、警視正の隣に立つと、運転手に会釈した。叔父が、甥に指示を出す。
「亮太。車内の確認に入ってくれ!」
「はい!」
川口少年が、進行方向前側のドアから車内へと入って行った。澤田が質問する。
「“ メイク ” しているんですか?」
「ええ、少しだけ。元々、良く似ていたので……。顔の痣のことは、説明する必要は?」
「……いいえ、ありません。先刻、部下の方から聞いています」
数分後、後ろ側のドアから出て来た少年が、警視正へ報告する。
「盗聴、盗撮機は無い! 何時でも出発出来るよ!」
そのまま少年は、待合室へ走って戻って行った……。
……修平に似た男の子の声を聴いた運転手は、ホッとした顔をした。
「声は、少し違うんですね」
「ええ。 “ 見分け ” ……。いいえ、 “ 聞き分け ” られますから、大丈夫ですよ」
樞警視正が、何の気無しに時計を見て、澤田運転手へ進言する。
「……おっと、そろそろ時間ですね……」
「うわ! 五十七分だ! 皆さん、急いで下さい!」
卿一は、待合室の二人を大声で呼んだ。
「冴子、亮太、出発するぞ!」
その声に、女性の声が答える。
「あなた! 荷物が多いんだから、自分の分位は運びなさいよ!」
「はいはい」
警視庁の警視正が、慌てて一度待合室へ戻る。そして直ぐに待合室から出て来た三人が、気動車へ乗車した。
「警視正。これで全員ですね?」
「ええ、そうです」
「では、出発します!」
“ ドア扱い ” を終えた澤田健太郎が “ ブレーキ・レバー ” と “ マスコン・ハンドル ” を操作しながら号令する。
「出発進行!」
それに呼応したように “ キハ40-401 ” は、一分遅れの十三時零分に新十津川駅を発車した……。
……遠くから、気動車のエンジン音が、近付いて来る。
修平は、その音を聞きつけて、茂みの陰から線路の側へ出て来た。その前で、白地にドアを緑色に塗った車体が、停車する。運転台右側の扉が開いて、少年が顔を出した……。
「修平くん! 早く、こっちへ!」
線路脇に立つ少年は、車上から呼び掛ける少年の声が耳に入らない程、吃驚して固まった! その少年の顔は、自分としか思えない! 頬の痣すらも、同じに感じる……。
「修平くん! 時間が無いんだ! 固まっている場合じゃないよ!
僕は、君の “ ソックリさん ” だよ!」
修平は、少年の声で我に返る! 地上の少年が、車上の少年の手を握り締め、車内へ入った……。
扉が音を立てて閉まると同時に “ キハ40-401 ” は、徐行しながら進行し、茂みの先にある下徳富駅へ、定刻の二分と少しの遅れで到着した。運転手が修平へ声を掛ける。
「無事だったか! 良かった!
直ぐに出発する! 積もる話は、後ろの客室でしてくれ!
……前方信号確認、良し! 出発進行!」
澤田健太郎は、慌てた様子で、二分遅れの十三時八分に気動車を出発させた……
「……修平君、こっちへ。
紹介したい人も、居るんだ」
修平が少年に促されて、運転台からデッキに出る。運転台への扉を閉めた所で、修平が口を開いた。
「まだ名前、聞いていないんだけど……」
「あっ、そうだった! ゴメン……」
少年は、謝ると、自ら名乗った。
「僕は、河村 亮圭と言います。君は竹……」
修平は、亮圭の声に自らの声を重ねる。
「竹脇 修平だ。よろしく、亮圭君!」
「こちらこそ、よろしく!
それと、僕のことは “ 亮 ” で良いからね」
「それなら “ 亮ちゃん ” って呼ぶよ。 “ 健ちゃん ” が、そう呼んでいたから」
「それで良いよ、 “ 修ちゃん ” ……。で良いかなぁ……」
「ああ、もちろん。亮ちゃん!」
「うん、修ちゃん!
……客室で二人、待っているんだ。行こう」
「ああ」
ここで、精霊の主は、筆頭精霊長へ思念で指示を出す。
[修平君を、これ以後、僕の保護下に置きます。合わせて、副官に認定します。
後、僕達以外から、修平君の姿を消して!]
『ダー。マイン・マイスター』
樞夫妻の時と同じく、修平の胸に “ 副官 ” のプレートが現れる。そして、直ぐに透明になって、目立たなくなった……。
……客室へ入ると、一番後ろの山側ボックス席に、大人が二人だけ座って居た。進行方向を向いた窓側の席に座るショートヘアーのグラマラスな女性が、少年達へ声を掛けて来る。
「二人共、こちらへどうぞ」
亮圭と修平が大人二人の対面側へ座ると、ガッチリとした体躯の大男が口を開いた。
「君が、竹脇修平 君だね」
修平が肯く。
「……会えて嬉しいよ。私は、警視庁公安部外事第四課長の樞卿一。階級は、警視正だ。
隣は妻の……」
隣に座る女性は、夫から言葉を引き取る。
「……警視庁生活安全部生活安全総務課子ども・女性安全対策室室長の樞冴子と言います。階級は、警視よ。よろしくね、修平君。
お腹、減っているでしょう? 私達も “ お昼 ” まだなのよ。一緒に食べよう」
「はい……」
修平は、冴子の提案を受け入れると、サンドウィッチとコーラのペットボトルを受け取る。四人は、そのまま少し遅い昼食を取った。ここまで常に強い緊張を強いられていた修平の食欲は、他の三人が吃驚する程であった……。
……卿一は、そそくさと食事を終えると、亮圭へ声を掛ける。
「亮太、今後の行動計画だが……」
修平が、怪訝な顔をした。
「“ 亮太 ” って?」
亮圭が、答える。
「この作戦終了までの、僕の偽名。
修ちゃんのも、あるよ。小父さん、カード……」
「ああ、そうだったな……」
樞警視正は、架空NGO “ 全日本アクティブ旅行会 ” の写真付の身分証明書を、修平へ渡す。
「“ 川口 修太 ” ?」
「ああ、そうだ。君は、我々の完全な庇護下に入るまでは、隣に居る “ 川口亮太 ” 君の弟の “ 川口修太 ” 君だ。私と妻は、君の叔父と叔母の設定に成っている」
「……分かった。小父さんが、そう言うなら、そうする……。
でも、そうすると……。 “ 亮ちゃん ” じゃなくて “ 亮ちゃん ” て呼ばないと成らないんじゃない?」
[ほぅ……。随分、 “ 目端が利く子 ” だな]
感心する樞卿一を措いて、亮圭が口を開く。
「そうだね……。じゃあ、作戦終了までは “ 亮ちゃん ” にしようか……」
「修平君の……。いや、修太の意見に、私は賛成だ」
精霊の主は、警視庁の警視正の意見に、肯いて同意した。卿一が、話を元に戻す。
「……亮太。切符は、何所まで買えば良い?」
「丘珠空港から一番近い “ 百合が原駅 ” まで買えば良いよ。後は、タクシーを使おう」
「分かった。そのように買っておく……」
「え! 亮ちゃん、ひ……。じゃなかった! 亮ちゃん、飛行機で何所かへ飛ぶ気?」
修平が、吃驚した声を上げてから、慌てて口を噤みながら話す。
「うん。到着地は、これから僕が決めないといけないんだ。
……時刻表っと……」
「それなら……」
亮圭に良く似た少年は、再び慌てて口を噤んだ。
[良かった。この子は、現在の事情を正しく理解している]
冴子は、新たに加わった少年の仕草を見て、安心した。
……亮圭は、少し考えた後、候補を二つ出す。
「“ 三沢 ” と “ 函館 ” が良いみたいだね……。
三沢と函館……。この内なら、本州の三沢まで飛べれば良いね……」
そう言った精霊の主は、直ぐに “ 特記事項 ” に気が付く。
「……でも、今日は飛んでいないかも……。
小父さん。一番目を三沢にして、それがダメなら函館にしよう。どっちにしても、一番早い便で……」
修平が、亮圭の話に、食い付いて来た。
「それなら……。函館の方へ行くなら、 “ 当て ” が有る!」
「“ 当て ” って?」
冴子の質問に、亮圭そっくりの少年が答える。
「気動車の運転手さんの娘が、丘珠空港のカウンターで仕事をしているんだ! 『十七時までに、こっちへ来れば “ 函館 ” まで行けるから』って言っていた!」
卿一が肯いた。
「それならば、そのことも含めて、運転手さんに聞いてみよう……。
私は、運転手の澤田さんと話して来る。子ども・女性安全対策室室長。後は頼んだぞ」
「ええ。分かったわ……」
警視庁公安部外事第四課長が退出する。残った三人は、そのまま食事を続けた……。
……冴子は、食事が終わり、子供達が落ち着いたのを見計らって、修平へ話し掛ける。
「ところで修平君……。
私達は、貴方の状況を、ほぼ正しく把握しています。パソコンの件も含めてね……。
でも私には、一つだけ分からないことが有るの……」
「何ですか?」
「アーサーさんから “ とても物騒な物 ” を預けられたそうだけど、一寸見せてくれる?」
修平が亮圭の顔を見る。精霊の主が、肯いて同意した。いきなり、修平の右太ももに、 “ 物 ” が付いている実感が蘇る!
「……出て来た……」
少年が、そう言って取り出したものは、間違いなく銃であった。冴子が受け取って見る。
「“ ジ○・サ○ー ” の “ P○20 ” ハンドガンに良く似ているけど、細部が違うわね……。このデザインの銃は、何所のメーカーにも無いわ。オリジナル……」
冴子が、そう言いながら、銃を握り直すと……。精霊の思念が、主の頭に木霊する!
[ひゃあ!]
次の瞬間、それは、冴子の手を振り払うと、三人の真ん中の空間に銃口を車外へ向けて静止した!
「……うわっ! こいつ!」
精霊の主は、思念の主に、慌てて思念で呼び掛ける。
[サファイア! まだ慣れていないんだから、感度を落として!]
[……マイスター。申し訳ありません……]
……筆頭精霊長の声が、各自のヘッドセットから聞こえて来る。
『樞警視。
これは、マイスターの所有物です。また、今は、修平様に貸し出されている物です。一応、儀礼的な意味も有りますので、マイスターに許諾を取って頂けますでしょうか?』
冴子は、きつい目をしたが、しぶしぶ承諾した。
「……分かったわ。
亮圭君、持ってみても良いかしら?」
精霊の主が、言い難そうに言う。
「これ自体が “ EAUS‐type-MeJo ” だから、精霊と感覚がつながっているんだ……。だから、丁寧に触ってくれる?」
「精霊に?」
「うん」
冴子には、状況が呑み込めない。
「うーん、いまいち良く分からないけど……。
じゃあ、『“ エーウス、タイプ、メジョ ” って何?』って処から説明してくれるかな……」
そこへ、新たな精霊が、声を掛けて来た。
『樞警視には、始めて御眼に掛かります。
筆頭精霊長マリーの許諾の元、御挨拶させて頂きます。意の精霊長の副官を拝命している、大精霊の “ ダイア ” と申します。以後、御見知り置きを願います。
私から、以後の説明は、させて頂きます。マイスターの許諾を願います』
「許可します。……後は、お願い」
主の許しを受けた大精霊が、説明を始めた。
『簡単に言うと……。この銃自体が、私共の体して使えるように成っています。……もっと言い切れば、 “ 体、そのもの ” と言っても過言ではありません。
ですので……。今、これに “ 接続 ” して繋がっているのが私の部下の “ サファイア ” ですから、この銃を握られて背筋の寒い思いをするのは “ サファイア ” 自身と成ります……』
「それって、『知覚が、つながっている』ということなの?」
『その、とおりです。
ただ……。天使や精霊は、自身の感覚で、地上界の物事を感知出来ます。ですから私共は、各感覚を補う為に、これを使っています』
「成る程……。握られるのを嫌がる理由は、分かりました。
では、銃としての性能は、どの程度なのでしょうか?」
樞警視の質問に、意の精霊長の副官が答える。
『この先端に付いている “ 4.65mm高速射ガンユニット ” は、概ね『“ ヘッ○ラー・ア○ド・コッ○ ” の “ M○7 ” と同じ』と考えて下さい。
但し、弾の初速は、0から2340m/sまでを任意で設定可能です。これにより最大、約350mの有効射程を持っています。
なお、フルオート時の発射速度は、オリジナルの十倍以上あります。また、標準仕様の “ 弾丸パック ” の使用でも、数分間なら最高発射速度で弾幕を張り続けられます』
「……これの何所に、そんな弾が詰まっているの?」
『弾だけではなく、 “ 発射機 ” そのものが別の空間に存在して居ます。銃身の周りに “ オレンジ色のリング ” が付いていますが、それが時空間の境の印です……。
……そうですね……。
マイスター。銃口部を起点として、三次元CG合成で、本体を表しても良いでしょうか?」
精霊の主は、苦笑いしながら臣下へ答える。
「任せます。……好きにして良いよ」
主の言葉の直後、銃を包み込むように、とてつもなく大きな機械が半透明のカットモデルイメージで現れた。それは気動車の横幅に全く収まらず、表へ飛び出している……。
冴子と修平は、呆気にとられて言葉も出ない。ダイアが、間を見計らって喋り始めた。
『……これが発射機と “ 弾の供給システム ” です。マルチプル・ハンドガンは、 “ 基地 ” に置かれた “ これ ” の “ 発射プラットホーム ” として機能しています……』
樞警視が、ようやく口を開いた。
「確かに、これなら可能ね……。
……私が考えるに、弾に加速を与えるのは、火薬ではないのでしょう……。 “ レールガン ” のような物ですか?」
『いいえ。電磁力では無く、 “ 重力力積量制御機器群 ” を使用した “ 重力ガン ” です』
「……分かりました。説明は、取り敢えず、ここまでで良いわ……。……熱、出そう……」
『では、銃をホルスターへ戻し、私も控えさせて頂きます。何かあれば御呼び下さい』
銃が、勝手に修平のホルスターへ収まると、それは元のように消えて無くなった……。
……別の乗客が、客室の中へ入って来た。樞警視が “ ハッ ” と反応する。精霊の主は、ことも無げに保護者役へ話し掛けた。
「大丈夫! あの人達には、修ちゃんが見えていないから。
修ちゃんに係わる部分のみなら、 “ オーバーテクノロジー ” の “ HiDeCE ” も普段どおり使えるんだ……」
冴子が質問する。
「“ HiDeCE ” って?」
「“ 隠蔽欺瞞制御機器群 ” のこと……」
「……何でも “ あり ” なのね……」
……二人が亮圭の顔を覗き込む! 精霊の主は、慌てて抗弁した。
「二人共! 何も、そんな顔しなくても良いじゃない!」
「……こんな “ かくし弾 ” が在るとは思わなかったわ。元 “ SAT ” としては、後で詳しく話を聞きたいわね……」
その時、筆頭精霊長が、精霊の主へ呼び掛けて来た。
『……マイスター』
その声は、叔母役と弟役の耳にも、同様に聞こえている……。……亮圭が返答した。
「何? マリー」
『実は……。配信映像を見ていた防衛大臣の榊 様から、リクエストが来ていまして……。『この機会に “ マルチプル ” の部分の説明も聞きたい』と……』
「何で……。って、『五分毎に写真を配信している』の、忘れてた……」
『そうです。
……『こちらでの説明時の映像を動画配信にするか、 “ ソニア ” から直接説明して欲しい』とも願っておられます。私共は、どちらでも対処可能ですが……。どうしますか?』
精霊の主は、観念した。
「……了解しました。精霊による説明を許可します。それと、ここでは僕が説明します。
ダイア。銃を僕の手に……。それと、各砲を展開させるから、 “ HiDeCE ” を使って、周りの人に気付かれないようにして……」
『ター。マイン・マイスター』
亮圭が、銃を手に取って立ち上がり、二人に話し始める……。
二人の目の前で、銃のスライドカバーが後方では無く前方へ移動した。その中には、銃身の有るはずの場所に細い一本のレールがあり、そろばん玉のように四つの小さな “ 機具 ” が付いている。その “ 機具 ” がレール上で回転して、オレンジ色に縁取られた“円形の口”を左側へ向けると、その中から左横方向へ細長い “ 棒状の物体 ” が伸びる。更には、その “ 棒状の物体 ” 側面先方のオレンジ色に縁取られた部分から、上方向へ “ 正方形の物体 ” が出て来る。そして、その “ 正方形の物体 ” 前方側の面は、オレンジ色に縁取られていて、中心に穴が開いていた……。この現象は、明らかに、物理の法則に反する! 一般人には、余りにも心への衝撃が強い!
「これが、“7.62mm高速射ガンユニット”の発射口で……」
冴子には、説明する少年の言葉が、もう聞き取れなかった。
……その “ 旗のような物体 ” 全体が本体の “ 機具 ” へ収納されると、隣の “ 機具 ” から更に大きな “ 旗のような物体 ” が出て来る。
……同じことを繰り返して、最後の七番目に銃から出た出て来た “ 旗のような物体 ” は、 “ 旗の面 ” 部分が1830mm四方で厚さ2mm、折れ曲がった幅3mmの “ 旗竿 ” 部分が長さ3m以上あって……。客室の通路に、ようやく収まっている……。
その場の映像配信を受けている全員と座席に座る二人は、放心状態に陥る……。
樞警視が、頭を抱えて言った。
「じゃあ何? それは『列車砲の “ グスタフ・ドーラ(800mm列車砲) ” を越えている』って訳? 無茶苦茶じゃない? “ 50in(1270mm)砲 ” って……」
精霊の主は、旗のように展開された “ 50in有翼式滑腔砲ユニット ” 用 “ 展開ステーション ” を格納しながら、口を開く。
「……まぁ……。見てのとおり、なんだけど……」
「良く、そんな巨大な物を、普通に持って居られるわね……」
「これは、 “ TEG‐QU ” で出来ているから、重さも空気抵抗も全く無いんだ……」
「“ テグ・クウ ” ?」
ここで、筆頭精霊長マリーが、二人の話に割り込んで来た。
『マイスター。これ以降は、私が説明しましようか?』
「……そうだね。御願い」
『では、樞警視……。後の質問は、こちらで答えさせて頂きます……。
“ TEG‐QU ” とは、 “ Three-Dimensional Network Structuer of Enclosing the Gravity to Made by Quarks ” の略で、 “ クオーク重力内包立体網目状構造体 ” のことです。
この素材は、使用可能な全物質中で最も強度が高く、作り方によって “ ブラックホール特異点 ” の強度の約5~92%までの物を任意に製造出来ます。私共が使用しているのは、約10%強度の物です。
但し、完全に重力を内側に織り込んで安定化させた素材なので、他の物質との親和性が全く無く、重量も摩擦も有りません。ですので、銃の重量バランスには、理論的に全く影響を与えません』
「へー……。そんな物が存在するなんて……」
『まあ、人類が “ TEG‐QU ” を開発するまでには、全力で開発しても……。 “ 神の知恵 ” の助力が無いので……。後、千二百年は、最低でも掛かりますよ』
「……気の長い話ね……。
それにしても、取っ換えひっかえ、先頭以外に七種類も発射口が出て来るなんて……」
『取り敢えず必要と思われる物は、全部付けましたので……。
50inは、 “ 国際宇宙ステーション ” に物を運ぶことも、太陽系の公転軌道へ直接荷物を打ち出すことも出来ますよ』
マリーの言葉に、冴子が鋭く反応する。
「それって、 “ ICBM(Inter-|Continental Ballistic Missile:大陸間弾道弾) ” の代用になるわ……。 “ 核 ” を装備したら……」
『“ それ ” は、 “ 基地 ” の周りで、普通に使っています』
「え!! 何それ!」
『はい。私共が建設中の “ 基地 ” の周辺は、 “ ガス ” と “ 小惑星クラスの隕石 ” がゴロゴロしている場所です。その中で “ 基地 ” に接近する隕石や小惑星を処理する為に、小型の物なら “ 純粋水爆型の熱核弾頭 ” 、大型の物なら “ 量子弾頭 ” を使用して日常的に粉砕処理しています。そうして砕いた物を、最終的には “ ヨタ・レーザー ” でガス化して無害化処理しています……』
「つまり、『この位で驚いている場合ではない』って言うことね……」
『ええ。50inよりも大型の “ 重力ガン ” も有りますよ……。
それどころか……。私共が日常的に使用している物の中には、 “ 崩壊 ” すれば何十光年もの空間を巻き添えにするような物も有ります……』
樞警視は、自らの最大の懸念を、筆頭精霊長へ率直にぶつける。
「そんな物を九歳の少年が所有しているのは、危険じゃない?
貴方達は、『やれ』と言われれば、 “ ヒロシマ ” を躊躇しないと思う……」
筆頭精霊長が、語気を強めた。
『その懸念は、確かに妥当です……。
ですが……。人間は、その宿命として、全ての万物を主管しなければ為らないのですよ!
“ 核 ” は、巨大なエネルギーを解放させる物として、 “ 大量破壊兵器 ” にも成れば、 “ 隕石除去 ” にも使えます。つまり、 “ 核 ” それ自体が悪いのではなく、それを使う現人類が問題なのです。自己の安寧と物欲や支配欲等の為に同種どうしの無慈悲な争いをするのは、全生物の中で “ ホモ・サピエンス ” だけなのですから……』
冴子は、何も言えなく成ってしまった……。マリーが言葉を続ける。
『それに……。マイスターは、人として “ 痛みと苦しみ ” を一部分でも知っていますし、 “ ブレーン ” も揃っています。『貴方方が心配される事態は、ほぼ無い』と断言出来ます』
「じゃあ聞くけど……。彼が知っている “ 痛みと苦しみ ” って?」
『一番分かり易い例では……。マイスターは、 “ 常紋トンネルの件 ” を経験されています……』
「……確かにね……」
子ども・女性安全対策室室が、手で顔を覆った。
「取り敢えず、此処までにしましょう……。これ以上は、もう良いわ……。本当に、熱、出そう……」
『では私は、これにて下がらせて頂きます。何かあれば、また御呼び下さい』
筆頭精霊長は、自らの主へも声掛けをする。
『各氏への追加説明は、こちらで対処しますから……。マイスターは、作戦に集中して下さい』
「了解……」
精霊の主は、リュックの中から “ ダイエー ” で買った “ 熱さ○シート ” を取り出して、警視庁の警視へ差し出した……。
「……小母さん、これ……」
冴子は、その仕草に微笑む。
「有難う」
元SATの猛者は、それを額に貼ると、シートに深く凭れ掛かった……。
「亮ちゃん。俺にも、くれる?」
「うん」
亮圭は、修平にも “ 熱さ○シート ” を渡しながら、冴子の隣に座る。
[小母さんの目が怖い怖い……。更に突っ込まれたら、どうしよう……]
精霊の主の心配は、二人が何も喋らなかったことで、杞憂に終わった……。
「……おい、亮太!」
亮圭達が、その声に吃驚して振り向くと、卿一が歩いて来た。
「……乗客は、他に六人か……。流石はローカル線だな……。
ところで三人共、ゲンナリした顔をして……。何が、あったんだ?」
冴子が、卿一へ口を開く。
「信じられないような現実……。
……一つだけ質問するけど……。貴方からは、 “ 保護対象 ” が見える?」
「何を聞くかと思えば……。そこに居るじゃないか」
樞警視の視線に、精霊の主が答える。
「そりゃ……。小父さんに隠す必要、無いじゃない……。……消してみる?
マリー。御願い」
二人から修平の姿が消えた! 全く存在が感じられない! ……卿一は、もう少しで声を上げる所だった。
「マリー。元に戻して」
精霊の主である亮圭の言葉で、修平の姿と気配が、元のように認識出来るようになった……。当の本人が、自分そっくりの少年に詰問する。
「亮ちゃん、何かした?」
「うん。二人から修ちゃんの姿を消した。……今は、見えているよ」
「何それ? どうやって……。あっ、 “ HiDeCE ” を使ったのか! こいつぅ……」
「まあ、まあ……。押さえて、押さえて……」
亮圭は、笑いながら、誤魔化した。夫が妻へ質問する。
「……冴子。この事態を説明してくれるか?」
「……今は頭が混乱しているから、後で説明するわ……」
[……妙なことも有るものだな。こいつが、こんなに成るなんて……]
今度は、妻が感慨に耽る夫へ質問した。
「ところで、今、何時?」
「……今、十四時だ。後、二十分程で終点に着く」
亮圭は、その言葉で我に返り、時刻表を引いて乗換駅を確認する。
「えーっと……。終点か一つ前で乗り換えだね……。
終点が “ 石狩当別駅 ” で、一つ手前が “ 北海道○療大学駅 ” って言うんだ……。
乗り換えは、どっちが良いんだろう……」
呟く亮圭に、卿一が声を掛けて来る。
「それに付いて、報告と提案が有る。
まず、航空券の首尾なんだが……。八戸便は、残念ながら、午後には飛んでいなかった。だから、十七時二十五分発の函館便を四席手配してある」
精霊の主が、肯いた。
「次に、提案なんだが……。運転手の澤田さんの娘が北海道○療大学駅の駐車場で待機している。彼女が、丘珠空港まで送ってくれた上で、出発まで匿ってくれるそうだ……」
亮圭の表情が曇る。
「……でも、それは……」
「分かっているよ。先方からの提案では、 “ 解債条件 ” に引っ掛かるんだろう?
……そこでだ! 修太を一人、別行動で先に送ることにした。我々は、彼の囮として行動する……。
澤田さんからの情報によると……。既に、公共交通機関には、手配が廻っているようだ。恐らく、相手方も十重二十重の包囲網を敷いているだろう……。
もっとも、ここまで “ 対象 ” を隠匿出来るのなら……。心配の必要は、無いが……」
「でも修ちゃんが、別行動で動いたら……。多分、先に着くと思うけど……。僕達が、丘珠空港に着いても、簡単に合流出来ないんじゃ……」
「大丈夫だ。澤田さんの娘が、空港内での修太の安全を確保して、機内で落ち合えるように手配してくれる……。
それに、君の力だけで、彼の安全は確保出来ているようだが?」
「それは、そうだけど……」
樞警視正の説明に、亮圭に代わり、修平が口を開く。
「……まあ、そう言うことなら……。俺は、構わないよ」
「良いの?」
「ああ……」
精霊の主は、少し考えてから発言した。
「……それなら、護衛を “ 一身 ” 付けよう! 今、準備する!
亮圭は、スマートフォンで父親に電話をすると、ある物の使用の同意を取り付ける……。
「……これで良しっと!
修ちゃん、実体化したダイアを護衛に付けるよ。それで良いね?」
「別に良いけど……」
相手の返事を待って、精霊の主が指示を出す。
「ダイア! 権限者二人の許諾の元、 “ EAUS‐Type-STWM ” の使用を許可します。修平君を守って!」
『ダー! マイン・マイスター』
意の大精霊ダイアが、大通駅の時の姿のまま、実体を現した。現職の警察官二人は、涼しい顔をしている子供二人とは対照的に、その場に固まる。
「……いきなり姿を表すと、精神衛生上良くないな……」
「貴方は、まだ良いわよ……。私なんか、もう限界……」
「……御二人には、申し訳無いことをしました。どうぞ御許し下さい」
ダイアは、大人二人に謝ると、自らの主に話し掛けた。
「マイン・マイスター。御提案が有ります。
この姿よりも『警視庁の最上警部の姿に擬態した方が、後々の行動上良い』と考えます」
この提案に、彼の上司の樞警視正が反応した。
「最上の姿に変装出来るのか?」
「はい! 声や性格も全て!」
「……やってみてくれ」
ダイアの姿は、樞卿一の良く知る人物へと変化した。
「……最上?」
「御疲れ様です。ボス!」
その声は、部下の最上警部そのものであった。卿一が、凍り付く。
「……こんなことが……」
最上警部が、今度はダイアの声で答える。
「ざっと、こんなものです!」
樞警視正は、全身の力が抜けて行くのを感じていた……
「……それは、それで、不気味だな……」
……そこへ、車内放送が掛かった。
『間も無く、北海道○療大学駅に到着します……』
……北海道網走郡津別町の津別総合病院小児病棟 “ 臨時特別隔離病室 ” では、医療機械の音が静かに響く……。その静寂を、初老の男性の呟きが破った。
「……耳の痛い話だな。核を大量破壊兵器にするのは、人間の責任か……」
「大臣。それは、日本の一般論では、ありません」
「分かっているよ、 “ 北澤 ” 陸幕長……」
榊 征太郎は、ベッドの上に寝ている少女と、付添っている情の精霊長の視線に気が付く。
「幸来ちゃん、それにルリーさん。心配しなくても良い。悪いようには、せんよ。
……君達には、今回の “ RF-4EJ ” の件も含めて、大きな借りが幾つも有る。感謝に堪えん……。
特に、命拾いした此奴等が、一番思っているよ……」
紺の制服を着た男性自衛官二人が、少女に肯いた。それを見ていたスティングレー海軍少佐が、沈痛な面持ちで、口を開く。
「それについては、我が軍でも確認が取れました。申し訳ありません……」
「なぁに、君が謝ることでも無いさ……。
我々に謝らなければ為らないとしたら、 “ ○○○ング ” と “ ○○アビエーション ” のメンテナンス達だ。
……アメリカでは “ F‐4 ” の技術者が、ほぼ絶えて久しいが、『今回のテストに掛かる経費は、全て無料です。また、 “ F○14 ” 御購入の暁には、大幅な値引きもさせて頂く用意があります。つきましては、機密保持も有りますので、作業は全て此方でやらせて頂きたいのですが……』っと来たもんだ。
まぁ、彼等の気持ちも分かる。だから今は、文句を言う気も無い。
……取り敢えず、空中分解する前に機体の交換が成ったんだから、良しとしようや……」
「恐れ入ります……」
米軍の将校が、防衛大臣と男性自衛官二人に、頭を下げた。高級自衛官である二人は、肩を竦めて笑って応じる。
「まあ、それはそれとして……。
それにしても君の旦那は、 “ F○14EPE ” を搭載した “ RF‐4EJ ” ……。いいや、搭載兵器を考えたら、 “ RF‐4EJ改 ” と言わなければ為らない程の “ 仕様 ” だが……。それを一点物で作っちまう組織を率いているんだ……。
元航空自衛隊のパイロットとしては、羨ましい限りだよ……。
なあ、 “ 神 ” 」
「ええ。飛ばし甲斐があります。
なあ、 “ 栗 ” !」
「……俺は、 “ 防衛機密 ” が筒抜けなのが気になるけど……」
“ 苦笑い ” とは言え、防衛大臣達の笑顔に、少女の表情も緩む……。
……そこへ、ノックの音が響いた。ルリーが応じる。
「何方ですか?」
「健斗です」
「カム!」
幸来の兄の健斗が、自身の父親の号令を受けて、津別に残った河村家の全員と意の精霊長のエリー、それに来客を三人連れて病室へ入って来た。
息子が、父親へ報告する。
「スティングレー少佐。 “ ケント・ロジャース ” 大佐と御付の方二人を御連れしました……」
「御苦労」
「流石は “ とっつぁん坊や ” ……。御堅いことだ……」
防衛大臣が思わず呟き、高級自衛官達が苦笑いする……。少年は、自分に呟いた初老の男性を見て、笑顔に成った。
「榊 大臣、御久し振りです」
健斗が、明るい声で挨拶した。むしろ、スティングレー少佐と敬礼し合った客人達の方が狼狽している。
「……こちらの情報では、全員、関東エリアに居らしたのでは?」
健斗から『榊 大臣』と呼ばれた男は、来客の内で一番上位と思われる者の発言に、向き直ると名乗った。
「今は、防衛大臣をしている……。榊 征太郎だ」
防衛相の敬礼に、相手も慌てて敬礼で応じる。
「七月一日付で、 “ アメリカ海軍情報局・太平洋艦隊情報部長 ” に就任します。ケント・ロジャース海軍大佐です」
「堅苦しい挨拶は、ここまでだ。 “ ケニー ” 、久しぶりだな……」
相手は、大臣と握手すると、質問を重ねる。
「今日は、百里基地に居ると聞きましたが?!」
「おっと、そうだ。まず、それから答えないとな……。
君が此処に『部下のスティングレー少佐を訪ねて来る』と言う話を聞いて、幸来ちゃんの御見舞いがてら、夫婦同伴で出張って来たんだ。
この男三人の顔ぶれ……。知らない顔は有るまいな?」
「ええ。全員、知っています。
航空自衛隊 “ 第7航空団 ” 司令の “ 神田川 鉄朗 ” 空将補、 “ 航空戦術教導団 ” 司令の “ 太田 宏和 ” 空将補、それに陸上幕僚長の “ 北澤 一徹 ” 陸将、御無沙汰しております」
名前を呼ばれた三人は、ケニー大佐と、それぞれ敬礼し握手し合う。先頭のザンバラ頭の男が、一番に口を開いた。
「相変わらず、日本語が上手いねぇ……。まだ、チェスの腕前も衰えていないのかい?」
「ええ、それはもう……。 “ ゴリラ ” に負けているようでは、海軍情報局に面目が立ちませんよ。おっと、今は枯れて “ ヤマザル ” でしたか……」
「言ってくれるねぇ。今度、勝負しよう!」
「やめとけ “ 神さん ” 。 “ 寿司 ” にされるのが “ 落ち ” だ」
神田川空将補が、女房役の太田空将補の発言を、頭から否定する。
「“ 栗 ” ! そんなことは無い! 俺が本気になれば……」
「そう言って、全戦全敗だろうが……」
そんな二人に、女性の一喝が……。
「やめなさい! 貴方! 病室でしょう!
“ 栗さん ” も!」
伝説のパイロットにして “ 第7航空団 ” 司令の “ ヤマザル ” も、恋女房には弱い!
「……はいはい、分かりました」
「“ はい ” は、一回で結構です!」
「はい……」
「御目付役の御仕事、御苦労様です。 “ 神田川 久美子 ” 一等空佐……」
神田川空将補の古くからの女房役である太田空将補が、助け舟を出そうとしたが……。
「……ここで首を突っ込まれるのなら……。また、奥様と “ 連携 ” させて頂きますわよ……」
「そっ、それだけは御容赦ぁ」
「……そこまで恐れられている割には、最近の家族サービスの低下が気になるんだけど……」
「“ 鳩子 ” ……。御前、何も此処で言わなくても……」
その様子に、一同、大笑いとなった。頭を押さえるのは、二人ばかり……。
…… “ 航空戦術教導団司令 ” 夫人の “ 太田 鳩子 ” が、騒ぎが一段落した所で、防衛大臣へ声を掛ける。
「榊 “ 隊長 ” 。そちらの方達は?」
「おっと、そうだった!
……紹介しよう。今回の件で全ての “ キーマン ” と成る、河村亮圭 君の家族の方達だ。
こちらが、父親の河村政志さんと母親の京花さん。そして彼の御姉さんの幸来さん……」
榊 征太郎は、次に河村家の三人へ向き直ると、掌で自分に話し掛けた女性を指示した。
「……河村さん。こちらが、太田空将補夫人の鳩子さん。その奥の制服を着たのが、神田川空将補夫人で、 “ 第7航空団副司令 ” の神田川久美子、一等空佐……。
……こっちに居るのが、陸上幕僚長の “ 北澤 一徹 ” 陸将と夫人の “ 真理恵 ” さん。そして隣の同じ顔が、真理恵さんの双子の姉で、私の妻の “ 真美子 ” だ」
父親が、代表して名乗る。
「始めまして、河村政志です。……妻の京花と娘の幸来です」
「よろしく、お願いします」
京花の言葉で頭を下げた三人に、まず二人の空将補夫人が名乗る。
「貴方が “ 河村さん ” ですか……。
初めまして。太田鳩子と申します。
この度は、主人の命を助けて頂き、本当に有難う御座いました……」
「航空自衛隊、一等空佐、神田川久美子です。
私も『未亡人に成らずに済んだ』こと、心から感謝します。
ただ、あの機体は、 “ ゴリラ ” に与えるには、余りにもオーバースペック……」
「いや、そんなことは無い!」
抗弁した神田川空将補を、神田川一等空佐は、妻の眼力で静める……。 “ ヤマザル ” が静かに成った所で、今度は双子が名乗った。
「榊 征太郎の妻、榊 真美子です」
「北澤の家内の真理恵です。
…… “ ルミ ” とは、昔からの知り合い……。
あっ、御免なさい。貴方達は、 “ ルリー ” と呼んでいるのでしたね……」
河村家の家長は、率直な感想を口にした。
「……とても良く、似て居らっしゃるんですね」
真美子が、答える。
「ええ。一卵性の双子ですのよ
……姉としては、妹の対人関係に、御小言の一つも言いたい所ですけど……」
真理恵が、渋い顔をした。
「……散々、聞かされました! だから今日、 “ ルミ ” に呼ばれたから、姉さんにも声を掛けたんじゃない……」
「……と、言うことは……」
そう言った政志が、ルリーに目線を移すと……。 “ 彼女の身 ” は、肩を竦めて口を開いた。
「ええ。真理恵は、私が呼びました。
旦那様方は、私と真理恵の馴れ初めはおろか、 “ 『新撰組』作戦 ” の真相も知りませんでしたので……。その説明の補足を、彼女にも御願いしたくて……」
そこへ、北澤一徹が、話に加わって来た。
「吃驚したよ! まさか、彼女達の口から、極秘作戦の全容と我々の知らない話を聞くとはね……」
政志は、念の為に、質問してみる。
「“ 『新撰組』作戦 ” 、ですか?」
「ええ……。
もっとも、正式な作戦名と内容は、三十八年程経った今も、外交問題に成りかねない “ 最重要防衛機密 ” なので、明かせません……
でも、そのことが……。私達、 “ 作戦 ” に参加した自衛官一同に『貴方方が得た、もろもろの力と真実』を信じさせることと成ったのは、御承知のとおりです。
……こちらに取っては、今後のことを考えると、とても頭の痛いことですが……」
「……息子に成り替わり、陳謝します……」
陸幕長は、河村家の家長の仕草に、少し恐縮して言った。
「いや、面を上げて下さい……。昨日、自衛隊トップの榊 大臣へ頭を下げられたのですから、同じことで頭を下げられずとも構いません。
ただ、改めて確認しますが、『“ このこと ” の全ては、全面的に秘匿とする』との方針に、変更は有りませんか?」
「ええ、有りません!
“ このこと ” が世間一般に知られれば、パニックどころの騒ぎでは済みませんし……。我々の “ 敵対勢力 ” が間違い無く黙っていません。その点を、 “ 天の父 ” も、大変心配されています。
……皆様には、何かと御心労、御迷惑を御掛けしますが、重ねて情報管制への御協力を伏して御願い致します」
再び頭を下げた河村家代表に、日本の防衛関係者全員が肯く。
「分かりました! その点は、御心配無く!
さて……」
そう言った北澤陸幕長が、アメリカからの来客者、三名へ向き直った。
「……ケニー。聴いてのとおりだ。
“ 『新撰組』作戦 ” の好で、君達にも大分の協力を願いたい……」
今度は、 “ アメリカ海軍情報局・太平洋艦隊情報部長 ” が質問する番なのだが……。もうすぐ五十路の壮年の頭の中は、ただただ混乱するばかりで……。ようやく出て来た言葉が……。
「……この状況が、良く飲み込めませんので……。
まず、この質問に答えて下さい。東京に居たはずの人達が、どうやって……」
その質問には、防衛相が答えた。
「答えは、そこの壁だ!
壁に開いたオレンジ色の縁取りの大穴の向こうには、何が見える?」
それを見詰めるロジャース大佐の顔から、血の気が失せて行く……。
「……ひょっとして、 “ 百里基地の司令官室 ” ですか……」
「当たりだ!
二十分位前までは、皆 “ 百里の司令官室 ” に居たよ」
「そんな馬鹿な……」
「『高度に発達した科学は、魔法と変わらない』ってことさ……。
ケニー。後は、向こうで話そう……。
……ソニアさん。それで良いかね?」
情の精霊長の横で控えていた情の大精霊は、自らへの防衛相の要請の答えを、視線で “ この場の最上位権限者 ” へ問うた。ルリーが即答する。
「ええ。私共は、構いませんが……。
私、自ら御説明申し上げたいので、同道しても、よろしいでしょうか?」
「もちろんだ。皆、同行してくれ。
但し、子供達二人は、こっちに残ってくれ。これは、大人の政治の話だ」
健斗は、少し不服だったが、肩を竦めて同意する。幸来に異存は無かった。防衛相が最後の指示を出す。
「では全員、百里へ移動しよう!」
その時、意の精霊長が手を上げた。
「私には、主の家族を守る仕事がありますので、こちらに残ります。……ルリー、それで良いかしら?」
「ええ、エリー。そうして……。
榊 大臣、よろしいでしょうか?」
「ああ。構わんよ」
健斗と幸来と幸来、そして意の精霊長エリーを残して、全員が壁の向こう側へと移動した。こちら側ではエリーが、反対側ではソニアが、連携して “ SeNeHos ” を畳んで小さくする……。
……ベッドの上の幸来が、ぽつんと呟いた。
「……また、暇に成ったなぁ……」
「カードゲームでも、しませんか?」
意の精霊長の提案に、その場の全員が賛成した……。
------- 更新履歴 -------
2016.09.02 初版公開 (Ver 1-01.00)
2016.10.29 誤字・表現と固有名詞の一部手直し版公開 (Ver 1-01.01)
2017.08.28 読み易くする為の修正、ルビ小修正版公開 (Ver 1-02.00)
2018.08.16 設定追加捕捉修正版公開 (Ver 1.03.00)
2018.08.23 大元のWordファイルとの内容差異が生じたための文章整理、誤字修正、読み易くする為のルビ修正版公開 (Ver 1-03.00.01)




