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精霊の……おさマリ……  作者: 河村 政志
第二幕 帰還の物語
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第二幕 帰還の物語  第五章 竹脇包囲網、突破……

------ 第二幕、第五章 ------ 竹脇包囲網、突破…… ------



 ……オホーツク2号が、長いトンネルの中から、光の中へと飛び出した。森の緑と川の水が、霧の中、落ち着いた色合いになっている。鉄路が下り坂になったことでも、石北トンネルを抜けたことが分かる。ようやく、道東から道央に入った……。

 確実に関門を越えて、順調な旅なのだが……。(かつ )(よし )の心は、霧のように晴れなかった。

[……世界は、こんなに()(れい )なのに……]

 常紋トンネルの惨劇と幻想的な美しい森とは、どちらも紛れも無い現実として存在している……。少年は、その思いを切っ掛けに、 “ 禁忌としていた事 ” を考え始めた。

[どうすれば……。どうすれば良い? 

 どうすれば、大山さん達、(みんな )が助かる。どうすれば、上手く行く……]

 少年は考え続けた……。

 助ける方法が、思いつかない訳ではない。しかし(かつ )(よし )には、それを実行するにあたり、その前に立ち(ふさ )がる大きな障害が在ることが、分かってしまうのだ。

[精霊達は、(ぼく )の障害を補助する為に、100パーセントの力を計画実行に当てれない……。

 それだけじゃない! たとえ、元の自分まで体が治ったとしても……。元からの(ぼく )の欠点、『キレやすい。精神的な気分に左右される。色々な切っ掛けで考えが横にずれて、前のことを忘れる。そうかと思えば、集中し過ぎて周りを見なくなる。一寸(ちょっと )したショックとかで、頭が真っ白になると立て直すのに時間が掛かる。』ことの方が問題だ……。結局、一番良い判断と決断を何時(いつ )(ぼく )が出来るんだろうか……]

 ……更に、それとは別の問題も在る。 “ (くま )(さわ) (たけ )() ” 医師と “ (ひし )() (こう )(めい) ” 医師には真実を明かして協力を取り付けた。しかし、このままでは父親の発言のとおりに、するしかなくなる。

[『偽装工作は、限界だ。このままでは、御前の存在自体を消さないと、話が収まらない。

 すなわち御前が死んだことにして、葬式も出して、この社会から消滅させる。結果として御前は、この世界との関わりを(ほとん )ど失い、社会的活動が出来なくなる』か……。

 そんな訳には、行かない! まだ、 “ 再臨の(しゅ) ” の位置に立たれる方が、成功するかもしれないんだ! その歩みを支える予定の(ぼく )が、ここで倒れる訳には行かない!]

 堂々巡りの思考が続く……。

[……如何(どう )すれば、一番良いんだろう……。……如何(どう )すれば……]

 (かつ )(よし )の中では、ある考えが、少しづつ大きくなって行っていた。

[……やっぱり帰ってから、この方法をするしか……。……!?]

 マリーが、警告したくてウズウズしているのが、何となく伝わって来る。少年は、しばらく、このことを考えないことにした……。



 ……鉄路は、石北トンネルを超えると、長い下り坂となる。列車は、軽快に谷を駆け下り、定刻の九時二十五分には “ (かみ )(かわ )駅 ” を発車した。

 その直後に、(からくり )卿一が話し掛けて来た。

(かつ )(よし )君。後、四十分で、次の “ 旭川駅 ” に着く。

 君の副官殿からの話だと、ここから先は “ ヤクザ ” の抗争の中を突破して行く必要があるそうじゃないか……」

 (かつ )(よし )は、言い難そうに答える。

「……うん。そうみたい……」

「そこでだ。

 先刻(さっき )、ドサクサで話せなかったことを説明しておきたい。冴子、席を替わってくれ」

 公安部外事第四課長は、妻と席を交換して、 “ 1B ” に座った。そして、小声で説明を始める。

「では、胸のポケットの中の物を出して、見てくれるかな?」

 そこには、切符の他に、もう一枚のカードが有った。(からくり )警視正が、話を続ける。

「これは、 “ 全日本アクティブ旅行会 ” と言う “ 架空のNGO ” の写真付の身分証明書だ。

 名前の欄を見て欲しい。何と書いてある?」

 (かつ )(よし )は、それを見て、()(げん )な顔になる。

「“ (かわ )(ぐち) (りょう )() ” ?」

「……それが、(こん )作戦終了までの、君の名前だ。

 それと、写真は君の副官殿から提供を受けた……」

 少年は、大体の察しをつけた。

「……これって、『素性を隠す』ってこと? ……マリーも『了解済み』なんだ」

「……流石(さすが )だな。察しが良い。その、とおりだ」

 (からくり )警視正は、自分の背広の内ポケットから出したカードを(かつ )(よし )に見せながら、話しを続けた。

「私も、同じ物を持っている。 “ タケワキ シュウヘイ ” 君の分も、ここに在る。

 この旅が終わるまで……。君は私の “ (おい )っ子 ” で、 “ シュウヘイ ” 君は “ 君の弟 ” と言う設定だ」

 (かつ )(よし )は、 “ シュウヘイ ” のカードをマジマジと見ながら、言った。

「……名前が、 “ (かわ )(ぐち) (しゅう )() ” なのは、解るけど……。この写真、(ぼく )のじゃないの?」

 警視庁公安部外事第四課長は、ことも無げに答える。

「副官殿の話によると、見分けられない(ほど )そっくりで、『写真を流用しても、何ら問題ない』そうだ」

「へー……」

「あと、彼の名前の漢字を君の手に、なぞる。覚えておいてくれ」

「うん」

 (かつ )(よし )は、 “ 竹 ” “ 脇 ” “ 修 ” “ 平 ” の字を、一字づつ、落ち着いて覚えた。

 “ 保護者役 ” が少し間を置いてから、一本のペンを取り出して、次の話を始める。

「このペンは、位置情報と君の周りの音声を、此方(こちら )へ送信する。ペンだけでなく、親機にも録音機能が在る。音声記録は、 “ 証拠品 ” としても使える……。持っていてくれ」

「うん」

 少年は、受け取ったペンを、腰のウエストポーチの横に()した。保護者役が話を続ける。

「これで君に何かあれば、君の副官殿から(もら )ったヘッドセットと “ これ ” 、二つのチャンネルから状況を把握出来る。但し、こちらもタイミングを見て飛び出すから、遅れたように見えても怒らないでくれよ……」

「うん」

 そして(かつ )(よし )は、そのまま “ 1A ” のシートに深く体を預ける。

「いよいよ、なんだね……」

「ああ……。注意して行こう……。心配しなくても、君なら出来る……」

「……はい……」

 天気が、少しづつ回復してきている……。

 ……列車は、谷間の地形を抜けて、開けた水田地帯へと入っていた。 “ (とう )() ” 駅を通過した所で、ウエストポーチの中から、呼び出し音が聞こえて来る。

[この呼び出し音は、お父さんからだ……]

 (かつ )(よし )は、(からくり )夫妻に声を掛けた。

「お父さんから、電話が掛かって来たから、デッキに居ます」

「分かった。後、二十分程で、旭川駅に着く。注意して行こう」

「はい」

 4号車側のデッキに出ると、背広を着た男が二人立って、何やら話し込んでいる。

 少年は、自分を見た男達の動揺を気に留めることなく、父親からの電話に出た。

「はい……。お父さん、どうしたの?」

『オー、(かつ )(よし )か? テレメトリーの映像では、順調そうだな……。

 ……実は、ちょっと御願いが有るんだ』

 息子に、少し嫌な予感が走る。

「……『御願い』って?」

『“ EAUS(エーウス )Type(タイプ )-STWM(ストウム) ” を、追加で3ユニット……。貸してくれ!』

「えっ?! ……」

 精霊の(あるじ )の頭の中は、一瞬で真っ白になった。 “ 霊体用、時空壁形成素材形式型の実体化活動ユニット ” を追加で3ユニットとは、穏やかな用件ではない……。

「……何かあったの?」

『いやぁなぁ……。ちょっと、林道の中の名所に行こうと思ったら……。『エゾヒグマの活動が活発で、サタンが利用するかもしれないので危険です。どうしてもと言うのなら、マイスターから “ EAUS(エーウス )Type(タイプ )-STWM(ストウム) ” を3ユニット借り出して下さい。格闘用に使います!』って、ラピスラズリから言われちゃってな……』

 流石(さすが )(かつ )(よし )も、頭を抱える。

「……もう、アメジストとラピスラズリが、1ユニットづつ使っているんだよね……。

 ……どんな秘境に行くの?」

『そんなに大それた場所じゃない。国道から林道を5kmも行った所だ』

「……どうしても行きたいの?」

『そりゃあ、連れて行きたいさ……。

 『観光バスが絶対に入れない』と言うか、観光客が寄り付かない場所も、見せたいからなぁ……。

 ちゃんと、 “ (えい )(りん )(しょ) ” の “ (にゅう )(りん )(きょ )()(しょう) ” も取ったし……。

 アーサーさん達も、期待しているんだわ……』

「……サリーも居るんだ……」

『……そりゃあ、そうさ。(みんな )、居るよ』

 少年は、少し考えてから、渋々返答した。

(りょう )(かい )! 分かりました! “ Type(タイプ )-STWM(ストウム) ” 3ユニット、使って良いよ! 

 ……ったく、もう……」

 電話先では、父親の政志が勝ち誇っている……。

『……おーい、ラピスラズリ。許可、取ったぞ! 

 ユミル。早速、君から使え!』

 ラピスラズリの副官の声が、電話越しに、聞こえて来た。

『……はいはい。私の負けです! 務めさせて頂きます! もー……』

 もちろん、大精霊二身の声も……。

『……この際だから、また現地で御茶会しましょうよ。もちろん、環境には一切負荷を掛けないように……。……また、こちらから “ SeNeHos(セネホス) ” を使って持ち込んで……』

『……こら、アメジスト! あんたは、本当に調子に乗るから……』

 改めて、精霊の(あるじ )は頭を抱えた……。

「……お父さん。……ラピスラズリに代わってくれる?」

『ああ……。

 ……ラピスラズリ。電話、替わってくれってさ』

 精霊の(あるじ )の家族と親族の警護を(かつ )(よし )本人から直接命じられている大精霊は、速やかに電話に出た。その声は笑っている。

『はい、マイスター。ラピスラズリです』

「ごめん、ラピスラズリ……。迷惑を掛ける……」

 電話先の精霊は、最強の名とは程遠い、優しい声で答えた。

『マイスターが、謝らなくても大丈夫です。どうにか、しますから……。

 御心配無く、作戦行動に御戻り下さい……』

「ラピスラズリ……」

『ん!!』

 突然、最強の精霊の声は、何時(いつ )もの鋭い声に戻った。

『マイスター、では、これで! 天運が共に在りますように!』

 ラピスラズリが突然、電話を切った! 

[いきなり切るなんて……。向こうに危険な気配は、感じなかったけど……]

 (かつ )(よし )は、()(げん )な思いで、顔を上げる。そして、目の前の二人に、(せん )(りつ )した……。



「…… “ (たけ )(わき) ” 君。こんな所で会うとは、奇遇だねえ」

「ほーんと、運が無いなぁ。(ぼく )達、 “ 南旭川児童相談所 ” の要員に見つかっちゃうなんてねぇ」

 若い二人の男は、にやにやして(かつ )(よし )を見ている。

[笑っているのに、(もの )(すご )()(あつ )(かん )……。……まさか!

 マリー! “ 対人・対物アラーム ” 起動!]

 精霊の(あるじ )()(ねん )に呼応して、目の前に赤い文字の “ 表示画面 ” が “ ポップアップ(Pop-up:飛び出る形式) ” で表示される。結果は、予想通りのものだった……。


     種別:危険

     名前:鈴木 一郎

     年齢:20歳


     種別:危険

     名前:佐藤 次郎

     年齢:21歳


[概要を見せて……]

 マリーは、(かつ )(よし )の望みに答えて、表示をスクロールさせて、読み上げる。


     概要: 指定暴力団、破綻会、破滅組、構成員です。

         現在、南旭川児童相談所の協力者として登録されています。

         竹脇修平の探索が任務で、マイスターを竹脇修平と思っています。


 ……かなり状況が不利なのは、子供でも分かる。

「……(ぼく )は、 “ (かわ )(ぐち )(りょう )() ” と言います。竹脇と言う名前じゃありません」

 (こう )(べん )する(かつ )(よし )の前に、鈴木の体が壁のように圧力を掛けて来る。

「ほー……。

 じゃあ、それを証明するものでも出して見なよ! 出せればの話だけどな!」

 (すご )んでくる相手に、少年は上着の右ポケットからカードを取り出したが……。

[しまった! 切符まで……]

 ……後悔しても遅かった。

 鈴木が、それ()を取り上げる。渡された切符を見た佐藤が、馬鹿にした声で言った。

「……岩見沢だぁ? 逃げるの逆じゃねえの?……」

 次の瞬間、再び “ ポップアップ表示 ” が赤く光りながら立ち上がり、地図がスクロールされる! 


     立ち入り禁止 追加:北海道 岩見沢市 全域


[……(ちく )(しょう )……。……道を塞がれた……]

 佐藤は、悔しがる(かつ )(よし )を面白がりながら、侮辱し続けた。

「……お前、戻ってくるなんて、馬鹿じゃないのぉ? ……」

 鈴木も馬鹿笑いに加わる。少年は、唇を噛んで、一言も喋られなくなっていた……。

 ……そこへ、(もの )(すご )い音圧が横から飛んで来た! 

「私の(おい )に何の用か?!!」

 男二人は、客室の方を見て、一瞬たじろいだ。そこに立って居る大男から感じられる威圧感は尋常じゃない! 

「再び聞く! 私の(おい )に何の用か?!!」

 それでも鈴木が、大男に対して(すご )む。

「小父さんよぉ。何の権限が有って……」

 大男が、無言で鈴木の目の前に、二つ折りの “ 物 ” を広げて見せる! そこに付いている “ ()(しょう) ” と “ 身分証 ” は、状況を一気に変えて余り有るものだった……。

「……警視庁、公安部、外事第四課長を拝命している(からくり) (けい )(いち )、警視正だ!」

 その後ろの女性も、二つ折りの “ 警察手帳 ” を見せて名乗る。

「同じく。警視庁、生活安全部、生活安全総務課、子ども・女性安全対策室室長を拝命している(からくり) (さえ )()、警視です。甥に対する、この振る舞いについて、納得行く説明を求めます!」

[な、何で東京の……。……警視庁の人間が、ここに……]

 大男は、相手に考える間を与えず、(きつ )(もん )する。

「君達の(かん )、姓名を名乗りたまえ!!」

 相手は、しどろもどろになりながら、ようやく答えた……。

「私は、南旭川児童相談所の鈴木です。こっちは、同僚の佐藤です。

 全所を上げて、ここに居る “ 竹脇 修平 ” 君を探していました……」

 女性が、鋭く口を開く。

「その子は、(わたし )(たち )(おい )の “ 川口亮太 ” です! 

 鈴木さん! 貴方(あなた )が持っている、それを見てみなさい! 何て書いてありますか!」

「何てって……」

 そのカードの表と裏の記述に、ヤクザ者の口の動きが止まる……。

(おい )に、その身分証を返したまえ!」

「……し、失礼しました。お返しします」

 (かつ )(よし )から取り上げられた証明書が、持ち主の元へ返り……。

「次は、君の持っている切符もだ!」

「は、はあ……」

 佐藤の持っている切符も返却された……。

 ……鈴木が(あわ )てて電話を始めた(ところ )で、列車が旭川駅に到着した。

「……すいません。このドジは後で必ず……」

 鈴木は、ホームへと下りて行く。列車の窓越しに見ると、相手に怒鳴られているらしい。何回もぺこぺこと頭を下げる(さま )は、とても(こっ )(けい )だ。

 そのままオホーツク2号は、一名のヤクザ者を置き去りにして発車した……。

 (からくり )警視は、残った男に対して、(おもむろ )に口を開く。

「……さて、佐藤さん。これだけの(ろう )(ぜき )を働いたからには……。子ども・女性安全対策室室長の(わたくし )に対して、当然、経緯の説明が有るものと思いますが?」

「……はい……」

 佐藤の心の牙は、完全に折られているようだ。(からくり )警視は、夫に指示を出す。

「あなた……。亮太を連れて席に戻っていて。私は、この男から話を聞くから……」

「……分かった。亮太、席に戻ろう。

 それとも、叔母さんの(つの )を見る勇気が有るか?」

 (かつ )(よし )は、首を振って、卿一の後に従った……。



 ……(からくり )警視正は、(かつ )(よし )を “ 1A ” に座らせると、自分のカバンから “ リボ○・オレンジ ” を取り出す。

「緊張した後は、少し甘い物を飲むと良い。作戦修正は、その後だ。

 ただなぁ……。 “ (かい )(さい )条件 ” に抵触するから、君の小銭入れから¥130‐抜いておく必要が有るんだが……」

「うん……。……マリー、御願い……」

 保護者役の左の(てのひら )に、硬貨が四枚ばかり落ちて来る。少年は、受け取ったカンのプルタブを押し込んで中身を一気に飲み干した。

「……それにしても、ジュース一本も(おご )れないとは……。こっちも、辛いよ……」

 (かつ )(よし )は、(からくり )警視正の独白に、作り笑いで答える……。

[……あれ?]

 気が付くと、卿一が(かつ )(よし )の顔を覗き込んでいた。

「……それにしても、副官殿の話では……。君は、理不尽な目に遭うと良く怒るそうじゃないか……。私は、てっきり文句を言われるものと思っていたんだが……」

 少年は笑って答える。

「だって、バレバレだもん」

「バレバレ? 何が?」

一寸(ちょっと )前にマリーと、ヒソヒソ話してたでしょ……」

[うっ……。何だ、ばれていたのか……]

 大人の様子に、小学三年生は手を(たた )いて喜ぶ。

「……小父さん。今、こめかみ動いた! 当たってたんだ!」

 (からくり )警視正は、苦笑いを禁じ得なかった。

「……相手の心にズカズカと入って行くような言動は、時と場合もあるが、(あんま )り良い行いじゃないぞ! 必要以上に、敵を増やしちまう……」

「こめんなさい」

 少年が舌を出す。

「……まあ確かに、君の副官殿と話したのは事実だが……。それとこれが、どう結び付くんだ?」

「マリーと細かい打ち合わせが出来ていて……。小父さんが、『遅れたように見えても怒らないで』って言ってたんなら……。岩見沢まで行けなくしたのは、 “ わざと ” じゃないの?! 

 ……ひょっとして、修平君のことが係わってるとか?」

 (かつ )(よし )の質問に(からくり )警視正は(うなず )いた素振りを見せると、 “ 1B ” の席にドカッと体を沈めた。

「……大した洞察力だよ! 恐れ入るね……。

 ただ、これは対サタン対策で、yesともnoとも言えない。済まないが、自分で考えてくれ……」

 少年が笑って答える。

「うん!

 じゃあ、そうしたら、検索、検索と……。小父さん、上から(ぼく )のリュックを下ろしてくれる?」

「ああ、分かった」

 (かつ )(よし )が、荷物棚から降ろしてもらったリュックサックの中から、時刻表とタブレットを取り出す。……いきなりタブレットの電源が入り、 “ G○ogle Map ” が立ち上がった。

[あれ……。何で勝手に電源が……。……なーんだ、電源スイッチに指が引っ掛かったのか……

 まあ良いや……。それなら、時刻表より地図を先に見よう……]

 少年は、地図の右下の現在位置を表示させる “ アイコン ” を “ タップ ” すると、表示を適当に拡大・縮小させたり札幌よりへ “ スクロール ” させたりする……。

「このまま進むと、 “ (ふか )(がわ) ” で “ ()(もい )本線 ” が分かれて……。 “ (たき )(かわ) ” で、 “ ()(むろ )本線 ” が合流するんだ……。

 ……え!」

 (かつ )(よし )の声に、卿一が反応した。タブレットの画面を覗き込むと、隣の少年に声を掛ける。

「どうした?」

「小父さん、これ……。

 滝川から川を挟んで反対側の、ここって駅だよね……。歩けるんじゃ……」

「ああ、確かに近い所に在るから、無理すれば歩けなくはない……。その筋では、有名な話だが……」

「……ひょっとして……」

 そのまま画面を “ ピンチ・イン ” させると、線路は札幌までつながっている!

「やった、ラッキー! こっちでも札幌まで行ける!

 小父さん、滝川で乗り換えるよ!」

「そう来ると思った……。了解した」

 保護者役が快諾する……。



 ……列車が深川駅を発車すると、(からくり )警視が戻って来た。

「……佐藤は、深川で降りたわ。

 あなた、席を替わってくれる? 亮太に報告することが有るから……」

「ああ、分かった。亮太、まだ掛かりそうか?」

「……滝川で降りるのは決まっているから、何時(いつ )でも良いよ」

「じゃあ、叔母さんと変わろう……」

 卿一が席を譲り、冴子が “ 1B ” に座った。(かつ )(よし )は、時刻表に付箋紙を張り、タブレットを “ スリープ ” させる。それを待たずに、叔母役が話しを始めた。

「……一寸(ちょっと )(やっ )(かい )なことに成っているみたいなのよ……」

 少年が、(からくり )警視に聞き返す。

「厄介なことって、何?」

「まずは、あなたの顔の(あざ )……。修平君も虐待されて、そっくりの(あざ )が有るのよ。

 これは佐藤から仕入れた最新の画像よ。ほら、ここに……」

 冴子が指差す先には、離れた所から撮られたであろう修平の顔が写っている。若干ピンボケで(あざ )の形がハッキリしない分、(かつ )(よし )のものとの判別が難しい……。

「これじゃあ、(ぼく )だと言っても……」

「……分からないでしょうね」

「成る程……。厄介だな……。先刻(さっき )の二人が間違えるのも……」

「無理からぬ話ね……」

 冴子は、一呼吸置くと、話を続ける……。

「更に問題は、この “ リュック ” よ……。修平君も全く同じ物を持っているの。

 ただし、彼のリュックの中には “ 特別なノートパソコン ” が入っているみたい……。佐藤が “ Le○○s no○e ” と口を滑らせたから、まず間違いないと思う」

「ノートパソコンとは……。(いま )(どき )、ビジネス目的でしか使わないだろう?」

「そうね。でも佐藤は、それと無く気にしていた……。

 これは勘なんだけど……。修平君を追っているのは、虐待の発覚が問題では無くて、そのノートパソコンが問題なんじゃない?」

「確かにな。先刻(さっき )の副官殿の話と合わせ考えると……」

 大人二人は、沈痛な表情となった。そんな二人の心に、少年の声が届く! 

「だったら、助ける!

 多分、マリーのことだから……。会う場所は、進路の上の “ あそこ ” なんじゃないの!」

(かつ )(よし )君。『あそこ』って、どこのこと?」

「今、タブレットの電源入れるから待って……」

 少年は、流れるようなタッチで “ G○ogle Map ” を操り、該当の場所を画面に大写しにする。

「えーと……。ここ!」

 (かつ )(よし )の指先は、石狩川の西側の線路の終点を指していた。

「しん、じゅう……。……小父さん、この漢字は何て読めば良いの?」

「“ 新 ” は “ しん ” で良いが……。 “ (じゅう) ” は “ と ” 。三番目は “ つ ” 。最後は “ かわ ” だよ」

「じゃあ、 “ (しん )()()(かわ) ” って言うんだ」

「そうだ。『滝川から歩いて行ける秘境駅』として有名だが、大人の足でも一時間は掛かるぞ」

「……じゃあ、タクシーだね」

「それが妥当だろうな……」

 その時、アナウンスが流れて来た。

『……御乗車の皆様に御案内申し上げます。後、五分程で滝川に到着します。乗り換えの御案内を申し上げます。富良野方面……』

「もう滝川だ! 小父さん、小母さん、降りるよ」

 二人は(うなず )いた……。



 ……滝川には、定刻の十時四十七分に到着した。三人は、()(せん )(きょう )を渡り、駅舎へと向かう。駅構内は、閑散としていて、数分経つと誰も居なくなった。

「この後の行動計画の検討は、待合室でやると良いと思うが……。

 (かつ )(よし )君……。じゃなかった! 亮太、それで良いかな?」

「うん」

 一行が、改札を出た所で……。筆頭精霊長マリーが、ヘッドセットを通して呼び掛けて来た。

『マイスター、(からくり )様、聞こえますか? 聞こえたら、左の待合室へ入って下さい』

 三人は、無人の待合室に入り、ベンチに腰を落ち着けると、呼び掛けに答える。

「聞こえるよ」

「副官殿、こちらも良く聞こえている」

「どうしましたか?」

 (からくり )警視の呼び掛けに応じるマリーの声は、明るかった。

『マイスターが進路を決定されたので、 “ (たけ )(わき) (しゅう )(へい) ” さんの件についての御願いをすることが出来る環境と成りました……』

「やっぱり、新十津川駅で会うの?」

『はい、マイスター。新十津川着、十二時三十七分の気動車(ディーゼルカー )に乗っておられます。協力者により、新十津川までの安全は、ほぼ確保されています。ですが、恐らく車外に出た途端に、追跡者に補足され、()(ばく )されてしまいます……』

(ずい )(ぶん )と相手は、大掛かりに動いているのだな……」

『はい、(からくり )警視正。東日本のヤクザの内の50(パーセント)と、その関係者が相手です。この “ 画像(Jpeg) ” 資料が有れば、現在動いている麻薬密輸ルートの東日本側90(パーセント)は壊滅しますので……』

 卿一が、思わず口笛を吹く。

「……それは、これからを生きる全ての子供達にとって、最良の贈り物となりますね。

 やはり、彼の持っているノートパソコンの中に?」

『その通りです、(からくり )警視。 “ (ハード )(ディスク )(ドライブ) ” の中に在ります。ただし、暗号化されていますから、そのパソコンでしか開けられなくなっています。

 “ Le○○s no○e ” は頑丈ですし、タブレットにもなるタイプの物ですから(かさ )()りません。途中で解読するよりも、警視庁までパソコンごと運ぶことを御勧めします』

「……『ここで下手に触るよりも、体制が整っている場所の方が良い』って訳ね。了解したわ」

『それと、竹脇修平さんですが……。マイスター・ファーターの発案で、津別町の御店に来て頂き……。(みな )(さま )と面会されています。

 ……その成り行きで、マイスター・ムーターの許可の(もと )に、服をマイスターの物に着替えています……』

「え……」

 (かつ )(よし )が、一瞬、顔を(しか )めた。

『済みません。ムーターの発案で、『服を着替えた方が良い』と言うことに成って……』

「……別に良いけど……。何を着ているの?」

『“ 黒のボタンダウンのシャツ ” と “ 黒のジーンズ ” です……』

「黒のジーンズか……。地味なようで、少し目立つかもな……。ならば、子供の “ 擬装用の着替え ” が欲しいところだが……」

 (からくり )警視正の(つぶや )きに、マリーが即答する。

『それならば、国道38号線沿いに “ 大型のスーパー ” が在ります。必要な物は、そこで(そろ )います』

「……じゃあ(かつ )(よし )君。何という名前の店か、調べてくれるかい?」

「うん、良いよ……」

 精霊の(あるじ )が、タブレットをタップし始めた……。

『……ただ、回り道でも……。マイスターが一緒なら……』

 言いにくそうな筆頭精霊長に、叔母役が返答した。

「分かっています。費用は、 “ (かつ )(よし )君持ち ” なんでしょう?」

『……その通りです……』

 ……(かつ )(よし )()(げん )な顔をする。

「“ 検索 ” で、出てこないよ……。 “ Map ” で見てみる……」

 精霊の(あるじ )は、アプリを切り替えて、国道38号線沿いに地図をスクロールさせて行く……。

「あっ! 見つかったよ! “ ダイエー ” だ! 滝川店だって……。

 隣に “ ケ○ズ○ンキ ” もある」

 (からくり )警視正が(かつ )(よし )に提案した。

「では、今後の為に、寄り道したいんだが……。良いかな?」

「うん、良いよ。行こう! 考える時間が(もっ )(たい )ないから、バスじゃなくてタクシーで!」

 三人は、(うなず )き合うと、直ぐに行動を起こす。タクシー乗り場は、駅の目の前にあった。

 タクシーの後ろの扉が開くと、(かつ )(よし )と冴子と何かが入って……。妻の一括が、亭主へと飛ぶ!

「このタクシーは小型のタクシーよねぇ……。あなたは、大きいから前!」

「とほほ……」

 卿一は、前の席で小さくなった……。

「あのー。どちらまで……」

 運転手の問いに、(かつ )(よし )が答える。

「ダイエーの滝川店まで、お願いします」

「……ダイエー滝川店ですね……」

 車は、十分も掛からずに店の入り口前へ到着した。

「¥1,030‐になります……」

 運転手の言葉を待たずに左側の座席の空中から現金が現れ、支払いが滞りなく終了する。後席真ん中の冴子が、運転手に質問した。

「……ここには “ タクシー寄せ ” が在りますか?」

「いやぁ……。ここは、大きいと言ってもスーパーだからね……。そんなモノは無いよ。

 もしタクシーが必要なら、私の後ろの座席のポケットにチラシが有りますから……」

「これですね……。 “ (げい )(しゃ )料金 ” は、いくらですか?」

「えっ? そんなものは掛かりませんよ……。

 ……どちらから御越しですか?」

「東京です」

「やっぱり、あっちは掛かるんですか……」

「¥300‐位ですね……」

 (かつ )(よし )が、運転手と(しゃべ )り続けそうな冴子を突っ突く。

「叔母さん、早くしよう……」

 (からくり )警視は、心の中で苦笑いする。

[情報収集も、大事なんだけどな……。まぁ、今は良いか……]

 叔母さんが甥っ子に微笑んだ。

「あっ、亮太、ごめん。……トイレだったわね」

「ああ、そうだったんだ。御免ね、ボク。

 ……トイレは、入口から見て、左の奥の方に在るよ」

「小父さん、ありがとう」

 四人は、そそくさとタクシーを降りて、店の中へ入って行く。早速、冴子は(かつ )(よし )に謝っておいた。

「ごめんね。話し出すと、止まらまくなるタイプの人だったみたい……」

「ううん、もう良いよ……。時間、大してロスしてないし……」

[……やっぱり、一言多いかなぁ……。思ったことをポロっと言っちゃうのは、ASDの影響ね……。敵を作りやすいぞー、(かつ )(よし )君!

 おっと。今は、そんなことを考えている場合じゃない……]

 叔母役は、夫と少年に提案する。

「私が子供服を買うから、あなたは亮太と一緒に食べ物を……。 “ サンドウィッチ ” や “ おにぎり ” とかで良いと思うけど……。適当に()(つくろ )って買って来て」

 少年が異議を挟む。

(ぼく )も服とか、あった方が良いと思うから、買いたいんだけど」

「……私が、まとめて買っておくわ。貴方(あなた )が使う分は、使う(たび )に実費精算するから大丈夫。

 集合は、左のフードコートに、三十分後位で良いんじゃないかな?」

「……じゃあ、そうしようか……。亮太、行こう」

「……うん……」

 三人は、二手に分かれると、それぞれに買い物を進めて行く……。

 ……冴子が三十五分後にフードコートへ戻って来た時には、両手に持ちきれない程の荷物を()げていた。タブレットで検索を進めていた(かつ )(よし )が、(あき )れて言う。

「……そんなに、荷物いるの?」

「大型ザックも二つ買ったから大丈夫よ。それに、このリュックサック用レインカバーは、カモフラージュにも使えるわ」

「……六つも買ったんだ……」

「買ったのは、(かつ )(よし )君と修平君が持っているサイズを四つだけ。あとの二つは、私達用のリュックにオマケで付いて来た物よ。

 それと、下着二組分に、上着とズボンと子供用ウインドブレーカーが三組ね……。

 ……こっちは、私達の着替えよ」

「ふぅーん……。小父さんと小母さんも着替えるんだ……」

「必要が有ればね……」

 そこへ卿一が、(かつ )(よし )に話し掛けて来た。

「……亮太。念の為に “ 対人・対物アラーム ” で、周りをスキャンして見てくれるかい」

「うん……」

 精霊の(あるじ )は、要請を過不足なく実行し、結果を報告する。

「特に……。危険な物や人は、いないよ」

「じゃあ、ここで(こん )(ぽう )作業しても、取り()えずは良いな……。

 今は、これ()を使わなくて良いから……。さっさと荷物をまとめて、ここを離れるとしよう……。

 ……亮太、トイレは良いのか?」

「今は、いいよ。新十津川駅の隣に大きな病院が在るから、そこで行く」

「……そうか、分かった。

 冴子。タクシー、呼んでくれるか?」

「ええ……」

 三人は、てきぱきと用意すると、入った入口から建物を出る。タクシーは直ぐに来た。

「……どちらまで行きます?」

 (かつ )(よし )が、タブレットを見ながら答える。

「新十津川駅の隣の “ 空○中央病院 ” まで、御願いします」

「……はい……」

 タクシーは、国道38号線を西に走り、ガソリンスタンドの在る交差点を左に曲がる。そのまま国道451号線を真っ直ぐに行くと高架路に入り、右にカーブすると石狩川をわたる長い橋へと走って行く……。

 今度の運転手は、本当に()(もく )だった。そんな時に限って、(かつ )(よし )の脳裏には、色々な失敗のイメージが湧いては消えて行った。

[普通に、していれば大丈夫。大丈夫……]

 精霊の(あるじ )は、自分に言い聞かせ続ける……。

 車は長い橋を渡り、しばらく走ると右に曲がり、今度は左に曲がった。左側に大きな病院が建っている。タクシー運転手は、病院の車寄せに留めると言った。

「着きました。料金は、¥1,750‐です……」



 ……タクシーから全員が降りると、車は右先の道へと速やかに消えて行った。叔父(おじ )役が(おい )役に声を掛ける。

「……()()で成すった。説明責任でも果たすとしようか……」

 何人もの男が、足早に寄って来る! 卿一と冴子は、(かつ )(よし )を挟むように立ち塞がり、相手を威圧した。

「……何の用ですか?」

 先頭にいた少し品の良い男が、卿一の前に立ち、話し始める。

「そちらの少年は、貴方(あなた )の関係者ですか?」

「いかにも! 甥の川口亮太です。

 ……こういうことは、オホーツク2号の車内でも有りましたが、まだ解決していないのですか?」

 少々たじろいだ男は、直ぐに言動を立て直す。

「随分、御存じのようですね。どちら様で?」

「申し遅れました。私は、警視庁、公安部、外事第四課長を拝命している(からくり) (けい )(いち )、警視正です。後ろに居ますは……」

「……警視庁、生活安全部、生活安全総務課、子ども・女性安全対策室長を拝命しております(からくり) (さえ )()、警視です。

 これは、甥の(かわ )(ぐち) (りょう )()です」

 二人が二つ折りの警察手帳を開いて提示すると、相手の威圧感が消えた。

貴方(あなた )方が、そうでしたか。失礼しました。

 私は、北海道警察本部、刑事部、捜査五課の、 “ (わた )() (まさ )(ひろ) ” と申します。階級は “ 警部補 ” です。

 皆さんのことは、南旭川児童相談所の鈴木さんと佐藤さんから聞いています」

 道警の警部補が手の平を男達の方へ向けると、彼()の動きが停まった。しかし、警部補の隣に居る相撲取りのような男が反論する。

「でも渡部さん。こいつ “ 大竹 ” の(とこ )のガキですよ。俺は、何回か会ってます。

 ……そうだよなあ。 “ 竹脇 修平 ” ェ!」

「……誰が “ 竹脇 ” なの?」

 少年の声を聴いた男は、青い顔になった。

「……声が……。……本物は、もっと(だみ )(ごえ )だ……。

 済まねえな……。どうやら人違いだ……」

 (からくり )警視が、男を威圧する。

「佐藤さん達から聞いていなかったようですが……。警察官としては、人権意識が希薄ではないですか?」

 渡部警部補が、(あわ )てて話しに入って来た。

「その人は、 “ 檀家さん ” なんですよ……。今回は、時間との勝負になっているようなので、多くの人に協力してもらっています」

 (からくり )警視正が、その発言に応じる。

「『時間との勝負』とは、どういうことでしょうか?」

「……ここでは、なんですから……。病院のロビーで話しましょうか……」

「病院のロビーに、こんな大人数で入っては迷惑でしょう……

 向こうに見える新十津川駅の駅舎なら、良いのでは?」

 北海道警の警部補が、頭を()いた。

「警視庁の警視正に御配慮頂き、恐縮です。では、そちらへ参りましょう……」

 全員が移動しようとしたところで、少年が声を上げる。

(ぼく )、トイレに行きたいんだけど……。向こうにも、あるの?」

 “ 地元の人間 ” と(おぼ )しき男が、苦笑いで答える。

「ああ、そう言えば、そうだ。駅舎の中にトイレは無いや……」

「じゃあ……。私達は、トイレを済ましておきましょう」

 (からくり )警視の提案に、二人は(うなず )いた。

「では渡部警部補、大きな荷物を御願いしても良いでしょうか?」

「ええ、どうぞ……。

 君、 “ 病院(ここ) ” を詳しそうだから……。警視正と御連れの方を、トイレまで案内して差し上げてくれ」

「分かりました。

 ……どうぞ、こちらへ」

 病院のロビーを突っ切った先にトイレは在った。それぞれが個室へと入る。

 精霊の(あるじ) が使用した “ 対人・対物アラーム ” に()れば、十人以上居た男達は一人もタクシー寄せからトイレの方へ来ていない。案内した男も、ロビーへ戻っている……。

「……男達は居ないよ」

 左耳のヘッドセット越しに、大人二人の声が聞こえて来る。

『了解した。こちらは、通信規制を解除する。ただし、小さい声でな……』

『……(いま )(さら )それを言うのは野暮(やぼ )よ。(かつ )(よし )君は、当然、分かっているって……。ねぇ』

「うん……」

 (かつ )(よし )は、大人二人の気遣いと信頼を感じて、一寸(ちょっと )くすぐったい気持ちになる。そんな精霊の(あるじ )が便器に腰を下ろして口を開こうとすると、筆頭精霊長が先に報告を入れて来た。

『……皆様、御疲れ様です。

 竹脇修平さんの行動計画を修正します。新十津川駅まで来ると危険ですので、一つ手前の “ (しも )(とっ )() ” 駅の近くの(しげ )みに身を隠して(もら )うことにしました。ですので、来た気動車(ディーゼルカー )に、彼は乗っていません』

『了解した』

『了解です』

「それが、一番良いんでしょう? マリーの良いように……」

 三人は、それぞれ小声で答えた。筆頭精霊長が話を続ける。

『それと、気動車(ディーゼルカー )運転手の “ (さわ )() ” さんと言う方が、ここまでの協力者となっています。ですが恐らく、マイスターを見て、とても吃驚(びっくり )すると思われます。彼が馬脚を現さないように、ケアーが必要です』

『それは、私と(かつ )(よし )くんが担当しないと成らないな……。それで良いかい?』

「うん。良いよ」

 筆頭精霊長の話は続く。

『それと、駅舎に入る前にダイエーで買っておいた “ リボ○・シトロン ” をリュックサックのサイドポケットに入れて下さい。そして椅子に座ったら、すぐに一口飲んで下さい。

 ()()()()していると、彼()は『説明時間が長くなりますから、 “ 口汚し ” に、これでも……』と、飲み物を差し出して来ます。相手は『子供にジュースを(おご )った』との認識でも、こちらにとっては “ 作戦失敗 ” と成りますし……。上手く断らないと、印象を、とても悪くしてしまいますので……』

「分かった。注意するよ……。

 それと……。マリー、一つ教えて欲しい言葉が有るんだけど……」

『何でしょう?』

「札幌の北側にある……。この小さな空港は、何て読むの?」

『……一文字目は、 “ おか ” 。二文字目は、 “ だま ” と読みます』

「じゃあ、 “ (おか )(だま )空港 ” って読むんだね」

『はい」

 卿一が、精霊の(あるじ )(しもべ )の話に入って来る。

『副官殿も、教えられるようになったのかい?』

『ええ。こういう形ならば……。

 “ (じょう )(もん) ” でのサタン側の攻撃は、決して容認出来るものではありませんので! キッチリと “ (かい )(さい )条件 ” を取らせて(もら )いました!』

 精霊の(あるじ )には分かることも、大人二人にはピンと来ないが……。

『……まあ……。……そう言うこと、なんだろうな……。……一応、了解した』

 それまでの経験が正しい受け答えを導き出す、こともある……。

 ……その時、 “ 対人・対物アラーム ” が接近警報を出す! 相手は、あの相撲取りのような男だ。間髪入れずに、(かつ )(よし )が二人に警告した。

「男が、こっちに来る。これ以上、無理……」

『分かったわ』

『そろそろ出るとしよう……』

 数十秒後、男が声を掛けて来た。

「……亮太くん。まだ、掛かりそうかい?」

「うん。後、少し……」

「あと、三十分と少しで気動車(ディーゼルカー )が到着するから……。それまでには渡部さんの話を聞いておいて欲しいんだわ」

「はーい……」



 ……(かつ )(よし )達は、病院の入り口へと戻る。精霊の(あるじ )は、自分のリュックサックに手を掛けて、そのチャック周りに異常を感じた。

[やっぱり、勝手に中を(あさ )ったな……。……何も取られてはいない、ようだけど……。

 念の為に “ 対人・対物アラーム ” で “ スキャン ” と……。やっぱり在った……]

 “ IAUCE(イアウス )の一機能 ” は、それが “ 盗聴器 ” であると警告している。

[……こんな物、仕掛けても無駄なのに……]

 精霊の(あるじ )は、()(ねん )で筆頭精霊長に指示を出す。

[マリー! 『それぞれの荷物に、盗聴器が仕掛けられている』と二人に伝えて……]

 マリーは、ベッドセットから、(かつ )(よし )の指示に応じる。

『ダー。マイン・マイスター。

 それと、ジュースの件を御忘れ無く……』

[分かっているよ……。大丈夫]

 少年は、それと無く、リュックサックの中のビニール袋の中から、ペットボトルをサイドポケットへ移す。それに気が付く大人が一人でもいれば、この後の行動が難しくなるのだが……。それに気が付ける者は、この場に居なかった。

[“ 霊的無知無能(バカ) ” ばっかりめ……]

 …… “ アスタロト ” の積りに積もったイライラを、(かつ )(よし )も感じる。

[……そうだったね……。(ぼく )が本当に戦っている相手は……]

 精霊の(あるじ )は、シャツの第一ボタンを()(はず )して、気合を入れ直した。その時、渡部警部補が三人を(うなが )す。

「時間も迫ってきました。早く参りましょうか……」

 ……病院の入り口から駅舎までの道中は、さながら大名行列のように成ってしまった。

 (かつ )(よし )達と渡部警部補が駅舎のベンチに腰を下ろすと、男達が全員駅舎の中へ入って来た。結果的に、少年の前を人の壁が二重三重に取り囲む……。

 精霊の(あるじ )は、(しもべ )の願いのとおりに “ リボ○・シトロン ” のペットボトルを開けて一口飲んだ。直ぐに渡部警部補の部下と(おぼ )しき男が、大きなビニール袋を二つ()げて入って来て、全員に飲み物を渡して周る。

「坊や。この “ ハ○カップ・サイダー ” は北海道限定だ。飲んでみな」

 (かつ )(よし )は、差し出されたペットボトルを受け取りながら、済まなそうな顔をする……。刑事と思しき男が、その理由に気付くまでに、十分の一秒も掛からなかった。

「何だ、開けたばかりの物が有るのか……。先に言っておくんだったな……。じゃあ、これは後で飲んだら良い」

「……うん、ありがとう」

 (からくり )警視正は、甥役が形ばかりに飲み物を受け取ると、(おもむろ )に口を開く。

「さて、渡部警部補。先ほど言っていた『時間との勝負』とは?」

「はい。

 ……彼は、暗殺されるかもしれないのです。一刻も早く、保護しなければ成りません!」

 (からくり )警視が、顔を(しか )めて言う。

「……暗殺とは……。穏やかな話ではありませんね。何か、特別の事情でもあるのですか?」

 ここで捜査五課の警部補は、一拍の間を置くと話を続けた。

「……順を追って、御話します。

 彼……。竹脇修平は、横浜の都筑区の生まれで、四月二十七日に九歳に成ったばかりの子供です。

 両親は、子供のことよりも宗教に傾倒していたようですが、半年前に他界しています。その後、親族の中で唯一手を上げた “ (おお )(たけ) (よし )() ” 、 “ (まこと) ” 夫妻に引き取られました……」

「え? 苗字が違うに……」

 渡部警部補は、子供の小さな(つぶや )き声に、一瞬だが顔を(しか )めると話を続ける。

「……竹脇修平の母親の元の名が、 “ 大竹 (けい )() ” です。弟の(よし )()さん共々、成人に成ったとたん、一族から破門されました。更には “ (たけ )(わき) (よう )(へい) ” 氏との結婚後、その他の親族の総意の元に “ 札幌家庭裁判所 ” で “ 血縁離脱 ” の手続きをしています。その後、一族とは完全に没交渉のようです」

 警視庁生活安全部生活安全総務課子ども・女性安全対策室は、その仕事柄、家庭裁判所の要員との交渉も多い。冴子は、違和感を覚えた。

「宗教(がら )みとしても、随分過剰な反応ですね……」

「……彼()は、いわゆる “ (めかけ )(ばら) ” なのです。しかも、それぞれ母親が違います。

 このことに関して、一族の人間は、『一族の恥曝し』『(けが )れた血の子』『所詮は、金狙いで(はら )んだ女の子供』として、今も(かたく )なに口を閉ざしていまして……。その為に、竹脇夫婦のやっていた宗教はおろか、その為人(ひととなり )(よう )として知れません。その息子に至っては、現在の(ところ )では、ほとんど分からないのです。現在、神奈川県警に捜査協力を申請しています……。

 よって、北海道における頻繁な接触例が、六か月間生活を共にした大竹夫妻だけなのですが……。現在、二人共に行方不明です。

 そのような訳で、ここに居る人間の中で彼と一番接触した人間が……。近所に住む、この “ (みや )(ざき) (たか )(ひろ) ” さんと言うことに成ります……」

 ここで、相撲取りのような男が、話を引き継ぐ。

「彼の近況については、私から説明します……。

 御紹介に与りました、宮崎 隆弘と申します。以後、御見知り置きを願います……。

 大竹とは、小学校時代からの友人です。家が近所だったこともあって、(よし )()(やつ )とは良く行き来していました。そこへ、確か六か月前だったと思いますが、彼奴(あいつ )……。いいや、竹脇 修平が、やって来ました……」

「言い(にく )いなら、 “ 彼奴(あいつ) ” で構いません……」

 宮崎は、(からくり )警視正に一礼する。

「……御気遣い、有難う御座います。では、続けさせて頂きます。

 私が最初に会ったのは、彼奴(あいつ )が、こっちに来て三日目のことです。(よし )()が『元々子供が好きではない』のを知っていましたので、興味本位で尋ねたのです。彼奴(あいつ )は、他の三人と一緒に子供部屋の隅で、身を寄せ合って震えていました……。その時に、一瞬ゾっとしたのを覚えています」

「……『ゾっとした』とは?」

 (からくり )警視正の質問に、宮崎は(わず )かな間を置いて答えた。

「こちらを(にら )み付ける目です! 彼奴(あいつ )は、三人の真ん中に陣取って、こっちを睨んで居ました! 私は、思わず一歩後ろに下がりました……」

 ここで警視庁公安部の警視正には、気付くことが有った……。

[このタイミングで、一時的にでも、はっきりと視線を警部補に移して、アイコンタクトを取るとは……。 “ 化かし合い ” に関しては、渡部警部補も含めて、ど素人か……]

 相撲取りのような男は、目の前の警視正に見切られたのも気付かず、話を続ける。

「私は、持って行った “ ポテチ ” を四つ差し出したのですが……。半分以上は、彼奴(あいつ )が一人で食っちまって……。残りを三兄弟で分けていました。『此奴(こいつ )、底意地悪いぞ……』って思いましたね……」

 (かつ )(よし )は、宮崎の発言に、反論したくて(たま )らなかった。

[鋭い目なんて……。そんなのは(いじ )められている人には、普通の反応だ! 

 それに、食べ物が足らなかったら、もっと買って来れば良いじゃないか! 

 こいつ、 “ 虐待された(やっつけられた)(ひと) ” の心を、何も解ってない!]

 その時、少年は左右から、そっと両手を握られる……。

[小父さん……。小母さん……。

 そうだね。今は我慢しないと……]

 少年が握られた手に少し力を込める……。

 なおも修平を(おとし )める発言を続ける宮崎に、(からくり )警視正が口を開いた。

「『彼の底意地が悪い』ことは、良く分かりました。それは、児童相談所のケアーに任せましょう。

 今は、原因と対策です。『何故、彼が追われることと成ったのか』と『彼の今日の足取り』を教えて頂けますか?」

 渡部警部補が(あご )を動かすと、宮崎が後ろへ下がる。(からくり )警視正の発言には、警部補が(みずか )ら答えた。

「……失礼しました。ここからは、私が御答えします。

 原因は、彼が持つリュックサックの中に在ります。リュックは、この子の持つ物と型番だけでは無く、色も同じ物です。ただ、こんなに新品ではありませんが……」

「中には、何が?」

「4(ギガ )(バイト )のメモリーです。その中に入っている画像ファイルには、私達が内偵を進めていた麻薬取引に関するデータが記録されています。今日、こちらに提出して(もら )うために、大竹 (よし )()さんとは “ 砂川 ” で落ち合う予定だったのです。ところが、朝早く電話が有りました。『リュックごと子供達が持って行った。追い駆ける!』との話で、『札幌へ言ったかもしれない』とも言っていました。それを最後に、大竹夫妻とは連絡が付きません」

「それで、竹脇 修平は札幌へ現れたのですか?」

「はい。……協力者がいたようです。

 結果的には、 “ 札幌児童福祉事務所、西地区センター ” へ保護されました。大竹の三人の子供は、今もセンターに “ 育児放棄(ネグレクト) ” の疑いで保護されています。ところが、竹脇 修平だけがリュックを持って姿を消してしまったのです。そのまま、そこに留まって居れば良かったのですが……」

「その後の足取りは?」

「“ 西28丁目駅 ” から “ 地下鉄東西線 ” へ乗ったことまでは確実に分かっています。ですが、そこからの足取りがハッキリとしません。

 そこで、警察本部で()(すき )の者全員と、その “ 檀家さん ” にも声を掛けて探しています。必要が有れば、各警察署の要員も動けるように話を通しています」

「少年一人に、それは(すご )いですね……」

 そこへ、一人の男が渡部警部補の耳元で囁く。警部補は、ニヤリと笑った。

「やはり、そうだったか! こっちに展開して正解だったな……。

 御苦労だった……。直ちに配置についてくれ。一気に列車を取り囲み、確実に(かく )()するぞ。采配は、任せる」

「有難う御座います。直ちに取り掛かります!」

 男は、他の男達を指揮して配置に着かせる。相撲取りのような男も、その指揮に従った。

[まさか修平君が乗ってはいないと思うけど……。念の為に、この小父さんの心を見ておくか……。]

 (かつ )(よし )は、渡部を “ 対人・対物アラーム ” で “ ロック・オン ” する。

 渡部警部補は、配置の進む男達を満足そうに見なから、(からくり )警視正へ勝ち誇ったように言った。

「この件も、もうすぐ終わりです。

 彼が、『新十津川着、十二時三十七分の気動車(ディーゼルカー )に乗っている』との確度の高い情報を得ました。このままいけば、程無く(かく )()……。じゃなく、保護できます。身柄の安全まで、あと少しです!」

「ほぅ……」

 叔父役の発言の途中で、甥役が話に割り込んで来る。

「……叔父さん」

 渡部警部補は、嫌悪感を(あら )わにして、怒鳴った!

「坊や! 大人の話に口を挟む……」

「御待ち頂きたい!!」

 (からくり )警視正は、渡部警部補の(いっ )(かつ )(さえぎ )った! そのまま、強い口調で発言する。

「……渡部警部補。貴方(あなた )は子供が嫌いなようだが……。私達の家系では、子供であっても人権を尊重する! 

 どうだろう……。ここは、私達の教育法に協力して頂けないだろうか? 

 私の勘が正しければ……。この子の発言は、今後の貴君(あなた )方の活動にも正しい()()を与えるものとなるだろう」

[ちっ……。ガキをノサバラセやがって……

 相手が警視正でなけりゃ、捜査五課として猛抗議してやるんだが……。ここは我慢しかないな……]

 渡部警部補は、怒りを無理やり収めて言った。

「……どうぞ」

貴君(あなた )の協力に感謝する。亮太、話しなさい」

 (かつ )(よし )は、(すく )みそうな心を何とか(ふる )い立たせながら、話し始めた。

「……(ぼく )達はこれから、 “ 札幌駅 ” へ出て “ カシオペア ” か “ 北斗星 ” に乗るか、 “ 新千歳空港 ” から “ 飛行機 ” で東京へ行こうと思っています。 “ 苫小牧 ” や “ 小樽 ” から “ フェリー ” でも良いと思います。でも、このまま進んだら、小父さん達が困りませんか?」

 捜査五課の警部補は、(まと )を得た少年の発言に、何も言い返せなく成ってしまった……。

[……余りにも、理に(かな )ってやがる。此奴(こいつ )、ガキの(はず )なのに……]

「渡部警部補。叔母として御願いします。甥の発言に、答えて頂けませんか?」

 渡部警部補は、(からくり )警視の言葉によって、我に返った。ただし彼は、あくまでも大人と話そうとして、(からくり )警視へ返答した。

「……確かに、そうですね。

 要員は、(おも )に “ 札幌駅 ” と “ 新千歳空港 ” と “ 旭川空港 ” へ重点的に配置しています。 “ 小樽 ” や “ 苫小牧 ” 、 “ 函館 ” の駅や港も同様です。もし、この子が現れたら、(おお )(ごと )に成ります!」

 三人は、顔を見合わせた……。少年が、代表したように話し始める。

「『“ 札幌駅 ” や “ 新千歳空港 ” や “ 旭川空港 ” を通っては困る』ってことなら……。やっぱり、手前にある『“ (おか )(だま )空港 ” を通るのが一番良い』ってことだよね……」

此奴(こいつ )()、東京の人間だろう……。何で、そんなマイナーな空港、知っているんだよ? このガキの頭は、如何(どう )成っている……]

 渡部警部補は、(おどろ )きを通り越して(あき )れてしまい、薄ら笑いを浮かべて言った。

「…… “ (おか )(だま) ” なんて、良く知っているねぇ……」

「そこを通れば、小父さん達も一番混乱しなくて良いんでしょう?」

「……まあ……。……その、とおりだ」

「じゃあ、(ぼく )達は “ (おか )(だま )空港 ” を目指します。

 叔父さん。それで良いでしょう?」

 (からくり )警視正は、甥役の発言に拍手を持って答えた。

「亮太、よくやった。最良の答えだ。

 では、渡部警部補。(おか )(だま )空港周辺の要員に、取り急ぎ、私達のことを連絡しておいて下さい。御迷惑を掛けますが、一つ(よろ )しく……」

「分かりました……」

 ……遠くから、ディーゼルエンジンの音が近付いてくる。その音に、捜査五課の警部補が再び我に返った。

[それも、ここで竹脇をとっ捕まえれば、此奴(こいつ )()の動きなど、もう考えなくても良いことだろうが!]

 渡部は、全体へ最後の指示を出す。

「私も、直ちに列車内へ突入する! ここで身柄を押さえるぞ! ()かるな!」

「はっ……」

 返礼した男達の配置が済み、列車がホームへ入って来るのが見えた。

 気動車(ディーゼルカー )のドアが開くのと同時に、男達が車内へ飛び込んで行く! ……しばらく経つと、様子が変わって来たのが子供にも分かった。

「居たか?!」

「居ないぞ! そっちは?!」

「こっちも、居ません!」

[……ええい! くそー!]

 連続した悪意に(さら )された(かつ )(よし )は、深く息を吐く。そして、 “ 対人・対物アラーム ” の渡部警部補に対する “ ロック・オン ” を解除した……。

 ……(からくり )警視正が、甥役にメモ用紙を見せる。そこには、こう書かれていた。


      もうすこし、

     気をはっていなさい……

      気をぬくのは、

     「とうちょうき」を、かたづけてからにしよう。


 精霊の(あるじ )でもある少年が、深く(うなず )く……。




 ------- 更新履歴 -------

 2015.09.12 初版公開[旧、第三章の一部として]  (Ver 1-01.00)

 2016.02.26 改訂第二版公開  (Ver 2-01.00)

 2017.08.28 読み易くする為の修正、漢字誤用、誤字、ルビ小修正版公開  (Ver 2-02.00)

 2018.08.16 一部加筆、一部の解り難い部分、文章表現、誤字、ルビ修正版公開  (Ver 2-03.00)

 2018.08.23 大元のWordファイルとの内容差異が生じたための文章整理、誤字修正、読み易くする為のルビ修正版公開  (Ver 2-03.00.01)


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