第9話 ゴンを求めて
山田君に連れられて、ゴンが消息を絶った場所へとやって来た私たちは、そこから先の手掛かりを求めて近隣の家に聞き込みを行った。
しかし、時間をかけて聞き込みを続けても、みんな首を横に振るばかりだった。
「あかん。ゴンのやつ、全く誰にも認識してもらえてないわ」
「頻繁に脱走しすぎて、あんまりみんなに関心を向けてもらえて無い感じだったね」
そこから範囲を広げてさらに情報を募ったが、結局、山本のおじいちゃん以外にゴンを見かけたものはおらず収穫はゼロ。
これでは流石の小春ちゃんも材料不足で推理が出来そうにない。
「この四つ辻でじいちゃんはゴンを見かけたらしいけど、こっからゴンはどの方角に足を向けたんやろ。そもそも犬やし、道じゃない所を行った可能性もあるし……」
美しいオレンジ色に染まり始めた農道で、立ち尽す私たちの頭上を、カァカァと烏が羽を広げて通り過ぎていく。
やがて、沈黙をどうにかしたかったのか、山田君が手を上げて、ある提案をしてきた。
「なあこはるん、あのウサギの時みたいに、ゴンの立場に立って心理分析してみたらええんとちがうか?」
ちょっといい思い付きみたいに、そう提案した山田君に、小春ちゃんはムッとして即座に言い返した。
「アホ言わんといて。言いたくないけどゴンは馬鹿犬や。うちみたいな頭脳派に馬鹿犬の気持ちになれって? 冗談やないわ」
「いや確かに、利口やないとは思うけど、そこまで言わんでも……なあさくらちゃん」
「えっ?」
いきなり話を振られて、私はゴンをイメージする。
確かにゴンは小春ちゃんの言うように馬鹿だけど、山田君の前では言い辛い。
ここは無難に……
「まあその、個性的な犬だよね……」
最後はゴンの行方ではなく、利口かどうかでちょっと揉めて、今日のところは解散した。
帰りのバスの中で、小春ちゃんはランドセルから筆箱とノートを出して、スラスラと何やら描き始めた。
「それって地図?」
「うん。ちょっとゴンの足どりを整理してみようと思うて」
小春ちゃんの頭の中にはこの村の詳細な地図が入っているようで、描き下ろした地図は大まかなものではあったが、縮尺もちゃんとしている感じだった。
「ゴンが最後に目撃されたのはここや。それでゴンが熱を上げているメリーの家がここ。そんで、いつも餌をくれる柴田のじいちゃんの家がここやねん」
「うん。オス犬のメリーだね」
「そうそう。そのメリーの家なんやけど……」
小春ちゃんは地図上のメリーの家を指さしてから、その先を続けた。
「目撃されてはないけど、あの日、多分ゴンはメリーのとこに行ったんやと思うねん」
「どうしてそう思うの?」
「うん。実はメリーの飼い主の大塚のばあちゃんは、二週に一度メリーを美容室に連れて行ってるねん。それがあの木曜日やったんやと思うねん」
地図にして足どりを見直すことで小春ちゃんは、この事件に関する何かをつかんだようだ。
私は彼女の頭にあるものを早く知りたくて、ほんの少し身を乗り出す。
「じゃあゴンは」
「空ぶったゴンは、そのあと柴田のじいちゃんの家を目指した。メリーの家から柴田のじいちゃんの家へ真っ直ぐ向かうには、舗装された農道やなく、こっちの畦道を使うと思うねん」
小春ちゃんは筆箱から赤鉛筆を取り出すと、ゴンが辿ったであろう田畑を貫くように続くあぜ道に、ゆっくりと赤い線を引いていった。
赤鉛筆の動きを目で追っていた私は、その線の向かう先にあるものに、ようやく気付いた。
「学校だ……」
小春ちゃんの赤鉛筆は、丁度学校の裏手の所で止まっていた。
「最短距離のこの畦道を通ったとすると、丁度学校の裏手に出る。単純なゴンの行動から考えると、柴田のじいちゃんの家にはご飯をもらいに行く途中やった。それなりにうろついてお腹を空かせていたゴンが足を止める理由は一つや」
「そうか、給食だ」
私がそう言うと、小春ちゃんはグッと親指を立ててニンマリと笑って見せた。
「ナイスやで、さくらちゃん」
「へへへへ」
「恐らくゴンは給食の匂いに誘われて学校へ現れた。そこから先は今のところ分からへんけど、明日学校へ行って聞き込みしてみよう」
「うん。そうだね」
やっぱり小春ちゃんは里山の名探偵だった。
殆ど手掛かりの無かった行方不明のゴンの一件は、こうして一歩前進したのだった。




