第12話 繋がった糸
ゆっくりと思考の海から浮かんで来た小春ちゃんは、まず校長先生にこんな質問をした。
「校長先生、あの日、給食を運んで来たのって、どんな人やった?」
その質問に、校長先生はサラリと答えてくれた。
「髪の毛を後ろで括った若い女の人やったな」
「やっぱりそうか」
冷静に確認を取った小春ちゃんの隣で。私はその意外性につい声を上げる。
「え? お姉さんが配達に来たってこと?」
「そうみたいや。でもさくらちゃん、驚くのはまだ早いよ」
小春ちゃんは説明を後にして、再び校長先生と向き合う。
「じゃあ校長先生、その時給食を運んで来た車の色は何色やった?」
「黒やったな。それがどうかしたんか」
校長先生の記憶通りだとしたら、その車はあのベビーシートを載せていた黒いミニバンだ。
それがゴンの一件にどう関係しているのかは分からないけれど、小春ちゃんはあのおねえさんが黒いミニバンで配達に来たことを、推理によって先に導き出していた様子だった。
「最後に確認なんやけど、校長先生、おねえさんが帰って行く時にはゴンはもういなかった。そうやない?」
「ああ、そう言えばもうどっかへ行ってしまっとったな」
そこまでのやり取りで、小春ちゃんは何かを確信した様子だった。
「さくらちゃん。だいたい分かったわ。そろそろうちらも帰ろうか」
「えっ、もういいの?」
「うん。校長先生のお陰で必要な手札は揃った。後は答え合わせをするだけや」
小春ちゃんはすっきりとした顔でソファから腰を上げて、校長先生に綺麗なお辞儀をした。
「ありがとう校長先生。うちらの謎解きに付き合ってもらって」
「なんのなんの、役に立てたんなら良かったよ」
「ほんなら失礼します」
「うん。また遊びにおいで。それと、気を付けて帰りなさい」
話し相手が欲しかったのか、校長先生はどこか名残惜し気に私たちを見送ってくれた。
学校を出てそのままスクールバスに乗るのかと思っていた私に、小春ちゃんは意外なことを訊いてきた。
「なあさくらちゃん、山ちゃんと連絡とれたりする?」
「え?」
私の子供用の携帯に、いつも私たち母娘の世話を焼いてくれている山ちゃんの連絡先は入れてあった。
私は、そのことを伝えて小春ちゃんの意図を聞いてみる。
「出来れば今すぐに確認したいことがあるねん」
山ちゃんに電話すると、役場というものはよっぽど暇なのか、仕事中にも拘わらず今から行くと返事をもらえた。
「よし。じゃあ、作戦開始や」
校門を出たところに停めてあるスクールバスの運転手さんに、今日は迎えに来てもらうからと断りを入れ、やって来た山ちゃんの軽バンに乗せてもらい私たちは隣村へと向かった。
「どうゆうことや? なんでまたあの食堂へ行こうと思うたんや?」
運転しながら山ちゃんはその辺りのことを訊いて来た。
「ええから山ちゃんはうちらを食堂まで乗せてって。どうしても確認したいことがあるんや」
それから私たちは、まえ来た時の様に路肩に車を止めて、まだ開店前の食堂へとやって来た。
「今はまだ仕込みの際中みたいや」
こういった食堂はお昼のピークを過ぎたあと、夕方まで暖簾を降ろす。
この感じでは、小春ちゃんは、丁度準備中であるこの時間帯を見計らってここへ来たみたいだ。
「この時間やったら、おねえさんも開店準備で店の中におるはずや。その証拠にほら、あそこにちゃんと車が停まってる」
小春ちゃんの指さした先に目を向けると、前に止めてあったのと同じところにあの黒いミニバンが停まっていた。
そして私たちは、食堂の中の人に気取られぬよう少し迂回して、黒いミニバンに近づいて行った。
以前の様にミニバンの前には配達用の車が停まっていて、小春ちゃんはその間に体を入れてしゃがみこんだ。
「山ちゃん、スマホのライトを点けてうちに貸して」
「よっしゃ」
スマホを受け取った小春ちゃんは、しゃがみこんで何かを調べてる。
そして、すぐに顔を上げてニンマリと笑顔を作った。
「うちの思ったとおりやった」
「え? どういうこと」
「さくらちゃんも見てみ」
小春ちゃんに促されるまま、私は照明を受け取ると、小春ちゃんが見ていたナンバープレートに光を当てて覗き込んだ。
そして、思わず声を上げた。
「このナンバープレート……」
「フフフ、そういうことやねん」
それは、この辺りでよく見る和歌山ナンバーではなかった。
スマホの光に浮かび上がったナンバープレートには、横浜と記載されてあったのだった。
「他県のナンバー……じゃあ」
「そう、この車は少なくともおにいさんの車やない。つまり、あのおねえさんの車やと考えるのが合理的や。つまり……」
小春ちゃんはそこで少し間を置いて、私が気付くのを待っている。
「赤ちゃんのために里帰りして来た……そういうこと?」
「当たり。つまり、里帰りだとすれば、ここはおねえさんの実家ということや」
「じゃあ、あのおねえさんは、おにいさんの妹だった……そういうことなんだね」
「さくらちゃんの言うとおり、恐らくそういうことやよ」
この急展開っぷりに私は驚かされっぱなしだ。
それにしても、小春ちゃんは何にヒントを得て、このことに気付いたのだろう。
「でもどうして、校長先生の話だけでそんなことが分かったの?」
「それはね……」
小春ちゃんが解説をしようとすると、絶妙なタイミングで食堂の入り口の戸が開く音がした。
「解説の続きはまたあとで。取り敢えず車に戻ろう」
こうしてお預けを食った感じで、私たちは車に戻ったのだった。




