40話 絶対の一番 :西嶋
「好きです、ってやつ言って」
「またですか」
「うん」
目覚めた朝。
シーツにくるまりながら、肌を寄せ合う。
シーツからはみ出した桐谷の肩に唇を当て、そのままシーツごと抱きしめた。
「早く」
そう急かす。
「好きです」
「へえ」
「このやり取り、何回するんですか」
「飽きるまで」
「えー」
一生、飽きる気なんてしないけど。
一度寝て。
朝になって目が覚めたら。
毎朝、桐谷からその言葉を聞きたい。
「なあ」
「何ですか」
「佐藤のこと、ずっと好きだっただろ」
「ええ、佐藤ですかっ。皆それ言ってくるけど、なんなんですか?」
え。
「違うのかよ」
「ないですよ。佐藤だって迷惑ですよ、もう」
うわ。
佐藤も同じ穴のムジナだったわけ?
お気の毒すぎる。
「わ、私は。その、ずっと西嶋先輩、だけですから」
「それ、わかんねーから」
絶対、嘘言ってる。
高校の時なんて、絶対違った。
俺ばっかり好きだった。
「わからないって……」
「そんな風に見えなかった。え? どこに桐谷の好きがあったんだ?」
「……」
俺がしつこく言ったせいか、桐谷が困った顔をした。
「先輩だって、彼女……の、子供」
「あれ? 知ってた?」
どこで見たんだろう。
そう不思議に思っていると。
「わ、私は、やっぱり……その、愛人、ですか」
桐谷が突拍子もないことを言い出した。
「え、なんで」
「え、だって。先輩、ご結婚されるんじゃ……?」
だいたい。
「文香はそれでいーの?」
「……」
今にも泣き出しそうな顔。
やばい。
そそる。
やっぱりずっと見てたいかも、この顔。
でも、本当に泣きそうになって。
胸が苦しくなって、俺が先にギブアップした。
「そんな気持ちで、昨日抱かれてたわけ」
することして。
結構、乱れてたけど。
「そういうのが好きなら、いいけど」
俺は、嫌だな。
不倫なんて、絶対嫌だ。
「……っ」
「残念ながら、俺、桐谷のこと口説いてた時からフリーだったんだけど」
「えっ!?」
「俺、彼女がいるなんて言った?」
「えっ、えっ!?」
「俺は、二番とかやだから」
そして。
桐谷の耳元へ顔を寄せて、囁く。
「絶対の一番が、いいんだけど」
「いっ、一番ですよ。ずっとっ」
「一番じゃない。俺じゃない男としたりしてたくせに」
「そ、そこですか? 先輩だって同じじゃないですか」
「俺のは違う」
俺のこと好きだったなら。
ちゃんと貞操守っておいてよ?
「し、仕方ないじゃないですかっ」
「はぁ。やだな」
「な、何がですか」
はぁ。
ほんっとーーーに、嫌だな。
桐谷が他の男に今まで抱かれてきたって考えるだけで。
目の前にあるはずの幸せが、急に歪んで見えてくる。
「もおっ!」
バフッと、枕を顔に押しつけられた。
あー。
戻れるもんなら、過去に戻りたい。
「好きですって言って」
「もお!! 言いません!!」
「えー」
「じゃあ先輩が言ったらいいじゃないですか!」
「好きだよ、文香」
桐谷の顔が、一気に真っ赤になる。
可愛くて仕方ない。
「あと、その先輩っていうの。どうにかならない?」
「だって」
「その呼び方のほうが燃えるんだったらいいけど」
「そればっかり!! 違いますから!!」
あ、そうなの?
先輩って口にするたびキツくなるから、てっきり。
そう言って口元を吊り上げる。
「絶対違いますから!!」
ジタバタする桐谷を捕まえて、そのまま胸の中へ閉じ込めた。
「はいはい」
「違いますからねっ」
「で、なんて呼ぶか思いついた?」
「……え、っと」
もじもじしている桐谷からの答えを、気長に待つ。
「明人さん」
「却下」
なんだ、その呼び方。
「えええ」
「しっくり来なすぎる」
「先輩って、そんなキャラだったんですか?」
「解放されたからね」
「……解放」
きょとんとした桐谷の顔も。
やっぱり、可愛い。




