38話 二番目の女?
もう、ダメかと思ってた。
もう、この人に触れることは二度とできないんだ。
そう思っていたから。
重なり合った唇から熱が伝わった瞬間、息ができないくらい苦しくなった。
嬉しい。
ずっと欲しかったものが、突然全部返ってきたみたいで。
それなのに。
まだズキズキと疼いている胸の痛みを、完全に忘れることはできなかった。
「……ぱい、先輩」
寒空の下でずっと抱き合っていたからか、身体はお互いに冷たくなっていた。
私は少し離れようと、胸の隙間にある手に力を込める。
それでも、先輩の腕の力は弱まらない。
そのことが嬉しくて。
幸せで。
このままずっと、こうしていたいと思う。
でも。
必死に、その幸せに浮かれすぎないようにする自分もいた。
好きだと言われた。
また彼女になって、とも言われた。
私だって。
本当なら、その言葉だけを信じて喜びたい。
だけど。
──あの人は?
丸みを帯びたお腹。
西嶋先輩の隣にいた、茜さん。
あの夜に聞いた言葉も。
私に向けられた、あまりにも冷たい言葉も。
全部がなくなったわけじゃない。
先輩が戻ってきてくれたことは、嬉しい。
嬉しくて仕方がない。
それでも。
状況は、何も聞けていない。
「……寒い、です」
繋がった唇の隙間から、やっとその言葉を出した。
ようやく身体の間に、少しだけ隙間ができる。
「ごめん」
ああ。
また、『ごめん』だ。
先輩の口からこの言葉を聞くたび、胸がちぎれそうなくらい痛む。
謝られるたび。
あの日の言葉が蘇る。
──お遊びは、おしまい。
──気が済んだからもう用済み。
そして。
茜さんのお腹。
どうしても。
『ごめん』という言葉が、
──お前は二番目の女だ。
そう言われているように聞こえてしまう。
また、泣いてしまいそうになる。
それでも私は。
西嶋先輩が好きで。
あんなに傷ついたのに。
それでもまだ。
一緒にいたいと願ってしまう。
「……うちに、入りませんか?」
私がそう提案すると。
西嶋先輩は、一瞬。
ほんの少しだけ、躊躇したように見えた。
胸が、ひやりとする。
「……あの、……嫌なら」
「いや、そうじゃなくて」
そうじゃ、なくて?
本当に寒くて、私は小さく身震いをした。
「じゃあ……」
先輩がそう答える。
寒くて。
空気が澄んでいる。
その冷たい空気を大きく吸い込むと、さっきまで身体を包んでいた熱が、少しずつ引いていくように感じた。
まるで。
私の心まで、急激に冷やされたみたいに。
私は。
惑わされているんだろうか。
今までまともに知らなかったくらい強い、この恋の熱に浮かれて。
都合の悪いことを。
見ないふりしているだけなんじゃないだろうか。
身体の奥から。
警戒音が鳴っているような気がする。
それでも。
かまわない。
怖くても。
また傷つくかもしれなくても。
それでも私は。
西嶋先輩から。
離れたくなかった。




