37話 また、俺の彼女になって :西嶋
「ずっと好きだった」
もっと早くに伝えればよかった。
自分が傷ついて、被害者ぶって。
また同じ傷に耐える自信がないからって。
だからって、桐谷を傷つけていいはずなんかなかった。
泣かせて。
一人にして。
好きなくせに、嫌われるようなことまで言って。
それなのに。
桐谷が俺のために泣いてくれていることが、こんなにも心を熱くさせる。
「……」
桐谷は、何も言わない。
真っ赤になった目で、ただ俺を見ている。
「ああ、違う」
今、自分で言った言葉に引っかかった。
「好きだった、じゃない」
「……」
「今も好きだ」
格好悪い。
本当に、格好悪い。
でも、それが事実だった。
高校の頃。
桐谷とうまくいかなくなって。
勝手に傷ついて。
勝手に振られたと思い込んで。
それから何年経っても、結局忘れられなかった。
俺に恋愛への苦手意識を植えつけた最初の女は、桐谷で。
それでも忘れられなくて。
諦めきれなくて。
再会した瞬間から、また全部が始まった。
「だから」
一度、息を吸う。
もう逃げない。
今度こそ、ちゃんと言う。
「また、俺の彼女になって」
「もうっ、……」
次の瞬間。
桐谷が、俺の胸へ飛び込んできた。
「……っ」
反射的にその身体を抱きしめる。
細い肩が、腕の中で震えていた。
「ダメかと思ってました」
掠れた声。
胸元に顔を埋めたまま、桐谷が言う。
「俺も」
何もかも。
取り返しのつかないことになる前に。
もう一度、桐谷に触れられて。
よかった。
腕の中にいることが、まだ信じられない。
少し身体を離して、その顔を見る。
泣いたせいで目元は赤く、頬も涙で濡れていた。
それでも。
可愛い、と思う。
昔から。
こういう時ですら、どうしようもなく。
「桐谷」
「……はい」
名前を呼ぶと、濡れた瞳が俺を見る。
その瞬間。
堪えられなくなった。
顔を寄せる。
桐谷も逃げなかった。
街灯の下。
人通りの少ない冬の夜道で。
俺たちは、唇を重ねた。
冷たかったはずの唇が、触れた瞬間に熱を持つ。
抱きしめた腕が、離れない。
一度失ったと思ったものが、ようやく戻ってきた。
そんな感覚だった。
「……ぱい、先輩」
ほんの少しだけ唇が離れた隙に、桐谷が声を出す。
けれど。
何を言おうとしたのか聞く前に、俺はもう一度その唇を塞いだ。
「ん……」
この甘ったるい唇を。
今は、離したくなかった。




