25話 消えていく残像:西嶋
「……子供が」
茜からそう言われたのは、実家から一緒に帰ってきた桐谷を送り届けて家に着き、一息ついた時だった。
異様な数の着信が茜から残っていたから、慌てて折り返した。
その電話で、
「──お前」
「わかってる。明人にこんなこと、言えた義理じゃないって」
茜とは、もうとっくの昔に別れていた。
それは、桐谷が残業で会社に残っていたあの日よりも、だいぶ前。
だから駅前でわざわざ俺を待ち伏せしていた茜から、突然復縁を迫られた時は驚いた。
とっくに自分の中では、消化済みだったから。
その話は当然、断った。
「今までなんで黙ってた?」
「一人で……産もうと思ったから──」
「今、何か月なわけ?」
「もう、六か月」
全然、気がつかなかった。
──六か月。
「でも、親にもバレちゃって」
よく今まで隠してこれたな、と口にしそうになって、それを飲み込んだ。
そんなことを言ってる場合じゃない。
「……何も、言わないの?」
「俺に電話してきたってことは、そういうことなんだろ?」
「明人……」
「どうしたい?」
「……私、……もう、明人しか……頼れない」
電話口でそう泣きじゃくる茜に、それ以上は何も言えなかった。
俺が、茜をここまで追い込んだのか。
別れてしまった今では、他に方法はいくらでもあった。
──でも。
「俺で、いいの?」
さっきまで心にあった桐谷の残像が、頭の中から消えていく。
桐谷が、好きだった。
「ごめんね……明人」
桐谷のことが、好きだったんだ。




