12話 酔ったふり :西嶋
酒が入っているから、というのは理由にならない。
なぜなら、俺は酒に強い。
酔っていたわけじゃない。
ただ、桐谷が同じ席にいたから。
少しだけ、酔ったことにしてしまいたかった。
だからあの日も、酔ったふりをして桐谷の手を取った。
触れても許されるだろうという身勝手な屁理屈だ。
「桐谷って、好きそうには見えない相手といつも付き合ってるけど、どういうつもり?」
自分でもわかっていた。
完全な当てつけだ。
でも。
『そうなんです。誰のことも好きになれなくて』
そんな答えを、どこかで期待していた。
綾野だけじゃない。
今まで付き合ってきた男たちも。
誰のことも、本気では好きじゃなかった。
そう言ってくれたら。
少しは救われる気がした。
小さい男だと思う。
「好きじゃない……って」
桐谷が呟く。
その言葉に期待した。
なのに。
「俺のときも、そうだっただろ?」
口から出たのは、そんな嫌味だった。
言った瞬間、後悔した。
本当は。
『違います』
そう言ってほしかった。
『先輩のことは、好きでしたよ』
そんな言葉を。
ずっと待っていたのかもしれない。
けれど、桐谷は黙った。
その瞬間。
勝手に浮かれていた気分が、一気に冷めた。
「そんなこと、西嶋さんだって同じじゃないですか」
不満そうに俺を見る。
怒った顔まで昔と変わらなくて。
可愛い。
なんて思っていたら。
……俺?
そうか。
茜のことか。
でも、茜は――。
そう考えているうちに、桐谷が続けた。
「だいたい、西嶋さんのせいですから」
「――俺の?」
「そうですよ」
「俺の、何が?」
少し迷ったあと。
桐谷が、頬を膨らませるようにして言った。
「西嶋さんが、私を抱きそこねるから……」
一瞬。
何を言われたのかわからなかった。
昔。
あの日。
俺の部屋から逃げるように帰った桐谷。
俺はずっと。
あれを拒絶だと思っていた。
俺に触られることが嫌だったんだと。
なのに。
抱きそこねた。
桐谷は、そう言った。
沈んでいた気持ちが、一気に浮かび上がる。
それなら。
「じゃあ、もう一度試してみる?」
思ったより簡単に、そんな言葉が出た。
冗談めかしたつもりだった。
試すだけ。
昔できなかったことを、今ならできるのか。
それを確かめるだけ。
そんなふうに言い訳をしながら。
本当は、わかっていた。
試すだけで済むはずがない。
一度でも。
もう一度、桐谷を抱いたら。
きっと。
今度こそ手放せなくなる。
このときは。
そう思っていた。




