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第8章『凍れる北海の獅子』

テラコッタ大陸――焼いた土のごとき赤き岩肌が露出するその大地は、数千年にわたり猫科動物たちが血で血を洗う覇権を争う地であった。

かつて、狂気の科学者オキシドール・モレルによって蘇った古代トラの化身、アムレシアス一世。彼が打ち立てた軍事帝国アムレシアは、「ドラゴン・バレーの戦い」において破れ去った。旧都ストロムホルムは解体され、敗残のノルウェージャンフォレストキャットたちは、元海賊と雑種猫ミックスの街『ヘリンズ』――いまや「ヴェルデンハーフェン共和国」と呼ばれる海運国家の管理下に置かれることとなったのである。

だが、この「純血種の誇り高きノルウェージャンが、雑種猫どもに支配される」という不都合な現実は、大陸の血統至上主義者たちの心に暗い火を点けた。

とりわけ激昂したのが、ストロムホルムの東、氷に閉ざされた北海を根城とするサイベリアンの港町『ノルフィヨルド』であった。かつてアムレシアの威光に恐れをなし、無様にも朝貢して難を逃れていた北の海賊どもは、自らの不甲斐なさを棚に上げ、「雑種の成り上がりを討つ」という大義名分を掲げて軍旗を翻したのである。 これに呼応したのが、東部山岳地帯の難攻不落の城塞都市『アイゼンヴァルデ』に籠もるソマリたちであった。歴史の表舞台への焦りと嫉妬に狂った両国は連合軍を結成し、復興の途上にあるヴェルデンハーフェン共和国へ襲いかかった。

――しかし、彼らは致命的な見誤りをしていた。

山岳地帯での迎撃戦において、連合軍を迎え撃ったのは、ヴェルデンハーフェンが擁する規格外の傑物たち――そして、絶望の淵から這い上がり、今や共和国の「刃」となったノルウェージャンフォレストキャットの精鋭部隊であった。

「天下の難攻不落も、愚将が守ればただの檻だな」

冷ややかな笑みを浮かべ、陣頭で扇を掲げたのは、ラグドール族の隠遁者にして「麗しき天才軍師」と称えられるアルフォンスであった。 アルフォンスの精密無比な伏兵策と、雑種猫たちの泥臭い奮戦、そしてかつての敵であるノルウェージャン重装甲兵の破竹の突撃により、ノルフィヨルド・アイゼンヴァルデ連合軍は完膚なきまでに叩きのめされた。アイゼンヴァルデの難攻不落の城塞は一日と持たずに開城し、ソマリの将たちは命からがら北へと逃げ延びたのである。

「これで終わりではないぞ」

ヴェルデンハーフェン軍の総指揮官となったアルフォンスは、美しく整えられた毛並みを風になびかせながら、眼下に広がる赤茶けた地平を見据えた。その傍らには、過酷な闇市を生き抜いてきた「でんすけ商会」の面々と、かつてアムレシアの精鋭として恐れられたノルウェージャン部隊の将・グスタフが控えていた。

「毒を食らわば皿まで、だ。我らを舐めて噛みついた北の氷獅子サイベリアンどもに、誰が本当のテラコッタ大陸の覇者であるか……教えてやろうではないか」

狙うは、サイベリアンの本拠地、極北の要塞都市『ノルフィヨルド』。 共和制ヴェルデンハーフェンと、旧アムレシアのノルウェージャン軍による、前代未聞の「混合遠征軍」が北進を開始した。

ノルフィヨルドは、テラコッタ大陸の北端に位置する。南の赤岩地帯とは一変し、切り立ったフィヨルドの断崖と、年中溶けることのない流氷に閉ざされた極寒の地であった。

サイベリアンたちは、その分厚いトリプルコート(三層の毛皮)と頑強な骨格を誇り、「北海の暴れ者」として恐れられていた。彼らの都市ノルフィヨルドは、天然の要害である断崖絶壁の上に築かれ、唯一の陸路である南の峡谷には、分厚い氷柱と重厚な石造りの城門「氷竜門」が立ちふさがっていた。

「ヘッ、南の温い水で顔を洗ってる雑種どもと、裏切り者の長毛どもが来ただと?」

ノルフィヨルドの首長、サイベリアン屈指の巨漢・ボリスは、極上のニシン漬けを貪りながら高笑いした。

「このノルフィヨルドは、氷の女神に守られた不落の港だ! 陸からは峡谷の『氷竜門』で粉砕し、海からは我が北海海賊船団が叩く。寒さに震えて自滅するのが落ちだ!」

ボリスの言葉通り、遠征軍は厳しい寒さに苦しめられていた。特に毛足の短い雑種猫や、温暖な地域出身の猫たちにとって、北海の凍てつく風は肉体を鋭く削る刃であった。

軍の露営地では、温かいマタタビ湯の鍋が炊かれていた。湯気立つ鍋の周りで、でんすけ商会の面々が身を寄せ合っている。

「ぬぁぁぁーっ! 寒い! 寒すぎるぞでんすけ! 俺のこのセクシーな低音ボイスが、寒さで震えてただの歯の根が合わない音になっちまうぜ!」

ベンガルと茶トラのハーフ、サスケが自慢の豹・トラ混合斑の毛皮をすり合わせながら叫んだ。相変わらず軽いノリだが、その身体は寒さで小刻みに震えている。

「我慢しろサスケ。この寒さも、でんすけさんの温かい心意気とマタタビの流通力で乗り切るんだ」

無口なマッチョ、サバトラのムサシが、巨大な薪を素手で叩き割りながら低く呟いた。彼の筋肉は寒さの中でも隆々としており、まったく動じる気配がない。喜んだ時の「オットセイ・ターン(腕立てジャンプで両手を3回叩く)」を繰り出す余裕すらありそうだった。

「みんな、温かいマタタビ湯をおかわりかい? ただし、ツケはしっかり払ってもらうよ!」

酒樽を抱えて妖艶に笑うのは、ヘリングのドラッグクイーンこと『グダグダのマリア』である。ペルシャ混じりの美貌は極寒の地でも健在で、むしろ雪景色の中でそのセクシーさは際立っていた。彼女の周りには、寒さと彼女の魅力にヤラれたオスのノルウェージャン兵たちがデレデレと群がっている。

「おいおいマリア、商売熱心なのはいいが、兵士たちを腰抜けにしないでくれよ」

苦笑いしながら歩み寄ってきたのは、この遠征軍の実質的な首領であり、短足・低重心の英雄『でんすけ』であった。スイカ模様の毛皮に「3本髭のスイカ」の印を背負った男は、その短い脚でしっかりと凍りついた大地を踏み締めていた。

「でんすけさん!」 「頼もしいねぇ、アタシの可愛い旦那様。で、天才軍師様はどんなお料理(作戦)をお考えなんだい?」

マリアの問いに応えるように、本陣の天幕から優雅な足取りで一匹のラグドールが現れた。アルフォンスである。その完璧に手入れされた白い毛並みは、雪の中でも神々しいほどに輝いていた。

「準備は整ったよ、でんすけ殿」

アルフォンスは冷徹な眼差しで、北の暗雲が垂れ込める空を見上げた。

「サイベリアンどもは、我が軍が寒さに耐えかねて正面の『氷竜門』へ力押しで突撃してくると高く括っている。そして海からは彼らの海賊船団で我が軍の補給路を断つ気だ。……ふッ、愚かなことだ。自分の土俵で戦えると思っていること自体が、彼らの敗因だよ」

「アルフォンス様、俺たちノルウェージャン部隊に命を! 旧アムレシアの汚名を雪ぎ、我らがヴェルデンハーフェンの新たな一員であることを証明してみせます!」

ノルウェージャン部隊の将、グスタフが胸を叩いた。彼らは、一度はクセルクセス(アムレシアス一世)の狂気のために大陸を乱したが、いまやその強靭な跳躍力と長毛の耐寒性を、正義のために使おうとしていた。

「よし、グスタフ。君たちノルウェージャン隊には、誰もが『不可能』と断じる攻略ルートを担ってもらう。……でんすけ殿、君とご友人たちには、最高に派手な『おとり』となってもらいたい」

「任せておけ!」

でんすけは短い胸を張り、ニヤリと笑った。

「『アメイジング・ストライド』のエンジンは、この寒さでも絶好調だ。北海の頑固者どもに、俺たちの義理と人情、そして強さを叩き込んでやるぜ!」

翌朝。地平線から重々しい太陽が昇ると同時に、ノルフィヨルド城塞の前面に轟音が響き渡った。

「敵襲―! ヴェルデンハーフェン軍だ!」

氷竜門の見張り台から叫び声が上がる。 門の前に展開したのは、でんすけ率いる「でんすけ商会」の精鋭と、雑種猫たちの前鋒部隊であった。

「野郎ども! 雑種猫の底力を見せてやれ! 突撃だーッ!」

でんすけの号令とともに、雑種猫たちが一斉に雪原を駆け抜けた。

「ハハハ! 馬鹿め! 正面から来るとは愚か者が!」

城門の上から、ボリスが巨体を揺らして嘲笑した。

「岩を落とせ! 矢を放て! 雑種どもを凍える肉塊に変えてやれ!」

上空から凄まじい落石と矢の雨が降り注ぐ。だが、ヴェルデンハーフェン軍の先陣を切る者たちは、ただの兵士ではなかった。

「フンッ! 柔な岩だな!」

ムサシが前線に飛び出した。サバトラのマッチョ猫は、上空から降ってくる巨大な氷塊と赤岩の破片を睨みつけると、恐るべき体幹から脚を繰り出した。

『両足爪による・百烈蹴り――ッ!』

ドババババババババッ!

空気を切り裂く連続蹴りが炸裂し、落下してくる巨大な岩石が一瞬にして粉々に粉砕され、ただの砂利となって雪原に降り注いだ。

「な、なんだあのサバトラは! 岩を粉砕したぞ!?」

城壁のサイベリアン兵たちが目を見張る。そこへ、残像を残すほどの超スピードで雪原を舞う影があった。サスケである。

「お前ら、目線が上ばっかり行ってるぜ?」

空中殺法を得意とするサスケは、跳躍力に限界のある雪原など意ともせず、切り立った城壁の突起を足がかりに跳躍を重ねた。

『バックフリップコークスクリュー720°(セブントゥエンティ)――ッ!』

空中で二回転ひねりを加えた旋風脚が、見張り台のサイベリアン兵たちの顎を正確に撃ち抜く。サスケの超低音ボイスが低く響いた。

「かかってきな……お前らの奥さんも、俺の魅惑の毛皮に夢中にしてやるからよ」

「ええい、生意気な雑種どもめ! 押し潰せ!」

城門が開き、重装甲を纏ったサイベリアン騎兵隊が雪原へと打って出てきた。巨体と分厚い毛皮を生かした突進力は、地響きを立ててでんすけに迫る。

「でんすけさん、危ない!」

後方から叫び声が上がる。しかし、でんすけは逃げなかった。いや、逃げる必要などなかったのだ。

「フッ、低重心を舐めるなよ!」

でんすけの短足が、雪を蹴って高速回転を始める。短足ゆえの圧倒的な高回転、高出力、低重心――『アメイジング・ストライド』である。空気抵抗を最小限に抑えた「短足の気をつけ姿勢」で弾丸のように突進すると、でんすけは跳躍した!

『ロケット式ヘッドショット――ッ!!』

ドゴォォォン!

でんすけの頭突きが、先頭のサイベリアン重騎兵の胸甲に直撃した。軸がぶれない圧倒的な回転エネルギーを秘めた一撃は、巨体のサイベリアンを馬(ならぬ巨大ネズミ)ごと吹き飛ばし、後続の騎兵たちを将棋倒しにした。

「うわあぁぁっ! 短足の頭突きで重騎兵が吹き飛んだーっ!?」

混乱に陥るサイベリアン軍。さらにそこへ、妖艶な笑みを浮かべたマリアが飛び込む。

「はーい、お兄さんたち、ちょっとアタシと遊ばない?」

マリアのセクシーな仕草に一瞬目を奪われたサイベリアンの将校に対し、マリアの動きは容赦がなかった。華麗なステップから相手の首に足を絡め取る。

『必殺・三角絞め――ッ!』

股間に首を挟まれたサイベリアンの将校は、絶大なセクシーさと絞め技の苦しみによる狂喜の混濁の中で、「ほへぇぇ……」と歓喜の涎を垂らしながら失神した。

「あはハン、良い男ね。でもアタシはツケを払わない男は嫌いよ!」

でんすけたちの圧倒的な個の武力により、正面の『氷竜門』は完全に大混乱へと陥っていた。ボリスは憤怒に顔を歪ませた。

「おのれ、おのれぇぇ! だが勝ったと思うな! 我が軍の海賊船団が、お前たちの後方を包囲しているはずだ! 海からの攻撃で挟み撃ちにしてやる!」

そう、ボリスの狙いは海からの逆襲であった。ノルフィヨルドの港から出撃したサイベリアン海賊船団が、海岸線を迂回してヴェルデンハーフェン軍の背後を突く手はずになっていたのだ。

しかし――。

「残念だったね、北の熊さん」

城壁の真上、遥か高みの断崖絶壁から、涼やかな声が降り注いだ。

美しきラグドール、アルフォンスが、風に毛並みをなびかせて立っていた。そして、彼の両脇には――かつてテラコッタ大陸を震撼させた、あのノルウェージャンフォレストキャットの精鋭たちがズラリと並んでいたのである。

「な、なに……!? なぜあそこにノルウェージャンどもがいるのだ! あそこは垂直な氷の断崖だぞ!?」

ボリスが驚愕の声を上げた。

そう、ノルウェージャンフォレストキャットは、木登りや高所での移動において大陸最強の適性を誇る猫種である。厳寒の森で培われた彼らの鋭く強靭な爪と、高い跳躍力は、サイベリアンたちが「登れるはずがない」と過信していた氷の断崖絶壁を、容易く踏破してみせたのだ。

「アルフォンス様の作戦通りだ!」

ノルウェージャン部隊の将グスタフが長剣を掲げた。

「サイベリアンども! 我らを『裏切り者』と呼んだな! だが我らは、身勝手な欲望のために大陸を荒らすお前たちとは違う! ヴェルデンハーフェンの自由と絆のために、我らは跳ぶ!」

「突撃ぃぃぃーーーッ!」

大合唱とともに、数百のノルウェージャン兵たちが断崖絶壁から城内に向けて飛び降りた。彼らは木から飛び降りるかのごとく柔軟に着地し、城郭の内部からサイベリアン守備隊を次々と無力化していった。

さらに、海側からも絶望的な知らせがボリスのもとに届いた。

「ほ、報告! 港に出撃した我が海賊船団ですが……ヴェルデンハーフェンの本国から派遣された雑種海兵隊の艦隊に完敗! 船団は壊滅しました!」

「なんだとっ!?」

ヴェルデンハーフェン(旧ヘリンズ)は、元々は海賊の国であり、海運の超強国である。雑種猫たちの海戦技術とニシンの経済力によって磨かれた海軍力は、北海の海賊ごときが太刀打ちできる相手ではなかったのだ。

「陸からも、海からも……そして上空からも、完全に詰みだよ」

アルフォンスが優雅に扇を閉じ、ボリスを見下ろした。

「さて、ノルフィヨルドの首領。これ以上の抵抗は無意味だ。潔く降伏するか、それとも我が軍の英雄たちの技の錆となるか……選ぶといい」

「おのれぇぇぇ! 雑種と裏切り者に屈してまるかぁぁっ!」

絶望に狂ったボリスは、巨大な両刃斧を振り回し、城門の前で戦うでんすけ目がけて突進した。巨体が生み出す質量攻撃は、雪原を大きく揺らした。

「でんすけ! 危ない!」

マリアが叫ぶ。しかし、でんすけの目は冷静であった。

「逃げないさ。これが、テラコッタ大陸の未来を拓く力だ!」

でんすけは短足を踏ん張り、高く跳躍した。回転力を極限まで高めたその身体は、まるで一本の弾丸と化す。

『垂直落下式ピルムショット――ッ!!』

空中から逆さとなり、重力加速度と短足の超回転を乗せた頭突きが、ボリスの振り下ろした両刃斧の真っ向から叩きつけられた!

バチィィィィンッ!!

金属が砕け散る絶叫のような音が響く。ボリスの大斧は粉々に砕け散り、そのまま頭突きを受けたボリスの巨体は、雪原に深く沈み込むように叩きつけられた。

静寂が、ノルフィヨルドに訪れた。

雪煙が舞い散る中、サイベリアンの首領ボリスは目を回して失神していた。それを見たサイベリアン兵たちは、次々と武器を捨て、その場にひざまずいた。

「勝鬨をあげよ!」

グスタフが叫んだ。

「ウォォォォォォンッ!!」

ヴェルデンハーフェン共和国軍、そしてノルウェージャン部隊の混成軍から、地鳴りのような歓声が巻き起こった。

寒冷な北の空に、赤きテラコッタ大陸の新しい時代の幕開けを告げる叫びが轟いていた。

ノルフィヨルド陥落の報は、瞬く間にテラコッタ大陸全土を駆け巡った。

アムレシア帝国の崩壊後、純血種たちの間にくすぶっていた「雑種猫支配への反発」は、この圧倒的な勝利によって完全に破砕された。かつて宿敵であったアムレシアのノルウェージャンたちと、ヘリンズの雑種猫たちが手を取り合い、北海の勇士サイベリアンを打ち破ったという事実は、大陸の歴史における大きな転換点となったのである。

ノルフィヨルドの街は解体されず、ヴェルデンハーフェン共和国の協定都市として再出発することとなった。北海の豊かな漁場と海運ルートが開放され、ヘリンズの経済力はさらに増大することとなった。

敗戦処理が終わった後、ノルフィヨルドの港を見下ろす丘の上に、ひとつの影があった。

純白のラグドール――マシロであった。

彼女は高級キャットフード商家の令嬢であり、本来なら貴族階級の身分である。しかし、彼女はその身分を鼻にかけることもなく、極寒の地まで遠征軍の後方支援として駆けつけていたのだ。

「でんすけさん」

マシロが優しく呼びかけると、雪道をトコトコと短い足で歩いてきたでんすけが足を止めた。

「マシロちゃん! こんな寒いところにちゃ出ちゃダメだよ。毛並みが痛んじゃう」

心配そうにするでんすけに、マシロはクスクスと上品に笑った。

「ふふ、大丈夫ですよ。でんすけさんが頑張ってくれたおかげで、この街にも暖かい春が来そうですから」

マシロのその手には、薔薇のトゲよりも鋭く長い、美しく磨かれた爪が見え隠れしていた。必殺技『プリンセスクロー』を秘めたその手は、いまは優しくでんすけの頭を撫でていた。

「でんすけさん、あなたは本当にかっこいいです。ロードランナーを捕まえた伝説もすごかったけれど……今日のあなたは、どんな貴族の猫よりも誇り高かった」

「マ、マシロちゃん……!」

照れまくってスイカ模様の顔を真っ赤にするでんすけ。その横から、ひょっこりと顔を出したのはマリアであった。

「あらあらー、熱いねぇ! 寒さも吹き飛ぶごちそうさまって感じかしら?」

「マリア! 邪魔しないでよ!」

でんすけが怒ると、マリアはウインクをして見せた。

「冗談よ。……でもね、でんすけ。アンタがこの大陸を変えたのは本当よ。雑種も純血も関係ない、みんなが楽しくマタタビを吸って、美味いニシンを食べられる世界……アンタとなら、作れるかもしれないね」

離れた場所では、アルフォンスが静かに海を見つめていた。その隣には、無口なムサシと、相変わらずメス猫をくどいているサスケがいる。

「アルフォンス様、次はどうされるのですか?」

サスケが声をかけると、麗しき軍師はふっと美しく微笑んだ。

「私はまた、隠遁の身に戻るさ。軍師の出番がない世界こそが、最も平和で美しい世界だからね。……だが、もしまた『でんすけ商会』が困ったときは、美味しいキャットフードと一緒に呼んでくれれば、考えてあげなくもないよ」

「フッ……違いない」

ムサシが珍しく口元を緩め、腕立てジャンプからの『オットセイ・ターン』を繰り出した。

チャチャチャッ!

「キャーッ! ムサシ様素敵ーっ!」

遠くで見守っていた若いメス猫たちが悲鳴を上げる。

赤き土の大地、テラコッタ大陸。 狂気の皇帝が去り、北の氷獅子が伏した今、この大地に訪れたのは、種族を超えた絆と、商人たちの逞しい笑い声であった。

『にゃんこ戦記』の歴史に、また一つ、新たな英雄譚が刻まれたのである。


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