第13章『要塞都市の歯車を狂わせろ』
黒沼地の底なしの泥濘と、ガスト・グレー率いる暗殺部隊「黒煙の牙」を突破したヴェルデンハーフェン共和国の西海遠征軍。しかし、彼らの目の前にそびえ立つ鉄鉄帝国の本拠地「アイアン・フォート」は、これまでのどの戦場とも異なる、文字通りの『絶望』そのものだった。
見上げるほどの高さを誇る城壁は、すべて鈍く光る黒鉄の装甲板で覆われ、何百本もの巨大な煙突から吐き出される黒煙が空を完全に覆い尽くしている。
そして何より遠征軍を震撼させたのは、城壁の中央に据えられた、規格外の超大型要塞砲『ギガ・バスター』だった。その砲門の直径は、でんすけたちが乗ってきた商船が丸ごと飲み込まれるほど巨大であり、不気味な真鍮の歯車が噛み合う音を響かせながら、ゆっくりと遠征軍の本陣へと狙いを定めていた。
ズガァァァァァン!!!
アイアン・フォートの城壁が大きく揺れ、ギガ・バスターが試射の一撃を放った。
放たれた巨大なエネルギーの塊は、遠征軍の遥か手前の荒野を直撃し、地鳴りとともに巨大なクレーターを作り出した。激しい衝撃波が荒野を駆け抜け、最前線にいたノルウェージャンフォレストキャットの精鋭たちが、その風圧だけで次々と吹き飛ばされる。
「うわああ! なんだあの威力は!? 掠っただけで肉体が消し飛びそうだぞ!」
グスタフが長毛の毛並みを逆立てて叫んだ。かつてアムレシア帝国の重装甲兵として破竹の進撃を誇った彼らでさえ、この超科学の暴力の前には、一歩も前に進むことができなかった。
遠征軍の本陣天幕。
「あーっ! もう駄目だ! 正面から突撃したら、美味いニシンを食う前に全員消し炭にされちまう!」
でんすけは、短い四肢をジタバタとさせながら、スイカ模様の顔を真っ青にして机に突っ伏していた。
「でんすけ様、取り乱すのはそこまでです。正面からぶつかれば圧殺される。そんなことは、この僕が最初から計算に入れています」
大書記官アルフォンスは、ひどい寝癖をつけたまま、冷徹な手際でガスト・グレーの遺品から回収した『アイアン・フォートの内部設計図面』を机の上に広げた。その吸い込まれるような青い瞳には、一切の動揺がなかった。
「どれほど強固な鉄の城壁であろうとも、それを動かしているのは蒸気機関という『機械』に過ぎません。図面を見る限り、要塞内のすべての防衛兵器、そしてあのギガ・バスターの全動力を支えているのは、要塞の地下深くにある『巨大中央蒸気パイプ』です。ここを完全に爆破し、心臓部の歯車を根本から狂わせれば、あの巨砲はただの巨大な鉄クズと化します」
アルフォンスが白い采配で、図面の最深部を指し示した。
「問題は、この心臓部へ至る地下通路が、複雑な真鍮の防衛回路と、狂気の科学者によって守られていることです」
「地下の隠密任務か。なら、俺の出番ってわけだね」
窓枠に腰掛けたサスケが、肩をすくめながら超低音のイケボを響かせた。
「俺の『おたまじゃくしのペントラ模様』の毛皮なら、油まみれの地下通路でも闇に完璧に溶け込めるぜ」
「あら、サスケ一人じゃ心もとないわね。アタシも一緒に行ってあげるわ。機械の冷たい歯車に、夜の街の濃厚な熱気をたっぷり注ぎ込んであげないとね」
マリアが細い指先で煙管を弄びながら、妖艶に微笑んだ。
「……俺も、行く。でんすけさんたちの道を、切り拓く」
ムサシが巨大な木刀を背中に背負い直し、無口な表情のまま拳を握りしめた。筋肉がミシミシと鳴る。
「よし、お前たちに共和国の命運を託す! 俺とアルフォンス、そしてマシロちゃんは、地上でド派手な『おとり』を演じて、敵の目を引きつけてやる!」
でんすけが黒い商人の前掛けを強く締め直した。こうして、テラコッタ大陸の未来を賭けた、アイアン・フォート潜入爆破作戦の幕が上がった。
◇
夜陰に紛れ、排気口からアイアン・フォートの地下深クへと潜入したサスケ、マリア、ムサシの三人。
内部は、地上からは想像もつかないほど不気味な「真鍮の迷宮」だった。巨大なピストンが不規則に上下し、シュー、シューと高熱の蒸気が吹き出すパイプが壁一面を覆っている。床には機械油がベタベタとこびりつき、猫科動物の敏感な肉球を刺激した。
「プシュー……カチャリ……侵入者検知。排除モードへと移行します」
突然、通路の奥から赤いランプを点滅させながら、異形の怪物たちが姿を現した。それは、純血のブリティッシュショートヘアの兵士ではなく、全身を鋼鉄の装甲と真鍮の歯車で固められた「蒸気駆動型機械歩兵」の軍団だった。彼らの右腕には、高熱の蒸気を噴射する「プラズマ・ブレード」が据えられ、不気味な機械音を響かせながら突進してきた。
「あら、生身のオスじゃなくて、冷たい鉄の人形がお相手かしら? でも、アタシの絞め技は、鉄のボルトだって締め上げちゃうわよ!」
マリアが妖艶に微笑みながら、油まみれの床をしなやかに舞い降りた。彼女の動きはセクシーでありながら、一瞬の隙を突いて、先頭の機械歩兵の首――頭部センサーと胴体の連結部分へ、見事に両足を絡め取った。
『必殺・三角絞め――ッ!!!』
真鍮の装甲の上からでも容赦なく決まる、完璧な絞め技。強烈な締め上げにより、機械歩兵の頭部連結ピンがミシミシと音を立てて歪み、内部の蒸気パイプが破裂した。プシューッ! という悲鳴のような排気音とともに、機械人形は火花を散らしながら白目を剥くように(センサーを消灯させて)沈黙した。さらにマリアは『腕ひしぎ逆十字』を連発し、機械たちの油圧シリンダーを次々と叩き折っていく。
「今だ、サスケ! 動きの止まった奴らの動力を断ちな!」
「了解、お待たせ! 機械の修理なら、俺の空中殺法が一番手っ取り早いぜ!」
サスケが真鍮の壁を蹴り、複雑に噛み合う歯車の上を高く舞い上がった。彼の無尽蔵のスタミナと驚異の運動神経が、変幻自在の空中殺法を生み出す。
『バックフリップコークスクリュー720°(セブントゥエンティ)』!!
超高速の回転を伴った肉弾攻撃が、後続の機械歩兵たちの背中に据えられた「中央制御ボイラー」を正確に蹴り砕いていく。サスケの超低音のボイスが暗闇に響いた。
「お前ら、精密機械の割には、後ろがガラ空きだぜ?」
「……ここは、俺が通す」
さらに、ムサシが前に出た。サバトラのマッチョ猫は、巨大な木刀を構えると、体幹の軸を一切ぶらさずに、突進してくる重装甲の機械歩兵たちを真っ向から睨みつけた。
彼の全身の筋肉が膨れ上がり、目にも留まらぬ速度で連続の脚技が繰り出された。
『両足爪による・百烈蹴り――ッ!!!』
ドババババババババッ!!!
空気を切り裂く爆音とともに、無数の蹴りの残像が炸裂した。大陸特有の赤い岩石をも粉々に砕くムサシの肉弾連撃は、機械歩兵たちの鋼鉄の盾を、文字通り木端微塵に破壊した。衝撃波によって、数十体の機械人形がバラバラの歯車となって通路に四散していく。
「よし、道は開けたな。一気に最深部の蒸気パイプへ向かうぞ!」
サスケが先頭に立ち、三人はさらに地下の奥深くへと駆け抜けた。
◇
真鍮の迷宮を突き抜けた三人がたどり着いたのは、要塞の全動力を一手に引き受ける、巨大な中央蒸気ボイラー室だった。
部屋の中央には、直径数十メートルに及ぶ、赤黒く燃え盛る「巨大中央蒸気パイプ」がそびえ立ち、要塞中へ動力を供給していた。
「ククク……。まさか、南の温い水で茹でられた雑種どもが、ここまで辿り着くとはな。だが、お前たちの小細工も、我が『最高の科学力』の前には、ただの歯車の錆に過ぎん」
部屋の奥から、不気味な機械の駆動音とともに、一匹の異形の猫が姿を現した。
鉄鉄帝国の最高技術責任者にして、狂気の科学者『アイアン・クロウ』だった。彼は純血のブリティッシュショートヘアでありながら、自らの肉体を「最高の効率」を求めて改造し、右腕は巨大な鋼鉄の油圧式クロー、両足は蒸気ピストンを仕込んだ機械の足、そして左目は怪しく光る照準レーザーへと変貌させていた。全身からプシュー、プシューと黒い煙と蒸気を吐き出し、ライオンを思わせる威風堂々たる風格を、機械の冷徹さで歪めていた。
「我が帝国の科学力は世界一。お前たちの不効率な肉体など、この油圧クローで一瞬にして肉塊に変えてくれるわ!」
アイアン・クロウが機械の足を激しく踏み鳴らすと、巨大なピストンが作動し、信じられない速度でムサシの眼前へと突進してきた。その巨大な鋼鉄の右腕が、ムサシの首を狙って猛烈な勢いで振り下ろされる。
ガキィィィィィンッ!!!!
ムサシが咄嗟に構えた巨大な木刀と、アイアン・クロウの油圧クローが真っ向から激突し、激しい火花が飛び散った。
「……くっ!」
ムサシの驚異的な体幹を誇る筋肉をしても、機械の圧倒的な油圧のパワーには徐々に押し込まれていく。床の真鍮板が、ムサシの足元からミシミシと音を立てて歪んでいく。
「ハハハ! どうした、サバトラのマッチョ猫! 肉体の筋肉など、油圧の出力の前には無力だ!」
アイアン・クロウがさらに出力を上げようとしたその時、背後から影が舞った。
「お前、科学だの効率だのって、随分とお堅いけれど、アタシのステップについてこられるかしら?」
マリアだった。彼女は高熱の蒸気が吹き出すパイプを足場に、華麗なステップでアイアン・クロウの背後へと潜り込むと、その機械化された太い首へと、しなやかな両足を絡め取った。
『三角絞め』!!
「ぬぅっ……!? おのれ、不浄なペルシャ混じりが……首の油圧シリンダーを締め上げるだと!?」
マリアの完璧な締め技が、アイアン・クロウの首の連結部に据えられた潤滑油パイプを強く圧迫した。内部の圧力が一気に上昇し、プシューッ! という激しい音とともに、彼の左目の照準レーザーが激しく明滅し始める。
「今だ、サスケ! 狂った歯車を完全に叩き折りな!」
「了解、お待たせ! 科学の進歩ってやつに、俺の空中殺法でトドメを刺してやるぜ!」
サスケがボイラー室の天井の梁を強く蹴り、空中へと舞い上がった。彼の独自の毛皮が、ボイラーの黒煙と同化しながら、変幻自在の空中殺法を生み出す。
『バックフリップコークスクリュー720°(セブントゥエンティ)』!!
超高速の回転を伴った肉弾攻撃が、アイアン・クロウの背中に据えられた「中央制御用真鍮歯車」へと正確に突き刺さった。サスケの超低音のボイスが響く。
「お前さ、自分の肉体を機械に変えて、美味いニシンを食ったときの感動まで忘れちまったのかよ?」
バキバキバキィィィン!!!
サスケの旋風脚の直撃を受け、アイアン・クロウの背中のメイン・ギヤが文字通り粉々に砕け散った。
「ごふっ……!? ば、馬鹿な……我が最高の科学力が、雑種の、個の武力に……!」
動力を失った機械の足が激しく火花を散らし、アイアン・クロウの巨体がその場に頽れた。
◇
「戦いは、まだ終わっていませんよ。地上で我が主君が、あなたたちの目を完全に釘付けにしている間に、この心臓部は完全に我が共和国の『知恵』によって掌握されました」
ボイラー室の最上階のキャットウォーク。すべての動力を監視する位置に、いつの間にかアルフォンスが立っていた。彼は手にした白い采配を静かに振り下ろす。
「でんすけ様、地上からの合図を」
その瞬間、地上の荒野から、爆発的な地鳴りのような足音が響いてきた。
地上では、でんすけ率いる共和国の防衛軍とグスタフのノルウェージャン部隊が、ギガ・バスターの砲撃を「短足の敏捷性」と「長毛の跳躍力」で完全にかわしながら、ド派手な突撃を演じ、要塞の全注意を引きつけていたのだ。そして、でんすけ自身が、要塞の排気ダクトを通って、この最深部へとすでに突入していた。
「待たせたな、頭の固い科学者ども! これがでんすけ商会を舐め、平民雑種の絆を舐めたツケだ!」
中央ボイラー室の天井が爆発音とともに崩れ落ち、でんすけが短い足を爆発的な速度で回転させながら姿を現した。
泥にまみれた黒い前掛けを締め、その短い四肢でぐっと空気の抵抗を蹴る。
『アメイジング・ストライド』!!
低重心ゆえに空気抵抗を極限まで減らした彼の突撃は、まるで赤い大地の地滑りのようだった。彼は高所から、頽れるアイアン・クロウ、そしてその背後にある「巨大中央蒸気パイプ」へと、一直線に飛び込んだ。
「短足の気をつけ姿勢」で弾丸と化したでんすけの身体が、ボイラーの炎の光を浴びて、激しく逆さに回転を始めた。繰り出されるのは、彼の最大奥義。
『垂直落下式ピルムショット(逆さ頭突き)』!!!
「雑種どもが……神の調和も、我が帝国の規律も……あんな玩具のような短い足に――」
アイアン・クロウが最後の力を振り絞って油圧クローを突き出したが、でんすけの質量はそれを遥かに凌駕していた。
バチィィィィィインッ!!!!
金属と頑強な頭蓋が激突する、絶叫のような音がボイヤ室に響き渡った。でんすけの超高速回転から放たれた質量以上の破壊力は、アイアン・クロウの鋼鉄の油圧クローを文字通り粉々に砕き散らし、そのまま背後の中央蒸気パイプへと真っ向から叩きつけられた。
ドグァァァァァン!!!
要塞の全動力を支えていた巨大なパイプが真っ二つに叩き折れ、猛烈な蒸気が四散した。それと同時に、要塞中の機械の駆動音が、悲鳴を上げるように一斉に低下し、静まり返っていった。
地上の城壁に据えられていた超大型要塞砲『ギガ・バスター』も、火を噴くことなく、ただの巨大な鉄クズとなって沈黙した。
静寂が、アイアン・フォートの最深部に訪れた。
狂気の科学者の敗北、そして中央動力の完全な破壊。それは、鉄鉄帝国という機械の秩序の、決定的な昨日停止を意味していた。
「戦いは、終わったな」
アルフォンスが静かに采配を収めた。
◇
数日後。
中央動力を破壊され、すべての防衛兵器が沈黙した「アイアン・フォート」は、ヴェルデンハーフェン共和国の遠征軍によって完全に制圧された。鉄鉄帝国の残党たちは武器を捨て、雑種猫たちの圧倒的な武力と知恵の前にひざまずいた。
要塞の最高作戦室の一室。
「痛ててて……。やっぱりあの技は、腕が短いから自分の顎を少し打つんだよな」
でんすけが顎をさすりながら、やれやれとため息をついていた。
「お疲れ様でした、でんすけさん」
本陣へ駆けつけてきたマシロが、優しく夫の汚れを拭い、クススクと上品に笑った。
「でも、本当に格好良かったですよ。あの恐ろしい鋼鉄の科学者を、でんすけさんの頭突き一本で倒してしまうなんて」
「はは、マシロちゃんにそう言ってもらえるなら、顎の痛みも吹き飛ぶぜ」
照れまくってスイカ模様の顔を真っ赤にするでんすけの横から、ひょっこりと顔を出したのはマリアであった。
「あらあら、熱いねぇ。西の機械化軍団を完全に返り討ちにして、今度は夫婦の熱気でこっちを焦がす気かしら?」
「マリア! 邪魔しないでよ!」
でんすけが怒ると、マリアはウインクをして見せた。
「冗談よ。でもね、でんすけ。アンタがこの大陸の科学の歴史まで変えたのは本当よ。これからは純血も雑種も、機械も関係ない、みんなが楽しくマタタビを吸って、美味いニシンを食べられる世界が、本当に広がるかもしれないわね」
離れた場所では、アルフォンスが静かに海の向こうを見つめていた。その隣には、無口なムサシと、相変わらず地元のメス猫をくどいているサスケがいる。
「アルフォンス様、次はどうされるのですか? 鉄鉄帝国の心臓部を制圧した今、我が国は名実ともに西海、そして大陸の覇者ですよ」
サスケが声をかけると、麗しき軍師はふっと美しく微笑んだ。
「僕はまた、書類の山に戻るさ。軍師の出番がない世界こそが、最も平和で美しい世界だからね。……だが、もしまた『でんすけ商会』が困ったときは、美味しいキャットフードと一緒に呼んでくれれば、考えてあげなくもないよ」
「フッ……違いねえ」
ムサシが珍しく口元を緩め、腕立てジャンプからの『オットセイ・ターン』を繰り出した。
チャチャチャッ!
「キャーッ! ムサシ様素敵一っ!」
遠くで見守っていた街の若いメス猫たちが悲鳴を上げる。
赤き土の大地、テラコッタ大陸。
機械の規律が去り、平民たちの逞しい笑い声が響く今、この大地に訪れたのは、種族を超えた絆と、未来を切り拓く猫たちの足音であった。
『にゃんこ戦記』の歴史に、また一つ、偉大なる雑種たちの英雄譚が刻まれたのである。
しかし、アルフォンスの視線は、要塞の玉座の裏に隠されていた、一枚の「黄金の親書」へと注がれていた。
「でんすけ様、終わったわけではありません。今回の鉄鉄帝国との大戦の裏で、彼らに資金を提供し、我が遠征軍が西へ向かうよう、すべての情報を操作していた本当の黒幕がいます」
「え……?」 でんすけが振り返る。
「この親書に押された、メインクーンのライオンの紋章。それは、聖都の敗北を隠蔽し、我が国と鉄鉄帝国を共倒れにさせ、その隙にテラコッタ大陸のすべての覇権を完全掌握しようとした、聖都クリスタルヘイムの総主教レオ2世の、真なる『神聖文字』です。奴は、最初から僕たちも、機械の帝国も、すべて自分の手のひらの上で躍らせるつもりだったのです」
アルフォンスの手元にある黄金の親書には、聖都の全戦力を結集した「最終十字軍」が、すでにヴェルデンハーフェンの本国へ向けて進軍を開始したという、最悪の事実が記されていた。
「なんだって……!? あの薄紫のメインクーン、どこまで陰険なんだ!」
でんすけが前掛けを強く締め直した。
「奴らの本拠地、聖都クリスタルヘイムの大聖堂。そこには、数千年の教会の歴史が作り上げてきた、絶対的な秩序と、我が国の五倍を超える『三万の最終軍勢』が待ち受けています。奴らは、僕たちの存在そのものを、歴史から完全に抹消しに来るでしょう」
アルフォンスの青い瞳に、これまでにない冷徹な逆襲の炎が灯った。
「毒を食らわば皿まで、です。我らを舐め、世界のすべてを欺こうとした聖都の絶対者に、誰が本当のテラコッタ大陸の覇者であるか……今度はこちらから、その大聖堂の門を叩き割りに行ってあげましょう。でんすけ様、にゃんこ戦記、最終決戦の幕開けです」
西の機械の城を制した遠征軍は、休む間もなく、テラコッタ大陸の命運を賭けた、聖都への最終進軍を開始した。
ついに聖都クリスタルヘイムの大聖堂へと到達したでんすけ遠征軍。しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、数千年の歴史の重みと、聖都が誇る三万の最終軍勢『聖堂騎士団・極光連隊』だった。圧倒的な兵力差と、聖都の絶対的な秩序の前に、遠征軍は絶体絶命の窮地に追い込まれる。
すべてを賭けた最終決戦の中、でんすけの『最強の低重心』は、世界の絶対者である総主教レオ2世の黄金の聖杖を打ち破ることができるのか!?
雑種と純血、格式と日常、すべての因縁に決着をつける、にゃんこ戦記最終章!
次回、最終章「雑種猫たちの凱歌」。
「神の調和だか何だか知らねえが、俺たちはこの足で立ち、美味いニシンを食って、仲間と笑って生きていくんだ! その日常を、誰にも奪わせはしない!」




