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第11章『巡礼路の泥臭い迎撃戦』

聖都クリスタルヘイムからの「真なる聖戦」の咆哮は、瞬く間にテラコッタ大陸全土を駆け巡り、ヴェルデンハーフェン共和国の息の根を物理的に止めにかかった。

総主教レオ2世が放った布告は、単なる武力行使に留まらなかった。にゃんこ聖教の破門を恐れた大陸中の純血種の諸国、そして商人ギルドたちが、一斉に共和国との交易を停止したのである。これこそが、聖都が仕掛けた大陸規模の経済封鎖――「兵糧攻め」であった。

ヴェルデンハーフェン共和国の最高政庁。

数週間前までの活気は嘘のように消え去り、部屋には重苦しい沈黙が流れていた。

「……だーかーらー! 流通が止まったってことは、仕入れたニシンが全部倉庫で腐りかけてるってことだろ!? マタタビの買い手もゼロ! このままじゃ国全体が干からびちまうぞ!」

でんすけは、机の上に広げられた真っ赤な決算書(大赤字)を短い手で激しく叩きながら、スイカ模様の顔を悲痛に歪ませていた。

「俺たち平民雑種が、汗水垂らして仕入れた美味いニシンとマタタビだぞ? それを『血が濁ってるから異端だ』なんて勝手な理由で封鎖されて、はいそうですかって引き下がれるわけねぇだろ!」

「分かっております、でんすけ様。ですが現実を見なさい」

大書記官アルフォンスは、相変わらずひどい寝癖を頭につけたまま、冷徹な視線で書類を整理していた。

「現在の我が国の防衛軍は、先日の鉄鉄帝国との戦いを経て再編中の身。旧アムレシアのノルウェージャン精鋭部隊を合わせても、動かせる兵力はせいぜい四千足らずです。対する聖堂騎士団の本隊、および彼らに糾合された諸国連合軍の総数は、なんと二万。数的な不利は、アムレシア戦役の時以上に圧倒的です」

「二万だと……!?」

でんすけの顔がさすがに険しくなった。いくら個の武力や奇策があろうとも、五倍の兵力差、しかも相手は大陸最強と恐れられる純血のメインクーンたちが中核を成す聖堂騎士団だ。正面からぶつかれば、一瞬で圧殺されるのは火を見るより明らかだった。

「おやおや、旦那様。また格好いいことを言って。でも、今回の敵はちょっと毛並みが良すぎるみたいですよ?」

鈴を転がすような声と共に扉が開き、マシロが温かいお茶を持って入ってきた。純白の毛並みを美しく整えた彼女の指先からは、普段は隠されている鋭い爪『プリンセスクロー』が、いつでも戦えるように微かにのぞいている。彼女もまた、この国と夫を守る覚悟を決めていた。

「マシロ、心配すんな。俺の『アメイジング・ストライド』は、神仏の加護がなくても絶好調だ。どんなお偉いメインクーンが来ようが、この低重心でひっくり返してやる!」

「フッ、頼もしいねぇ、国家元首殿。だが状況は文字通り最悪だぜ」

窓から滑り込んできたサスケが、肩をすくめながら超低音のイケボを響かせた。

「聖都の息がかかった伏兵が、すでに我が国の南の国境、ローゼンバッハ川の対岸に集結しつつある。奴らの狙いは、この国の防衛線が整う前に、一気に本陣を急襲することだ」

その時、部屋の影からムサシが巨大な木刀を背負ったまま姿を現した。

「……マリアから、さらに連絡。敵の本隊二万は、ローゼンバッハ川を迂回し、西側の峻険な断崖に囲まれた『聖なる巡礼路』を通って進軍している。そこは古くから教徒たちが歩んできた一本道。左右を切り立った岩壁に挟まれた、逃げ場のない渓谷だ」

アルフォンスの吸い込まれるような青い瞳が、一瞬で軍師のそれへと鋭さを増した。彼は大陸地図の上に、一本の流麗な線を引いた。

「なるほど。流石は薄紫のメインクーン、手が早いな。ですが……敵が『聖なる巡礼路』を選んだこと自体が、彼らの最大の計算違い(バグ)となります」

アルフォンスが残酷なまでの微笑を浮かべた。

「でんすけ様。向こうが神の名を騙って僕たちを撲滅しにくるというのなら、こちらは徹底的な『商人の生存戦略』と、僕たちの泥臭い戦術ビジネスを見せてあげましょう。神聖な戦いだと思い込んでいる奴らの鼻柱を、完膚なきまでに叩き折る。準備を始めましょう」



夜霧が深く立ち込めるローゼンバッハ川。

共和国の南の防衛線であるこの大河の対岸には、にゃんこ聖教の先遣隊――純血種の長毛猫たちで構成された『異端撲滅義勇軍』が陣を敷いていた。彼らは聖堂騎士団の本隊の到着を待たず、雑種猫の国を蹂躙して手柄を立てようと、血気盛んに息巻いていた。

その川岸に建つのは、重厚な石造りの『ヴェルデンハーフェン大修道院』。昼間は孤児を保護し、病人を治療する慈愛の施設だが、夜になれば、ここは大陸中から富豪や権力者が集まる魅惑の「不夜城」へと姿を変える。多額の寄付金と、非合法な情報が飛び交う混沌の坩堝るつぼだ。

その最奥、豪奢な天蓋付きのベッドに横たわっていたのは、ペルシャ混じりの妖艶な美人猫、マリアだった。

「ふぅ……。今日も聖なる名の下に集まった、退屈なオスばかりね。どいつもこいつも、血統の誇りだなんだと口うるさい割には、中身がペラペラなんだから」

マリアは極度のマタタビ中毒者であり、昼は厳格な修道院長、夜はヘリングのドラッグクイーンとして君臨していた。彼女が煙管キセルからマタタビの煙を妖しく吹き出した時、部屋の影から金属の擦れ合う音が響いた。

「お姉さん、そんなところで何をしているのかな?」

闇の中から、白銀の甲冑を着た聖堂騎士団の斥候――メインクーンの巨漢が姿を現した。彼はマリアの異様なセクシーさに目を奪われつつも、冷酷な笑みを浮かべ、巨大なメイスを構えた。

「ここは異端の土地だ。大人しく捕縛されれば、神のお慈悲で苦しまずに済ませてやるが――」

「あら、メインクーンのお兄さん。そんなに硬い鎧を着て、肩が凝らないかしら? アタシが少し、解してあげるわ」

マリアがベッドからしなやかに舞い降りた。その動きはセクシーでありながら、一瞬の隙を突いてメインクーンの巨漢の首を股間に挟み込んだ。

『三角絞め』!!

「がっ……は……!? な、なんだこの、圧倒的な……セ、セクシーさと、絞め……技……!」

巨漢の聖騎士は、恐怖と歓喜の混ざり合った涎を垂らしながら、白目をむいて失神し、ドサリと崩れ落ちた。

「神様にお祈りする暇もなかったわね。ツケはしっかりあの世で払ってもらうわよ」

マリアが妖艶に微笑んだ瞬間、修道院の窓からサスケが飛び込んできた。

「マリア、時間だ! 敵の先遣隊が川を渡り始めたぜ!」

「よし、男たちの泥仕合に、華を添えに行きましょうか!」

河原へと飛び出したマリアとサスケの前に、数千の義勇軍が押し寄せる。

「雑種どもを蹂躙せよ! 聖座に勝利を!」

叫ぶ純血種の騎士たちに対し、サスケが夜空を舞った。『おたまじゃくしのペントラ模様』を闇に紛れ込ませながら、驚異的な運動神経で空中を回る。

『バックフリップコークスクリュー720°(セブントゥエンティ)』!!

超高速の回転を伴った肉弾攻撃が、先遣隊の陣形を容赦なく粉砕していく。さらに、闇の中から地鳴りのような足音が響いた。ムサシだ。彼は両手で敵の突撃兵をスリーパーホールドに捉えると、そのまま驚異的な跳躍を見せ、両足の爪を高速で突き出した。

『百烈蹴り』!!

大陸特有の赤い岩石をも粉々に砕く連撃が、義勇軍の鋼鉄の盾を木端微塵に破壊する。敵が恐怖に慄いたその瞬間、ムサシは突如としてその場で腕立て伏せの姿勢からジャンプし、空中で両手を三回叩いた。

伝説の『オットセイ・ターン』である。

あまりのシュールさと、筋肉から滲み出る異様なセクシーさに、敵の純血種のメス兵士だけでなく、一部のオス兵士までが「な、何だあの動きは……気高き我が心が、洗われるようだ……」と呆然と立ち尽くした。

「今だ、でんすけさん!」サスケが叫ぶ。

「待たせたな、血統至上主義の勘違い野郎ども! これが闇市を舐めたツケだ!」

泥にまみれた黒い商人の前掛けを締めたでんすけが、その短い足を爆発的な速度で回転させ始めた。

『アメイジング・ストライド』!!

低重心ゆえに空気抵抗を極限まで減らした彼の突撃は、雪崩のように敵の本陣へと飛び込む。

「短足の気をつけ姿勢」で一発のロケット弾と化したでんすけは、敵の指揮官の脳天へと直線的に突き刺さった。

『ロケット式ヘッドショット』!!

ドゴオオオン!!!

凄まじい衝撃波が河原を駆け抜け、義勇軍の先遣隊は文字通り将棋倒しとなり、壊滅した。

「ば、馬鹿な……我ら気高き純血種が、あんな短い足の頭突き一本で……!」

這いつくばる敵兵たちを見下ろし、でんすけは不敵に笑った。

「短足ってのはな、倒れようにも倒れない『最強の低重心』って意味なんだよ! 覚えておきな!」

だが、勝利の余韻に浸る時間はなかった。地平線の向こうから、本物の絶望が近づきつつあったからだ。



翌朝、険しい断崖に囲まれた『聖なる巡礼路』。

太陽の光を浴びて、薄紫色の長毛を美しくなびかせながら、総主教レオ2世率いる『聖堂騎士団』の本隊二万が、堂々たる進軍を続けていた。

白銀の甲冑が連なるその隊列は、まるで光の河のようであり、大陸最強の武力の威容をこれでもかと見せつけていた。メインクーン族特有の強靭な骨格と、ライオンを思わせる威風堂々たる風格が渓谷を埋め尽くしている。

「総主教聖下、先遣隊がヴェルデンハーフェンの雑種どもに撃破されたとの報が」

聖騎士の報告を聞いても、レオ2世の峻厳な顔はピクリとも動かなかった。

「ふん、烏合の衆の義勇軍など、所詮はその程度だ。だが、我が聖堂騎士団のメインクーンたちの前には、マンチカンの玩具のような突撃など通用せぬ。神の調和の前に、すべての雑種は平伏するのだ」

その時、巡礼路を囲む切り立った断崖の頂に、ひとつの影が現れた。

美しきラグドール、アルフォンスだ。彼は風に白い毛並みをなびかせながら、手にした采配を静かに見下ろした。

「これより、我が共和国の真のカ――否、『商人の知恵』を示します。総主教レオ2世、神の加護が物理法則に勝てるか、試してみましょう」

アルフォンスが采配を振り下ろした瞬間、断崖の上流に仕掛けられていた罠が発動した。

それは、かつてアムレシアやノルフィヨルドの戦いでも敵を恐怖に陥れた、海運国ヴェルデンハーフェンならではの、最悪の泥流だった。

渓谷の堰が一気に決壊し、大量の水と共に流れ込んできたのは――特産の『ニシンの内臓の山』である。経済封鎖によって倉庫に満杯となり、行き場を失って腐りかけていた数万尾分のニシンの残渣が、アルフォンスの手によって「最凶の生物兵器」へと生まれ変わっていたのだ。

ドブゥウウウウウ!!!

「な……なんだ、この世の終わりかのような生臭さは……!? ぐはっ、目が、鼻が曲がる……!」

さしもの聖堂騎士団も、突如として足元を襲った「魚の内臓と脂の泥流」に大混乱に陥った。お高くとまっていたメインクーンたちの気高き薄紫や白銀の毛並みは、一瞬にしてドロドロの脂まみれになり、強烈な生臭さが渓谷中に充満する。

「うわあああ! 我が気高き毛並みが! 誇り高き長毛が脂ぎって束になっている!」

「足元が滑る! 骨格が重すぎて泥濘ぬかるみから抜け出せん!」

重厚な体躯と長い毛皮という、メインクーンの誇りであり強みであった特性が、この底なしの生臭い泥濘の中では、完全に仇となった。さらに、気化した濃厚な魚の脂の臭いが彼らの鋭い嗅覚を破壊し、まともに目を開けることすらできなくなっていく。

「そこへ、僕たちの特攻隊長を投入します」アルフォンスが冷ややかに微笑む。

「行くぞおおお! 野郎ども、雑種猫の底力を見せてやれ!」

断崖の上から、でんすけを先頭に、ムサシ、サスケ、マリア、そして旧アムレシアのノルウェージャン重装兵たちの『混合軍』が飛び降りた。彼らは泥濘など意ともせず、驚異的な柔軟性で着地すると、混乱する聖堂騎士団へ容赦なく襲いかかった。

「おのれ、不浄の雑種どもがァ!」

泥まみれになりながらも、レオ2世が巨大な黄金の聖杖を振り回し、地響きを立ててでんすけの前に立ちはだかった。その巨体が生み出す質量攻撃は、周囲の雑種猫たちを風圧だけで吹き飛ばす。

「でんすけ、危ない!」

後方からマシロが叫び、プリンセスクローを構えて飛び出そうとするが、でんすけはそれを制した。

「マシロ、下がってろ! ここは俺が、あの偉そうな総主教の鼻柱を叩き折る!」

でんすけは短足を踏ん張り、短足特有のぶれない軸回転を始めた。雪を、脂を、泥を蹴って、その身体が高所へと爆発的な推進力で跳躍する。

「神の秩序だと? くだらねぇ! 俺たちはな、自分が雑種だろうが何だろうが、この足で立って、美味いもん食って、仲間と笑って生きてるんだよ! その日常を、お前らの勝手な物差しで異端なんて呼びせてたまるか!」

高所へと上り詰めたでんすけの身体が、月光ならぬ朝日の光を浴びて、激しく逆さに回転を始めた。繰り出されるのは、彼の最大奥義。

『垂直落下式ピルムショット(逆さ頭突き)』!!!

「神に仇なす異端め、我が聖なる一撃で肉塊に変えてくれる!」

レオ2世が黄金の聖杖を真っ向から振り下ろす。

バチィイイイイインッ!!!!

金属と頑強な頭蓋が激突する、絶叫のような音が渓谷に響き渡った。でんすけの超高速回転から放たれた質量以上の破壊力は、レオ2世の振り下ろした黄金の聖杖を文字通り粉々に砕き散らし、その巨体の脳天へと直撃した。

「ごふっ……!? ば、馬鹿な……神の……調和が……短い足に……」

大陸最強と恐れられた『薄紫のメインクーン』の巨体が、ニシンの脂まみれの泥濘へと、完全に叩き伏せられた。

静寂が、巡礼路に訪れた。

総主教の敗北、そして完璧に汚された毛並み。それは、聖堂騎士団という完璧な秩序の、決定的な機能停止を意味していた。

「そ、総主教聖下が、倒れた……」

誰かの呟きがドミノ倒しのように広がり、戦意を完全に喪失したメインクーンの聖騎士たちは、一人、また一人と武器を地面に落とし、その場に膝を屈していった。

「戦いは、終わったな」

アルフォンスが静かに采配を収めた。



数日後。

聖都クリスタルヘイムとの和平協定が再び結ばれ、ヴェルデンハーフェン共和国に対する破門と異端の表明は、正式に撤回された。にゃんこ聖教は、雑種猫たちの生存権と経済力を認めざるを得なくなったのだ。

ヴェルデンハーフェンの最高政庁の一室。

「痛ててて……。やっぱりあの技は、腕が短いから自分の顎を少し打つんだよな」

でんすけが顎をさすりながら、やれやれとため息をついていた。

「お疲れ様でした、でんすけさん」

マシロが優しく夫の汚れを拭い、クススクと上品に笑った。

「でも、本当に格好良かったですよ。総主教様の大きな杖を跳ね返すなんて」

「はは、マシロちゃんにそう言ってもらえるなら、顎の痛みも吹き飛ぶぜ」

照れまくってスイカ模様の顔を真っ赤にするでんすけの横から、ひょっこりと顔を出したのはマリアであった。

「あらあら、熱いねぇ。異端撲滅運動を返り討ちにして、今度は夫婦の熱気でこっちを焦がす気かしら?」

「マリア! 邪魔しないでよ!」

でんすけが怒ると、マリアはウインクをして見せた。

「冗談よ。でもね、でんすけ。アンタがこの大陸の教会の歴史まで変えたのは本当よ。これからは純血も雑種も関係ない、みんなが楽しくマタタビを吸って、美味いニシンを食べられる世界が、本当に広がるかもしれないわね」

離れた場所では、アルフォンスが静かに窓の外の街並みを見つめていた。その隣には、無口なムサシと、相変わらず若いメス猫をくどいているサスケがいる。

「アルフォンス様、次はどうされるのですか? 聖教の権威を失墜させた今、我が国は名実ともに大陸の中心ですよ」

サスケが声をかけると、麗しき軍師はふっと美しく微笑んだ。

「僕はまた、書類の山に戻るさ。軍師の出番がない世界こそが、最も平和で美しい世界だからね。……だが、もしまた『でんすけ商会』が困ったときは、美味しいキャットフードと一緒に呼んでくれれば、考えてあげなくもないよ」

「フッ……違いねえ」

ムサシが珍しく口元を緩め、腕立てジャンプからの『オットセイ・ターン』を繰り出した。

チャチャチャッ!

「キャーッ! ムサシ様素敵一つ!」

遠くで見守っていた街の若いメス猫たちが悲鳴を上げる。

赤き土の大地、テラコッタ大陸。

聖職者の権威が去り、平民たちの逞しい笑い声が響く今、この大地に訪れたのは、血統を超えた絆と、未来を切り拓く猫たちの足音であった。

『にゃんこ戦記』の歴史に、また一つ、偉大なる雑種たちの英雄譚が刻まれたのである。

しかし、アルフォンスの視線は、再び西の水平線へと向けられていた。

「でんすけ様、忘れてはなりません。今回の経済封鎖を裏で糸を引いていたのは、聖都だけではありません」

「え……?」 でんすけが振り返る。

「聖堂騎士団に大量の『真鍮の甲冑』と『最新の輸送機械』を貸し付け、この巡礼路の作戦を提案した者がいます。それは、先日の敗北を根に持ち、我が国のニシンとマタタビの利権を合法的に買い叩こうとした、西の『鉄鉄帝国』の残党です。奴らは、宗教の権威を利用して我が国を潰そうとしたのです」

アルフォンスの手元には、聖堂騎士の遺品から回収された、真鍮製の奇妙な歯車と、鉄鉄帝国の刻印が押された密約書が握られていた。

「なんだって……!? あの鉄クズども、まだ凝りてねえのか!」

でんすけが前掛けを強く締め直した。

「奴らの本拠地は、西の峻険な山岳地帯にそびえる、文字通りの『黒鉄の要塞都市』。今回の敗北で、奴らは宗教という盾を失いました。次は、自ら自慢の機械兵器を総動員して、我が国のすべてを焼き尽くしに来るでしょう」

アルフォンスの青い瞳に、冷徹なまでの逆襲の炎が灯った。

「毒を食らわば皿まで、です。我らを舐めて裏で糸を引いていた西のブリティッシュショートヘアどもに、誰が本当のテラコッタ大陸の覇者であるか……こちらから教えに行ってあげましょう。でんすけ様、前代未聞の『西海遠征』の準備を開始します」

テラコッタ大陸に訪れた仮初めの静寂は、一瞬にして、次なる大戦へのカウントダウンへと変わった。雑種猫たちの生存を賭けた戦いは、ついにその舞台を西の未開の地、鉄と蒸気の帝国へと移そうとしていた。


西への遠征を決意したでんすけ共和国軍。目指すは、鉄鉄帝国の心臓部であり、年中黒い煙を吐き出す難攻不落の要塞都市「アイアン・フォート」。しかし、西への行軍の前に立ちはだかるのは、底なしの泥濘と不気味な機械の罠が仕掛けられた『黒き煙の広大な沼沢地』だった。さらに、帝国の誇る天才科学者にして、冷酷無比な暗殺長毛猫『ガスト・グレー』が、でんすけたちの命を狙って闇から迫る!次回、第三章「黒沼地の機械暗殺網」。「短足の気をつけ姿勢を舐めるなよ! どんな泥沼だろうが、この低重心で突っ切ってやる!」

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