[SIX PATHS 003] 其は六界を繋ぐ狭間の門
# The Gate Between Worlds Connecting the Six Realms:
病院の清潔な白いカーテンが、春の風に流れてふわふわと揺れていた。
昼の眩い陽光が窓から差し込み、毛先にゆるくウェーブのかかった、結衣の黒い髪を照らしている。
とても穏やかな景色だ。
もうこんな姿は見られないと思っていた俺は、また少し目が潤むのを感じ、眉間を抑えた。
俺の視線の先では、結衣がベッドの上で半身を起こし、魔力を練り上げている。
そばの丸椅子に腰を下ろした俺は、その様子を落ち着かない気持ちで見つめていた。
握った拳が少し汗ばんでいることに気が付き、売店で買ったぺらぺらのシャツの裾で拭う。
あらかじめ病室には、リリスによる認識阻害の魔法がかけられていた。
とんでもない魔法をぽんぽん使っている割に、平然としているリリスは、まぶたの半分落ちた目元で俺たちの様子を眺めていた。
いや、俺には彼女の表情に乏しい顔から心情を推し量ることはできないのだが。
俺のまっすぐな視線を受けた結衣が、少し恥ずかしそうにしながらも集中を続けていた。
やがて、彼女の全身から、うっすらと水色を帯びた白い光が漏れ出してきた。
「こ、こうかな? わっ、出たよ! これがわたしの魔力なの? ……綺麗」
「おお! すごいぞ、結衣。すごく神秘的な光だな。……同じ時空なのになんで俺の魔力は、あんなにどす黒いんだ」
リリスの涼やかな声が、背中から聞こえてきた。
要点を結衣に訳さないといけない俺は、彼女の聞き心地のいい声に耳をすませた。
「時空という魂核は同じでも発露する魔法属性は違う。お前は重力で、妹は時間なのだ。綺麗に見えるかもしれんが、恐ろしい力だぞ。慎重に扱え」
リリスの語る内容を掻い摘んで、俺は結衣に伝えた。
「ふむふむ。分かりました。気をつけますね、リリスさん。本当にありがとうございます!」
結衣はぺこりと頭を下げてから、ちらりと俺を見た。
「それにしても、お兄ちゃんの彼女じゃないのは残念だったなあ。でも、きっとこれからなんだよね。頑張ってね、お兄ちゃん」
「はは、そうだな。よし、結衣。次は詠唱だ」
詠唱の内容や、精神の在り方などを書いた紙を、結衣に手渡す。リリスから教わった内容を書いておいたのだ。
ペンで紙にメモを取るなんて、数年ぶりだ。
普段、メモを取るのに使っていたスマホはリリスの稲妻を受けて完全にぶっ壊れていた。
結衣が真剣な表情でメモの内容に視線を走らせ、ちらりとこちらを向いた。
「ありがとうお兄ちゃん、リリスさん。ふんふん。よし! なんとなく分かったよ。イメージが大事なんだね。……と、時の妖精よ……えへへ。な、なんか恥ずかしいね、これ。お兄ちゃんあっち向いてて!」
俺は真顔で答えた。
「嫌だよ。お前の初魔法だぞ。俺は目をそらさないからな」
「ソースケ。お前……まあよいか」
「もう。お兄ちゃんたら……仕方ないなあ」
結衣は小さく口を尖らせたあと、表情を正し、メモに書いてある歌を紡ぎ始めた。
何度かの失敗のあと、リリスの助言を受けた結衣の歌が、魔力を魔法へと変化させた。
「——時の妖精よ。わたしの意思すら超えた流れを、神秘の風で押し留めて」
結衣の周囲を、そよ風のように流れていた、水色を帯びた光の魔力が勢いを増していく。
やがて、彼女の身体がひとときだけ、淡い光を放った。
「ん。成功だ」
「お、おお! さすが結衣だ! 可愛くて天才だ!」
「や、やめてよ。お兄ちゃん。リリスさんもいるんだよ……」
呆れの混じったリリスの声が届いた。
「はしゃぐな。うるさいぞ、ソースケ。いやしかし、本当に筋がいい。魔力暴走で階層を飛び越える愚かな兄とは違うな。立派な探索者になれるぞ。だが、詠唱で魔法を編むのは私たちの世界のやり方だ。人前で使わないようにしろ」
ひとごこちついた俺は、きこきこ椅子を揺らしながら、後ろのリリスへ顔を向ける。
輝くような金糸の髪を揺らすリリスが、じとっとした目元で俺に視線を返した。
「ありがとうな、リリス。これで一安心なのか?」
「しばし待て。少し診よう」
右手に握った銀の杖を下ろしたまま、リリスが結衣に歩み寄った。
結衣のおでこの真ん中に、左手の白く小さな手のひらを添えた。
リリスは、集中するようにまぶたを閉じたあと、こちらへ顔を向けた。
「昨夜を凌ぐために行った探索者覚醒に加えて、時の魔法も上手くいった。精度も素晴らしい。この分なら病の進行を二、三ヶ月は止められる。その間に手術とやらを行うといい」
リリスの宝石のような碧い瞳が、俺をしっかりと捉えていた。
「……さっきの話を忘れるなよ、ソースケ。娘自身の力で運命は停滞した。それでも一年がいいところだ。次は兄の力の見せ所だ」
「ああ、任せてくれ。前人未到の迷宮攻略。やってやるよ」
俺は立ち上がり、結衣の頭を撫でてやると、リリスに向き直って右手を伸ばした。
リリスはその手に視線を向け、眉を上げてこちらを見た。
「む? なんだ?」
「握手だよ。これからしばらくは仲間みたいなもんだろ? 一緒にいる間はよろしく頼むよ」
リリスは、しばし思案したあと、白い腕を伸ばし俺の手を取った。
じとっとした目元のまま、彼女が口を開いた。
「仲間ではなく、お前は下僕だ。オレンジジュースは定期的に奉納するのだぞ、ソースケ」
お、今のは分かったな。喜んでいる。
結衣が、ベッドの上でこちらへ身を乗り出して言った。
「お兄ちゃん、わたしも元気になったら一緒に探索者をやるからね!」
「……絶対に駄目だ。兄は許さないぞ。お前はどこかの企業でオフィス務めでもしなさい」
「むう。まあいいか。元気になったら勝手に付いていこっと」
俺は小さく息を吐いて、肩をすくめた。
シャツと一緒に買っておいたサンドイッチを、病院食を摂る結衣と一緒に食べながら俺たちは談笑した。
リリスは小さな口でトマトサンドをはみながら俺たちの様子を、ゆったりと眺めていた。
しばらくして、俺は結衣にこれからしばらく横浜の迷宮に潜ることを伝え、リリスと共に病室を後にした。
リリスの踵の高い編上げの靴が立てる、かつかつという音が俺の耳に届く。
窓の外では、晴れやかな青空に少しずつ雲が浮かび始めていた。
俺は、決意を示すように腰に差した刀の鞘を左手でぐっと握った。
カーボン複合材の硬さが、手のひらから伝わる。
朝方、結衣が目を覚ます前にリリスから聞いた話を、俺は思い返していた。
◇ ◇ ◇
俺は気がつけばアンデッドになっていた。
腰を据えてリリスと話をするべきだと思った俺は、彼女を連れて屋上から病院の食堂へ移動していた。
アンデッドの件もそうだが、そもそも俺はこの妖精のように美しい少女のことを何も知らないのだ。
オレンジジュースの注がれたグラスに差さったストローを、リリスが不思議そうに眺めていた。
俺の視線に気がついた彼女が、顔を上げた。
「ソースケ、私に見惚れるのは当然だから構わない。だがなぜ、すでに平然としているのだ。お前はアンデッドになったのだぞ」
「み、見てねえし。……そりゃ、初めは驚いたけどさ。あの状況でチャンスが降ってきたんだ。それくらい別に構わないかなって。話を聞く限り、そんな悲惨でもないしな」
俺はアイスコーヒーに浮かぶ氷を、プラスチックのストローでつついて遊びながら答えた。
リリスは、表情の分かりにくい仏頂面の眉根を寄せた。
「……お前、少しおかしいぞ。殺した私の言うことではないが。気をつけろ。人であるかどうかを決めるのは精神だ。あまり、妹に……いや、まあ、今はいい」
「なんだよ。歯切れが悪いな。……しかし、お前って本当にエルフだったんだな」
熟練探索者のリリスによると、迷宮とは、他の世界と俺たちの世界を繋ぐ通路であるらしい。そんな話は初めて聞いた。
リリスは、東京迷宮を超えた先の世界から来た他世界人だと言う。
東京迷宮の入口は、リリスの世界から見れば、向こう側の迷宮の出口というわけだ。
俺はあの意味の分からない事故で、同じ迷宮の違う階層にいたリリスの戦いに乱入して死んだのだ。
とんでもない悪運だ。俺の運命の糸はねじ曲がっているに違いない。
俺のぼやきを聞いたリリスが、小さく息を吐いて答えた。
「意味が分からなくなどない。重力の性質からすれば当然だ。それにおそらく、お前の重力属性は、ステータスの表記以上のとち狂った階位だ」
アイスコーヒーで喉を潤し、苦笑して俺は答えた。
「ま、ゾンビになった影響なのか、レベル1になってたけどな」
「リビングデッドだ。そうなのか? ふむ。それは僥倖かもしれん。レベル1なら使いようがある」
結局、リリスはストローを抜いてテーブルに置き、グラスへ上品に口をつけた。
小さな唇で喉を潤すと、表情を正した。
彼女は、眠そうな目元を細め、碧い瞳を真っ直ぐに俺に向けた。
「話が逸れた。まあ、その件は今はどうでもいい。さきほどの応急処置で病は緩和した。さらに、娘の発露する魔法によってはさらなる猶予も手に入る。魂核が時空ならば可能性は高い。お前らの治癒術……手術だったか? うまく行けば、それに間に合う時間は十分に稼げるだろう」
「そ、そうなのか! よかった……」
笑みを浮かべて身を乗り出した俺を、リリスが静かに手を伸ばして押し留めた。
リリスは、しばらく黙り込んだ。
少しためらうようにしてから、彼女は重い口を開いた。
「最後まで聞け。……いいか。今のままではどうあがいても……寿命はもってあと一年。それ以上は伸びん。お前の妹を殺そうとしているのは病ではない。運命だ。魂核が時空であるせいだ。そういう短命を引き寄せる魂核はいくつかある」
「え……」
——視界が狭まった。
目に映る景色は彩度を落とし、周囲の音が遠ざかっていく。
嘘だろ。いや、きっとリリスは嘘をついて俺をからかっているんだ。
性格の悪いご主人様だ。
世界から切り離されたような感覚の中で、それでもリリスの優しさを含んだ声だけが、わずかに俺の耳へ届いていた。
「……ソースケ。ひとついい話を教えてやる。私はな、偉大な死霊術師なのだ。超天才といっていい。そんな私自ら、しばらくお前を鍛えてやる。代わりに衣食住と、この橙色の飲み物を奉納せよ」
「はは。馬鹿言うなよ、話のとおりなら、強くなっても意味ないじゃないか。……お前の冗談はつまんないよ」
リリスはため息をつくと俺の頭を銀の杖で強めに叩いた。
俺は結構な痛みを覚えて、恨みがましそうに彼女へ顔を向けた。
真っ直ぐに俺へ視線を向けたまま、彼女が言った。
「聞け、愚か者。私は冗談など言わん。運命に立ち向かうための、初めの手助けをしてやると言っているのだ」
一拍おいた後、リリスが小さな唇を開き、重みのある言葉を紡いだ。
「——其は六界を繋ぐ狭間の門。故に、名を六道迷宮とす。神仏へ至るための試練の道。六界を巡り、果てを目指せ」
「はあ?」
得意げに語るリリスの顔を見て、俺は少し苛ついた。
気にした素振りもなく彼女が続けた。
「私の世界での黒い門の言い伝えだ。まあ、実際の探索者は神仏とは程遠い奴ばかりだが。六界すべてに行けば、神になれるのだそうだ。眉唾な伝承ではあるが……神にはなれずとも運命くらい変えられると思わんか」
リリスの話は荒唐無稽な内容だった。馬鹿馬鹿しいと言ってもいい。
けれど、今彼女が俺に与えてくれているのは、一筋の蜘蛛の糸だ。
俺は背を伸ばした。
表情を正した俺を見てリリスが目元を細めた。
「ん。真面目に聞く気になったか。とはいえ、一年で六界を巡るなど不可能だがな。天才の私ですら今回が初めての踏破なのだ。さらに、黒い門は無数にある。踏破した先が、例えばここと同じ獣世界なら意味はない。無駄足だ。四回踏破して、すべて妖精界ということもありえるだろう」
俺は、脇に立てかけていたチタン合金製の刀へ視線を向けた。
奇跡的に無事だった愛刀の、黒い鞘が照明の灯りを受けて鈍い光を返していた。
その様子をみたリリスが、唇の端をわずかに持ち上げた。
「さらにはお前はレベル20だったか? そんな男が、それほどの困難を成し遂げられるはずもないな」
「おい、リリス。俺を鍛えると言ってたな。お前は強いんだろうな?」
リリスはオレンジジュースをくいっと飲み干すと答えた。
「ふん。お前の使役で相当経験値を持っていかれたが、それでもまだレベル180は超えているぞ。ソースケ程度、指先一本でねじ伏せられる」
「よし、鍛えろ。オレンジジュースも任せろ」
俺は、顔を上げリリスの顔を見てはっきりと言った。
彼女が涼やかな声で答えた。
「ほう。だが、私の世界で六界すべてを制覇した者など一人もいないぞ」
「俺の知る限り、この世界じゃ、そもそも迷宮踏破を成した人がいないよ」
リリスは頬杖をついて、こちらへ視線を向けた。
気のせいかもしれないが、うすく笑みを浮かべている気がした。
「まあ獣は弱いからな。六界の住人最弱まである。諦めたほうがいい」
「嫌だ。前人未到上等だ。道があるなら俺は諦めない」
「分かっているだろうが、必要なのはお前自身が辿り着くことではない。最終的には、妹を連れて行かなければならない。お前は相当に過保護なようだが? そんなことができるのか?」
その光景を思い浮かべ、俺は少し思案して答えた。
「……それが一番嫌だ。まあ、俺がめちゃくちゃに強くなればいいだけだ。そうすれば、家族旅行みたいなもんさ」
「ふふ。ならレベルは300は必要だな」
「そりゃいいや。最強の探索者だな。……なあ、リリス。……その……ありがとう。……それとごめん。投げやりになりかけていた」
俺は立ち上がりリリスのそばへ歩み寄った。
昨晩と同じように、もう一度頭を下げる。
彼女が涼やかな声で答えた。
「まあ、お前は死体になっても現世にしがみつく諦めの悪さだ。その異常な執念で足掻くといい。だが、いいか。手を貸すのはしばらくの間だけだ。私は一年もお前たちに付き合うつもりはない。自分の力を取り戻したら、私は東京迷宮とやらを再び踏破し、自分の世界へ帰る」
「ああ、もちろんだ。そのときは俺も付き合うよ。結衣と一緒にさ」
「そうか。剣士として私の前に立てるよう精々励め」
リリスは立ち上がると、法衣に包まれた尻をぱんぱんと払い、俺に顔を上げるよう促した。
「それとな、ソースケ。男がそう何度も頭を下げるな。礼はいらんから、下僕をやってる間は、せいぜい私にいい暮らしをさせろ」
「……俺はあまり金がないんだが」
リリスが腕を組み眉を上げた。
「知らん。気合を入れて稼げ。なにやら、この世界は魔物討伐で金が入るのだろう? 私と妹のために戦え」
「なんだそりゃ。……分かった。任せろ。いっぱい稼いで三人で豪勢に焼肉だ」
「肉を焼いたものが豪勢なのか? さすが獣だ。変わっているな。……まあよい。では、早めに迷宮へ行き、お前の鍛錬を始めるとしよう。……あの迷宮は六日入れんな。他に近くにあるか?」
もちろん、近場の迷宮はすべて把握している。
リリスの言葉に、俺はすぐに答えた。
「ここから近い迷宮は、横浜かな。電車で一時間くらいだ」
「意味不明な言葉が多いな。妹の手術とやらに払う金のほうは、その横浜迷宮で稼げるのか?」
「ああ。横浜迷宮なら……二十階層の階層主の討伐報酬で足りるはずだ」
実はこの話がなくとも、早急に金を稼ぐ必要があった。
今回の件で失った探索用の服や道具を購入しなおさないといけないのだ。電子機器、特にスマホは早めに手に入れておきたい。
昨晩から俺は、子どものころ以来に行う現金決済の不便さに辟易していた。
一瞬で蓄えは底をつくだろう。
リリスの提案は渡りに船だと言える。
腕を組んで思案しているリリスに、俺は視線を向けた。
彼女のタイトな法衣に包まれた胸元の膨らみが、腕に押し上げられて窮屈そうに持ち上がっている。
「ならば娘のほうが落ち着き次第、そこへ向かう。汚染状況にもよるが、二十階層ならレベル30もあればひとりで倒せるだろう。一気に鍛えてやる。討伐に私が手を貸さない理由は分かるな?」
「お前のレベルが高すぎるからだろ? そりゃまあ、レベル180のやつと一緒に戦っても、経験値なんかほぼ入らないからな。けどさ、結衣の手術費が稼げるまでは、手伝ってくれよ。俺のこと殺したんだしさ」
「うるさい。元気になった途端に甘ったれるな。階層主は経験値が高いのだ。無駄にできん。それと……視線が露骨だぞ。どこを見て話している。この痴れ者が」
呆れた表情を浮かべたリリスが、じとっとした視線を俺に向けていた。
いつの間にか彼女の胸へ視線を引き寄せられていた俺は、慌てて顔を背けた。
「うっ。ご、ごめん」
「ふふ。まあ、気力が戻ってきたということか。私は美しいからな。仕方あるまい。今回は許してやろう」
ちょうどそのとき、俺の左腕に巻かれた銀色の腕輪が震えた。
「通知だ。たぶん結衣が起きたんだと思う」
「そうか。ならば、まずはお前の妹に魔法を授けるところからだな」
俺は立てかけていた刀を手に取り、食堂の出口へ向かうリリスの小柄な背中を追いかけた。
心なしかリリスの足取りが軽くなっている気がした。
視野の狭まっていた俺は気がついていなかったが、彼女はこちらを心配してくれていたのだ。
「お前ってさあ……、いやなんでもない」
「なんだ? ふん。私は厳しいからな。しっかり励むがいい」
◇ ◇ ◇
思考に沈んでいる間に、気がつけば品川医療センターははるか後方になっていた。
リリスと連れ立って品川駅へ向かう俺は、歩道で頭上を見上げた。
空にかかりはじめていた雲は、黒さを帯びてきていて、一雨きそうな気配だった。
二人分の切符を購入し、横浜行きの特急に乗り込んだ。
席に腰を下ろした俺は、身を乗り出して窓の外を流れていく景色を眺めるリリスを見ていた。
眠そうな仏頂面のまま、彼女は脇目も振らず景色を見続けている。
心なしか、碧い瞳がきらきら輝いている気がした。
そんなリリスの美しい相貌を見ながら、表情をあまり浮かべないだけで、結構感動しやすいんだなと俺は思った。
# SIX PATHS 003 END




