第4話
突如として、ガロアの視界が真っ白に白濁した。
少年の手先から、大気を激しく引き裂くような、これまでの人生で一度も聞いたことのない「爆音」が炸裂した。
それは落雷の音に似ていたが、天空から落ちたのではない。
少年の細い手先から、一直線に、物理法則を完全に無視した速度で「超高熱の焔の塊」が放出されたのだ。
「――伏せろ!! 盾を上げろォッ!!」
ガロアが声を限りに叫べたのは、そこまでだった。
直撃だった。
直径約5メートルに及ぶ、純粋な熱量の質量が、アウストラ軍の中央、ガロアのすぐ右隣に位置していた第3百人隊のど真ん中に突き刺さった。
激突の瞬間、発生した凄まじい爆風がガロアの巨体を軽々と宙へ吹き飛ばした。
重さ30キログラムの頑強な鉄の装備をつけた体が、まるで秋の枯れ葉のように翻弄され、3メートル後方の泥濘へと無惨に叩きつけられる。
背中から泥に落ちた衝撃で、肺の中の空気がすべて口から強制的に吐き出された。
視界が激しく赤と黒に明滅し、耳の中では「キーン」という、鼓膜が破れんばかりの破壊的な耳鳴りが鳴り響いて離れない。
「が、はっ……、あ、う、呼吸が……」
口の中に流れ込んできたのは、冷たい泥と、鉄の味がする己の生血だった。
何が起きたのか、脳が理解を拒んでいた。
投石機による攻撃か。
いや、ゼノア軍の陣形に投石機のような巨体は見当たらなかったし、そもそもこれほどの熱量を放つ岩など、この地球上のどこを探しても存在しない。
ガロアは麻痺した四肢を無理やり動かし、泥の中に深く突き刺さった鋼鉄の剣を杖代わりにしながら、よろよろと立ち上がった。
鉄の兜は衝撃でどこかへ吹き飛んでおり、額から流れた熱い血が右目を赤く塞いでいる。
それを汚れた手甲で不器用に拭いながら、彼は自らの部隊があった場所を振り返った。
そこにあったのは、地獄という言葉すら生ぬるい、絶対的な虚無だった。
「……あ?」
ガロアの口から、間抜けな声が漏れた。
完璧に噛み合い、いかなる騎馬の突撃をも防ぐはずだった鉄盾の壁。
ガロアが信奉してきた15年の戦術論が「絶対の防衛線」と認めていたその場所には、直径10メートルを超える、巨大なすり鉢状のクレーターが深く穿たれていた。
クレーターの底の土は、一瞬にして加えられた超高熱によって赤黒くドロドロに融解し、不気味なガスを放ちながら沸騰している。
通常、鉄の融点は約1,500度である。
職人が命を懸けて鍛え上げた強固な鉄の胸当てや鉄盾が、その1,500度を遥かに超える熱量によって、形を保つことすら割愛され、ドロドロの赤い液体となって泥水と混ざり合って流れていた。
鉄が融け、蒸発する際の白い煙が、周囲に鼻を突く強烈な金属臭を撒き散らしている。
その周囲には、さっきまで生きて呼吸をし、故郷の家族の話をしていたはずの100人の兵士たちの姿は、影も形もなかった。
彼らの肉体は、推定摂氏3,000度を超える爆発的な熱量によって一瞬で蒸発するか、炭化して灰へと変わり、風に吹き飛ばされてしまったのだ。
100人の鍛え上げられた重装歩兵の命が、一瞬にして、文字通り「消滅」した。




