第3話 奇跡屋の奇跡
無意識に身体が勝手に動いていた。
「あの…売ってください…」
親身に話してくれるその少女は手に財布を握りしめていた。
「何を買いたいんだい?」
「【奇跡】を売ってください!」
〜〜〜
目の前にいた商人が話しかけてくる。
「そのガキ流行りの薬物やってんだよ……関わんな」
本当にそうなのだろうか?少女が泣きそうになっている。
「もう三日も同じこと言ってるよ」
「こんなのが店の前にいたら商売なんて出来やしない」
その商人はまるで汚物を見ているかのようにしかめっ面を表す。
「あの…奇跡を…」
「だから!そんなもん…」
商人は、不意に手を挙げようとするので、フェイが商人の前に立つ。
「忠告ありがとうございます、後はこっちで」
その姿を見て商人が鼻で笑う。
「あんたも気をつけたほうがいい、ここ最近、詐欺が流行ってるからねぇ?」
嫌味ったらしく商人は店の中に戻った。
「ほ、ほんとうに奇跡が……」
(騙しかもしれない)
(でも見捨てたら後悔する)
「ここじゃうるさいから少しだけ移動しようか」
商店街から少し離れ、噴水の近くで座る。
「僕はフェイ、名前はなんていうのかな?」
「……私は【ティミ】」
「何で奇跡がいるのかな?」
ティミは、涙目で語る。
「わ、私のお兄ちゃんが!【ニューム】が!病気になっちゃって!」
「全然良くなんなくて……お父さんと、お母さんは【奇跡】があったらって……」
「でも、皆、奇跡売ってくれなくて!」
次第にティミは泣いていた。
「奇跡があったらか…」
フェイはとっくに気づいていた、奇跡が起きれば助かる、そう言うニュアンスの話だ。
奇跡を売れる、奇跡屋なんてこの世には存在していない。
「どんな病気だい?」
せめて薬だけでも買ってあげたい、そんな気持ちで話を聞く。
「熱と頭痛と吐き気と…それとそれと…【耳と鼻が青い】って」
フレインの苦しそうな顔が脳裏をよぎった。
「耳と鼻が青い……!」
「それじゃ、病気を治す奇跡がいるんだね?」
「お兄さん奇跡、売ってるの?」
「あぁ!売ってるよ!」
「僕は奇跡屋さん、だからね!」
ティミは目を輝かせてお金を見せる。
「こ、これ私の全財産なの……足りる?」
少女の手のなかには銀貨2枚、銅貨7枚が入っていた。
「銀貨2枚に銅貨7枚!!なんて偶然だ!ぴったりだよ!」
「やった!!本当!!」
「あぁ、家まで案内してくれるかい?」
フェイは大切なお金と少女の手を握る。
少女は、笑顔で家まで案内してくれた。
お世辞にもいい家とは言えない、お金に余裕がなく薬も買ってあげられないのだろう…。
「連れてきたよ!」
ボロボロのベットに横たわっている少年がいた。
「医者を……呼んだのか?」
「そんなお金…勿体ない…から帰ってくれ…」
「違うよ!奇跡屋さん!」
フェイは少年に近づく。
「少し離れててね」
全ての魔力を手に集中させる。
やっぱりそうだ…耳と鼻が異常なまでに青い…一度フレインも同じ病気が発症した。
その時と同じようにフェイは、魔法を使う。
フレインの痛みを和らげるために新しく考えて作ったその魔法を。
妹のために何度も改良した回復魔法。
「E級専用魔法【ヒール(痛いの痛いの飛んでいけ)】」
金色のオーラが少年を包み込む。
しばらくすると少年の顔色がかなり良くなる。
そこに母親が帰ってくる。
「ティミ!?その人は!?」
「この人がお兄ちゃんを助けてくれたんだよ!」
次後ろを見た時にはフェイは居なくなったていた。
「奇跡屋さん?」
消えたフェイを探すために辺りを見渡す。
「ニューム!!」
母親はニュームに近づく。
「本当だわ!良くなってる!」
「良かった!!!ホントに良かった!!」
母親は、怯えながらふと口に出す。
「あの難病を治せるなんて……いったい幾ら払えばこんな処置して貰えるの?」
すると少女は、笑顔で話す。
「【銀貨2枚に銅貨7枚】だよ!」
少女は奇跡の値段を知っていた。
〜〜〜
たまたま救えた命、たとえあの少年が別の病気にかかっていたとしても、フェイはどうにかして救おうとしただろう。
あの時、村長が来てくれた時みたいに。
気がつくと、辺りは橙色の暖かい日差しに包まれている、ようやくこの長い一日が終わろうとしている。
「今日は疲れたな」
中心街から少し離れた所にあるやけに安い宿を見つけた。
〜〜〜
「ふぅ〜疲れたなぁ」
固いベッドに横になる、この部屋にはフェイしかいない。
「僕は一体、後何回この寂しい夜を過ごすんだろうか」
寒い、やけに寒かった。
ふとした時涙が出てくる、色々込み上げてくるものがある。
楽しかった毎日……ちょっとした何気ない仕草
その全てが懐かしく感じる。
いつかは別れるときが来ると分かっていたはずなのに、あまりにも早くて、唐突で、理不尽な別れ方。
全てが悔やみ、悔やみ、悔やみきれない。
「なんだかなぁ……苦しいな…」
胸の奥底…今まで感じなことのない部位が酷く痛む。
人生で一番短い睡眠一番長い夜を過ごした。
〜〜〜
宿屋を去り、次に道具屋に向かう。
「へい、らっしゃい!」
これまた安い店を選んだ。
「とりあえず…これとこれだな」
「F級回復ポーション五つと、ロープだね!」
「お会計銀貨20枚だ」
店を出てため息をつく。
「はぁ〜金欠だ…」
これで万が一の準備は整った【ランカーギルド】へ向かおう。
中心街のまさに中心にある巨大な建物、これがランカーギルドか。
中に入ると、様々な人で溢れかえっている。
「すごい強そうな人ばかりだ…」
僕と同じくらいの大剣を担いでいたり。
かっこいい仮面を被ってたり。
なんか鴉が纏わりついていたり。
「これ皆…ランカーか!」
つい魅入ってしまった、本来の目的を見失ってしまう。
ワクワクする気持ちを抑さえながら受付係の方へ向かう。
「おや?なんの御用ですか!」
美人で愛想のいいまさに、看板娘のような受付係だ。
「何か依頼ありますか?」
「まずランカー証の提示をお願いします!」
手元からランカー証を出す。
「はい!Gランクですと……これなんてどうでしょうか!?」
見せられた依頼は……
「飲水の補充?」
「隣にあるララ村からの緊急依頼です!」
「それじゃこれにします」
「わかりました!後はこちらで処理しますね!」
飲水の補充、どんな仕事だろうか。
〜〜〜
ビルドハイ周辺
ララ村に続く道を辿ってゆく。
「おい!」
「お前かラリオットを殺したのは…」
知らない名前を言われて困惑する。
「こう言えば分かるか…お前が殺した山賊のこだよ」
思い出すのは手の鮮血。
「昨日の山賊……」
罪の意識が僕を包む。
気がつくと2人に囲まれていた。
「あいつの借り、返してもらう」
そう言い短剣を突き出してくる。
「っ…!」
間一髪で避けるが後ろから追撃が来る。
「死ねぇ!」
(これは!避けられない!)
心臓を突き刺す短剣がフェイの身体に届きうるとき。
ガギィン……!!
「なっ!」
「これは…転元!?」
勝手に動いた転元は確かにその短剣から身を守った。
能力を使い、炎に燃えた剣で薙ぎ払う。
山賊は一度後ろに下がり距離を取る。
(何故か昨日よりも転元が良く手に合う)
一人が鎖を生み出しそのまま放出する。
しかしフェイの炎が全てを溶かす。
「その炎…本当にG級ランカーか?」
「立て直せ!」
後方の山賊が手を構えたままそう言い放つ。
「G級水魔法【ウォーターアロー】」
矢の形をした水魔法がフェイを襲う。
「くっ…!」
矢がフェイの右肩を掠める。
だが…フェイの捨て身の反撃が一人の山賊を炎で包む。
「この炎、消えねぇ!!」
後残されたのは後一人だけ。
右肩の血が肘から滴り落ちる。
知らないはずの剣技が脳裏をよぎる。
身体がこの技を知っている。
「F級剣技【天元】」
剣が不思議と滑らかに動き。
目にも留まらぬ斬撃が山賊を襲った。
「こんな動き…した事ないはず…?」
ランカー証が光り出す。
【G級ランカー、2人撃破!スコアUP】
【スコアが一定量を超えたためランクUP】
【フェイ=アリアス、F級昇格!】
【機能解放!聖騎士団要請・単独魔物討伐】
無機質な光が目の前に浮かぶ。
感情のない文字だけが増えていく。
無情に告げる報告が罪の意識を引き立てる




