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見えない指

 ついに4回戦まで来た俺はチックルとの対戦することになる。

 ここで勝てばベスト8だが、それが無理なのはわかってる。

 どんな酷い目に合わされるかわからないが、とにかく俺はチックルと対戦する事を選んだ。

 3回戦の試合をした寸止は敗退した。相手は特殊乳首系ではなく打撃系だった。まだ打撃を使えるようになって日が浅い寸止が力負けしてしまった。それでも俺は善戦したと思う。


 4回戦の試合が始まる時間が近づき、俺はスタッフのチェックを受け、第一試合場のセンターラインでチックルと向かい合う。

 チックルは身長が190cmあるということだ。長身というだけでなく体はがっしりとしている。西欧が入っているだけあって我々とは骨格のスケールが違う感じがする。赤いジャージの襟を立てて、黄色いシャツをのぞかせている。

「なにジロジロ見てるんだよテメー。観察したってお前みたいなカスが俺に勝てるわけないんだからな」

 口も悪いな。チックネンの教育が良かったんだろうな。

 俺は後ろに見える巨体にピントを合わせた。チックネンは親指を立てた手を前後させチックルを応援している。でもさっきの感じだとチックルの日本語は良くわかってないようだ。

 礼をする。じゃんけんで俺が先攻になった。

 まずはチックルから一本取らなければならない。そうすれば後攻のチックルは同じく一本を出してあいこにするしかなくなる。だが外すと違う所に強烈な打撃が来る。俺の腕は折られることになるだろう。この初手は非常に重要だ。

 俺は集中する。危機を感じると俺の集中力は高まる。俺は普段より早く光が見えていた。奴の乳首は特殊乳首系ではないようだ。


 俺は勢いよくチックルの乳首を突く。

 ブッブー

「無効」

「そんなばかな。外れた?」

 チックルが含み笑いをした。

 今のは間違いなく一本だった。奴の乳首のど真ん中を突いたはずだ。機械の誤判定か?いや。何かおかしい。

「さーあ。どこからぶっ壊そうかな」

 そう言いながらチックルはセンターラインから後ろに下がって行った。

 俺は首を傾げながら赤く短いライン上に立ち指突を待つ。

 早くもピンチだが、奴が俺の腕を確実に折りにくるというなら一つ策がある。


 チックルは3メートル距離を取り俺の方を向いた。腕を曲げて人差し指を上に立てた。

 2丁拳銃を持ったガンマンのようなポーズだった。

「俺は構えなんて別に必要ないんだが、ルール上はしなくてはならないらしいからな」

 指を前じゃなくて、上に立てている?どうやって指突するつもりだ。

 集中するんだ父首中。奴の指の動きをよく見るんだ。この距離なら避けれるはずだ。

 チックルの指に全神経を集中させる。視界が狭まって行く。

 20秒ほどして指が微かに動いた。

「きた」

 俺は胸を前に出し、出来る限り腕を体の後ろに隠す。直ぐに何かが腕の横をかすっていった。

 判定機械からは何の反応も無い。

 チックルは舌打ちして言った。

「くそ審判。俺が指突したのが見えなかったのか?」

 主審は言われて気づき、副審の元に行き、そして審判が集まって話していた。

「全く使えねえ審判ばっかりだな。それでよく審判が務まるな」

 審判はチックルの指突が全く見えないので判定に時間が掛かっているようだ。頼みの判定機械もチックルの指の動きが速過ぎて捉えられてない。

 高速度カメラがないと奴は野放し状態だ。好きな事が出来る。

 俺を見たチックルは「良く避けたなお前。今までの奴等とは少し違うようだ。これはぶっ壊しがいがあるな」

 楽しそうに笑った。

 主審が戻って来て「無効」と言い再開された。


 次のターン。俺の先攻になる。俺はまた同じように突くだけしか出来ない。

「お前は打撃が出来ないのか?それともまだ気付いてないのか?」

 チックルが気になる事を言った。

 気づいてないとは一体どういうことだ?

 チックルの乳首が光り出す。集中するんだ。もっと、もっと。とにかく正確に乳首を突くことを考えろ。そして今度は奴の動きも見るんだ。絶対に何かをしているはずだ。

 俺はチックルに真っすぐに指突する。

 そして俺の目は奴の超高速の手の動きを捉えた。何が起こっているのかやっと分かった。俺の腕にチックルの指が一瞬触れて、俺の指突の軌道がほんの少しずらされていた。

 ブッブー

「無効」

 俺は愕然としていた。これはもう乳首当て競技ではない。こんな事をされたら俺が試合に勝つ事は絶対に出来ない。

 考えたことも無かった。こんなことをする奴が居るなんて、全く想定外だった。

「なぜだ?なんでお前はまともに勝負しようとしないんだ?」

「俺はただ弱い奴をぶっ壊したいだけなんだ。こんな糞競技なんかどうでもいいんだよ間抜け」

 俺は怒りに火が点く。こんな奴が乳首当て競技をしては駄目だ。こいつは絶対に倒さなくてはならない敵だ。


「じゃあ俺の番だな。腕は避けられるから、次は違う所をぶっ壊さないとな」

 チックルは攻撃位置につく。俺も定位置に立った。

 腕以外は隠しようがない。体を動かしたら失格になる。俺は木偶のように立つしかない。

 しかし奴のことだから意表を突いてまた腕を折りにくるかもしれない。とにかく俺が出来るのは腕を隠すことだけだ。

 チックルの手の微かな動きを見て俺はまた腕を後ろに隠す。

 だが奴は俺の両脛を狙っていた。家の家具にぶつけたどころの話では無い。俺はあまりの痛さに呼吸が止まり。床を転げ回る。

「あああああああ」

「無効」

 俺の元に主審が来て「大丈夫か君」

 俺は頷く。主審は耳元で囁いた「彼の対戦者はみんな酷い怪我をさせられている。ここで棄権しなさい」

「い、いえ。まだ大丈夫です」

 なんとか立てそうだった。骨は大丈夫そうだ。

「おー。根性あるじゃねえかお前。なあ婆ちゃん」後ろを向くチックル。

 チックネンが親指を立てて前後する。それしか出来ないのかこの婆さん。

「コロセ。チックル」

 ん?今なんか不穏な言葉が聞こえたぞ。

「焦んなよ婆ちゃん。次で殺すからな。足は手加減してやったんだ」

 俺の先攻だ。俺は脛の痛みに耐えながら足がふらつかせチックルの前に立った。

「よし来い。次でお前は死ぬんだからな。悔いのないように突け」

 チックルは微笑み両腕を高く上げて万歳ポーズした。

 俺は光を突いた。

 ブッブー

「無効」

 今度も指突の軌道を指でずらされた。手を挙げていた位置から邪魔された。こいつの手技は異常すぎる。

「ブッブー残念でした。下手くそだなお前」

 俺は体の力が抜けた。俺は無力だ。何も出来ない。

 チックルはまた三メートル先の定位置に行く。


 俺はふがいない自分に涙が出て来た。

「なんだ。あいつ泣いてるぞ。婆ちゃん。男のくせに泣いてやがるよ」チックルは愉快そうに笑った。

「コロセ。チックル。アイツ、ブッコロセ」

 俺は何気なく後ろを振り向いた。うちの陣営はお通夜のようになっていた。

 指子が泣いている。すまない。お前の言う通り俺は棄権していれば良かったのかもしれない。審判もそう言ってたが俺は断わってしまった。

 胸筋太郎がチックルに勝てると言ってたから俺は勘違いして調子に乗ってたんだ。褒め上手なんだあいつは。いや、言い訳してもしょうがない。決断したのは俺自身だ。


 俺はチックルを見る。本気の指突をしてくるようだ。初めて俺に指を向けて構えている。

 目つきが鋭くなり、体に力が入ってきているのが分かる。

「気を付けて。両指指殺が来るわ」指子が叫んだ。

 チックルが指子を見た。

「へー。ゴミ共の中にも俺がやってる事がわかる奴がいるんだな婆ちゃん」

 チックネンは指子に向けた親指を下に向けて、舌を出しながら首元で横に引いた。

「面白いだろ。うちの婆ちゃん」

 そして俺の方を向いた。

「さあ。処刑の時間だ。何か言い残す事はあるかポンコツ野郎?」

「お前は許さないからな。絶対に」

「だったらどうするんだよ間抜け」


 チックルが人差し指を勢いよく前に出し指突をした。これは危険だ。俺は身構える。

「うぐっ」

 俺は一撃目の凄まじい胸への衝撃で気を失いかけた。少し前のめりになったら次の二撃目の衝撃が来た。

「ぐう」

 床に倒れた時、気を失ったと思ったが、俺は何故か立って前を向いていた。

 視界はかなり歪んで狭くなっている。中心しか見えない。

 チックルは腕を組んで不敵な笑みを浮かべて俺を見ている。チックネンは俺を指さし下品な顔で笑っている。

 俺は腹の底から怒りが沸いてきた。何がそんなに可笑しいんだ?

 お前がしているのは乳首当て競技の試合なんかじゃない。ただの一方的な暴力だ。

 俺は絶対許さない。次の犠牲者が出る前にここで止める。

 チックルの乳首が光り輝く。二つの円が大きく強く輝いていく。

 激しい光が俺の視界を塗りつぶしていく。太陽を直視しているような焼け付くような眩しさになる。そこから目を背けたくない。目が潰れてもいい。一面激しい輝きの世界になっていた。


「煌めきが」


 次に気付いた時、俺は体育館の床を見ていた。どうやらうつ伏せに倒れているらしい。顎には涎がべっとりと付いている。

 体を動かそうと思っても全然動かない。顔だけはなんとか上げれそうだった。前方を見ると二足の靴底が見える。赤いジャージのズボンが見える。チックルが倒れているのか?

 その近くにチックネンが居た。半狂乱になって頭を抱えているようだった。周りには大会スタッフが数人倒れている。選手も何人か倒れている。一体何があったんだこれは?

 すると視界が急に遮られる。

「指子先輩。部長が目を覚ましたっすよ」

「ほんと?」

 一瞬明るくなったが、また視界が遮られた。良く見ると指子が俺の顔を覗き込んでいた。

 指子の目と鼻が真っ赤だ。泣いているのか?目の上には紫の大きなこぶができていた。それだけじゃない。額と頬には大きな青あざがあった。首も青い。一体何があった?

 俺は声を出そうとすると胸に激痛が走り、息が出来なくなった。

「ちょっと。無理しないで」

 何度か慎重に深呼吸して、少しづつ声が出るようになっていく。

「これは、なんだ」

「なに?」

「何でチックルが倒れてるんだ」

「覚えてないの?あなたがやったのよ」

「俺が?どうやって?」


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