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難中の指子

「難中?」

「僕たちが通っていた難癖中学です。略して難中」

 嫌な名前の中学校だな。

「同好会でもいいから乳首当て部作りたいので協力して欲しいと指子先輩は担任の教師に相談していたそうです。好奇の目で見られるのは嫌だから生徒には言わないで欲しいと言いました。ところが担任の教師は指子先輩が乳首当て部を作りたいという事を直ぐクラスにばらして生徒達と一緒に笑いものにしたんです。親が乳狂治だという事もばらしてしまいました。指子先輩はそれから馬鹿にされ酷い目にあったようです」

「その担任の教師は最悪だな」

 俺は怒りがこみ上げてくる。

「そうなんです。指子先輩は耐えて頑張っていたんですが、乳首当て部を作るのを諦めた時、豹変してしまったんです。笑った生徒を指で殺してしまいました。担任の教師もその後直ぐに辞表を出して学校を辞めてしまったということです」

「ちょっと待ってくれ。殺したというのは本当に?」

「ああ、すみません。僕らの中学では半殺しにするのを殺すと言うんです」

「そうか。紛らわしいな。それなら良かった」

 指子は練習試合の時もいつも殺すとか言ってたから物騒な奴だと思っていたが、中学の時の隠語だったんだな。

「それから指子先輩は凄まじい指突で気に入らない奴等を殺しまくり難中に名が知れ渡りました。指子先輩が人差し指を立てるだけで周りがピリつくようになりました。その頃、僕は難中に入学したんです。弱肉強食の世界で底辺だった僕は直ぐにいじめられるようになりました。校舎裏で袋叩きにあっていると、たまたま見ていた指子先輩が助けてくれたんです。でも、その時の指子先輩は暗く、淀んだ目をして怖かったのを覚えています」

 俺は毎日だらだらと過ごしていたが、指子は凄い中学時代を送っていたんだな。

「その出会いからだんだんと指子先輩とは仲良くなっていきました。僕が県外に引っ越して高校で乳首当て競技を始めたのも指子先輩の指殺の影響です」

 なるほど。それでアダムは今大会に参加してるのか。

「難中で誰が一番強いかを決める恒例行事があったんです。女に舐められてたまるかと次々と男子は指子先輩に挑みました。ボクシング部の原田はKOしてやると意気込んでいたんですが、顔を倍に腫らして戻ってきました。機関銃に竹やりで突っ込む馬鹿がどこにいると自分を責めて反省していました。近接なら勝てるとアメフト部の井上は廊下で危険タックルを噛ましたんですが、指子先輩の腰は柔道家のように強くびくともしませんでした。逆に井上の顔面に膝蹴りを入れてKOしてしまいました。それを見た男子達は『あいつ近接もイケるんじゃね』と言って、それ以降は指子先輩に挑む者は居なくなりました。腕を見込まれ他校との喧嘩にも助っ人として行くようになりました。難中の指子と言われその界隈で恐れられるようになりました。よくお父さんの乳狂治さんが菓子折りを持って学校に謝りに来てました。僕はそれを何度か目撃してます」

「あー凄まじいな。それでアダム君。指子の胸は中学の時からあんな感じなのか?」

「いえ。卒業が近くなった時、急に胸がバルーン風船のように膨らんだのです。オカルト研究会は学生を殺す度に胸が膨らむ呪いをかけられているんだと噂してました」

「それならもう家より大きくなっている気もするが」

 アダムが急にもじもじし出した。

「父首さん。さっきの事覚えてますか?指子先輩のあだ名のことを」

 そうだ。聞き入ってすっかり忘れていた。一つだけと言ったのにアダムは全部話してくれた。すまない。俺が知っているのはあんまり大したことない。

「指子の今のあだ名は『イカ子』だ。よく覚えておいてくれ」

「イカ子?」

 ちょっと唖然としていたが、アダムの口の端が上がった。

「あの指子先輩がイカ子?キレなかったんですか?」

「全然。あいつは高校では優等生キャラなんだ。眼鏡かけて」

 するとアダムが声を出して笑った。

「アハハハハ。あの難中の指子がアハハハ。イカ子で優等生だって。アハハハハ」

 俺はそのリアクションにちょっと引いたが、こいつは実はゲラなのかもしれないと思った。

 アダムは涙を浮かべながら

「いい事聞かせてもらったので、僕が知ってる最新情報も教えてあげます」

 最新情報?俺は一つしか言わなかったのに。有難い。

「指子先輩には親しい友人が一人いるんです。僕がもう指子先輩に会う事はないと思ったのか、二人だけで話した内容を僕にも教えてくれました。言うなと言われているんですが、でも、これは父首さんにも関係ある事なんですよ」

 アダムは少しにやけた顔をして俺を見た。

 俺に関係あるとは一体?それにしても指子の友人は口が軽すぎるな。そんな奴等に大事な事を話す指子にも責任があるということだ。

「指子先輩は落ち込んでいた時に電話で、もう女子競技には希望が持てない。今後は旦那のサポートだけしていくと言ったそうです」

 やっぱり聞くんじゃなかった。知らなくてよかった。

「えっと、どういう事なのかな?」とぼけて聞き直した。

 アダムが口を開こうとした瞬間。

「オボッ」

 アダムは溝内に手を当て床で悶え苦しんでいた。

「アダム。お前は何度言っても学習しない駄犬だわ」

 指子の声に反応したアダムは直ぐに立ち上がった。

「指子先輩、懐かしいです。おしおきの指突は久しぶりです」

「そんな事を言ってるんじゃあないのよ」

 指子の指がビシビシ動く。

「あっ。いてっ。うごっ。ぼぼぼ。ぼっぼっ。ふう」

「ちょっと。何やってるんですかあなたたち」

 大会スタッフが飛んで来て、指子とアダムは会場外に連れて行かれた。

 会場入り口にコンビニ袋を持った磁場流と寸止が、スタッフに連れて行かれる二人を呆然と見ていた。磁場流は口に手を当てていた。

 俺は駆け寄って「随分買うのが早かったじゃないかお前達」

「コンビニで買い物してる途中、指子先輩の落ち着きが無くなって来たんすよ。俺はゆっくり弁当選びたかったのに、嫌な予感がするから早くしろと言うので直ぐに選んでレジに行きました」

「何かのセンサーでもついてるのか指子は?」

 笑っていた磁場流は「部長の分も一応買ってきたっすよ。まだ食べてないんだったら一緒に食べましょう」

 弁当の入った袋を開けて俺に見せる。

「おお、有難い。実は腹ペコだ」


 結局、指子は昼休憩中に食べに戻ってこなかった。

 俺の三回戦の相手は、団体戦で寸止を負かした胸筋太郎だという事が分かった。

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