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煌めきが無くなった

 夏休みが終わり、二学期が始まった。

 合宿以来、部活のメンバーとは初めて顔を合わせる。

 俺が部室に入ると既に磁場流が来ていた。

「終わっちゃいましたね、夏休み」

「そうだな。あっという間だったな」

「また午後までの長い授業いやになるっすね」

 夏休みが永遠に続けばいいのにという磁場流の話を聞いてたら、寸止と指子が入ってきた。

 指子がいつもと違って見える。何故だかわからないが、前より美人に見える。

「お前なんか少し雰囲気変わったか」

「え?そう」

 そっけない反応だったが、まんざらでもないような指子。

「今日の指子先輩は眼鏡を掛けて無いんですよ部長」と寸止が言った。

「あっ、そういえば」

 指子はいつもの下縁の赤眼鏡をしていなかった。

「そうなのよ。コンタクトにしました」

 指子の顔をじっと見る。いつもと違うのは眼鏡の有無だけではないようだが、これ以上指子を調子に乗らせたくない。

「だからか。眼鏡が無いから単に俺は違和感を感じていただけだったんだ。よく見たらいつもの指子だった」

「なによそれ?」

「じゃあみんな集まった事だし、練習でもするか。磁場流と寸止がまず対戦してみてくれ」

 俺はかったるいので、後輩二人にやらせて今日はすぐ帰ろうと思っていた。

 磁場流はあのもたもたした、メトロノームとダウジングのような動きを止めていた。

 目をつむり、寸止の前に来て、すっと指を指した。

 ピンポンピンポン

「おお、凄いな磁場流。突くまで早くなったし、迷いが無くなった気がする」

「女将が言ってたんです。俺は無駄が多いって。自分の指に集中して目をつむれと言われました。そうしたら乳首の形がはっきり見えるようになってきたんです。だから早く指子先輩と対戦したいっす」

 指子は磁場流を睨む。

「今なんか気持ち悪い事を言わなかった?」

「ええ?気のせいっすよ」


 今度は寸止の後攻だ。

 寸止はおもむろに乳首必中の構えをした。

「寸止。まさかお前」

「俺の生まれたての乳首必中の突きです」

 寸止は一メートル離れた磁場流の乳首目掛けて指を放つ。

 パシッ

 ピンポン

「当たった。技ありだ。一メートル先に必中の突きが当たった。凄いぞ寸止」

 俺は興奮して言った。そして指子を見る。

「俺達男子の中で打撃が出来る奴がついに出て来た。お前の時代はもうすぐ終わりだ指子」

「なによそれ」

「でも、まだ精度も威力もいまいちなんですけどね」

 俺は後輩たちの成長が自分の事の様に嬉しかった。

「凄い。凄い成長じゃないかお前達」

 思わず後輩達の所に行ってハグをする。強引に肩を組み輪になって喜び合う。後輩達は少し恥ずかしそうだった。どうやら浮かれているのは俺だけのようだ。

「部長はどうなんですか?何か技とか身につけたんすか?」

「え?俺か?俺はそうだな」


 聞かれて俺はテンションが急降下した。

 俺は二人の後輩に比べて夏休み中、何の成長もなかった。

 乳首必中の突きも我流で練習してみた。しかし俺の指からは何も出てこない。

 凄い人達を見過ぎたせいか、自分のしょぼい指突に嫌気がさし、だんだんと素振りもしなくなっていた。

 夏休み後半、俺は「暑い、暑い」と言いながらアイスを食いボーっとして過ごしていただけだった。

 近年の異常な暑さでも家にはクーラーが無い。じいさんがクーラー嫌いという理由だけで設置しないのだ。

 涼しくもない扇風機の風をゼロ距離で浴び続け、冷凍庫に入れていた保冷剤を体に当てて寝る。汗と水滴の染み込んだ不快なベッドで悶え熟睡出来ないまま朝を迎える。そんな日々を送っていたら夏休みが終わってしまった。残ったのは倦怠感だけだった。


「じゃあ、ちょっと俺と練習してみるか磁場流」

「はい部長」

「お前が先攻でいいよ」

 磁場流は先ほどの様に、スッと俺の乳首を突いた。

 ピンポンピンポン

「おお、凄いな磁場の力は」

「次は後攻の部長の番ですよ」

 俺はかったるいなと思いながら磁場流を突いた。

 ポーン

「ええっ?部長有効っすよ。二本とも指が真ん中当たってないという事ですよ」

「わかってるよ。指が駄目になったみたいだな」

 自分の指を見て苦笑する。俺だけが下手になっている。一体あの合宿は何だったんだろうか。

「もう一度やりましょうよ部長」

「あーもういいや。なんか今日はかったるくてな。また寸止とやってくれ」

 指子が俺の目の前にヌッと現れる。

「どうしたの?父首中君?今日のあなたは別人のようだわ」

「そうか?俺はいつも通りだと思ってるけど」

「ちょっと、素振りしてみてよ」

「なんだよ素振り?かったるいな」

 俺は何回か指子の前で素振りしてみる。正直やる気がでない。

「なによそれ?」

「何って素振りだろ」

 指子は驚いているようだ。

「あなたは、煌めきが無くなってしまったようね」

 指子はカバンを持って、部室のドアを開け出て行った。

「どうした?また怒らせたのか」

 後輩達の方を見る。

「今日は部長のらしさが全然ないですよ」

「俺のらしさって何だよ?」

「もっと前向きだったじゃないですか。やる気があって」

「俺はもう平凡で成長の無い自分の指突に嫌気がさしてきたんだ」

「え?そうなんですか?」

「合宿が終わってからそう思いはじめた。俺がいくら頑張っても世界ランカーのような技も凄みも永遠に身に付かない。生まれ持った才能が違うんだよあの人たちとは」

「でも、夏合宿の時に源五郎丸さんから一本取ったじゃないですか。あの下向き乳首を攻略したのは部長ですよ」

「あれは事前に知識があったからだよ。お前達も知っていたら攻略できたはずだ。別にあんなのは大したことはない」

「どうしてしまったんですか?何か変ですよ部長」

 後輩達は俺を心配そうに見ている。

「まあ、俺が居なくてもお前達の代で全国制覇すればいいんだからな。俺はお荷物になるだけだから、そのうちスッと部活から居なくなるよ。どっちが部長になるか今のうちに決めておいてくれ」

 磁場流と寸止は顔を見合わせる。

「そこまで言いますか。俺達も今日は帰ります。また明日練習しましょう部長」

 後輩二人が部室から出て行った。

「あーあ、後輩たちにも呆れられてしまったな。もうかったるいし俺も帰るか」

 校門を出て左に曲がり、歩道を歩き始める。前を見ると指子が腕を組んで足を組んで壁にもたれかかっている。

「来たわね」

 俺を待ち構えているようだった。

「どうした指子?カツアゲか。金なら持ってないぞ」

「ちょっと。後輩二人から聞いたわよ。相当重症なんだってね、あなた」

「ああ、そうかもな。なんか用か?俺はかったるいから早く帰りたいんだが」

「ちょっと私の家に来てみない?」

「お前の家に?何で?」

 俺は怖くなってくる。

「練習ばかりでなく、ちょっと息抜きをした方がいいんじゃないかと思って」

 指子のうっすら朱を差す頬を見て俺は立ち尽くしていた。


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